[JAIF] 躍進するアジアの原子力

インド共和国

2010年1月27日現在

目次

U.原子力発電開発

1.原子力発電の現状

2009年12月22日、国産のラジャスタン原子力発電所の5号機が、送電網に併入された。2009年1月に、新たに国際原子力機関(IAEA)の保障措置下に置かれた民生用原子炉8基のうちのひとつである。

図表8:原子力発電所一覧(運転中、建設中) (U-1)(2009年12月22日現在)
状態 発電所名 炉型 設備
容量
(万kW)
営業運転
(年/月/日)
備考


カイガ-1 加圧重水炉(PHWR) 22.0 2000/11/16
カイガ-2 2000/03/16
カイガ-3 2007/05/06
カクラパール-1 1993/05/06
カクラパール-2 1995/09/01
マドラス-1 1984/01/27
マドラス-2 1986/03/21
ナローラ-1 1991/01/01
ナローラ-2 1992/07/01
ラジャスタン-1 10.0 1973/12/16
ラジャスタン-2 20.0 1981/04/01
ラジャスタン-3 22.0 2000/06/01
ラジャスタン-4 2000/12/23
ラジャスタン-5 2009/12/22 2009/11/24に臨界
タラプール-1 米国GE製沸騰水型軽水炉(BWR) 16.0 1969/10/28
タラプール-2
タラプール-3 PHWR 54.0 2006/08/18
タラプール-4 2005/09/12
運転中合計(18基) 434.0


カイガ-4 PHWR 22.0 2010/03予定 2009年11月現在
工事進捗率97.07%
クダンクラム-1 ロシア製加圧水型軽水炉(VVER) 100.0 2010/09予定* 進捗率は同上94%
クダンクラム-2 2011/03予定* 進捗率は同上84.7%
ラジャスタン-6 PHWR 22.0 2010/02予定* 2010/1に臨界予定
進捗率は同上95.6%
高速増殖原型炉(PFBR) FBR 50.0 2011年3月完成予定
建設中合計(5基) 838.0
*印は、「燃料の入手を前提として」の条件付き。

注:インド原子力発電公社(NPCIL)の用いている各原子力発電所の名称と略称は以下のとおりである。既設分はStation、建設中・計画中の分はProjectと呼称することが多い(よって建設中のクダンクラム原発ならKKAPPと略称される)。
-カイガ: Kaiga Generating Station (KGS)
-カクラパール:Kakrapar Atomic Power Station (KAPS)
-マドラス:Madras Atomic Power Station (MAPS)
-ナローラ:Narora Atomic Power Station (NAPS)
-ラジャスタン:Rajastan Atomic Power Station (RAPS)
-タラプール:Tarapur Atomic Power Station (TAPS)
-クダンクラム:Kudankulam Atomic Power Project(KKAPS)*KKとも略称

図表9:インドの運転中の原子力発電所の遠景(I-6)
マドラス原子力発電所に関するデータ(I-3)
-2基建設費:231億4千万ルピー
-運転員の体制:
1シフト当り、1名の当直長(Shift Charge Engineer)、1名の副当直長(Assistant Engineer)、2名のControl Engineer(各号機1名)、2名のOperator(各号機1名)の6名で2機の運転を監視・操作している。
3シフト4グループの構成で、上記6名のほか各シフト当り、現場に24名、重水プラントに5名の合計35名の構成
タラプール3・4号機
2009年10月初め、インドの将来の原子力発電所のサイト候補地が以下のように報道された(場所は、図表11参照)。
  • NPCILは政府から原子力発電プラント30基を建設するサイト候補地5ヵ所の承認を得た。
  • そのうちの2ヵ所グジャラート州ミティヴィルディとアンドラプラデシュ州コバーダにはWECやGE日立の原子力発電プラントが建設される。
  • 西ベンガル州ハリプールには複数のロシア製VVERが建設される。
  • マディヤプラデシュ州バー時およびハリヤナ州クムハリアには、国産PHWR(70万kW級)×6基が建設される。
  • この他に、既公表のAREVAの160万kW級EPRを最大6基建設するマハラシュトラ州のジャイタプールがある。
  • これらにより、2032年までに、輸入炉で4,000万kW、国産PHWRと高速炉で2,300万kWを増設する。

2.原子力研究開発体制

インドにおける原子力研究開発は、原子力委員会(AEC)を頂点にし、原子力規制委員会(AERB)、また研究開発部門、産業部門、公営企業部門、支援・サービス部門を統括する原子力省(DAE)を中心にした組織体制が整備されている(I-3)

図表10:インドの原子力研究開発体制

原子力規制委員会(AERB)は独立の規制機関として、原子力委員会(AEC)の下に置かれている。
*2009年11月30日、AEC委員長と原子力省(DAE)長官を兼務していたAnil Kakodkar博士が引退し、後任としてバーバ原子力研究センター(BARC)所長であったSrikumar Banerjee 博士が就任した。

3.原子力研究開発の歴史

1)インドは、アジアで最も早く原子力研究開発に着手した国である。

  • 1945年には、タタ基礎研究所が設置され、H.J.バーバ博士が所長に就任した。
  • 国としての原子力研究開発は1948年の原子力法成立に始まる。同法に基づき、原子力委員会(AEC)が1948年に資源学術研究省の下に設置された(委員長:H.J.バーバ博士)。

2)1954年8月、首相直属の機関として原子力省(DAE)が設置された(長官:H.J.バーバ博士)。DAEは、原子力委員会が策定した政策の実施に責任を持ち、原子力関係の研究開発、また実務支援も行っている。

3)インドは、原子力開発の自立を基本方針としており、医学・農業・工業利用から原子力発電また核燃料サイクルまで包含する当時の第三世界では最もバランスのとれた充実した研究開発施設を整備した。
1954年にはトロンベイ地区(ムンバイ市内)にタタ基礎研究所の原子力部門を移転し、後にインドの原子力研究開発の中核となるバーバ原子力研究センター(BARC)の礎を築いた。

4)1947年の独立時点では、インドの総発電設備容量は全土で150万kWに過ぎなかった。1950年代後半に、原子力委員会は原子力発電の経済性評価を行い、産炭地から遠く電力消費地への隣接地に原子力発電所をシリーズで建設することを決定した。

5)1958年、政府決議でAECはDAEの下に移管。この決議でDAE長官とAEC委員長が兼務する慣習となった。
*原子力委員長以外の委員は、毎年委員長の推薦により、首相の裁可により任命される。

