[JAIF] 躍進するアジアの原子力

べトナム社会主義共和国

2009年10月2日現在

目次

 T.経済・エネルギー・電力事情

 ベトナムでは、2000年以降年平均6〜8%で経済成長を遂げ、2008年は6.2%となった。しかし慢性的貿易赤字に加え、経済成長を優先してきた結果、アジアでも最高レベルのインフレに悩まされるようになった。これに加え、2007年後半からの原油価格高騰が直撃。2008年2月に石油製品の統制価格が引き上げられた結果、2007年と2008年の消費者物価は、それぞれ前年比で、8.3%および24.4%の上昇となった。さらに2009年の5月と6月の消費者物価は、それぞれ前月比で、0.44%および0.55%の上昇を示している。こういった状況から、ベトナム政府は2009年6月に2009年の経済成長目標を6.5%から5%に下方修正したが、金利引き上げの影響もあり、景気後退と物価上昇が同時進行する悪循環が懸念されている2
ベトナムのエネルギー資源賦存量と需給状況は、以下のとおりであり、2015年頃にはエネルギー輸入国になると予測される3

図表1:ベトナムのエネルギー資源賦存量と需給状況
  資源賦存量 需給量(2005年)
単位:万石油換算トン(TOE)
確認埋蔵量 可能埋蔵量 供給量 消費量
石炭 38.8億トン 370億トン 925.6  613.2
石油 6.15〜9.57億トン 23億トン 1,275.3 1,155.3
ガス 6千億m3 1兆3千億m3 510.9 80.9
水力 600〜800億kWh その他エネルギー
1,634.7
1,870.0 電力 392.2
再生エネルギー
+ウラン
未確認 1,477.8
総計 4,346.5 3,719.5 工業 1,311.9
輸送 681.4
1,726.2

 ベトナムでは、発電設備の8割近くをベトナム電力グループ(EVN)4が保有しており、残りを独立系発電事業者(IPP)に依存している。水力とガス火力が主体で、水力への依存割合から、乾季には電力の供給が不安定になるため、石油火力にも重点を移す方向にある。

図表2:ベトナムの電源別の設備容量と発電量(2006年末)5

 2007年にはベトナム全体の発電電力量が、671.21億kWh(13.9%増大)になった。このうちIPPからの購入量は193.38億kWh(55.6%増大)であった5。2008年夏には、新規発電所の建設の遅れ、発電所故障、南部地域のダムの渇水等で1日当たり200〜250万kW相当の設備容量が不足し、全国的に停電が多発した。
EVNが2009年1〜7月に国内外から購入した総電力量は、前年同期比22.8%増の156億kWh。うち中国からの買電量は22億kWh(前年同期比13.2%増)で、14%を占めている。
現在の電源開発は、2007年7月に策定された「第6次国家電力開発マスター・プラン」(2006〜2015年が対象。2025年までも視野)に基づき実施している。この電力開発マスター・プラン実施のために、副首相を委員長、商工大臣を副委員長とする国家運営委員会を設置し、適宜見直し・調整を行っている。策定時と修正予測値を比較して示す6

図表3:第6次国家電力開発マスター・プランでの電力需要量予測
策定時の予測値 現在の修正予測値
(2008年10月修正)
成長見通し 基本成長見通し 高成長見通し
2005 5,34億kWh(実績値)
2020 2,474億kWh 2,940億kWh注1) 3,342億kWh 4,300億kWh〜5,180億kWh
2030 4,480億kWh 5,668億kWh注2) 6,645億kWh 8,180億kWh〜10,340億kWh


注1)対応する設備容量は下記の6,061万kW
2020年の発電容量6,061万kWの構成
注2)対応する設備容量は下記の10,660万kW
2030年の発電容量1億660万kWの構成

