[諸外国における原子力発電開発の動向]
最近の動き (2000年5月中旬〜6月中旬)

[インド]

ラジャスタン3号機、営業運転開始

ラジャスタン3号機(PHWR=加圧型重水炉、22万kW)は6月1日、原子力規制当局から全出力運転の認可を受け、インドで12番目の原子力発電所として営業運転を開始した。同機は99年12月24日に初臨界に達し、今年3月10日に送電を開始、全出力での試運転を行っていた。同機の運転開始により、インド国内の原子力発電設備容量は228万kWとなった。

ラジャスタン3号機は、3月5日に営業運転を開始したカイガ2号機と同じく、原子炉格納容器が二重構造となっており、2つの緊急用停止システムおよび改良した非常用炉心冷却システムが備えられている。なお、同4号機は3号機より2年ほど遅れて送電開始の予定。


[パキスタン]

チャシュマ原子力発電所、送電開始

パキスタンで2番目の原子力発電所となるチャシュマ発電所(PWR、32万5000kW)が6月13日、送電網に接続した。同発電所は99年11月25日に燃料の初装荷、今年5月3日に初臨界に達していた。

同発電所の建設は、パキスタン原子力委員会(PAEC)が当時の中国核工業総公司(99年7月に中国核工業集団公司に改組、略称は従来通りCNNC)との間で92年2月に交わした原子炉供給協定に基づき、93年8月に着工。当初の計画では98年11月に送電を開始、99年4月に営業運転開始の予定だったが、同発電所の基準炉となった中国の秦山第T期1号機(PWR、30万kW)で98年、炉心計装部の損傷を引き起こした振動問題が発生したため、PAEC委員長が兼務しているパキスタン原子力規制委員会(PNRB)はCNNCに対して同様な問題がチャシュマ発電所で発生しないよう求めた。PNRBは2000年1月、CNNCが設計変更をしたことを受け、同発電所の試運転認可を発給した。


[オーストラリア]

HIFAR研究炉の建設、アルゼンチンのインバップ社が落札

オーストラリア原子力科学技術機構(ANSTO)は6月6日、シドニー郊外ルーカスハイツにある老朽化したHIFAR炉の後継となる新しい研究炉の入札で、アルゼンチンのインバップ社が2億8000万豪州ドルで落札したことを発表した。入札には、ドイツのシーメンス社、カナダ原子力公社(AECL)などが参加していた。

インバップ社はアルゼンチンの国営企業で、過去20年間に国内で2基、ペルーで1基、アルジェリアで1基、エジプトで1基−−の計5基の研究炉建設を請け負っており、全ての炉が国際原子力機関(IAEA)の保障措置協定に従っている。

また今回の建設プロジェクトでは、オーストラリアの2つ企業のジョンホーランド建設&エンジニアリング社とエバンスディーキン・インダストリーズ社がインバップ社と提携する形で参加している。


[米 国]

2000年度NERIプログラム、10件を選定

米エネルギー省(DOE)は5月23日、NERI(原子力研究イニシアチブ)プログラムのもとで行う2000会計年度(1999年10月〜2000年9月)の新規研究テーマを10件選定した。提案のあった126件から選んだもので、ほとんどが共同研究の形をとっている。フランス、日本(核燃料サイクル開発機構)、イタリア、イスラエル、ロシアの研究機関も含む、全部で18の機関が参加している。2000会計年度では2250万ドルが計上されているが、このうち新規分は250万ドルで、残りの2000万ドルは1999会計年度にスタートした46件の研究プロジェクトに充てられる。

