アジア トピックス


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日本の放射線突然変異品種の経済効果とこれからのアジア諸国との関係

永冨 成紀
(独)農業・生物系特定産業技術研究機構
前 (独)農業生物資源研究所 放射線育種場 場長

突然変異による農作物の品種改良は、 1950年代に開始されてから半世紀が経ち、全世界では2,500種を超える突然変異品種が作られ農業に利用されてきた。この間、突然変異を起こすための各種の方法が試されたが、放射線照射、なかでもガンマ線が最も有効で安全性も高く、世界の突然変異品種の70%にガンマ線(含X線)が用いられている。この突然変異育種は自然になじんだ技術として農業に広く受け入れられ、原子力の平和利用の点からも国民の理解が得られやすい好ましい事例となっている。


(グラフ: IRB 突然変異と新しい品種より)
日本における突然変異の品種数は,320品種を数え,その72%の品種でガンマ線が用いられた。突然変異品種は、50作物種に及び、多い方から挙げればイネの131品種、キク25、ダイズ17、オオムギ9,バラ6品種の順になる。

これまでの突然変異品種の栽培面積を農林統計により集計すると、イネ、コムギ、オオムギ、ダイズ、ゴボウ、ナシの 6作物で565万ヘクタールになり、この面積は日本の全耕地面積(499万ヘクタール)の1.13倍に当たる。また、突然変異品種から生産された農産物の総額は約7兆円に達し、この額は平成14年度の日本の農業生産の1年分に相当する。(表)

表 わが国の突然変異品種の経済効果の推定

作  物

栽培面積 ( ha)

生産額 (億円)

集計年度

イネ うるち米

548万3,355

6兆7,725

1966 - 2000

もち米

2万1,989

27

1966 - 2000

コムギ

8,190

47

1971 - 1991

オオムギ

1万5,794

74

1967 - 2000

ダイズ

11万9,121

178

1971 - 1999

ゴボウ

5,673

215

1996 - 2000

ナシ

2,284

102

1992 - 2000

6作物 総計

565万6,406 (ha)

6兆8,368 (億円)

 

また、放射線育種場は1960年に放射線育種研究のセンターとして設置され、2001年までに投じられた総経費は約76億円となっているが、上記の突然変異品種の経済規模7兆円に比較すると約1,000倍にも達している。突然変異育種は経済効果が明瞭に現れるまで長期を要するにしても、投資額を遙かに超える利潤を上げたことになる。突然変異育種法は他の作物育種法に比べて低投資額で高利益が期待できる分野であることが、日本国のレベルで実証されたことになった。

(写真: IRB 突然変異と新しい品種より)

特に突然変異育種はイネの改良に大きな成功をおさめた。半世紀前の日本のイネ品種は、茎が長く倒れやすく、収量が不安定であったが、突然変異により茎を短く強くすることで、イネの収量が高まりまた安定するようになり、大きな経済効果を持たらした。現在のイネ品種にもこの突然変異の性質(遺伝子)は受け継がれ、毎年確実に多量の米を収穫できるようになっている。

また一方、米の品質についても、突然変異でしかできない多種類の米が作られた。日常のご飯に食べるうるち米に加えて、低アミロースは米の食味が良くなり、酒米は日本酒の醸造に使われる大粒の米となり、モチ米は餅や製菓に使われている。健康維持に役立つ米として、低蛋白米は腎臓病患者の療養食および日本酒醸造用として、また低アレルゲン米は米を食べるとアレルギーを起こす人の日常食として、さらに巨大胚米は、胚芽が大型化した米で栄養分が高まった。このように突然変異によって新種の米が開発され、米の需要を広げることに大いに役立った。

突然変異育種による効果は,経済評価できるものばかりではない。病害抵抗性突然変異品種「ゴールド二十世紀」のように、病害防除の経費を大幅に節減し、農作業者の健康と環境に負担をかけない方法ができあがり、健康な果実を消費者に提供している。多彩な花の突然変異品種は,必ずしも経済評価にはなじまないが、国民の豊かなライフスタイルに貢献している。

突然変異育種は従来の技術に新たなバイオテクノロジーを融合させて、有用な手法に生まれ変わっている。これからも、他の方法にはない4つの利点を生かして研究開発を進めて、社会から要請される農作物の突然変異品種を育成し、国民生活の福利に役立つ信頼ある技術へ高めてゆくことが重要である。

一方、アジアでは中国、インド、日本を中心に世界の 40%以上の品種が育成され、世界でも突然変異育種が最も盛んな地域の1つである。特にこれからのアジアの将来を考えると、人口の急速な増加に伴う、食料危機、自然環境の破壊、地球温暖化への歯止めなどの重要問題が山積している。その問題解決の方向としては、自然環境を保全しながら農林水産業を持続的に発展させてゆくことが大事である。

放射線育種は、放射線により植物自身が持つ力によって新形質が創られ、あらゆる種類の作物を対象にでき、現存品種の良さを活かしながら、短期間に品種改良ができるという他の方法にない利点がある。このため、自然環境を乱すことなく迅速に農作物の改良ができる特長を活かして、農業の持続的発展のキーテクノロジーとして、大きな期待がかけられている。

また、近い将来に予測される食糧危機、地球の温暖化、自然環境破壊に備えて、高温、乾燥、塩分濃度が高い環境においても耐えうる農作物の突然変異品種の育成が急がれる。また既に、砂漠化など環境破壊が起きた地域の緑化に役立つ植物の育成が重要になる。以上は地球的規模の重要問題であるが、突然変異育種がこれまで培ってきた技術に、新たな開発技術を融合させれば、不可能ではないと思われる。

これらの目標を達成するためには、各種の放射線照射施設が不可欠であり、特にガンマーフィールドのような野外照射施設は、大小さまざまな材料を同時に照射でき、種々の環境制御条件を設定できる潜在余地があるので、将来に向けた機能の整備が重要である。また、日本には世界に先駆けて植物組織に対してイオンビ−ム照射施設を有し、ガンマ線により得られる突然変異の種類を広げる効果があり、海外の需要にも対応できることが望まれる。地球規模の問題には国際協力が何よりも大事であり、我が国の有する照射施設の国際共同利用に向けた整備も急ぐべきであろう。

放射線育種は放射線の最も有効な平和利用の一つであり、生活を豊かにする農作物品種の実績により、国内外の人々に対して技術の安全性と安心感に応えてゆくことが重要である。


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