6)1969年に初めての原子力発電所としてタラプール1・2号機(各16万kW、米国GE社製BWR)が運転を開始した。

7)インドの原子力開発計画は、インド国内にウラン資源が乏しく、品位も悪いことから、豊富なトリウム資源を有効に使う「トリウム・サイクル」路線*を、40年以上にわたり、一貫して遵守している。
*1966年に亡くなったバーバ博士が策定。

○世界の原子力発電開発の初期には、実用発電システムの中心を軽水炉が担い、多くの先進国ではそれを踏まえた「ウラン→プルトニウム」サイクルを基本とする燃料製造、再処理、放射性廃棄物管理等の技術的インフラストラクチャーを整備した結果、トリウム・サイクルの研究開発を重点化した国はインドくらいになった。

○しかし1990年代に入ると、(1)核拡散抵抗性、(2)放射性廃棄物の発生量の低減化、(3)超ウラン元素(TRU)の核変換への対応等、従来とは異なる観点からトリウムの特性が再評価されている。

○とくに現在の「ウラン→プルトニウム」サイクルは、放射能が弱くて監視管理が困難なことが核不拡散上の問題となっているが、トリウム・サイクルでは、トリウム燃料の照射により生成するU-233は共存するU-232の娘核種による強いガンマ線を同伴する。これにより、核物質の取り扱いが技術的にむずかしくなり、また転用検知にも有効に作用することから、トリウム・サイクルの核拡散抵抗性が注目されている。

○また「ウラン→プルトニウム」サイクルでは、高レベル廃棄物中に長期にわたって存在する超ウラン元素(TRU)の放射線毒性が強いことが問題になっているが、トリウム・サイクルでは、トリウムに添加する燃料の選び方でTRU廃棄物発生量の低減が可能であることが注目されている。
<インドのトリウム・サイクルについては、V章でさらに詳しく紹介する。>


4.原子力省(DAE)傘下の研究開発部門

1)主要研究開発機関

主要研究開発機関としては、バーバ原子力研究センター(BARC)、インディラ・ガンジー原子力研究センター(IGCAR)、1974年の核実験責任者にちなんだラジャ・ラマンナ先端技術センター(CAT)等がある。

図表11:インドの原子力関係機関・施設の分布(I-3)

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2)バーバ原子力研究センター(BARC)

原子力研究開発の最大拠点は、H.J.バーバ博士を称え改称されたBARCで、トリウム利用の中心技術である改良型重水炉(AHWR。30万kW)の開発も進めている。

図表12:BARCの主要研究施設(U-2)(U-3)(U-4)
施設名
番号はIAEA
識別コード
熱出力 型式減速材/
冷却材/制御棒
臨界日 備考
アプサラ
(APSARA)
IN-0001
1MW プール型熱中性子炉/軽水/
軽水/カドミウム
1956年
8月4日
・インドが独自に開発したアジアにおける最初の原子炉
・アルミ合金被覆の高濃縮ウラン・アルミ合金板状燃料
・アイソトープ生産、中性子線研究、ラジオグラフィ、分析等に利用
サイラス
(CIRUS)
IN-0002
40
MW
タンク型熱中性子炉/重水/軽水/ボロンカドミウム 1960年
7月10日
・カナダの協力で完成(カナダのNRX型)。1974年の地下核実験で、サイラス炉燃料から抽出したプルトニウム使用の疑いにより、その後、カナダ・米国等から協力を拒否された
・アルミ被覆の天然ウラン金属棒状燃料
・中性子線研究、アイソトープ生産、発電炉燃料開発に利用
ゼルリナ
(ZERLINA)
IN-0003
0.1
kW
タンク型熱中性子炉/重水/重水/カドミウム 1961年
1月1日
・アルミ被覆天然ウラン金属棒状燃料使用の臨界実験装置
・1983年1月1日に閉鎖
プルニマ(PURNIMA)
IN-0004
0 高速臨界実験装置/減速材はなし/空気/モリブデン 1972年
5月1日
・1983年1月1日に閉鎖。
・ステンレス鋼被覆のPuO2ペレットの酸化プルトニウム燃料。高速パルス炉開発用
ドルーバ
(DHRUVA)
IN-0005
100
MW
タンク型熱中性子炉/重水/重水/カドミウム 1985年
8月8日
・アイソトープ生産、中性子線研究、クリープ・腐食研究、訓練にも利用
・アルミ被覆の天然ウラン金属クラスター燃料
プルニマU
(PURNIMAU)
INー0006
0.01
kW
タンク型熱中性子炉/軽水/冷却材はなし/カドミウムと炭化硼素 1984年
5月10日
・1986年6月15日に閉鎖。
・ウラン燃料を使用。炉心に硝酸ウラニル(ウランー233)溶液を使った、カミニ炉用U-233臨界実験装置
プルニマV
(PURNIMAV)
IN-0009
0 SLOWPOKE型熱中性子炉/軽水/軽水/カドミウム 1990年
9月11日
・ゼロ出力炉。1993年7月31日に閉鎖。炉心サイズはカミニ炉と同じで、アルミ被覆アルミ合金ウラン-233板状燃料。カミニ炉のためのモックアップ臨界実験
改良型重水炉
(AHWR)および
50万kW重水炉用臨界装置
0.1kW タンク型/重水/-/ 2008年
4月7日
・AHWR研究開発のためのトリウム・ベースの燃料格子の研究に使用。
・ウラン-233・トリウム(一部プルトニウム)燃料
図表13:インドの原子力研究開発最大拠点バーバ原子力研究センター(BARC)

BARCでは7つの研究炉のうちすでに4つが廃止されており、運転中はアプサラ、サイラス、ドルーバのみになっている(U-5)
農業・食品照射利用、アイソトープ製造、医学利用、淡水化プラント等もBARCで開発を進めている。照射したマンゴはアメリカから大量に輸入したいと申し出があり、ジェネリック製薬を中心に医薬品も製造して輸出する余地はある。また、放射線治療やガン検査などの技術もある。BARCは、全部で5万人の研究員を擁している(I-3)

3)インディラ・ガンジー原子力研究センター(IGCAR)

IGCARは、DAE管轄の高速増殖炉(FBR)の研究開発の拠点機関で、規模からはBARCに次ぐ。チェンナイから南に約80kmの海岸沿いの、マドラス原子力発電所隣接地点に1971年に設立された。1985年まではカルパッカム研究センターと呼称。