選定された研究テーマと参加機関は以下の通り。

研究テーマ参加機関 (*が幹事機関)
受動的安全性を備えた費用効果の高い大型改良型PWRの調査ウェスチングハウス・エレクトリック・カンパニー*
工場で製造できる、コンパクトで輸送可能な第4世代原子炉システムの設計・レイアウトテネシー大学*、MIT、オークリッジ国立研究所、ウェスチンガハウス・エレクトリック・カンパニー、TVA、物理・発電工学研究所、ニューポート・ニュース・シップビルディング
原子力と水素ベースのエネルギーを統合した供給・輸送システムアルゴンヌ国立研究所*、テキサスA&M大学、ゼネラル・エレクトリック社、ENEA(イタリア)、核燃料サイクル開発機構(日本)
流体による蒸気発生器と熱交換器の振動に関する設計基準の作成カリフォルニア大学*
モジュール方式ペブルベッド原子炉のオンライン燃焼度モニタリング改良プロトタイプシステムの設計と建設シンシナティ大学*、MIT
高温ガス炉システム向けのバランスオブプラント(BOP)システム解析とタービン機器のコンポーネント設計MIT*、ノザン・エンジニアリング&リサーチ
長寿命炉心向けの炉内出力降下と燃料温度モニターオハイオ州立大学*、アクロン大学、ウェスチングハウス・エレクトリック・カンパニー
次世代原子力発電所の主要機器の早期破損警告オークリッジ国立研究所*、デュークエンジニアリング&サービス
核拡散抵抗性の強化と廃棄物減量に向けて、PWRでトリウムを利用するための非均質体系の最適化ブルックヘブン国立研究所*、MIT、ベングリオン大学(イスラエル)、カダラッシュ研究所(フランス)、ロシアクルチャトフ研究所
異性体研究:エネルギー放出、確認、生産、利用ローレンスリバモア国立研究所*、ロスアラモス国立研究所

ポーツマス濃縮工場、2001年6月で操業中止へ

世界最大のウラン濃縮業者である米国のUSEC社は6月21日、オハイオ州のポーツマス濃縮工場(設備容量7400トンSWU)の操業を2001年6月に中止すると発表した。世界的な濃縮需要の低迷を受けたもので、ケンタッキー州パデューカ工場(設備容量11300トンSWU)に事業を集約する。同社は、ポーツマス工場の操業中止によって設備利用率は現在の25%から50%程度に上がるとみている。なお、パデューカ工場で2.75%に濃縮したあと、ポーツマス工場でさらに濃縮度を4〜5%に高めるという方式を採用しているため、パデューカ工場の改修が終了する来年6月まで両工場の操業を続ける。また、ポーツマスにある、製品濃縮ウランを容器に入れ燃料加工業者に輸送するための作業を行う施設については、パデューカ工場に同様の施設が完成するまで、4〜5年程度操業を続ける。

USEC社は1998年7月28日に完全民営化され、それまで政府(DOE)が行っていた濃縮事業を引き継いだ。2ヵ所の濃縮工場はエネルギー省(DOE)からのリースという形で、子会社の米濃縮会社(United States Enrichment Corporation)が操業している。USEC社は、来年6月にポーツマス工場での操業を中止したあと、一部の施設を除き、2002年6月に同工場をDOEに戻すことを予定している。これにともない、両工場で雇用している3700人のうちかなりの人数を段階的に解雇する。USEC社のCEO(最高経営責任者)であるW・ティンバース氏は、解雇される従業員を政府が雇用することを希望している。これに対し、リチャードソンDOE長官は、ウォール街での同社の短期的な評価を高めようとする近視眼的な決定であると非難するとともに、国家安全保障にも悪影響を与えるとの懸念を表明した。

パデューカ工場は1952年、ポーツマス工場は55年、軍事目的の濃縮ウランを生産することを目的として操業を開始した。69年には原子力発電所向けの濃縮ウランの生産を開始。現在では、国内市場の4分の3、世界市場の3分の1に相当する濃縮ウランを供給している。当初は、政府が事業を行っていたが、1992年エネルギー政策法のもと、政府の全額出資の公社として米濃縮公社が設立された。その後、95年6月に民営化計画が大統領に提出され、98年に完全民営化されUSEC社となった。

USEC社の子会社である米濃縮会社は、93年の米露協定にしたがい、核兵器の解体にともなって発生する高濃縮ウランの処分の実施機関にも指名されている。協定によると、ロシアの核兵器解体にともなう500トンの高濃縮ウランを希釈した約1万5000トンの低濃縮ウランを20年程度かけて米国が購入することになっていたが、96年11月には予定を早めるように契約が変更され、2001年までに高濃縮ウラン150トンを希釈した低濃縮ウランを米側が購入することが決まった。米濃縮会社は、ロシア側に天然ウランを供給し、そこで希釈された低濃縮ウランの濃縮部分を購入する形をとる。購入総額は80億ドルに達するとみられている。USECとしては、こうした低濃縮ウランを市場に放出する必要に迫られたことと、世界的に濃縮設備が過剰な状況を踏まえてポーツマス工場の操業中止に踏み切った。


[米国−ロシア]

