シリーズ「あなたに知ってもらいたい原賠制度」

【31】原子力損害の補完的補償に関する条約(CSC)

 今回は、原子力損害の補完的補償に関する条約(CSC)の内容についてQ&A方式でお話します。

q1
(CSCの規定事項)
原子力損害の補完的補償に関する条約(CSC)にはどのような事項が規定されていますか?
a1
  • 1997年にIAEAで採択された「原子力損害の補完的補償に関する条約」(Convention on Supplementary Compensation for Nuclear Damage:以下CSC)は、原子力損害の補償に関する国内法による措置を、補償額を拡大する観点から補完し、世界的な責任制度を構築するための条約ですが、未だ発効に至っていません。
  • CSCには、用語の定義、目的、適用範囲のほか、資金的保証、負担金の計算方法、資金の割当方法、裁判管轄権、準拠法などが規定されています。
  • CSCには、条約そのものと不可分の一部をなす付属書があります。

【A1.の解説】

 原子力損害の補完的補償に関する条約(CSC)は、ウィーン条約及びパリ条約並びにこれらの条約と矛盾しない諸原則をもつ国内法による措置(付属書に規定)を、補償額を拡大する観点から補完し、世界的な責任制度を構築するための協定であることが、条約の冒頭に記されています。CSCが規定する具体的な事項は以下の通りです。なお、CSCには以下の事項を規定する条約そのものと不可分の一部をなす付属書があり、これがこの条約の重要な役割を果たしています(A2参照)。

○用語の定義(第1条)

 「ウィーン条約」「パリ条約」「特別引出権(SDR)」「原子炉」「施設国」「原子力損害」「回復措置」「防止措置」「原子力事故」「原子力設備容量」「管轄裁判所の法」「合理的な措置」について用語が定義されており、本条約をよく理解するための重要な事項です。

○目的及び適用(第2条)

 ウィーン条約、パリ条約、CSC付属書のいずれかに適合する国内法による補償制度を補完することを目的とした条約であることが記されています。

○保証(第3条)

 原子力損害の補償資金について、施設国は、3億SDR(約371億円)もしくは3億SDRより高額な額(登録額)を利用可能となるよう確保しなければならないこと、加えて4条に規定される拠出金額を利用可能となるようにしなければならないこと、補償は国籍等により差別することなく公平に分配しなければならないことなどが規定されています。

○負担金の計算(第4条)

 締約国の拠出金に関する計算基準は締約国の原子力設備容量と、評価国連分担金割合をもとに計算されます。現在のCSC批准国(アルゼンチン、モロッコ、ルーマニア、米国)に日本と周辺国(中国、韓国)が加わった場合、日本の分担金は44,343,796SDR(約55億円)となります。

○地理的適用範囲(第5条)

 締約国による補完基金が提供される原子力損害の範囲について、締約国の領域内で生じた原子力損害、締約国の領域外の海域・海域上空で生じた原子力損害で締約国の国民が被ったもの、などの適用範囲が規定されています。

○原子力損害の通報(第6条)

 裁判管轄権を有する締約国は、原子力事故によって生じた損害が3億SDRもしくは登録額を超えるおそれがあり、補完基金の拠出が要求されるべきことが判明したときには、他の締約国に対して当該原子力事故を通報しなければならないことなどが規定されています。

○資金への拠出請求(第7条)

 裁判管轄権を有する締約国が補完基金を請求できる条件や、締約国が拠出金の支払いを制約なしに承認しなければならないことなどが規定されています。

○原子力施設の目録書(第8条)

 締約国は、条約の批准書、受諾書、承認書等を寄託する際に、すべての原子力施設の完全な目録を寄託者(IAEA事務局長)に対して通知すること、寄託者は目録を維持更新し、少なくとも年1回すべての締約国に配布することなどが規定されています。

○求償権(第9条)

 締約国は、原子力施設の運営者が有する求償権の利益を、補完基金に拠出した締約国が享受できるような法律を作らなければならないことなどが規定されています。

○支出及び訴訟手続(第10条)