図表14:インディラ・ガンジー原子力研究センターの主要研究施設(U-2)(U-3)(U-4)
施設名
番号はIAEA
識別コード
熱出力 型式/
減速材/冷却材
臨界日 備考
高速増殖
実験炉
(FBTR)
IN-0007
40MW 高速増殖炉/減速材はなし/ナトリウム 1985年
10月18日
・初臨界時は小型炉心(1MW。内側炉心Mark-I)で、燃料は(70%PuC+30%UC)。その後出力増強のため外側炉心Mark-U炉心を設置。その燃料は55%PuC+45%UC。
・1997年7月運開。ループ型液体金属FBR。仏CEAとの1969年のFBR協力覚書に基づく協力で完成。蒸気発生器とタービン発電機を装備(それ以外は仏ラプソディと同じ設計)(U―7)。
・2003年7月に外側炉心をMOX燃料にしてハイブリッド化。 2008年試験用金属燃料を装荷。
カミニ
(KAMINI)
IN-0008
30kW U-233燃料装荷熱中性子炉/軽水/軽水 1996年
10月29日
・FBTRからの燃料やコンポーネントの中性子ラジオグラフィを実施。また放射化分析、放射線検知器の較正や遮蔽の実験。
・中性子放射化分析(NAA)、中性子ラジオグラフィィ、地質学調査、化学サンプル作成等にも使用。
・ウラン-233アルミ合金板燃料。Slowpoke型小型炉。世界で唯一のウランー233燃料使用
・カドミウム板状制御棒
図表15:インディラ・ガンジー原子力研究センター(IGCAR)

5.原子力省(DAE)傘下の公営企業部門

1)インド原子力発電公社
   (NPCIL)(I-3)



インドでは原子力省(DAE)が直接、原子力発電プロジェクトを立案・運営していたが、1987年9月にNPCILが設立された。これにより、原子力発電プロジェクト運営の自由度が与えられ、インドの資本市場から資金を調達できるようになった。

(1)役割:

  • 熱中性子炉による原子力発電所の、サイト選定、設計、建設、試運転、運転、保守、改造、寿命延長、廃止措置を担当している。
  • 原子力発電所の建設に当たっては、NPCILの基本設計を基に、総合重電機器メーカーが詳細設計、製造、据付を行っている。建設工事に関しては、建設会社に発注している。
  • ラジャスタン1号機、高速増殖実験炉(FBTR)、ならびに高速増殖原型炉(PFBR) を除くインド国内のすべての原子力発電所を所有している。
注)ラジャスタン1号機はDAEが所有し、運転はNPCILが行っている。FBTRは所有者・運転者ともDAEである。PFBRは、バラティヤ・ナビキヤ・ビジュット・ニガム公社(BHAVINI)が建設・運転・保守を行う。
(2)NPCILのデータ
(インドの会計年度は4/1〜3/31。2010年1月時点では1ルピー=1.99円):
-2007年度末総固定資産:約2,500億ルピー(約4,975億円)
従業員:11,924人(エンジニアと科学者が3,270人、技術者が5,690人、事務系職員が1,759人、補助スタッフが1,205人)。
*全世界200カ国以上で、1億事業所以上の企業データベースを構築し、運用する企業情報調査会社Dun & Bradstreet 社の2006年報告書では、NPCILは、純資産は、インドのトップ企業500社中、純資産は8位、純利益は14位、総収入は66位である。
-2007年度:
売上高は約333億ルピー(約663億円)、総収入は426億ルピー(約848億円)、利益は約120億ルピー(約239億円)
発電量は169億kWh(インドの総発電電力量の約3%)
*1kWh当たりの平均電力料金は2.28ルピー(約4.5円)である。
-インド政府から予算支援は受けていない。