軍事用プルトニウムの処分で合意

米国のクリントン大統領とロシアのプーチン大統領は6月4日、核兵器の解体にともなって発生した軍事用プルトニウムの管理・処分について合意に達したと発表した。1998年9月、当時のエリツィン大統領とクリントン大統領との間で原則合意に達していたもので、近く正式に調印される。

それによると、米露両国とも核兵器級プルトニウムをそれぞれ34トンずつ処分することになっている。ロシア側は、プルトニウムを燃料に加工して原子力発電所で燃焼することを計画している。一方、米国側は、原子力発電所の燃料として利用するほか、ガラス固化して地層処分する2つの方法を考えている。

今後の最大の課題は費用の確保で、ロシア側は17億5000万ドル、米側は40億ドルがかかると推定されている。こうしたことから両国は、7月に沖縄で開催されるG8会合でも資金の提供を各国に働きかける意向を示している。なお、処分が完了するまでには20年程度かかるとみられている。

放射性廃棄物の地層処分共同研究に着手

米エネルギー省(DOE)は5月23日、放射性廃棄物の地層処分に焦点をあてた実施協定をロシア科学アカデミー(RAS)との間で結んだと発表した。5月中旬にロシア科学アカデミー本部で開いた「科学技術協力に関する合同調整委員会」(JCC)の第1回会合で、DOEのモニッツ次官とRASのラベロフ副総裁が署名した。

今回、締結された実施協定は、昨年10月にモスクワで開催された放射性廃棄物科学に関するDOEとRASのワークショップでの成果と勧告に基づいたもので、DOEが約90万ドルを拠出、3年間をかけて4つのテーマについて作業が行われる。具体的には、@放射性廃棄物貯蔵所としての可能性を持った米国の地質と似た岩石中でのウランの移動と蓄積状況についての調査A放射性核種の化学的・熱化学的特性、ならびに貯蔵所の性能にとって重要な移動プロセスの調査Bロシア国内の放射能汚染地域での放射性廃棄物の挙動・輸送特性の調査Cロシア国内での地層貯蔵所開設にあたっての計画作成――が実施されることになっている。

米露両国は1999年3月24日、経済・技術協力の一環として、DOEとRASの間で科学技術協力に関する了解覚書に署名しており、JCCの場で調整が行われることになっていた。


[カナダ]

新原子力安全管理法が発効、原子力安全委員会が発足

新原子力安全管理法(NSCA)が5月31日に発効したのを受け、同法のもとで現行の原子力管理委員会(AECB)を引き継ぐ組織として設置が定められていたカナダ原子力安全委員会(CNSC)の発足会合が同日開催された。会合では、CNSCの運営規則並びに新原子力安全管理法に関連した規制と許認可発給手続き等についての検討が行われた。CNSCの初代委員長には、AECB委員長のA.ビショップ氏が就任した。

NSCAは、既存の原子力管理法(AECA)が1946年の制定からすでに50年以上経過しており、規制体系として現在の要求に十分に応えられなくなったことから、それに替わる、現状に則したより明瞭な規制体系を与えるものとして97年3月20日に議会で可決された。カナダの原子力規制体制は、終戦直後にAECBが設立されて以来初めての抜本的見直しになる。新法は、既存の法的・経済的・技術的基準との調和をはかる一方で、近年の健康や安全、環境保護に対する要求の高まりを反映したものとなっている。

CNSCは、以下のような目的を掲げている。

  • 環境、公衆の健康ならびに安全に対する不当なリスクを防ぐ
  • 国家の安全保証に対する不当なリスクを防ぐ
  • 原子力平和利用に関する国際条約、義務の履行
  • 公衆の理解促進のための、委員会活動ならびに原子力産業の健康・安全・環境への影響に関する客観的な科学的・技術的・法的な情報の提供

具体的な規制対象は、原子力発電所や原子力研究施設から、診断装置、がん治療装置、ウラン鉱山の操業、様々な産業におけるRI利用など、幅広い分野に及んでいる。

新しい規制体系は、次のようなもので構成されている。

  • 国際放射線防護委員会(ICRP)の最新の勧告を基準としたより低い線量限度の導入
  • 検査官の権限の明確化
  • 原子炉施設に対する防護要件の強化
  • 核物質輸送・パッケージに対する新規制の導入
  • 改善命令を行使する権限
  • 違反行為に対する制裁の強化
  • 施設閉鎖や廃棄物処理への財政的保証を要求する能力
  • 原子力従事者、非破壊検査技師、核物質輸送作業者への放射線防護の強化
  • 放射線治療中の患者への放射線防護情報の提供を病院に義務化