 農村電化率は、2010年に95%、2015年に100%の達成をめざしている。電力供給の不足分は、ラオス、カンボジア、中国やIPPからの購入、また建設期間の短いディーゼル発電所の新設で対処している。地域連携では、ベトナムは2007年12月に、「東南アジア諸国連合(ASEAN)電力網と電力相互連携に関する覚書」を署名・批准した。
発電所の増設では、EVNとIPPで2006〜2010年の間に44のプロジェクトの実施が必要で、その投資額は160億ドルに上る5。EVNはこの期間中22のプロジェクト(総発電容量2,600万kW)を担当する5ことになっていたが、2008年9月上旬にはEVNが、政府から指示されていた発電所建設プロジェクト13件について、地場銀行の融資引き締めにより資金調達ができなくなったことを理由に、中止を発表している。

<注記>
(1) 出典:米国CIAのThe World Factbook (2009年9月24日版)
(2) 出典: 上記(1)ならびに2009年6月21日の日本経済新聞等の報道
(3) 出典: 2008年4月3日の海外電力調査会・国際協力機構共催「アジア電力フォーラム:政府の役割と官民連携」でのベトナム商工省(MOIT)Vu Van Thai国際協力局副局長の発表(代読)。2009年6月9-11日のベトナム原子力委員会(VAEC:当時)のHoang Anh Tuanの「The IAEA Technical Meeting on Invitation and Evaluation of BIDs for Nuclear Power Plants」発表「Status of the Nuclear Power Program in Vietnam」では、2007年の総消費電力量が584億4千万kWh、一人当たりの消費電力量が680kWh、となっている
(4) 2006年6月、147および148/2006/QD-TTgという法案の大統領承認により、従来のベトナム電力公社(Electricity of Vietnam)から、ベトナム電力グループ(Vietnam Electricity)に再編された。略称EVNは同じながら、新EVNは発電・送配電に加えて、テレコミニュケーション、電気機械装置製造、金融・銀行業務等を基幹事業とすることになり、ベトナムの6大経済集団のひとつになった。
(5) 出典:EVNの「Corporate Profile 2006-2007」
(6) 出典:期間ごとに低・基本・高と成長率を変えて検討している。策定時数値は、ベトナムのエネルギー研究所(IE)のPham Khanh Toan所長の2006年10月11日来日時持参資料「Perspective of Nuclear Power in Viet Nam PDP」。 最近の数値は「アジア原子力協力フォーラム(FNCA)」関連の第2回「アジアの原子力発電分野における協力に関する検討パネル」(2008年9月1-2日、東京)でのベトナム原子力委員会(VAEC)Le Doan Phac国際協力部長の発表。また「第16回環太平洋原子力会議」(2008年10月13-18日、青森)でのVAEC科学評議会議長Tran Huu Phat教授の発表。
2009年6月9-11日のベトナム原子力委員会(VAEC:当時)のHoang Anh Tuanの「The IAEA Technical Meeting on Invitation and Evaluation of BIDs for Nuclear Power Plants」発表「Status of the Nuclear Power Program in Vietnam」では、2006年の発電設備容量として、次の数字を上げている。
電源 発電所基数 発電設備容量(万kW) 構成比(%)
水力 13 446.0 36.5
石炭 3 154.5 12.6
ガス&石油 7 339.9 27.8
ディーゼル 正確な基数は不明 24.5 2.1
IPP 8 257.2 21.0
総合計 31 1,222.1 100