(3)最近の動き
  • 「カザトムプロム」との覚書調印
    2009年1月24日、NPCILはカザフスタンの国営原子力企業である「カザトムプロム(KAP)」と民生用原子力発電分野での協力に関する覚書に調印した。カザフスタンのN.ナザルバエフ大統領の1月23日からのインド訪問に合わせて実現したもので、今回の覚書により、豪州に次いで世界第2位のウラン埋蔵量を誇るカザフスタンでの天然ウラン採掘とインドへの供給、人材養成等で両国が協力していくことになった。 また、カザフスタン側は、インドの重水炉(PHWR)技術を基礎に、カザフスタンでの原子力発電プラント建設のフィジビリティ・スタディ(FS)へのインドの参加への関心を明記した。
  • 仏AREVAとの覚書調印:最大6基までのEPRを購入
    2008年9月の印仏原子力平和利用協力協定締結を受けて、2008年12月17日、AREVAは国際社会がインドとの原子力ビジネスの再開を決定して以降初めて、DAEと、インドの民生用原子力発電所向けウラン燃料の供給契約に調印した。NPCIL所有の原子力発電所に300トンのウラン燃料を供給するとの内容で、ウラン燃料の調達不足から、定格出力以下での操業を余儀なくされていたインドにとって、備蓄燃料の不足が解消される見通しとなった。
    さらに2009年2月4日ニューデリーで、AREVAはNPCILと、インドに少なくとも2基のEPR(欧州加圧水型炉)の建設とそれらに対する燃料供給に関する覚書に調印した。
    これにより両社は、マハーラーシュトラ州のジャイタプールにおける160万kW級EPRの2〜6基の建設およびこれらの燃料供給について、協議を進める。
    AREVAはインド法人であるAREVA T&D Indiaを通じて、インド国内にすでに8つの事業拠点があり、4,200名以上の従業員を抱えている。
  • GE日立ニュークリア・エナジーと覚書調印
    2009年3月23日、NPCILならびにバーラト重電機公社(BHEL)は、GE日立ニュークリア・エナジー(GEH)と、インドにおける複数のABWR建設協力に関する覚書に調印した。
    今回の覚書により、3社は出力135万kWのABWRを複数インドに建設するための製造および建設管理等での協力を検討する。GEHは、米国原子力規制委員会(NRC)で設計認証審査中のESBWR(高経済性・単純化沸騰水型炉)についても今後、顧客に勧める方針を明らかにしている。
  • 韓国電力公社と覚書調印
    2009年8月27日、韓国電力公社(KEPCO)と原子力発電分野での協力覚書に調印した。これにより、原子力発電に関する技術データや知見の交換、相互訪問や共同事業を促進する。具体的には、原子炉の開発・運転・メンテナンス、核燃料、主要機器・設備の製造・供給、および韓国のAPR1400(140万kW級次世代型軽水炉)に関する、インドで認可を受け、建設するための共同研究も含まれる。
    政府間原子力協力協定の締結を待ち、商業取引契約が可能になる。
  • 国営ナショナル・アルミニウムと覚書調印
    2009年11月28日、NPCILは国営ナショナル・アルミニウム(NALCO)と、国内2ヵ所に原子力発電所を共同建設するための覚書に調印した。NALCOが最大で49%、NPCILが51%以上を出資して合弁企業を設立する。建設サイトは、両社で委員会(委員長はNPCILの取締役)を設置して、協議する。
    これはインド政府の、「原子力発電所建設に向け首都圏の公的企業に協力を要請する」との方針に基づく働きかけへの最初の応答であり、次項の石油公社の動きにもつながっている。
  • ラーセン&トゥブロ社(L&T)と覚書調印
    2009年11月30日、NPCILは輸入に依存している原子炉用特殊鋼と鍛造品の製造のため、合弁会社を設立し国産化する覚書をL&Tと締結した。合弁会社の資本金は50億ルピー(約100億円)で、NPCILが26%、L&Tが74%を出資する。
    172億5,000万ルピー(約343億円)を投じて、西部グジャラート州ハジラ (Hazira,Gujarat State)港のすぐ近くに統合製造施設を設置する。重さ600メトリックトンのインゴット生産が可能なスチール溶解工場、および鍛造プレス付きの重鍛造品工場等、世界でも最大規模のものになる。加圧器や蒸気発生器(SG)等の原子炉用鍛造品のほかに、火力発電所や炭化水素部門の重要大型機器用鍛造品も製造する。2010年1月9日に起工式典が行われた。稼動は2011年4月で、鍛造製品を年5万トン程度生産の予定。2013年に輸出品を生産することを狙っている。
    *2009年9月10日、NPCILがラジャスタン-7・8号機(各70万kW級)の蒸気発生器の設計・製造・供給をL&Tに発注したとの報道もある。
  • バーラト重電機公社(BHEL)ならびに仏アルストムと覚書調印
    2009年12月1日、3社間で合弁会社設立の覚書に調印した。
    2008年度にNPCILとBHELが原子力発電所の設計・調達・建設(EPC)を手がける合弁企業の設立で合意した後、海外企業にも参画を打診した結果、今回のアルストムの参加(合弁に33%出資)を得たもの。NPCILの出資金額は、前項のL&Tとの合弁事業への出資よりも少ない。
  • インド石油公社と原子力発電所共同建設に向けて覚書調印 2009年12月7日、NPCILはインド石油公社(IOC)と、100万kW級の原子力発電所の共同建設に向けて覚書に調印した。NPCILが51%以上出資し、ICOの出資比率はNPCILの出資幅に応じて29〜49%になる。総工費は1,000億ルピー(約1,990億円)で、IOCは100〜150億ルピーを負担する予定。資金の7割は融資、3割は市場から調達、2014年の完成をめざす。半年内にサイトを決定。IOCはこれを機にエネルギー総合企業への転進を図り、将来的には単独での原子力発電事業を展開することを検討している。
    *NPCILは、インド火力発電公社(NTPC)とも2008年12月に合弁企業設立の覚書に調印している。NTPCは石炭火力を中心とした2,700万kW以上の発電容量をもっており、インド各州の電力局とのつながりをもっていることから、NPCILにとっても将来原子力発電による電気の送電では、NTPCとの連携が望ましい。
    なお、この合弁設立も原子力発電事業への民間企業参入の布石とみられ、民間企業ではすでにラーセン&トゥブロ(L&T)、タタ・パワー、リライアンス・インフラ、GMR、ジンダル・グループ、ヒンドゥジャ・グループ、BHEL等も原子力発電事業への参入に名乗りを上げている。

2)その他の公営企業部門

  1. インド希土類公社(IREL):鉱物砂の採鉱、処理
    • トリウム、希土類鉱物を含む鉱物砂の採鉱、処理、イルメナイト(チタン鉄鉱)、ルチル(金紅石)、モナザイト、ジルコン、ガーネット(金剛石)等の鉱物の生産
  2. インド・ウラン公社(UCIL):ウランの採鉱、製錬、処理
  3. インド・エレクトロニクス公社(ECIL):原子炉、その他の計装制御系の設計・製造
  4. バラティヤ・ナビキヤ・ビジュット・ニガム公社(BHAVINI):高速炉の建設
    • インドで最初のFBR原型炉(PFBR。50万kW)は、BHAVINIが建設中である。
    • インドの原子力法では、NPCILにのみ原子力発電プラントの建設を認めていたが、FBR建設でも専門機関が必要との判断から、2004年10月にIGCARと原子力発電公社(NPCIL)の人材を集めてBHAVINIを設立(総裁はNPCILジェイン総裁が兼務)。
    • これにより、IGCARがPFBRの研究開発と基本設計までを担当し、BHAVINIがPFBRおよびその後継炉の建設・運転・保守を担当する体制が整備された。
図表16:高速増殖原型炉(PFBR)の概要
熱出力 型式
減速材/
臨界日 備考
1,250
MWt
(電気出力50万kWe)
FBR/
減速材はなし/
ナトリウム
2004年
10月
着工/
2010年
9月
臨界/
2011年3月完成(U-5)
・インドの基本路線((1)重水炉での発電と使用済燃料からのPu-239抽出→(2)FBRでのPu-239燃焼と、減損UからのPu-239抽出ならびにTh-232からのU-233生産→(3)FBRでのU-233燃焼とTh-232からのU-233生産)の第3段階を担う炉技術の開発が目的。
・当初は2010年完成を予定。タンク型。基礎コンクリート施工開始直後の2004年12月に、インドネシア沖地震による津波被害で4ヶ月半の遅れが出たことも原因(U-5)。
・混合酸化物燃料を使用(U-3)(U-4)
・世界最大の1,250トン・ローラークレーンを用いて建設中。
図表17:カルパッカムでの高速増殖原型炉(PFBR)建設現場(U-7)
*PFBRに関しては、以下のような情報がある(2008年11月、東京工業大学関本博教授まとめ)(I-3)
-冷却材出口温度を550℃で、40年以上の運転を予定
-PFBRの後は、2020年までにPFBRと同様の原子炉を4基建設、その後は1,000MWeの金属燃料高速炉を建設する。さらにトリウムを装荷し、U-233を製造する。
現時点での、FBTR、PFBR、常陽、もんじゅの比較表は、次のとおりである。
図表18:日印高速増殖炉の実験炉・原型炉の比較
日本 インド
実験炉常陽 原型炉もんじゅ 実験炉FBTR 原型炉PFBR
臨界

1977年

1994年

1985年

2011年予定

熱出力(MWt)

140

714

40

1,250

電気出力(MWe)

