フォントサイズ:

電中研が原子力の安全性向上でシンポ、リスク情報の活用を巡り議論

2018年2月9日

 電力中央研究所の原子力リスク研究センター(NRRC)シンポジウムが2月8日、都内で開かれ、原子力発電の安全性向上にかかわるリスク情報活用の意義と実践の方策を巡り、講演とパネルディスカッションが行われた。電力各社が共同でとりまとめた「リスク情報活用の実現に向けた戦略プランおよびアクションプラン」がこの場で発表され、今後の課題や進め方について、多くの参加者からの質疑を交え議論が展開した。
 冒頭、電中研の各務正博理事長が開会挨拶に立ち、シンポジウム開催趣旨を述べた。各務理事長は原子力発電の重要な役割を強調する一方で、福島第一原子力発電所事故の反省を踏まえ、原子力産業界が重要な経営課題に位置付けて取り組んでいるリスクの適切な管理に関する取組について、「実際の進捗状況を適時に社会に伝え、広く意見を交わすことも信頼回復のために重要だと考える」とし、活発な議論を求めた。
 続いて、「リスク概念と原子力の安全性」をテーマにリスクや深層防護など安全の基本概念を解説したジョージ・アポストラキス・NRRC所長は、重要度に応じて安全対策を意思決定するために確率論的なアプローチが有用であることを強調した。同時に、従来の決定論的なアプローチと相補的関係にあるとして、意思決定の際には「伝統的解析と確率論的解析双方から得られる情報を基にすべきである」とした。
 講演では、「リスク情報を活用した意思決定(RIDM)についての考え方」と題して、NRRC顧問のリチャード.A.メザーブ氏(元米原子力安全規制委員会委員長)がリスク情報活用の意義を述べた。同氏は、「決定論的解析と確率論的解析を組み合わせて最善の結果を得ること」が重要とし、双方の解析をどうバランスして考えるかについての国際的ガイダンス(IAEA発行・INSAG25)を紹介した。また、規制当局や産業界などから構成される「多層構造による頑健な体制制度」の構築に関する国際的ガイダンス(同INSAG27)に言及し、規制当局や産業界などが適切に連携し安全を支える体制を強化する必要があると述べた。そのため、安全を支える各層が、リーダーシップや継続的な学習など、安全文化の醸成を着実に進めていくことが肝要とした。
 また、「原子力発電の安全性向上におけるリスク情報の活用について」と題して電気事業連合会の勝野哲会長が講演し、電力各社の取組状況を説明した。勝野氏は、「安全に一義的な責任をもつ事業者が発電所のパフォーマンス向上のため一丸となって取り組む」として、戦略プランおよびアクションプランに沿って、必要な技術基盤の構築や人材育成を進めていく考えを示した。
 パネルディスカッションでは、まず、モデレーターの櫻井敬子氏(学習院大学法学部教授)が、行政法専門の立場から、原子力発電の安全性向上を巡り、事業者の責任、国と地方の関係、住民の関与など、社会の視点から問題を提起した。
 それを受け、資源エネルギー庁の自主的安全性向上ワーキンググループの委員を務めている東京大学大学院工学系研究科教授の岡本孝司氏は、原子力発電の安全性向上を、強いサッカーチーム作りに例え、RIDMをコーチとして活用することで最終的に社会の信頼性が高まる、「サッカーチームは強ければ地元も応援する」などと述べた。さらに、日本経済新聞編集委員の滝順一氏は、原子力発電所の早急な再稼働を主張するにもかかわらず、リスク情報活用の進まぬ事業者の状況を憂慮し、「やり抜く覚悟があるのか」などと強く訴えた。また、食の安全に長く関わっていた科学ジャーナリストの松永和紀氏は、BSE問題や福島県産米の全量全袋検査を例に、科学的に無視できるほどのリスクであっても、「市民に受け入れられるかは全然別問題」と述べ、共感、信頼に加え、市民の知を活かす「共考」の姿勢が必要なことを指摘した。
 この他、立地地域の立場から福井工業大学工学部教授の来馬克美氏が、リスク学の立場から大阪大学データビリティフロンティア機構教授の岸本充生氏が、それぞれ発言した。