台湾高校生の日本訪問随行記(2012.8.19~24)

 8月19日~24日の6日間、台湾から台湾清華大学の李敏教授を団長とする高校生の日本訪問団が来日しました。訪問団は、台湾各地から選抜された高校生21名(男子7名、女子14名)を、大学教授3名、高校教諭5名が引率され、謝牧謙先生が顧問兼通訳として参加されました。当協会は訪問先のアレンジ等に協力しました。

 高校生同士の原子力に関する意見交換を目的とした台湾高校生の日本訪問は、台湾でも初の試みです。2010年11月に台湾で開催された「第25回日台原子力安全セミナー」において、当協会服部理事長と清華大学李敏教授との間で、台湾の高校生向け原子力教育への協力で合意がなされ、今回初めて具体化したものです。

 本訪問は下記を目的としています。

  1. 日本における放射性廃棄物処分と原子力発電の現状について学ぶ。
  2. 福島事故について学ぶ。
  3. 日本の高校生とのフリーディスカッションを通じ、相互に、原子力に対する意識や、原子力産業界の将来について考える好機とする。
行程 宿泊地
8/19(日) 成田着 品川
8/20(月) 東京 → 八戸 → 奥入瀬散策 → 三沢 三沢
8/21(火) 三沢 → 六ヶ所施設(09:30-14:00) → 八戸 → 仙台 仙台
8/22(水) 仙台 → 女川原子力発電所(10:30-13:30) → 福島 福島
8/23(木) 福島 → 福島高校(09:00-12:00) → 福島 → 東京 品川
8/24(金) 成田発

 一行は、六ヶ所村にある日本原燃のPRセンターを見学、再処理について学んだ後、東北電力の女川原子力発電所を訪問。津波に耐えた女川原子力発電所の特徴について、福島第一との比較を交えながらレクチャーを受けました。これらを踏まえ、翌日には福島県立福島高等学校を訪問し、日台双方のプレゼン・ワークショップ形式でのディスカッションを行いました。
 台湾高校生は宿泊先のホテルで深夜2時まで資料の修正やプレゼン準備に当たる等、真剣に取り組み、双方のディスカッションもレベルの高い、冷静な議論が展開されました。

詳細内容を以下にご報告致します。

0925koukou11 六ヶ所村の日本原燃PRセンターでは桜井副館長から六ヶ所施設全体についての概要説明を受けた後、展示コーナーへ移動。説明員から、実物を縮小したモデルで再処理工程についての説明を受けました。再処理工程の各々のポイントで、李教授が詳しく追加説明を加えられ、高校生たちも熱心に質問しながらメモをとっていました。

0827koukou21 続いて一行は広報部大久保課長の案内で、再処理工場の中央制御室や使用済み燃料保管施設を窓越しに見学。高校生達は、放射線量がバックグラウンドレベルと変わらないことを知り、驚いた様子でした。また、最後に見学したLLW埋設地では、台湾におけるLLW埋設地の候補となっている台東の高校生も参加していることから、ひときわ熱心に質問する姿が目立ちました。

 翌日は、東北電力の女川原子力発電所を訪問しました。移動中、仙台からのバスの車窓から、ガレキの山や損壊した建物など、石巻の惨状を目の当たりに致しましたが、その復興の早さに高校生たちは目を瞠っていました。

0827koukou51 女川原子力発電所で加藤所長代理、遠藤前所長代らに迎えられた一行は、加藤所長代理から英語で、津波に耐えた女川原子力発電所の特徴について、福島第一との比較を交えながらレクチャーを受けました。特に女川町住民の10人に1人が失われた津波については、ビデオ映像も交え詳細に説明されました。

 その後バスの中から、サイト内を一通り巡回。4月に新たに完成した防潮堤(高さ3mの追加分)や、津波で倒壊した重油タンク、駐車場に設置された3台の緊急時注水車(カバーで覆われていた)、新設の3基の空冷式ディーゼル発電機(DG)、町民が避難生活を送っていた体育館などを車窓から眺めました。