280

13.5

500

冷却タイプ

ループ型

プール型

燃料

混合酸化物燃料、
濃縮ウラン酸化物

混合酸化物燃料

世界初の混合炭化物燃料使用

混合酸化物燃料

6.原子力省(DAE)傘下の産業部門

  1. 重水製造局(HWB):重水生産
  2. 核燃料コンプレックス(NFC):核燃料、ジルカロイ製品、ステンレス鋼管の製造
    *ハイデラバードはインドにおける核燃料製造の本拠地で、加圧重水炉(PHWR)用天然ウラン燃料の製造やBWR用ウラン燃料加工、六フッ化ウランの転換等が1972年から行われている。
  • インドで唯一、米国機械学会(ASME)の認定を受けた重電機器製造企業である(U-9)
  • 2009年7月26日、インド初の国産原子力潜水艦「アリハント」(排水量6千トン。出力8万kW、40%濃縮ウラン燃料使用のPWRを搭載)がロシアの技術支援で進水。この建造ではL&Tは最新の3次元モデリング等のエンジニアリング部門で参加。原潜は少なくともあと3隻が建造中。
  1. 放射線アイソトープ技術局(BRIT):ラジオアイソトープの加工・販売

7.原子力関連企業

1)主要企業等の概要(I-3)(U-8)

(1)Larsen & Toubro Ltd.
    (ラーセン&トゥブロ社:L&T)

  • インドの民間企業で最大手の総合重電機器メーカー。建設、重機械製造、電気・電子設備、ITが主要事業。1938年にデンマーク人が設立、ムンバイに本社を置く。
  • 重機械製造では、化学プラント、航空・宇宙、火力発電、原子力発電、造船、防衛産業等を手がける。またそれらのエンジニアリング、建設も手がける。

    原子力関連機器は、次の4つの工場で製作される。とくにHazira工場(5.1)(3)f.参照)とPowai工場は、広大な敷地を有する。
    -Hazira工場 / Surat (原子炉容器、蒸気発生器等を製造)
    -Powai工場 / Mumbai (蒸気発生器、熱交換器を製造)
    -Ranoli工場/ Baroda (炉内構造物、蒸気発生器等を製造)
    -Coimbatore工場 / Coimbatore (制御棒駆動装置、燃料交換装置等を製造)

    原子力機器の製造は1965年から手掛けている。次の製造・納入実績がある。
    -22万kWのPHWR(カイガ3・4号機やマドラス1号機)および54万kWのPHWR(タラプール3号機等)の蒸気発生器
    -FBRの原子炉容器/カランドリア、蒸気発生器、制御棒駆動装置、燃料交換装置、熱交換器、および重水プラント
    *Powai工場では、伝熱管同士の溶接を内側からするInternal Bore Welding技術等を得意とする。PFBRの蒸気発生器製造に適用している(I-3)
    -また、インドで初めて建設されたVVER-1000(クダンクラム1・2号機)の主要機器
  • その他:
    • 2007年度の年間売上高は74億ドル($1=\91で計算すると約6,734億円)、従業員数は3万2,060人。
    • L&Tは、2015年までに、世界全体の原子力発電プラント建設市場で年間600億ルピー(約1,194億円)の受注をめざす。海外の原発建設からの受注を2011年以降に期待する。現状で100万kW級の原発を同時に4基建設できる(U-10)
    • 原子力分野ではないが、三菱重工業とは2007年5月に、超臨界ボイラー&タービンで技術提携の契約に調印している(U-11)(U-12)
  • 最近の動き:
    • 2009年1月16日、ウェスチングハウス社(WEC)と、AP1000を含むPWRのモジュラー建設工法に関する協力覚書に調印した。協力のスコープには、モジュラー機器、構造物、配管の製造も含まれる。
    • 2009年1月21日、カナダ原子力公社(AECL)と、改良型CANDU炉である「第三世代+」のACR1000の開発協力で覚書に調印した。ACR1000の共同開発と、インド国内での設計・調達・建設(EPC)ベースでの原子力発電プラント建設での協力も含む。インドとカナダの政府間原子力協力協定の締結が前提となる。
    • 2009年3月30日、カクラパール原子力発電所で計画されている70万kW級加圧重水炉(PHWR)の蒸気発生器4基の製造・供給をNPCILと契約した。 *3月27日にはバーラト重電機公社(BHEL)も同じくカクラパール原子力発電所用の蒸気発生器を4基受注。契約額は、両社とも34億5,000万ルピー(約69億円)。
    • 2009年3月30日、カクラパール原子力発電所で計画されている70万kW級加圧重水炉(PHWR)の蒸気発生器4基の製造・供給をNPCILと契約した。
    • 2009年4月15日モスクワで、ロシア国営の原子力建設輸出企業であるアトムストロイエクスポルト社(ASE)と協力覚書に調印した。2008年12月の両社の合意に基づくもの。
      インドのクダンクラム原子力発電所(KK3〜6号機の4基)向けを含むロシア型PWR(VVER)用の機器・システム(含計装制御)、弁・配管の製造や、建設工事役務等での協力の他、インド国内外での新規VVER建設での協力を含む。
      *L&Tは、主契約者ASEの下で、KK-1・2号機(100万kW×2基)の建設および配管敷設・組立て等の作業を担当(KKは8号機まで増設の可能性がある)。
    • 2009年5月28日、GE日立ニュークリア・エナジー社(GEH)と、複数のABWRのインド国内での建設時の供給ネットワーク強化のため、「BWRおよびABWR開発の覚書」に調印した。
      *GEHによると、両社の提携は、2008年10月の米・印原子力協力協定締結以来、米国系企業による原子力技術貿易としては最初の予備協定。

今回の合意により、両社は今後、ABWR建設時のエンジニアリング管理/建設計画を策定する。
GEHはL&TにABWRの原子炉系統設備や主要機器の技術、および関連するエンジニアリング、助言サービス等を提供する。GEHはまた、ABWRの最新モジュール建設技術も協力対象に含める予定でいる。
L&Tは、インドにおけるPHWRの機器製造や建設、およびプロジェクト管理での経験を生かし、エンジニアリングや機器製造および建設でGEH社と協働、建設管理サービスを提供する。

(2) Bharat Heavy Electrical Ltd.
   (バーラト重電機公社:BHEL)(U-13)