 補償のための資金の支出及び配分に関しては裁判管轄権を有する締約国の制度とするとともに、各締約国は補償を受ける権利の行使及び運営者に対する訴訟手続の参加を確保することなどが規定されています。

○資金の割当(第11条)

 越境損害の場合の補完基金の分配は、その50%は施設国内外で被った原子力損害に、50%は施設国の領域外で被った原子力損害に対する賠償のために利用できることが規定されています。

○選択権の行使(第12条)

 締約国はウィーン条約やパリ条約に定められている権限を行使できること、CSCは締約国がこれら条約の範囲外で規定や協定を設けることを妨げないことなどが規定されています。

○裁判管轄権(第13条)

 原子力事故による原子力損害に関する訴訟の裁判管轄権は、その領域内で原子力事故が発生した締約国の裁判所のみに存することなど、裁判管轄権の決定方法が規定されています。これにより裁判管轄権をもつ締約国は一国に決定されます。また、裁判管轄権を有する裁判所の判決は、各締約国の裁判所の判決と同様に執行できるものとすることなどが規定されています。

○準拠法(第14条)

 一つの原子力事故に対しては、ウィーン条約、パリ条約、CSC付属書のうちのいずれか一つが他を排除して適用されることや、準拠法は管轄裁判所の法とすることなどが規定されています。

○国際公法(第15条)

 CSCは国際公法のもとに締約国が有する権利及び義務に対して影響を及ぼさないことが規定されています。

○紛争処理(第16条)

 CSCの解釈や適用に関して締約間に生じた紛争の解決について規定されています。

○署名 (第17条)

 CSCの発効までの間、IAEAにおいて全ての国が条約に署名できることとされています。

○加入 (第18条)

 CSCの発効後に加入するには、ウィーン条約若しくはパリ条約の締約国、又は付属書の規定に合致する国内法を有する国がIAEA事務局長に加入書を寄託することなどとされています。

○効力発生 (第20条)

CSCは原子力設備容量40万単位以上を有する5カ国以上の批准国による規定の文書の寄託の日から90日後に発効するなどとされています。

○廃棄 (第21条)

 CSC締約国の条約の廃棄は寄託者宛の書面による通告によって行われ、廃棄の効力は通告の受領した1年後とされています。

○停止 (第22条)

 ウィーン条約又はパリ条約の締約国のいずれの締約国でもなくなるCSC締約国若しくは付属書の規定に合致しなくなる締約国は、寄託者にその旨及びその日を通告しなければならず、同日にCSC締約国ではなくなったものとなります。

○従前の権利及び義務の継続 (第23条)

 廃棄、停止にかかわらず、CSCの規定は廃棄又は停止の前に起こった原子力事故による原子力損害に対して適用されます。

○修正及び改正 (第24条)

 寄託者は、締約国との協議の後にCSCの修正又は改正のための会議を招集できること、締約国の1/3以上の要請に基づき修正又は改正の締約国会議を招集すること、が規定されています。

○簡略化手続による改正 (第25条)

 締約国の1/3が補償の金額等の改正を希望する場合、締約国の会議の招集、改正の決議、改正の通告、効力等に付き、規定されています。

○寄託者の任務 (第26条)

 寄託者は、CSCに係る署名、批准書、受諾書、承認書、加入書の寄託、効力の発生、宣言、通告等につき、締約国、OECD事務局長等に通知することが規定されています。

○正文 (第27条)

 正文は、アラビア語、中国語、英語、フランス語、ロシア語、スペイン語とし、CSCの原本はIAEA事務局長に寄託することとし、寄託者はその認証謄本をすべての国に送付すると規定されています。

q2
(CSC付属書の規定事項)
原子力損害の補完的補償に関する条約(CSC)の付属書にはどのような事項が規定されていますか?
a2
  • CSCには条約の本文の他、付属書(Annex)が置かれており、これは条約と不可分の一部を為すものと規定されています(第2条3項)。
  • ウィーン条約、パリ条約のいずれの条約の締約国でもない場合、CSCの締約国は国内法がこのCSC付属書の規定と適合するよう確保しなければなりません。
  • 付属書には、用語の定義、運営者の厳格責任や責任集中、責任制限額、損害賠償措置、国家補償、時効、求償権の制限などについて規定されています。
  • 米国はウィーン条約、パリ条約のいずれにも加盟していませんが、付属書第2条により国内法が付属書の規定に適合するものとみなされているので、CSCへの加盟が可能となっています。