0827koukou41 昼食をとりながらのQ&Aでは、加藤氏の「女川はエンジニアリングが津波に勝った好例」との言葉に、多くの高校生が感銘を受けた様子でした。高校生からの数々の質問に、加藤、遠藤の両氏が真摯に(本音で)回答していただきました。

 一行は翌木曜日の早朝に福島県立福島高等学校を訪問。生徒たちに歓迎されながら、交流会会場である「梅苑会館」へ移動。そこで6つのテーブルに分かれ、各テーブルに日台双方の混合チームでグループ分けしてワークショップ形式でスタートしました。

 本間校長から、挨拶とともに福島の4つの苦しみ「地震・津波・放射線・風評」が紹介され、李教授から本日のアレンジに対する感謝が述べられました。また、國立南科國際實驗高級中學の蔡先生より、「台湾の人々は昨年以降原子力について再考している状況で、各高校で生徒たちが実施した原子力に関する世論調査について紹介する」旨の挨拶がありました。
 その後、日台双方の生徒代表による挨拶の後、福島高校のグループが同高校の被害状況や放射線の状況について基調発表。特に、最後に”We’ll never give up !”と宣言したのが強く印象に残りました。

 台湾側は台中市の暁明女子高級中學のグループが基調発表、火力、水力、太陽光、原子力の各電源について、コスト/エネ効率/立地/環境影響の側面からメリット・デメリットを比較する内容の発表をしました。この中で、「各国はそれぞれ自分たちのエネルギー政策を持つべきだ、また地球温暖化という共通課題に取り組むためには原子力が最良のオプション」と指摘しました。そして、「女川のように、エンジニアリングは自然災害を押さえ込むことが出来るにも拘わらず、脱原子力を進めるべきと主張するのであれば相応に合理的な説明が必要である」と強調しました。

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 そのほか台湾側の國立台東女子高級中學、國立台東高級中學、國立基隆高級中學の3校からそれぞれが実施した世論調査概要およびその分析が発表され後、全体でのディスカッションに入りました。

 当初、福島高校の先生方も、「果たして高校生同士で上手く討論が成立するのか?」とご心配されていましたが、これは杞憂に終わり、日台双方の高校生により非常に質の高い活発な意見交換が展開されました。

 ある台東の男子生徒は「自分は台東のLLW処分場建設に反対だ。LLW処分場自体に不安は持っていないが、台湾政府の処分場立地に向けた進め方に不快感を覚える」と発言。福島の男子生徒も「大事なことは何かあったときにどう対処するかで、今回の日本政府の対処には不満が残る」と発言するなど、意外にも冷静な見方をしていることが判りました。

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 李教授が当日の朝刊で、「47%が原子力に反対」を示し、福島の高校生たちにどう思うかとたずねたところ、ある男子生徒は「2030年の脱原発は難しいのではないか?」と回答。別の男子生徒も「日本は資源の多くを輸入に頼っており、それが手に入らなくなったら電気を止めなければいけない。電気がないと生きていけない病人も大勢いる」と応えるなど、福島の高校生から極めて冷静な回答が続きました。

 交流会終了後は生徒たち同士でメールアドレスの交換、記念撮影など大いに盛り上がっていました。なお、福島高校では来年3月に台湾訪問を検討しており、今回の交流会を契機に、日台双方の交流を深めたい意向です。

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 <追記>

 台湾の高校生たちの発表準備にかける意気込みには驚かされました。写真は福島のホテル・ロビーでの光景なのですが、21時ごろに高校生たちがグループに分かれ、ノートPCを広げてなにやら話し合っているのです。

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  プレゼンテーションのリハーサルだったようで、高校の先生が生徒たちのプレゼン時の目線から姿勢、英語に至るまで厳しくチェックしていました。勿論、原稿内容はすべて暗記。ある程度内容が固まると、清華大学の先生のところへ行き、ロジックの弱点や矛盾を直してもらうという流れで、最後のグループがリハーサルを終えたのは深夜2時でした。脱帽!

(国際部 石井敬之)

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