  • インド最大の国営の重電機器メーカー。1964年に設立され、ニューデリーに本社を置く。生産工場は14ヵ所、サービス・センターが8ヵ所にある。国内・海外の100地点以上で建設プロジェクトを実施中。幅広くエネルギー関連インフラ整備で、機器の製造・設置サービスをしている。製造する機械は、空調、ボイラー、ガスタービン、スチームタービン等180品目。現在までに累積で1億kWの発電設備を71カ国に納入している。
    インド国内の発電設備の建設累積(2008年3月末時点)で見ると、火力(総容量9,361万8千kW中の70%の6,559万kW)、原子力(同412万kW中の80%の328万kW)、水力(同3,667万4千kW中の46%の1,687万1千kW)をBHELが受注している。
    インドのトップ企業の第8位(FE500リスト)あるいは第5位(Forbe社のAsia-Pacific Biuggest Companies)に位置する。インドの大統領府が株式の67.72%を保有(2008年9月末現在)。
    受注高は、1,647億8千万ルピー(2003年度)、1,832億ルピー(2004年度)、1,893億8千万ルピー(2005年度)、3,564億3千万ルピー(2006年度)、5,027億ルピー(2007年度)となっている。2008年9月末時点での受注残高は1兆400億ルピーである。
  • 1970年以降に最初の原子力関連受注があり、インド国内の22万kW、および54万kWのPHWRへの蒸気発生器等の納入実績がある。70万kW級のタービン発電機も製造できる。原子炉容器、熱交換器等も納入している。マドラス原子力発電所が最初の主要原子力プロジェクトで、2008年11月現在のインド国内で運転中の原子力発電プラント17基のうち、タラプール原子力発電所-3・4号機を含む12基のタービン発電機を納入した。原子力発電プラントの主要機器の80%を受注している。
    *水力や火力での鍛造品の製造実績
    -タービン・ローター:直径1,115mm、重さ18トン
    -発電機ローター:直径935mm、24トン
    -水力発電機シャフト:直径1,800mm、27トン
    -リング:直径1,800mm、8トン
    -ディスク:直径2,200o、10トン
  • その他:
    • 2007年度の年間売上高は約2,140億ルピー(約4,259億円)、従業員数は4万3,636人。
      *米国機械学会(ASME)の認定基準に則ってボイラー(Sシンボル)の設計・製造や、圧力容器や熱交換器(U&U2シンボル)を製造。
      *後述の英国SFIL社との技術移転契約関連では、「BHELは、年間40億ポンド(£1=148円で計算すると約5,920億円)の売上高があるが、今後3年間で30%の成長を見込んでいる」と報じられている。
  • 最近の動き:
    • 2009年3月23日、BHEL はNPCILとともにGE日立ニュークリア・エナジー社(GEH)と、インドにおける複数のABWR建設協力に関する覚書に調印した。
      *(NPCILの項参照)出力135万kWのABWRを複数、インドに建設するための、製造・建設管理での協力を行う。
    • 2009年3月27日、BHELは、カクラパール原子力発電所で計画されている70万kW級加圧重水炉(PHWR)の蒸気発生器4基を製造・供給する契約をNPCILと締結した。
      *3月30日にはL&Tも同じくカクラパール原子力発電所用の蒸気発生器を4基受注。契約額は、両社とも34億5,000万ルピー(約69億円)
    • 2009年3月31日、英国の大型鋳鍛造品製造業者シェフィールド・フォージマスターズ・インターナショナル社(SFIL)とBHELへの技術移転で覚書に署名した。
      *BHELは、ウッタラカンド州ハリッドワー工場で発電用鋳造機器を製造している。
      *SFILは、BHELがインド国内市場で水力、原子力、火力発電所用の大型機器鍛造工場の新設を10年間監督する。将来的には鋳鍛造技術者の訓練も実施する。
      *BHELは、SFILの技術移転と製品販売時の特許料として3,000万ポンド(約44億円)を支払う。
    • 2010年1月初め、BHELがフランスの重機器製造の大手のアルストムや東芝と、技術提携に向けた交渉に入ったことが報じられた。BHELは、NPCILと原子力発電プラントのエンジニアリング・資機材調達・建設(EPC)を手がける合弁企業を設立し、海外の原子力発電に関する最新技術の導入を計画しているという。すでにB&Tも同様に海外にパートナー企業を見出す動きを始めている。

(3)Walchandnagar Industries Ltd.
  (ワルチャンドナガール・インダストリーズ:WIL)

  • 火力発電、原子力発電、宇宙計画、セメント等を手がける重電機器メーカー。1908年に航空機製造会社として設立され、ムンバイに本社を置く。
  • 原子力関連機器としては、遮蔽体、PHWRのカランドリア、燃料交換機、熱交換器、ダンプタンク、またPFBRのコアキャッチャー等を製造している。
  • 2007年度の売上高は約70億ルピー(約139億円)。

(4)Godrej & Boyce Co. Ltd.
  (ゴドレッジ&ボイス)

  • エンジニアリングから消費者製品まで扱うインド最大手民間企業の一つ。1897年に創立され、ムンバイに本社を置く。家電、家具、錠前、工業製品、加工プラントおよび機器の製造、建設および不動産、電子機器を取り扱う。
  • 原子力関連としては、放射線管理区域用エアロックドア、高圧原子炉ドア、燃料交換機関連装置、シャットダウンシステム駆動装置等を製造している。
  • 2006年度の年間売上高は289億ルピー(約575億円)、従業員数は9,000人。

(5)Avasarala Technologies Ltd.
  (アバサララ・テクノロジーズ:ATL)

  • 機械製造産業のプロジェクト・コンサルティング企業として1985年に設立、1986年より特殊用途加工機械とオートメーションシステムの設計・製造加工を開始した。バンガロールに本社を置く。原子力、宇宙、ファクトリー・オートメーション、医療等の分野で機器製造を行っている。
  • 原子力の分野では、燃料交換機遠隔操作ヘッド、放射線遮蔽窓、高精度位置検出器等高度技術製品を提供している。
  • 2007年度の年間売上高は15億ルピー(約30億円)、従業員数620人。

(6)TCE Consulting Engineers Ltd.
  (TCEコンサルティング・エンジニア:TCE-CE)

  • (インドのGDPの3%を占める)タタ・グループのエンジニアリング・コンサルティング企業。1962年に設立され、ムンバイに本社を置く。火力・水力また原子力発電、化学工業等大規模設備のプロジェクト管理、エンジニアリングを手がける。
  • 原子力の分野では、発電所、廃棄物処分、燃料加工、燃料交換等において、設計・調達・建設・試運転監督等を行っている。
  • 国内で650以上のプロジェクトを、また海外では75以上のプロジェクトを手がけている。従業員数は2,000人。

(7) Gammon India Ltd.
   (ギャモン・インディア:GIL)

