[諸外国における原子力発電開発の動向]
主なできごと (2000年5月中旬〜6月中旬)

ドイツ:SPD/緑の党連邦政府と4電力が原子力発電所の発電量設定で合意

―緑の党が大幅譲歩

連邦政府とRWE、VEBA、VIAG、EnBWの4大電力首脳は6月14日、今後の原子力発電所の発電電力量を一定量に設定することなどで合意した。具体的には、原子力発電所の運転期間を送電開始から32年とした上で、これまでの運転実績をベースに2000年以降の発電電力量を19基合わせて約2兆6,000億kWhと定めた。今後は、発電所ごとに発電量を割り当てた後、規定の発電量に達した時点で順次、閉鎖される。発電量の割り当ては、運転効率が低いものから高いもの、古い小型のものから新しい大型のものに対する譲渡が一般的だが、その逆も官民のメンバーからなる作業部会と当事者の了解により可能となる。訴訟により休止中のミュルハイムケールリッヒ(PWR、130万2000kW)については、同機を所有するRWE社に対して即時閉鎖と州政府への訴訟取り下げを条件に1,072億5,000万kWh(約12〜13年分)が割り当てられた。合意に基づくと、1968年に送電を開始したオブリッヒハイム(PWR、35万7000kW)は2000年末に閉鎖されることになるが、同機については2年間の経過期間が与えられ、閉鎖は次期総選挙(2000年秋)後の2002年末となる。その他の原子力発電所の閉鎖時期は、発電電力量の譲渡や稼働率などが関わってくるため、予測できない。

使用済み燃料輸送の再開と中間貯蔵施設の設置

輸送禁止の解除に合意したことにより、サイト内の燃料貯蔵プールにある使用済み燃料は、国内にあるアーハウス(ノルトライン・ウェストファーレン州)とゴアレーベン(ニーダーザクセン州)の両中間貯蔵所、または英仏の再処理工場に輸送されることとなる。ただ、再処理については2005年6月末までとし、それ以降は直接処分に限定される。このため、2005年7月以降の直接処分にそなえて、電力会社は今後5年以内に原子力発電所サイト近くに中間貯蔵施設を設置し、使用済み燃料の管理にあたることが合意事項として盛り込まれた。

さらに、高レベル廃棄物の最終処分場として、調査中であったゴアレーベンについては3年から10年の間、調査活動は中断。一方、低中レベル廃棄物の処分場として、許認可手続き中だったコンラット(ニーダーザクセン州)については、即時着工は行わないが、法的手続きは完了させることで合意した。新政権発足時の連立協定では、両計画を直ちに撤回する方針が表明されたが、今回の合意で、将来の着工にむけた可能性が残された。 

原子力発電所の運転継続に関する連邦政府の保証と雇用の確保

電力会社は今回の合意で、政府に対してドイツの原子力発電所と原子力施設の安全水準が国際的に見ても高いことを認めさせるとともに、今後の運転期間中にわたって連邦政府が安全基準などを一方的に変更し、運転継続を妨害しないという保証を取り付けた。これは、政府の介入により原子力産業界の活動が妨害を受けてきた経験を踏まえ、産業界が予防線を張った格好となった。原子力発電所の運転継続にあたり、電力会社は10年ごとの安全性検査を引き続き実施し、その結果を監督官庁に提出する一方、安全性に関する原子力技術分野の研究は今後とも行うことができる。

さらに両者の合意では、2000年4月時点で約10%を記録した高い失業率を踏まえ、エネルギー分野における雇用確保を重要な課題として取り組むことを明らかにしている。こうしたことから、最も古いオブリッヒハイムに対して閉鎖まで2年間の猶予期間を与えたほか、他の原子力発電所間では発電電力量の譲渡を認めるなど、電力会社にとって有利な内容となっている。

原子力法の改正と官民による作業部会の設置

今回の合意内容をふまえて、原子力法を改正することが今回の取り決めに含まれた。現行の原子力法は前コール政権が98年4月に成立させたもので、新規原子力発電所建設や既存炉の安全性向上の足かせになっていた許認可手続きを簡素化し、開発中の欧州加圧水型炉(EPR)の着工を視野に入れた内容が盛り込まれた。今回の改正では、こうした促進を目的とする部分が削除されるだけでなく、新規原子力発電所の建設を禁止する項目が加わる。ドイツにおける原子力発電所の建設は、89年に営業運転を開始したネッカー2号機を最後に10年以上、途絶えている。原子力発電所の新規建設は、社会的、政治的に合意形成が難しいこと、景気の低迷に伴い電力需要が伸び悩み新規電源の必要がないこと、電力市場の自由化が加速し電力会社の目がリードタイムの短い発電所に向いていることなど、原子力法の改正を待つまでもなく難しい状況にあった。

今後は連邦政府が作成した草案を基に、当事者間で協議を行った上で内閣に送られ、連邦議会(下院)・連邦参議院(上院)での承認を経て成立する見通し。なお、州政府の代表からなる参議院の議決は、法律が州政府の利益や権限に関わる場合に必要とされる。今回の法改正がこのケースに該当するかはっきりしていないが、上院の議席は現在、連立野党のCDUが過半数を占めていることから、場合によっては法改正が難航することも予想される。

また、この取り決めの実施作業を支援するため、連邦政府と産業界それぞれ3名の代表者からなる高級作業部会(ワーキンググループ)が設置される。同部会は必要に応じて外部有識者も加わり、年に1度、実施状況の評価にあたる。