【A2.の解説】

 CSCは、A1で解説したとおり、原子力損害の補償に関する国内法による措置を、補償額を拡大する観点から補完し、世界的な責任制度を構築するための条約です。したがって、ウィーン条約もパリ条約も締結していない国であってもCSCの対象国となります。そこで、ウィーン条約、パリ条約のいずれの条約の締約国でもない場合、CSCの締約国はこの付属書に定められた規定を直接的に適用するか、国内法がCSC付属書の規定と適合するよう確保しなければならないものと定めています(付属書前文)。付属書が規定する具体的な事項は以下の通りです。

○用語の定義(第1条)

 「核燃料」「原子力施設」「核物質」「運営者」「放射性生成物又は放射性廃棄物」について用語が定義されています。

○法律の適合(第2条)

 一定の条件を満たす国内法はCSC付属書の規定に適合するとみなすことを規定しています。米国は、この規定により国内法(プライス・アンダーソン法)がCSC付属書の規定に適合するとみなされ、加盟が可能となっています。

○運営者責任(第3条)

 運営者(我が国の原賠法上の原子力事業者にあたる)が原子力損害について責任を負わなければならない原子力事故の範囲、運営者責任の厳格化、運営者の免責事項、運営者への責任の集中など、運営者の責任範囲が規定されています。

○責任額(第4条)

 運営者の責任制限は3億SDRを下回らない額に制限できることなど、責任制限に関する金額が規定されています。

○資金的保証(第5条)

 運営者は施設国が定める形で原子力損害賠償のための資金的保証を保持することなど、損害賠償措置について規定されています。少額の限度額を設定した場合や賠償請求額が資金的保証の額を超えた場合、施設国は3億SDRを下回らない運営者の責任限度額まで必要な資金を運営者に提供することにより支払いを確保しなければならないなど、国の保証についても規定されています。

○輸送(第6条)

 輸送中の原子力事故について、運営者の責任限度額は施設国の国内法によって定めること、締約国は領域内を通過する核物質の輸送について運営者の責任額を増加させられることなど、輸送に関する責任額が規定されています。

○複数の運営者の責任(第7条)

 原子力損害が複数の運営者の責任に係る場合、関係する運営者は、各自連帯して責任を負うことなど、複数の運営者の責任について規定されています。

○国内法における補償(第8条)

 賠償額は利息や諸費用を除外して決定されなければならないこと、施設国外への補償は締約国間で自由に交換できる形で提供されなければならないことなど、補償の形態について規定されています。

○消滅時効(第9条)

 賠償請求権は事故の日から10年以内に請求されなければ消滅すること、管轄裁判所の法は被害者が責任を負うべき運営者を知った日から3年を下回らない除斥期間を設定することができることなど、時効や除斥期間について規定されています。

○求償権(第10条)

 運営者は、書面による契約により明示的に定められているときや、原子力事故が故意により生じた場合にそのような作為又は不作為をした個人に対してするときのみ、求償権を有することが規定されています。

○準拠法(第11条)

 原子力事故により生じた原子力損害については、条約の規定に従うことを条件として、管轄権を有する裁判所の法律によって定めることが規定されています。

CSC関連記事は2011年7月号にありますので、ご参照ください。

※円換算は平成22年12月21日の為替レートによる。

CSC本文(英文)はこちら

○ 原産協会メールマガジン2009年3月号~2012年10月号に掲載されたQ&A方式による原子力損害賠償制度の解説、「シリーズ『あなたに知ってもらいたい原賠制度』」を冊子にまとめました。

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