  • ムンバイに本社を置くインド最大の建設会社。橋梁、港湾、火力および原子力発電所、ダム、化学プラント、オイルおよびガスパイプライン等の設計・建設を行っている。
  • 原子力関連施設では、カイガ3、4号機(各22万kWのPHWR)の建設を行った他、ラジャスタン原子力発電所の建設にも携わった。
    *これまでの原子力発電プラントの建設事例(U-7):
    -1959年のBARC前身研究所への450万m3タンク(直径24m、厚さ200月)
    -1965年のインド初号原子力発電プラントであるラジャスタン原子力発電プラントで、インド初のプレストレスト・コンクリート格納容器
    -1983年のナローラ原子力発電プラントと1989年のカクラパール原子力発電プラントでの換気煙突の設計・建設と、
    -1984年のナローラ原子力発電プラントでの冷却塔の設計・建設
    -1991年のタラプール原子力発電プラントでの使用済燃料貯蔵建屋等の建設
    -2007年のカイガ原子力発電プラント3・4号機の主プラント建屋の建設のデータ
    ・契約条件としての完成時期: 2005年11月30日(50ヶ月)
    ・その後の条件変更による完成時期:2007年11月30日(74ヶ月)
    ・契約当初の格納容器 :25億5,710万ルピー(約5,682万USドル)
    ・条件変更後の格納容器 :27億1,450万ルピー(約6,032万USドル)
    ・役務コスト:エスカレーションなしでは33億4,530万ルピー(約7,434万USドル)
    :エスカレーション込みでは41億5,310万ルピー(約9,229万USドル)
    -カルパッカムで建設中のPFBRの炉格納容器、タービン、取水口等の建設
  • 図表19:カイガ原子力発電所3・号機の完成写真(U-7)
  • 2007年度の年間売上高は約251億ルピー(約499億円)。

(8) Mishra Dhatu Nigam Ltd.
  (ミシュラ・ダトゥ・ニガム:MIDHANI)

  • ハイテク特殊金属・合金製造会社。ハイデラバードに本社を置く。超合金、チタニウム、特殊用途鋼鉄等を製造しており、航空宇宙、防衛、原子力等の発電、化学工業等のハイテク産業に利用されている。
  • 原子力関連では、PHWR機器用に、マルテンサイト合金、PH鋼、304L硝酸オーステナイトステンレス鋼等を製造し、核燃料製造用に純モリブデンおよび合金モリブデンボートを製造している。
  • 2007年度の年間売上高は25.5億ルピー(約51億円)、従業員数は1,264人。

(9) GMR Group(GMRグループ)

  • 空港(デリー、ハイデラバードの両国際空港、またトルコのイスタンブール国際空港の開発)、発電所、高速道路、都市基盤等のインフラ基盤整備を行っているグループ企業。事業は、教育、衛生からインドネシアでの石炭開発まで、多岐にわたる。1978年に設立され、バンガロールに本社を置く。
    エネルギー部門ではGMR Energy社があり、80.85万kWの火力発電プラントをもっている。現在建設中の石炭火力発電所と水力発電所の合計は274万kWである。
  • パブリック・プライベート・パートナーシップ(PPP)*等により、民間で最初の原子力発電事業者になることも考えており、元NPCIL総裁のスリニバサン氏を顧問として登用した。
    *公営事業に、民間事業者が計画段階から参加して、設備は官が保有したまま、設備投資や運営を民間事業者に委託する等の手法。
  • 2007年度の連結総収益は 277億ルピー(約551億円)、その内電力部門が57.53%を占め、空港部門が32%、道路部門が5.41%と続く。

(10) MTAR Technologies Private Ltd.(MTARテクノロジー・プライベート社)

  • 航空宇宙や軍事に関連する精密加工企業。ハイデラバードに本社。1970年に創立。創業者Reddy家が74%の株をもつが、米国のBlackstone グループが残りの26%をもつ。
  • 原子力分野では3億ルピー(約6億円)でFBR原型炉(PFBR)のステンレス鋼格子板の受注実績がある。2008年12月1日に、P. Ravindra Reddy会長は、原子力と航空宇宙分野の設備拡大のため10億ルピー(約19億円)の投資を発表した(U-14)

(11) Hindustan Construction (ヒンドゥスタン・コンストラクション社:HCC)

  • 2009年半ばに、英国を本拠地とする国際プロジェクト管理企業AMEC社と、インドの新規原子力発電所建設計画で、設計・調達・建設(EPC)およびコンサルティングの受注をめざし協力する覚書に調印(U-15)
    HCCはインドの原子力設備の土木建築工事の50%のシェアを占める。
  • この提携で、新規原子炉の建設コスト削減に役立つ技術基盤構築が期待される。

(12) インド原子力産業協会(IAIF)(U-16)

  • 1996年10月、原子力発電公社(NPCIL)のイニシアティブにより設立。ムンバイに所在。IAIFは、産業界、研究機関の間で情報・意見の交換を促し、究極的には原子力発電を促進することを目的とする。
  • このため、原子力発電所建設のプロジェクトのコスト・工期の管理や、保守専門機関を含む各種役務機関の設立を促進する。
  • また、官・産業・国民の間で原子力発電開発の触媒的機能を果たす。
  • この他、国際協力、情報サービス、人材育成、会議開催、会員相互の連携、世界の原子力機器およびサービス市場へのインドの産業界の参、コンサルタント・サービス等を促進する。
  • 入会金10,000ルピーで、終身会員となり、事後の年会費の支払いは不要。

(13) インド原子力学会(INS)(I-3)

  • インドにおける原子力科学・技術・工学の推進を目的に、1988年1月に設立。
  • 本部はムンバイで、支部は7ヶ所。約4200人の個人会員、52の法人会員が所属。
  • ラマ・ラオ教授を会長とする執行委員会の上に、資金・活動管理を行う評議員会が設けられている。評議員は(原子力委員長を含む*)4人。
    *2008年11月時点での構成。
  • 年に一度、国内の原子力関係者、研究者が集う年会を開催。

2)インドの原子力産業界の課題(I-3)(I-7)

(1)2008年11月の「インド原子力学会年会(INSAC-2008)」で、NPCILのジャイン総裁は、インドの原子力産業界の現状を以下のように指摘した。

  • インドの産業界にとって、ウランへのアクセス、大型軽水炉の建設による原子力発電の急速な拡大、国内外の市場への参入、輸出への期待、特定の分野における専門的サポートサービスといった機会が生まれる。ウランの需要は1,600トン/年と見込まれる。
  • 各6〜8基を有する原子力パークを4〜5サイトで、同時に並行して建設が進むことを期待。雇用を創出し、600億ドル相当のビジネスとなる。原発運転開始後の専門サービスも必要になる。
  • 課題としては、主要装置と鍛造品の製造、世界的な金融危機、流出や知識伝承といった人材問題、IAEAやWANOと連携しての安全文化の確立、セキュリティ対応、新規建設時のコスト最適化、運転経験の不足、エネルギー単価を競争力のあるものにすることである。
  • 外国の企業との提携の進め方 -軽水炉導入について、ロシアやAREVA、GE、WECと交渉を進めているが、ターンキー契約ではない。
    -価格の問題があるので、最終的には80%程度の機器を国産化したい。インド原子力産業協会(IAIF)を通じて国内のパートナーと連携を進めていきたい。
    -燃料供給保証が必要である。ベンダーから燃料を調達することも考えており、また国際市場ではAREVAとともにウラン獲得で投資を行う計画である。

