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フランス:専門家が2050年までの原子力発電コスト予測を発表

フランスの原子力発電の経済性に関する調査報告書が7月28日、3人の専門家によってジョスパン首相に提出された。この調査は、将来のエネルギー選択に備えて原子力発電の経済性を運転期間と再処理・プルトニウム利用の観点から調査、分析することを目的に首相が98年12月に実施を決定。翌年5月に同首相ほか、経済、環境および産業大臣によって国家企画委員会のJ.M.シャルパン氏、国立科学研究センターのB.ドシュ研究部長、原子力庁 (CEA) のR.ペラ最高委員の3人に調査が依頼された。

まず、運転中の原子力発電所の運転期間については、41年から45年に運転期間を延長した場合、全体コストは kWh あたり6%節約できると試算された。また、原子力発電所の運転期間を延長することによって既存炉の更新 (リプレイス) が先送りされ、その間に技術開発の余地が増大するとの利点が示された。

再処理・リサイクル政策については、(1) 現状の通り使用済み燃料の65〜75%を再処理し、20基の90万kW 級 PWR に MOX 燃料を装荷する (現在は、このうち19基が装荷済み)、(2) すべての使用済み燃料を再処理し、28基の90万kW 級 PWR でプルサーマルを行う、(3) 2010年以降は直接処分に限り、使用済み燃料は中間貯蔵する−の3つのケースを想定し、それぞれ原子力発電所の平均寿命を41年と45年として分析された。この結果、すべてを再処理する場合、原子力発電コストは直接処分と比べて約1%高くなる一方、プルトニウムをはじめとする長寿命核種の貯蔵量は約15%減少することが明らかにされた。

さらに、2050年の電源構成を予測するにあたって、97年の実績値 (3640億kWh) をもとに年平均伸び率を0.6%増とした低いシナリオ (B) と年率1.2%増の高シナリオ(H) の2つの需要見通しを設け、これをもとに、(1) 新規原子力発電所を建設しない (H1)、(2) 既存炉の一部を欧州加圧水型炉 (EPR) に更新する (H2)、(3) 2025年以降、既存の原子力発電所を順次、EPR に更新する (H3)、(4) 2035年以降に、EPR か高効率炉 (RHR) のいずれかを建設する (B2)、(5) 新規原子力発電所を2030年か2035年に建設する (B3)、(6) 原子力発電所を運転開始から45年目に順次、閉鎖し、ガス火力に代替するとともに、2010年に再処理を中止する (B4)、(7) 原子力発電所を運転開始から30年目に順次、閉鎖する−の6つのケースが想定された。原子力発電所の運転期間は (7) 以外、45年と設定されている。その結果、すべてのケースでフランスの総発電電力量に占める原子力発電の割合は、現在の80%から50%以下に低下すると予測された。また、(7) の早期閉鎖シナリオは、運転期間を45年間とする他のどれよりもコストが高くつくことが判明した。

さらに、天然ガスの価格が (1) 実質的に安定 (安定シナリオ)、(2) 2020年までに最高47%上昇 (中間シナリオ)、(3) 2050年までに88%上昇 (緊張シナリオ)−の3つのケースを想定して、原子力発電コストと比較した場合、原子力は (1) を除く全てのケースで競争力を維持することが分かった。

また、外部コストとして、化石燃料に対する二酸化炭素 (CO2) 排出税と原子力発電に対する放射性廃棄物発生税が試算された。CO2 税は既存の研究をもとに炭素1トン当たり400〜1,000フラン (6,000〜1万5,000円) とされたが、CO2 税の導入によってガス火力発電コストは10%〜42%高くなる。一方、廃棄物税については参考例がないため、暫定的に長寿命核種1トン当たり5億〜12億フラン (77億円〜185億円) の外部コストが設定された。

この他、調査では世界の原子力発電開発の現状を検証するとともに、化石燃料と原子力が環境に与える影響について評価した。省エネルギー、化石燃料と原子力、再生可能エネルギーの各分野でこれまでの技術開発の進展と今後の開発規模が予測されている。

3名の専門家は、今回の調査を技術、経済、環境に関する情報提供と位置付け、将来のエネルギーの選択肢を勧告したり、世論を誘導するものではないとしている。

今回の調査にあたり、ボワネ環境大臣をはじめとする緑の党は、再処理などのバックエンド費用を含む原子力の経済性に疑問を示すとともに、原子力開発に巨額の政府予算が投入されていることに強い抵抗を示した。今回の調査では、再処理・リサイクルを完結させる場合は若干コスト高となる点が初めて明らかになったが、原子力への補助金については明確な言及はなかった。ただ、初めて原子力発電所の投資総額は4,700億フラン (約7兆2,000億円) と試算され、反対派が主張していた1兆フラン (15兆円) と比べて安いことが明らかになった。

同報告書は、首相府から経済、産業、環境の関係省庁に配布され、秋には詳細な分析が行われる予定になっている。


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