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 U.原子力発電導入計画

1.プレ・フィジビリティ・スタディ(プレFS)の実施までの経緯と主要結論

  1990年代後半に原子力発電関連の3つの予備的な調査がなされた。
a.国家プロジェクトKHCN-09-04「ベトナムへの原子力発電導入の科学的、経済的、社会的基盤の決定」:1996〜1998年、ベトナム原子力委員会(VAEC)が実施
b. 国家研究開発プロジェクト「ベトナムへの原子力発電導入のための総合的研究」:
1996〜1998年、工業省(MOI)7、傘下のベトナム電力公社(EVN)8、エネルギー研究所(IE)、また計画投資省(MPI)が協力して実施
c.国際原子力機関(IAEA)支援プロジェクトVIE/0/009「ベトナムでの原子力発電導入予備的可能性調査」:1997〜1998年、科学技術省(MOST)、VAECとIAEAが共同調査
ベトナムでは、プロジェクトの規模等によりフィジビリティ・スタディ (FS)やその前段階のプレFSの実施が規定されていることから、これらの結果に基づき2001年、政府はプレFS実施を決定した。また、政府は2002年3月、原子力発電運営委員会を設置した(委員長は工業大臣。MOST、MPI、財務省、法務省、EVN、IE、VAEC等の代表17名で構成、IEが事務局)。
2002年8月、ベトナム側のIEが主体となり、日本プラント協会と覚書を結びプレFSを実施、日本原子力産業会議9が支援し、2003年11月に以下の報告書ドラフトが完成した。
実施項目
@原子力安全技術・法規制、A国際協力・協定、B人材養成計画・国産化・技術移転、CPA、D原子力発電技術概要、E核燃料取扱・放射性廃棄物処理、F原子力発電計画・必要性、Gサイト選定、H環境影響評価、I建設計画・管理、J運転・保守、K経済性
プレFSの主要結論
a.2017〜2020年の間に200〜400万kW(100万kW級×2〜4基)の運転開始が望ましい
b.加圧水型軽水炉(PWR)、沸騰水型軽水炉(BWR)、カナダ型重水炉(CANDU)の比較の結果、PWRかBWRが適当(炉型選定はFSでの実施を勧告)
c.発電所サイトとしては、中南部沿岸の3ヵ所が有力候補地。

図表4:ベトナムの原子力発電所立地候補サイト

 その後プレFSは、政府内で各種の検討・修正・調整を慎重に行い、2007年5月に首相が基本的に承認、2008年2月に共産党政治局も基本的に承認した。
* 現在プレFS報告書は、公式には「投資報告書」あるいは「投資計画書」、FSは、「投資検討プロジェクト」と呼称されている。
後にも再度触れるが、2008年9月に首相決定で、「原子力発電国家評価委員会」を設置し、プレFSの審議を進めた結果、2009年8月21日の「首相報告会」の結果、プレFSを微修正し、政府から秋の国会に提出することが決定した。

2.原子力発電導入:現在の目標は「2020年に100万kW級×2基、2021年に同2基の運開」

1) 2006年1月3日:「2020年までの原子力平和利用の長期戦略」を首相が承認
MOSTの原案を承認したもので、ベトナムの社会・経済開発に果たす原子力発電導入の意義とそのための基本方針を、以下のように規定した。
@ 電力需要と供給力のバランスを考えると、2020年までに原子力発電プラント200〜400万kW(発電設備全体の5〜9%)を建設する必要がある。
A 当面の重要課題は、人材養成、法整備である。
B 初号機は安全性と経済性のある実用化技術を海外よりターンキーで導入するが、長期的には原子力発電技術と核燃料の国産化を考える(ベトナムのウラン推定埋蔵量は21万8千トン)。
C 原子力開発は関連する科学や産業技術の発展にも寄与し、国全体の工業化、近代化をもたらす。
2010年、2015年、2020年までの政策目標、原子力平和利用で国際社会の信頼を得ることの重要性、関係機関(含各県人民委員会、政府管轄都市)の役割も明記した。

*2007年7月23日、この「戦略」に基づく「原子力発電長期戦略の実施のためのマスター・プラン」を首相が承認。原子力開発上の課題克服への基本方針を明示、23の戦略上の重要プロジェクト(原子力発電関係10、放射線利用関係5、原子力分野の科学技術開発関係3、放射線防護・原子力安全確保関係2、組織・管理システム関係3)について関係省庁に対応指示を出した。