(2)また同じINSAC-2008で、インドの中央電力庁(CEA)のPakesh Nath会長は、インドの原子力産業界の課題を以下のように指摘している(U-12)

  1. 競争が限定されている。これは価格削減上致命的。
  2. 主要機器製造能力が、第11次5ヵ年計画を満たすのに十分ではない。設備増強、人材養成、(タービンや発電機の鍛造品や鋳造品、高圧配管部材、変圧器用のCRGO鋼等世界市場で供給者が限定されている)クリティカルな資機材の早期調達準備等が疎かになっている。すでにBHELには対応を指示した。この分野のインド国内での施設増強も必要。
  3. すでにL&Tは三菱重工業と超臨界ボイラー&タービンで合弁製造企業を立ち上げつつあるが、東芝/ジンダル・サウス・ウエスト(JSW)との合弁、タービン発電機用のアルストム/BHEL鍛造合弁、ボイラーでのアンサルドとの合弁等が準備されつつある。CEAが、これらの合弁にどういう品質仕様を求めているかを十分理解すること。それらは、CEAのウェブに掲載してある。
  4. バランス・オブ・プラント(BOP)の製造の遅れがはなはだしいので、主機の発注から6ヶ月以内にBOPも発注する。
  5. 新型建設機器を購入すべき。リース方式依存の問題を理解すべき。
  6. 土木作業の実行企業が少ない。
  7. プロジェクト管理では、IT 使用によるモニタリングができていない。契約方式を改善して、発注者と受注者の適切なリスク分担を導入すべき。
  8. 定額方式契約と材料・サービス変更可能契約の比較が必要。
  9. 工期目標達成に対するインセンティブ設定が必要。
  10. 遅延コストをもっと認識すべき。50万kWの発電所建設の遅れで、他の電源でまかなうと、一日あたり2,500〜6,000万ルピーの損害になる。

インドの原子力産業について、日本側専門家から以下の指摘がある(I-3)
-製造メーカーは、研究所から図面をもらって作るだけという状況に近いように見える。
-原子力発電炉技術開発では、関係機関のベクトルの向きが一致していないように見える。
-PFBR建設現場等では日本と同レベルまでの安全文化等は浸透しておらず、原子力産業の上層組織と現場レベルの下部組織とのギャップがあるように見える。
「マドラス原発(電気出力22万kWと小容量)では、12台の小型循環水ポンプを設置していた。建設時に先進国からの協力が得られず、大型ポンプが作れなかったインドでの苦慮がうかがわれた」との指摘もあった。

インドの原子力発電開発は、欧米の軽水炉技術の採用と、将来の国産高速増殖炉の投入が、これからの基本路線となるが、、欧米の軽水炉技術をどこまで欧米が技術移転するかに加えて、ジャインNPCIL総裁とナースCEA会長の懸念するように、インドの企業がどこまでどれくらいの速さで吸収できるのかの問題がある。
さらに、トリウム・サイクル路線は、概念はシンプルだが、核燃料サイクルの各段階の燃料、濃縮、再処理の基本技術が多岐にわたっており、標準化がされていない段階にあることから、その選択と絞込みと工学化をどう合理的に実施できるかがむずかしい問題になると思われる。

<注記>

(I-3) 出典:2009年2月(社)日本原子力産業協会刊「インドの原子力事情:INSAC-2008(第19回インド原子力学会年会)参加原産協会訪印団報告書」
(I-6) 出典:2009年4月14日第42回原産年次大会でのインド原子力発電公社(NPCIL)のシブ・アビラシュ・バルドワジ理事の発表「成長を続けるインドのエネルギー政策と原子力発電」
(I-7) 出典:インド中央電力庁(Central Electricity Authority:CEA)のHP
http://cea.nic.in/ また
http://cea.nic.in/power_sec_reports/Executive_Summary/2009_08/1-2.pdf
(U-1) 出典:NPCILのHP
(U-2) 出典:IAEAの「Nuclear Research Reactor in the World」(1999年7月21日刊)
(U-3) 出典:2006年6月23日原子力委員会国際問題懇談会資料「インドの原子力研究・開発・利用の現状」(褐エ子力安全システム研究所技術システム研究所長 木村逸郎)
(U-4) 出典:「インドにみるアジアの原子力開発」2007年5月21日。次世代原子力システム研究開発部門佐藤浩司氏スライド
(U-5) 出典:「インドに見るアジアの原子力開発-原子力新時代の幕開け(後編)」前原子力委員会委員長藤家洋一氏、JAEA佐藤浩司(2007年4月エネルギー・レビュー誌)
(U-6) 出典:「第19回インド原子力学会年会(INSAC-2008)」(2008年11月24〜26日)でのIGCARのBaldev Rajの発表「Realization of Fast Breeder Reactor Technology in India」
(U-7) 出典:2008年11月「INSAC-2008」でのGammon India Ltd. のM.V.Jatkar副社長の発表「Role of Construction Industry to Meet Challenges of Nuclear Industry」
(U-8) 出典:多くの記事は、(社)日本原子力産業協会刊行の「原子力産業新聞」(週刊)から採録
(U-9) 出典:原子力産業新聞(2009年4月23日号)
(U-10) 出典: フジサンケイ紙の2009年12月15日のL&Tのコトワル上級副社長へのインタビューを基にした報道記事
(U-11) 出展:2007年11月6日発行「三菱重工ニュース」第4645号
またNNA/ASIAの2009年8月6日報道等
(U-12) 出典:2008年11月「INSAC-2008」でのインド中央電力庁(CEA)のPakesh Nath委員長の発表「Indian Power Sector: A Growth Strategy」
(U-13) 出典:2008年11月「INSAC-2008」でのBHELのK.Ravi.Kumar会長兼社長の発表「BHEL's Role in the Power Sector and Its Specific Contribution in the Development of Nuclear Power Projects in the Country」
(U-14) 出典:電子版Business Standard紙(2008年12月1日号)
(U-15) 出典:原子力産業新聞(2009年10月22日号)
(U-16) 出典:インド原子力産業協会(IAIF)のHPから

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