特に環境保護の面では、新法では原子力施設への許認可発給に際し、カナダ環境アセスメント法で設置が定められているパネル(専門委員会)の意見を尊重し、施設の開発・建設・運転の全ての段階において他の関係機関と協力して規制にあたるなど、さらに強化されている。また、安全保障、ときに核兵器の不拡散に関しても、新法は政策の履行に対する強固な法的根拠となっており、CNSCはこれをもとに国内の原子力活動が平和利用に関するカナダの国際公約を遵守しているかどうか、より厳格な監督を行う。


[ドイツ]

ECがVEBA/VIAG合併を承認

欧州委員会(EC)は6月13日、ドイツの2大合併のひとつであるVEBA社とVIAG社の合併を承認した。これを受けて、両社は同16日、デュッセルドルフを本社とするE.ON社を設立した。同社はエネルギーをはじめ化学、通信等の分野で約20万人を従業員を抱え、724億ユーロの年間売上を見込んでいる。また、VEBAとVIAGのそれぞれの子会社であるプロイセンエレクトラとバイエルンベルクの両社も合併し、ドイツ国内では第2位、欧州市場では第4位となるE.ONエネルギー社が誕生した。同社はミュンヘンに本社を置き、電力事業のほか熱、水道、石油、天然ガスなどエネルギー分野の事業を行う。ドイツの南北にわたる電力網を握るE.ONエネルギー社は、国内にある原子力発電所のうち12基を抱える、同国1の原子力発電会社となる。

また、一方のRWE社とVEW社の合併については、ドイツ連邦カルテル庁が7月10日に正式承認を与える見通しであることが明らかになった。新会社は、国内最大で、欧州全体でみてもEDF、ENELに次いで第3位の電力会社となる。

ECとドイツ連邦カルテル庁は今年4月、国内電力の約8割を占める2件の巨大合併を市場自由化の流れに逆行するとの理由から、合併承認の条件として他社の株式放出や送電網の開放など独占体制を改善するよう求めていた。こうした指示に基づき両者は今後、旧東独の2大電力会社、VEAGとBEWAGの持ち株を売却するとともに、今後7年間にわたりVEAG社から電力を購入することが義務付けられる。旧東独の2社は東西ドイツ統合に伴い、旧西独電力会社が出資して設立されたもので、E.ON、RWE両社がそれぞれ80%(VEAG)、75%(BEWAG)の株式を所有する。

両社が放出するBEWAG、VEAG両電力の株式については、米国サザン・カンパニー社をはじめバッテンフォール社、エンデサ社など国外の大手電力会社が取得に乗り出している。

欧州の電力会社(発電電力量別)

会社名総発電量(億kWh)設備容量(万kW)
フランス電力公社(EDF)4,60010,200
イタリア電力庁(ENEL)2,2625,689
ドイツRWE/VEW社1,9493,322
E.ON(VEBA/VIAG)社1,7882,924
スウェーデン バッテンフォール社8331,656
スペイン エンデサ7402,252
ベルギー エレクトラベル7091,450
英 ブリティッシュエネルギー700960
スペイン イベルドロラ6151,691
10ドイツ EnBW5131,048

SPD、ノルトライン・ウェストファーレン州で緑の党との連立を維持

5月14日に実施されたノルトライン・ウェストファーレン州議会選挙で第1党となった社会民主党(SPD)は6月7日、これまでの緑の党との連立政権を維持することを決定した。今回の選挙では、自由民主党(FDP)が緑の党を上回る支持を得て、第3党に返り咲いたことから、SPDが緑の党との連立を解消し、FDPと連立政権を組む可能性も報じられたが、最終的には連立政権と同様の枠組みが保たれた。同州はドイツ最大の人口を抱える商工業地域、2002年秋予定の総選挙の動向を占う上で、SPDが緑の党とFDPのいずれと連立を組むかが大きく注目されていた。


[スウェーデン]

バーセベック2号機の閉鎖は「非現実的」

昨年11月に強制的に閉鎖されたバーセベック1号機に続いて2号機も閉鎖し再生可能エネルギーに依存するというスウェーデン政府の提案は「非現実的」とする調査報告書が6月7日に公表された。