2) 2007年5月:首相が「プレFS」報告書を基本的に承認

3) 2007年7月18日:「第6次国家電力開発マスター・プラン」を首相が承認
この中で、「原子力発電長期計画の策定と原子力発電初号機の建設実施」を指示した。

4) 2007年8月:政府省庁再編
原子力発電導入を主管する工業省(MOI)が商業省(MOC)と統合され商工省(MOIT)となった。

5) 2007年9月5日:EVN内に「原子力発電・再生エネルギー計画先行投資委員会(NRPB)」を設置
英文名称はNuclear Power and Renewable Energy Projects Pre-Investment Board。原子力発電導入に向け、先行投資、国内および海外の機関との協力・調整等の準備を統括する専門部署として、EVN理事会の決定により新設。

6)2007年12月27日:
「2020年までの国家エネルギー開発戦略:2050年までのビジョン」を首相が承認。

2050年までに原子力発電で、総発電電力量の15-20%を賄う計画。

7) 2008年2月:共産党政治局が「プレFS」報告書を基本的に承認

8) 2008年4月: 2020年時点での原子力発電を100万kW×4基に増設するとの政府決定
従来の計画を前倒しして、2020年にニン・トゥアン省のフォック・ディンとビン・ハイの2ヵ所に各100万kW×2基、合計4基400万kWの原発を運開することを決定した。
@ プロジェクト名称を、「ニン・トゥアン原子力発電所」とする10)(11
・ フォック・ディン(2基)を、第一発電所とし、2020年の運開をめざす。
・ ビン・ハイ(2基)を、第二発電所とし、2021年の運開をめざす。
A これらの2サイトにさらに後続機を2基ずつ建設し、2025年までに100万kW級×11基を運開する。
また、初号機および2号機の事業主体をEVNと決定した。

9) 2008年6月3日:第12期第3回国会で原子力法案を採択(発効は2009年1月1日)
原子力発電推進の法的枠組が整った。11章93条で構成。原子力法実施規定細則はMOSTが、原子力発電所規定はMOITが、それぞれ2008年12月末までに策定し、政府に提出。

10) 2008年7月23日:ズン首相がフォック・ディンのサイトを視察

11) 2008年9月3日:首相決定で、「原子力発電国家評価委員会」を新設
計画投資省(MPI)に設置。英文名称は、National Appraisal Committee for Construction of Nuclear Power Plant。委員長は計画投資大臣、副委員長は3省(計画投資、商工、科学技術)の副大臣、委員は全省庁副大臣、国立銀行副総裁、ニン・トゥアン省副知事で、委員長まで含めると22名で構成。原子力発電所導入間連重要事項を審議し、首相や国会に報告する。予定よりかなり遅れての設置で、原子力関係者がほとんど入っていない。必要に応じて内外のコンサルタント会社や専門家の助言を得る。

12) 2008年9月3日:首相決定で、「原子力発電国家評価委員会」を新設
「原子力発電国家評価委員会」は、2009年7月20日にプレFSの審議を完了し、8月21日にその結果を「首相報告会」の形で検討した結果、プレFSを微修正し、政府から国会に提出することを決定した。
*国会では、まず「科学技術環境委員会」(委員長:Dang Vu Minh)、次に「常務委員会」、最後に10月の「本会議」に上程される。

13) 今後の予定
・国会でプレFSが承認されると、FS(投資検討プロジェクト)を開始する段取りが整う
・FSを2009年ころから開始し、とりまとめられたものを首相承認(閣議決定)する。
・2013〜2014年ころのプラント入札招請、2015年までの着工をめざす。


<注記>
(7) 現在の商工省(MOIT)。2007年8月の政府省庁再編で改組
(8) 現在のベトナム電力グループ(EVN)。2007年8月の政府省庁再編で改組
(9) 現在の日本原子力産業協会
(10) 出典:2008年6月24日、日本原子力研究開発機構(JAEA)と東京大学G-COE共催の「原子力平和利用と核不拡散に関わる国際フォーラム:アジア地域の原子力平和利用の推進と核不拡散の両立に向けて」でのVAECのLe Van Hong副委員長の発表
(11) 出典:「第16回環太平洋原子力会議」(2008年10月13-18日、青森)でのVAEC科学評議会議長Tran Huu Phat教授の発表

