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日環研 放射性物質を含む作業環境測定の技術を医療や環境など社会に活かす

2018年7月20日

 株式会社日本環境調査研究所はビルメンテナンスの東京美装興業グループの子会社として1973年に設立。放射線の測定・分析を主力とした同社の技術は、原子力分野から国民に身近な環境や医療分野に展開し、労働や生活環境の安全に役立てられている。同社の赤堀勉代表取締役社長に話を伺った。

 

 株式会社日本環境調査研究所は、1977年に我が国初の厚生労働省認定の作業環境測定機関として登録された。現在、年間約250施設のRI(放射性物質)取扱施設において、作業環境測定法に加え、放射線障害防止法、医療法に基づく作業環境測定を実施している。こうした事業を通じて、原子力分野においては、現場のニーズに応えるアララ(注記)製品を自社開発した。汚染作業の必需品である可搬式局所換気集塵装置の「アララベンチシリーズ」は累計で2000台以上の販売実績がある。

 製薬企業の統廃合や合併等に伴い、RI施設は減少傾向にあるものの、北は青森から西は九州まで約250施設の大学や病院、製薬企業などの非密封の RI 施設の管理業務を請け負う。さらにRI施設の廃止措置については23年間で約160施設を手がけた。こうした実績に、原子力規制庁ならびにアイソトープ協会も同社の廃止措置におけるデータに信頼を寄せる。

 

○主力製品を生み出す提案型共同開発

陽圧浄化装置

 原子力発電所ではプラントの放射線管理を行う一方で、長年の共同研究から実用化した製品が多数ある。中でも中部電力との共同研究においては「復水器細管からの微少海水漏えいの検知に関する研究」「金属切断時における作業環境改善研究」「活性炭素繊維による放射性ヨウ素吸着技術に関する研究」の3つは今も主力製品として、全国の原子力発電所で活用されている。

 1つ目の「復水器細管からの微少海水漏えいの検知に関する研究」では、中部電力の頭文字Cと日環研のNをつけた「CNリークテスト」というものを開発した。原子力発電所や火力発電所の復水器には、発電するためにタービンを回し終えた蒸気を海水で冷却して水に戻す役割がある。その海水は、復水器内に1万本ある25メートルの細管を通るのだが、細管に微小なピンホールが発生すると、そこから真空になっている復水器中に海水が漏れて、錆びなどの原因となる。CNリークテストでは、一本でも導電率の上昇が見られれば検査をして見つけ出す。このCNリークテストにより、検査の精度が格段に上がった。

 2つ目の「金属切断時における作業環境改善研究」では、原子力発電所の設備廃止措置においてヒュームコレクターという放射性ヒュームを捕集する装置を開発した。原子力発電所で使われた金属をアセチレン切断あるいはプラズマ切断すると、汚染物から放射性ヒュームという細かい粒子がタバコの煙のように出る。従来は、これを0.3ミクロンの粒径を捉えるHEPA フィルターで空気浄化していたのだが、わずか5分で HEPA フィルター自体が詰まってしまう。フィルター1枚が2〜3万円もするため、定期点検の作業ごとに1日に5〜10枚も交換するとなると非常に経費がかかる。そこで中部電力との共同研究でデータを検証しながら、この放射性ヒューム捕集装置を完成させた。空気吸引口に設置したテフロンのフィルターがヒュームの粒子を捉え、フィルターが詰まれば逆洗をして回収する。テフロンのフィルターは数ヶ月単位での稼働が可能だ。全国の原子力発電所に約100台が納入された。

 3つ目の「活性炭素繊維による放射性ヨウ素吸着技術に関する研究」では、放射性ヨウ素ガスを吸着する活性炭素繊維フィルターを搭載した原子力発電所用放射性ヨウ素吸着装置を開発した。現在、柏崎刈羽原子力発電所の6号と7号、浜岡の5号に導入された改良型沸騰水型原子炉(ABWR)で活用されている。これは、原子力発電所の定期検査の際、タービン機器の開放点検をする前に、被ばく低減を目的としてタービン車室内の放射性ヨウ素の除去作業を行うのだが、この作業に伴う日程の遅れを改善できないかという着眼から始まった。その結果、作業工程を15日から3〜4日に短縮することができた。

 

 福島第一原子力発電所事故では、活性炭素繊維を活用した同社の局所換気集塵機「アララベンチ」200台以上が持ち込まれ、作業現場のほか、事務所棟や休憩所などの空気浄化に使われた。以降、シビアアクシデント対策用の特殊局所排気装置として広く採用されている。

 再稼働が進む中、内閣府が主体となって、原子力発電所を立地する自治体において原子力防災計画が立てられている。シビアアクシデントがあった場合に、5 km 圏内の避難所のほか、患者や入居者が動けない病院や特別老人ホームなどの施設に対し、外の汚染された空気を浄化して屋内に取り込めるよう陽圧浄化装置の設置が進められている。

 こうした実用化に至る研究テーマを提案できるのは、同社のモットーにもつながる。「私もかつては現場に立っていた。放射線管理や原子力に関する知識と現場での経験がある」と話す赤堀社長は、「現場を知らないと改善提案はできない。弊社には、現場を見てこういうものがあれば作業効率が上がるのではといった疑問を持つこと、疑問を改善するものを自分たちで開発できないかと考えて実行する土壌が根付いている。こういう改善の視点を大事にしている」と強調する。

 

○問題意識を持って仕事に取り組む習慣が人材を育てる

 現在、約140名の従業員の中で、7〜8割を占める放射線取扱の有資格者が作業環境測定や管理業務にあたる。こうした人材の採用については、新卒は毎年約30名のエントリーがある中から主に原子力関係の学部で修士課程を修了した3名から多くて5名を採用している。入社後のOJTはマンツーマンで指導、階層別の教育と職能別の教育をするなど教育面は充実している。「全社員が一定レベルの水準になる教育をしている」と赤堀社長。

 同社では、1人につき3件の改善提案を提出することを年度の計画に入れている。階級が高いほどレベルの高い改善提案が求められる。しかも、「作業手順を変えて効率を上げた」など、実施済みでなければならない。それでも達成率は7割を超えるという。

 人材育成についての考え方として「目的は問題意識を常に持って仕事に取り組む。そういう視点をもって仕事をすることが大事」と赤堀社長は言葉に力を込めた。同社の独創的な技術開発や提案型の営業、高い品質管理を可能にするヒントが浮かび上がる。

 赤堀社長は「背伸びをせずに身の丈にあったプロジェクトを手がけていく。ただ、我が社が専門とする技術的なことについてはしっかりと提案していきたい」と締めくくった。

 

 

注記:アララとは as low as reasonably achievable(ALARA)、すなわち、国際放射線防護委員会が1977年の勧告で示した放射線防護の基本的な考え方を示す「合理的に達成可能な限り低く」という概念をいう。

お問い合わせ先:政策・コミュニケーション部 TEL:03-6256-9312(直通)