これは同国政府の委託によりスウェーデンとデンマークのコンサルタント会社が作成し、ピア・レビューのため産業界、関係当局、関係党派に配布、8月5日までに意見を提出することを求められている。政府は提出された意見を踏まえ、今秋の議会で来年度予算案の一環として、バーセベック2号機の処遇を発表することになっている。

報告書は昨年閉鎖されたバーセベック1号機の損失分でさえ再生可能エネルギーでまかなうことは出来なかったと分析、「これ以上原子力発電所を失えば、化石燃料の輸入でまかなわざるをえない」と指摘している。また、2号機の閉鎖による40億kWhの電力の損失は、1号機閉鎖によるスウェーデン南部の電力不足を拡大させることになり、化石燃料と電力の輸入はもちろん、CO2の排出量も増加させると結論している。

ローセングレン貿易産業相は最近のインタビューで私見として、「バーセベック2号機の閉鎖はなさそう」としているが、脱原発派の中央党は「予算審議の際に同2号機の閉鎖を主張していく」と従来からの姿勢を崩していない。

スウェーデンは現在、バーセベック1号機の閉鎖による電力の不足分をデンマークからの石炭輸入で代替しており、スウェーデン選出のEU環境担当委員がEU各国にCO2排出量の削減を呼びかける中、スウェーデンのCO2排出量は増加している。


[ウクライナ]

クチマ大統領、チェルノブィリ発電所の2000年12月15日閉鎖を発表

ウクライナのクチマ大統領は6月5日、キエフで行われたクリントン米大統領との首脳会談後の記者会見で、チェルノブイリ原子力発電所を12月15日に閉鎖することを正式に発表した。すでにウクライナ政府は3月に同発電所の年内閉鎖を明らかにしていたが、具体的な閉鎖期日については、専門家の意見を聞いた上で決定するとしていた。

また、クリントン大統領は、クチマ大統領の決定を歓迎するとともに、他のG7諸国に対してあらゆる働きかけを行い、チェルノブイリ発電所閉鎖により生じる諸課題の解決に努力することを表明。米国としてはウクライナに対して、4号機の石棺安定化基金の積み増しとして7,800万米ドル、ウクライナ国内の原子力発電所の安全性向上に対して200万米ドルからなる、総額8,000万米ドルの資金援助を行うことを明らかにした。

G7とウクライナは7月6日にベルリンで開催が予定されている第2回のチェルノブイリ石棺対策会議の場で、石棺プロジェクト完了のために必要な残りの資金の確保についての検討を行うことになっている。

チェルノブイリ原子力発電所では現在、4基ある原子炉のうち、3号機(RBMK:黒鉛減速軽水冷却炉、100万kW)だけが、最低限の安全性改善修理の上、運転を続けている。同機は昨年11月26日に国家原子力規制局(SNRA)から1サイクル分、全出力換算200日間までの運転認可を受けている。

1995年12月、G7とウクライナは、チェルノブイリ発電所を2000年までに閉鎖する見返りにG7が代替電源確保のための資金援助を行うとする了解覚書に調印。ウクライナは代替電源として、建設中のフメルニツキ2号機とロブノ4号機の2基(ともにVVER-1000=ロシア型PWR、100万kW)の原子力発電所の完成を主張、G7側もこれに大筋で同意した。

しかし、代替電源に関する交渉の中でウクライナはG7に対して、チェルノブイリ発電所閉鎖作業や代替電源完成までの中継ぎに必要な化石燃料の確保についても支援を要求、クチマ大統領は支援の決定が閉鎖の前提となるとして、閉鎖の正式決定を回避していた。これに対して、G7側の援助の中心となる欧州復興開発銀行(EBRD)は、資金援助は閉鎖時期ならびに出資額の妥当性についての根拠の明確化が前提となるとし、決定を留保していた。

今回のクチマ、クリントン両大統領の発言でも、代替の2原子力発電所完成に関する言及は行われなかった。


[南アフリカ]