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 V.国際協力

ベトナムは、原子力開発では、国際原子力機関(IAEA)と日本・フランス・韓国・インド、また古くからの友好国であるロシアの力を借りている。
最近では2009年7月25日、ハノイを訪問したロシアのS.ラブロフ外相がベトナムのP.G.キエム副首相兼外相と会談し、原子力協力覚書(ロシア側はROSATOM、ベトナム側は科学技術省)に調印した。

1) 韓国
@韓越首脳会談 (2005年4月、ハノイで韓国首相とベトナム共産党書記長)
このとき原子力発電開発協力覚書を締結。以来、韓国側は、科学技術部(MOST)、産業資源部(MOCIE)等、国を挙げての協力を行っている。窓口は、韓国水力・原子力発電(株)(KHNP)で、以下の協力を推進している。
・人材養成:無償協力で2005〜2007年に百数十人・月の研修員と行政官を受入れた。
・ベトナムの複数の大学に韓国科学技術院(KAIST)が教授派遣等で協力している。
A 2006年1月:韓国副首相が訪越。原子力協力にも言及。
B 2006年10月:原子力協力10周年記念セミナーをハノイで開催。
C 2006年11月:APEC首脳会議に合わせて、次のアプローチを行った。
−エネルギー・セミナーを開催。両国大臣が出席。原子力協力も提案。
−EVNと韓国電力(株)(KEPCO)で電力包括協力覚書を締結。
−MOIと韓国産業資源部(MOCIE)で原子力機器国産化協力覚書の協議
(すでに検討作業が進展している)
D 2007年1月26日:韓国副首相(兼MOST大臣)が第4回韓越科学技術共同委員会で訪越。2006年11月の合意の促進を協議、また放射線医学研究センター設立(ベトナムの108中央軍事病院内)で合意。
*韓国原子力医学院(KIRAMS。2005年6月にハノイの国立103病院へCo-60放射線治療装置を寄贈)が協力。

2) フランス
@原子力発電協力覚書(2004年5月、ハノイでフランス経済財務産業省とMOIが締結)
・フランス原子力庁(CEA)、電力庁(EDF)、AREVA社、原子力科学技術大学 (ISTN)、原子力・放射線安全研究所 (IRSN)等、これも国を挙げての協力。
・中国での原子力発電所建設・運転での協力実績をアピール。フランスでの受入研修による包括的人材養成を提案(エンジニアとプロジェクト・マネージャーを各数十名、管理委員会要員や運転・補修員を各百数十名)。
A ハノイでの繰り返してのセミナー開催(フランス大使館の強力な支援)
・原子力法セミナー:2005年6月28日〜29日、2007年7月12日
・仏の原子力技術セミナー:2005年10月17日〜18日
−輸出と技術移転の実績を強調
−期間中にIRSNがVAECと覚書を締結(原子炉管理者養成支援等)
・原子力発電技術セミナー:2007年7月10日
B ベトナム政府要人やEVN幹部をフランスに招待
C 2008年5月のサイト候補地でのPAセミナー(PAを中心とした協力を推進中)
D2009年7月1日、CEA、EDF、AREVA他で、原子力関係のセミナーを開催
E2009年7月20日、仏EDFとベトナムEVNが原子力発電関連の人材育成での協力を行うMOUを締結
Fまた、長期的観点から仏越の協力で、ハノイ工科大学等の国立大学に原子力関係学部を設置する方向での検討も進められている。