注目される他電力、州の反応

今回、合意が成立した背景には、新政権の発足後18カ月が経過しても脱原子力政策が実行できないことで焦りをみせた連邦政府と、次回総選挙をにらみ当面の運転について政府の言質を必要とした電力会社との間で妥協が成立したとの見方がでている。長引く話し合いに痺れを切らしたシュレーダー首相は今年4月、議会の夏季休暇までに合意に至らない場合は、脱原子力法を制定して電力会社に原子力発電所の閉鎖を迫る方針を表明していた。一時は性急な脱原子力政策を主張するあまり、連立政権内で孤立化したトリッティン環境大臣(緑の党)も、地方選挙での得票率の低迷に伴い徐々に現実な歩み寄りをはかり、今回の大幅な譲歩に至った。合意成立後の6月23、24の両日にわたって開催された緑の党大会では、電力会社側に有利とも言える合意内容をめぐり党内分裂や連立離脱が予想されたものの、結局、約3分の2の賛成多数で取り決めが承認された。

一方、産業界にとって頼みの綱だった原子力推進派のキリスト教民主同盟(CDU)が、昨年末に発覚した献金スキャンダルによって、それまでの求心力を失ったことも、今回の合意に至った要因のひとつとみられている。同党は今年に入って2つの州議会選挙に敗北、同じく原子力推進派である自由民主党が躍進した5月のノルトライン・ウェストファーレン州選挙でも、SPDと緑の党の連立の牙城を崩すには至らなかった。こうした中、電力会社は原子力発電所の運転継続にあたって最大のネックとなっていた使用済み燃料輸送の道筋をつけた上で、とりあえず総選挙までの運転継続を確保する道を選んだ。

今回の合意はあくまで連邦政府と4大電力との間で成立したものであり、協議に出席しなかった他電力や各州与党の反応が注目される。原子力発電所の設備容量で見ると、今回の協議に参加した4社に、RWE社との合併が決まっているVEW社を加えた5社が全体の73%を占め、残りの27%をハンブルク電力ほか、ドイツ鉄道や各地方の中小電力会社が占めている。また、電力会社はこれまで政府に対して強く求めていた閉鎖に伴う損害賠償を今回の取り決めでは放棄しており、各社の株主がこれを了承するかも不明である。さらに、主な許認可権限を握っている州政府が、連邦政府主導で定めた今回の取り決めをどの程度、遵守するか疑問視する見方もある。

ドイツの電力会社別の原子力発電設備容量
日本原子力産業会議調べ
単位グロス

会社名設備容量(万kW)
E .ON (VEBA/VIAG)社781.435%
ドイツRWE/VEW社573.426%
バーデン・ビュルテンベルク (EnBW)277.112%
ハンブルク電力(HEW)170.78%
ネッカーベルク・シュツットガルト (NWS)162.97%
イザール・アンペールベルク(IAW)81.74%
その他 (ドイツ鉄道他)173.48%

良好な実績を維持

ドイツの電源別発電電力量の構成は、原子力34%、石炭25%、褐炭26%、天然ガス7%、水力4.5%、石油1%、その他1.5%(1999年)と、国内炭への依存が高く、コストや安定供給、地球温暖化の観点からエネルギーの多様化が重大な課題となっている。このうち、再生可能エネルギーは水力、風力、太陽光、バイオマス等を合わせて約6%にのぼり、近年、急速に伸びている。連邦政府は今年4月、再生可能エネルギー買い取り法を改正し、電力会社に対して固定価格による買い取り義務を課すなど、2010年までに再生可能エネルギーを倍増させることを目標に促進策を講じている。

ドイツの原子力発電は1961年にカール実験炉(BWR、1万6000kW)が送電を開始して以来、99年末までに2兆8,000億kWhを供給した。これは、今回の合意で規定された今後の発電枠とほぼ同じ量である。原子力発電所の運転実績は1997年に1,704億kWhを供給し過去最高を記録したのをはじめ、98年には1,617億kWh、99年には1,697億kWhと良好な実績を維持している。また、原子力発電所の発電単価はkWhあたり3.8ペニヒ(約2円)であるのに対して、新設の天然ガスや石炭は6ペニヒ(約3.2円)前後と原子力発電の経済性も実証されている。原子力は昨年1年間に1億7000万トンの二酸化炭素の排出を防ぎ、これまでに約20億トンのCO2削減に貢献した計算になる。

ドイツの原子力政策が現在のように政治問題と化したのは、SPDが86年の党大会で原子力発電所の10年以内の段階的閉鎖を綱領に盛り込んだのが発端。70年代後半以降、東西冷戦の高まりに伴い市民レベルの原子力反対運動が激しくなり、86年に起こったチェルノブイリ事故をきっかけに反対運動は一気に加速した。その後は、州政府の政権に就いたSPDや緑の党が強力な許認可権限を行使して、原子力開発を妨害するケースが多発した。今回の合意で正式な閉鎖となるミュルハイム・ケールリッヒ発電所は、炉心の位置が当初の設計より無断で移動されたとして、過去に発給された許認可の有効性をめぐって州政府とRWEが対立し、数カ月間運転されただけで長期休止を余儀なくされた。ヘッセン州のビブリスA、B発電所でも、州政府の要求に応じて改良(バックフィット)工事を実施しようとするRWE社に対し、同じ州政府が工事の許可を下さないといった矛盾した行動がとられた。

こうした原子力やエネルギーをめぐる対立を打開するため、超党間によるコンセンサス協議が95年から、実施されてきた。CDUとSPDが中心となって国内炭や原子力などのエネルギー政策について議論されたが、いずれも最終的な合意には達しなかった。今回の取り決めにあたり、電力4社は原子力を含めたエネルギー全般にわたる包括的なコンセンサス形成の必要性を強調している。


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