[諸外国における原子力発電開発の動向] 話題を追って (2000年9月中旬〜10月中旬) top

ドイツ:E.ON と RWE、余剰発電設備の閉鎖を発表

電力市場自由化が加速する中、ドイツの2大エネルギー総合企業、E.ON 社と RWE 社は10月上旬、市場での競争力強化のため、余剰発電設備の閉鎖をはじめとする合理化計画を相次いで発表した。両社が閉鎖の対象とした発電所は、合わせて980万kW にのぼり、約1億kW に達する国内の総発電設備容量のほぼ1割に相当する。閉鎖される発電所の中には、国内で2番目に古いシュターデ (PWR、67万2000kW) と訴訟により休止中だったミュルハイム・ケールリッヒ (PWR、130万2000kW) の両原子力発電所が含まれている。今年6月に連邦政府と大手電力が原子力発電所の運転条件で合意して以来、電力会社が発電所の閉鎖を決定したのは、これが初めて。

10月9日に発表された E.ON 社の合理化計画によると、同社が抱える発電設備の約15%にあたる480万kW を来年以降、順次閉鎖するとともに、3万6500人の従業員のうち約1500人を解雇する。この中には、シュターデ原子力発電所を2003年に閉鎖する計画も含まれる。一方の RWE 社は同10日、3250万kW の設備容量のうち、500万kW を2004年までに閉鎖すると同時に、180人を再配置する方針を明らかにした。閉鎖される設備には、訴訟により休止中だったミュルハイム・ケールリッヒ原子力発電所が含まれる。なお、RWE 社は10月1日、VEW 社との合併を完了し、両社の発電部門は子会社である RWE パワー社に統合された。

72年に送電を開始したシュターデ原子力発電所は、オブリッヒハイムに次いで国内で2番目に古い原子力発電所。E.ON 社が今回、同機を運転開始から31年目にあたる2003年に閉鎖すると決定したのも経済的な理由だ。今年6月に連邦政府と大手電力が交わした取決めでは、原子力発電所の運転継続には10年毎の大掛かりな安全検査が義務付けられたが、電力会社が安全検査期限から3年以内の閉鎖を確約した場合はこれが免除される。このため、E.ON 社は年内の実施が義務付けられた同発電所の安全検査を行わずに、3年後の2003年に閉鎖することが経済的と判断した。

RWE 社のミュルハイム・ケールリッヒ原子力発電所は、炉心の位置が当初の設計より無断で移動されたとして、10カ月たらずの運転後、1988年9月に運転認可が取り消された。それ以来、RWE 社とラインラント・プファルツ州政府 (92年からSPDと自由民主党の連立政権) は許認可の有効性と運転中断に伴う損害賠償をめぐって訴訟を続けた。今年6月の取決めでは、RWE 社が州政府への賠償請求を却下し、同発電所の運転再開を断念する代わりに、連邦政府が同発電所分として約1,072億kWh の電力量を RWE 社に割り当てることで合意した。今回の RWE 社の決定は、この合意に基づき同機の閉鎖を正式に発表したもの。

両社が、余剰電源の削減に乗り出した背景には、電力市場の自由化に伴い電気料金の値下げ合戦が加熱し、営業収益が大幅に減少したことにある。ドイツでは98年春に完全自由化がスタートし、最近では下げ止まりの傾向が見られるものの、当初は産業用で40%、家庭用で10〜20%も電力料金が下がった。 E.ON エネルギー社の発電部門は、今年の利益を前年比30%減と見込んでいる。また、RWE 社も今年6月末のグループ全体の営業利益を前年比15%減としている。こうした中、両社は採算性の悪い火力発電所だけでなく、大規模な改良や安全検査を必要とする一部の原子力発電所を閉鎖するなどして合理化を図るというのが大きなねらい。

なお、今回、閉鎖が決まった2基のほか、連邦政府との取決めの中で早期閉鎖の対象となったオブリッヒハイム (PWR、35万7000kW) や他からの譲渡発電量が制限されたビブリスA原子力発電所 (PWR、122万5000kW) については、電力会社と連邦政府、州政府間の交渉が続いている。最終的な方針はまだ固まっていないが、この2基についても安全検査や改良工事などに必要な支出と運転継続によって見込まれる利益が判断材料となるだろうとの見方が強まっている。オブリッヒハイム原子力発電所は98年に安全検査を実施したばかりで、同機を63%所有するエネルギー・バーデン・ビュルテンベルク (EnBW) 社は他の発電所からの発電量を同機に割り当てることにより、2002年以降も運転を続けたい意向を示している。一方のビブリスA原子力発電所は、安全審査の期限が2001年末に迫っている上、91年にヘッセン州政府から10億マルクを超える大規模な改良工事を命じられている。同機を所有する RWE 社と政府間で閉鎖時期や工事内容をめぐって駆け引きが行われる可能性もある。

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