3) 日本
2003年11月のプレFS報告書でも、また2006年1月に首相が承認した「2020年までの原子力平和利用の長期戦略」でも、人材育成の重要性が繰り返し指摘されている。この観点から、日本は以下のように、人材育成に重点を置いた継続的な協力をしている。
@日本原子力産業協会の協力活動
2005年5月、原子力委員会、関係省庁の了承の下に、日本原子力産業会議9を民間の窓口とする以下の人材養成協力を、日越協力連絡委員会の枠組で開始。
−原子力発電研修コースの実施:
政府行政官、EVN技術者、その他関係者等(2005〜2007年度で百数十人・月受入)
−専門家の派遣:人材育成セミナー開催や人材育成計画策定等で継続的に支援
*原子力発電全般のアドバイスのため、電力OBをVAECに長期派遣した。
−政府・党要人の招聘(原子力施設訪問・関係者との意見交換)
−原子力展示会への出展協力:
ハノイ:2001年、2004年、2006年、2008年
フーエン省とニン・トゥアン省:2002年
ニン・トゥアン省:2008年
ホーチミン市:2003年
併せての代表団の派遣。2007年10月の第1回「EnergyExpo 2007」へも電力・メーカー代表団を派遣。
地域共生や、政府・党指導者、地域住民等への原子力発電理解促進のための協力も重視している。
A 経済産業省
a. 2006年5月、ハノイの国際原子力展示会に官民合同代表団(団長:片山さつき経済産業大臣政務官、団員19名)を派遣。政府要人との会談時に、原子力発電人材養成ロードマップへの日本の経験を反映するよう協力の要請があった。
b. 2006年8月末、ハノイで、人材養成ワークショップをVAEC、IE、JETRO、原産協会が共催した。その折、日本側代表団がベトナム側関係省庁を訪問、上記要請に基づくロードマップ改訂のための資料を手渡した12
c. 2006年10月、グエン・タン・ズン首相が安倍内閣最初の賓客として来日。共同声明で、原子力協力の推進と将来の日越原子力協力協定締結の可能性にも言及。
d. 2007年3月19日ハノイで、二階経済産業大臣とハイ工業大臣が提唱した、両国首相の合意に基づく「日越エネルギー・フォーラム」を、省エネルギー、石炭利用、原子力発電をテーマに開催。日本からは山本幸三経済産業省副大臣を団長とする代表団を派遣。
e. 2008年5月、「第3回ハノイ国際原子力発電展示会」の期間中のハノイで、前項に基づき、経済産業省の中野正志副大臣と商工省のド・ヒュー・ハオ副大臣が、日越政府間で初の「原子力協力文書(MOC)」に署名した。
・スコープ:
原子力発電開発の準備・計画・推進、人材育成、原子力安全規制、広報活動、その他両者の合意する分野での支援
・日本側機関13
(窓口)経済産業省資源エネルギー庁原子力政策課
(実施機関)原子力安全・保安院、日本貿易振興機構、原子力安全基盤機構
(関連機関)日本原子力産業協会、海外電力調査会
B 電力業界の協力
2007年1月26日、ベトナムのFSに協力するため、日本原電を日本側の対応主体として臨む方針を電気事業連合会が決定した。
日本は、2009年6月18日に官民を上げての「国際原子力協力協議会」*を設立し、ベトナムも重要な協力対象国に位置づけて、各種協力を展開しているが、ここではその詳細は割愛する。
*参加機関は、海外電力調査会、核物質管理センター、原子力安全基盤機構、原子力国際協力センター、国際協力機構、電気事業連合会、日本原子力学会、日本原子力技術協会、日本原子力研究開発機構、日本原子力産業協会、日本電機工業会、日本貿易振興機構、経済産業省(資源エネルギー庁、原子力安全・保安院)、内閣府、外務省、文部科学省


<注記>
12) 2006年12月、MOIの人材育成計画案を首相が承認し、原子力発電導入計画が動き出した。
13) これまで、これらの機関はベトナムに対し以下のような協力事業を実施している。
・日本貿易振興機構:日本の民間機関と協力してベトナムとの原子力協力を調整(受入・派遣等。2006年度より)
・海外電力調査会:2002〜2006年度のベトナム向け協力では、「原子力安全規制」と「原子力発電に関する法体系」をテーマに、研修生受入と現地でセミナーを開催。
・原子力安全基盤機構:2006年度から海外電力調査会と協力し、アジア諸国を対象とする原子力発電安全関連研修を強化・拡充。