Eskomの高温ガス炉開発プロジェクトにBNFLが参加

英国原子燃料会社(BNFL)は6月8日、南アフリカ電力庁(Eskom)が進めているペブルベッド・モジュール高温ガス炉(PBMR)開発計画の第一段階への20%出資を発表した。具体的な出資額は明らかにされていないが、約1億ランド(=約1,620万米ドル)と見られている。PBMRの開発計画の第一段階には、詳細フィージビリティスタディ(FS)、環境影響調査(EIA)、日本の公開ヒアリングに相当する一般公衆からの意見聴取手続きなどが含まれている。

BNFLは今回の出資について、同社が世界規模で展開する原子力事業において、子会社のウェスチングハウス・エレクトリック・カンパニーが開発した固有安全性を備えた中小型軽水炉AP600を補完するものと位置づけている。

BNFLの参加は、Eskomの他、PBMR計画に20%の出資を行っている南アフリカ国営開発金融機関であるインダストリアル・ディベロップメント社(IDC)を加えた3社の間で合意されたもので、BNFLは出資比率を将来的には35%まで増やすことができるほか、第一段階完了後には、引き続き、次の段階である実証炉建設に対しても出資できることになっている。Eskomは最終的に自己出資の比率を30%程度まで落とし、残りを外部出資者の参加によって賄う予定としており、引き続き出資を募って行く。

Eskomは、次世代発電炉として固有安全性を備えた小型高温ガス炉の導入の検討を1993年から行っており、予備的な調査の後、98年にはドイツのHTR社が開発したペブルベッド高温ガス炉(HTGR)技術と高効率密閉サイクル・ガスタービンとを組み合わせたPBMRの建設計画を正式にスタート。今年4月12日には4億3,200万ランドを要する詳細フィージビリティスタディの実施承認を政府から得ている。

PBMRは電気出力11万kWで、運転期間は40年。固有の安全性を持つことに加え、単純な設計コンセプトで建設費を低く抑えることにより、他の電源に対して高い競争力を確保することをめざしている。電力需要に応じて必要基数を1カ所のサイトに建設することを想定しており、1基当たりの設置に必要な敷地は53m×27mで、高さは47m(半分は地下)となる。

Eskomでは、来年中頃にはFSを完了させ、結果に対して政府の承認が得られれば、実証炉の建設をスタートし、2005年には営業運転を開始できるとしている。


[欧州]

欧州復興開発銀行、3件の旧ソ連型廃止支援基金の設置を正式承認

欧州復興開発銀行(EBRD)の役員会は6月中旬、安全面での問題が指摘されていたリトアニア、ブルガリア、スロバキア国内にある旧ソ連型原子炉の廃止に対する新規の基金を設置することで正式合意した。

基金はEU加盟を希望している3国による発電所閉鎖の公約を受けて設置されたもので、今後10年間で5億ユーロに達するとみられる資金の多くの部分はEUからの援助で賄われる。基金の対象となる廃止が決まっている原子炉は、リトアニアのイグナリナ原子力発電所1、2号機(各 150万kW、旧ソ連型軽水冷却黒鉛型炉:RBMK-1500)、ブルガリアのコズロドイ発電所1〜4号機(各 44万kW、旧ソ連型PWR:VVER-440/V-230)、スロバキアのボフニチェ発電所1、2号機(各 43万kW、旧ソ連型PWR:VVER-440/V-230)の合計8基。このうち、イグナリナ1号機は2005年、コズロドイ1、2号機は2002年、ボフニチェ1号機は2006年、同2号機は2008年に閉鎖されることが決定している。また、イグナリナ2号機とボフニチェ3、4号機の閉鎖時期については、それぞれ2004年以降と2002年に決定されることになっている。

新基金は、廃止の実施に際して必要とされる技術的な支援、公衆への情報公開、専門家による協議会の開催、公共事業の実施等、各種サービスの提供が主目的であるが、同時に各国のエネルギー事業の再編や近代化への財政支援にも充てられる。なお、中欧・東欧諸国の原子力の安全性向上に対しては、EBRDではすでに「原子力安全基金(NSA)」と「チェルノブイリ石棺基金(CSF)」の2件の総額10億ユーロを超える国際援助基金を創設し、広範な援助を行っているが、新基金はこれらを補完する役割も担う。

今回のEBRDの決定では、今年12月15日に閉鎖されることが決定したウクライナのチェルノブイリ原子力発電所(現在3号機(100万kW、RBMK-1000)だけが運転中)に対する廃止基金の設立は見送られたが、EBRDはすでに同発電所に対し、廃止準備施設整備のためにNSAから1億ユーロを援助している。


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