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 W.原子力関係法規の整備

 原子力法は2008年6月3日に国会で可決、原子力発電推進の法的根拠が整備された。
規制関係では、@1994年、規制機関としてベトナム放射線防護・原子力安全機構(VRPA)をMOST下に設置、A2004年にベトナム放射線・原子力安全管理機構(VARANSAC : Vietnam Agency for Radiation and Nuclear Safety and Control)に改組、B2007年11月に核不拡散・保障措置関連業務をVAECから移管、C2008年11月、再度保障措置業務を他に移管して、ベトナム放射線・原子力安全機構(VARANS :Vietnam Agency for Radiation and Nuclear Safety)に改組した。VARANSでは、2010年のサイト選考関連技術基準を準備中である。

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 X. ベトナムの原子力研究開発体制

図表5:ベトナムの原子力研究開発体制図

図5

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 Y.原子力研究開発の歴史

図表6:ベトナムの原子力研究開発間連年表
時期 事項
1957年9月24日 南ベトナム、IAEAに加盟
1959年 南ベトナムと米国、原子力協力協定調印
1963年 ダラットに初の研究炉(型式:TRIGA、熱出力:100kW)臨界
1965年10月25日 米・南ベトナム核物質移動保障措置協定発効
1970年3月30日 南ベトナム、NPT条約加盟(ベトナム社会主義共和国としての加盟は1982年6月14日)
1972年6月12日 南ベトナム、IAEAのアジア原子力地域協力協定(RCA)に加盟
1975年4月30日 サイゴン陥落(南ベトナムを当事者とする国際条約や協定は失効。IAEA加盟も失効)
1976年7月2日 IAEAにベトナム社会主義共和国として加盟
2007年8月 ベトナム科学技術省(MOST)と米国エネルギー省(DOE)が原子力平和利用における情報交換・協力取極に調印
2007年9月 IAEA、米国、ロシアとの合意に基づき、ダラット炉の35WWR-M2と呼ばれる濃縮度36%の高濃縮燃料をロシアTVEL社製の19.7%燃料に交換



ダラット原子力研究所(NRI)の研究炉棟


図表7:ベトナムの研究炉の概要
名称 仕様・利用状況
ダラット研究炉
VN-0001
型 式 プール型V
炉出力 500kW〔φth(max)=2.1 E13〕
燃 料 濃縮度36%、AL被覆 → 2007年、ロシアTVEL社製の19.7%燃料に交換
反射体 Be、黒鉛
利用設備 水平チャンネル 4、垂直チャンネル 3、炉心照射孔 1、反射領照射孔1
基礎研究 炉物理、核物理、放射化学
RI製造 Tc-99m、P-32、Cr-51、I-131
ダラットに所在。1963年初臨界(50kW のTRIGA炉)、1984年VVR-M2燃料装荷

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 Z.国際枠組への加入状況

図表8:ベトナムの加入している原子力関係国際条約
条約等名称 批准時期
原子力安全条約14 未加盟
使用済燃料安全管理・放射性廃棄物安全管理合同条約14 未加盟
原子力事故早期通報条約14 発効1987.10.30
原子力事故または放射線緊急事態における援助条約14 発効1987.10.30
原子力損害賠償諸条約 ウィーン条約14 未加盟
ウィーン条約改正議定書14
ウィーン条約とパリ条約の適用に関する共同議定書14
原子力損害の補完的補償条約14
核不拡散条約(NPT)15 加盟1982.06.14
IAEA保障措置協定(*INFCIRC376)14 発効1990.02.23
IAEA追加議定書14 署名2007.08.10
包括的核実験禁止条約(CTBT)16 2006.03.10
核物質防護条約14 未加盟
核物質防護条約改定条約14


<注記>
(14) 出典:IAEAのFactsheets: Country List、Safeguards Current Status、Safegurads and Verification、また米国国務省のNPT加盟国一覧表
(15) 出典:米国国務省「NPT署名・加盟国リスト」
(16) 出典:外務省のホームページの「軍縮・不拡散」

以上

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