[諸外国における原子力発電開発の動向]
話題を追って (2000年10月中旬〜11月中旬)
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フィンランド:TVO、新規原子力発電所立地を政府に申し入れ

フィンランドの民営電力会社、テオリスーデン・ボイマ社 (TVO) は11月15日、新規原子力発電所建設を政府に申し入れた。同国では原子力法によって原子力発電所の建設許認可手続きがいくつかのステップに分かれており、終了まで通常では数年がかかる。今回の申し入れは一番最初のステップで、政府に新規立地の原則決定を求めるもの。まず政府が新規立地の是非を検討し、承認された場合、さらに議会で審議される。そして議会の承認を受けた時点で初めて、TVO は新規発電所の建設許可を申請することが出来る。

決定されればフィンランド5基目となる原子力発電所は、既存のロビーサ発電所あるいはオルキルオト発電所サイトのどちらかに建設されることが決まっている。炉型は BWR にするか PWR にするかまだ決まっていない。出力は100万kW〜160万kW。建設コストは100億〜150億フィンランド・マルカ (17億〜25億ユーロ、14億〜22億米ドル) と見積もられている。

TVO は今回の申し入れの理由として (1) 株主 (フィンランド国内の電力会社や産業界等) が必要とする追加電源の確保 (2) 原子力は再生可能エネルギーと共に2008年〜2012年に CO2 排出量を1990年レベルにまで削減するとした京都議定書の遵守に不可欠--の2点を挙げた。

TVO の社長兼最高経営責任者M.パーボラ氏は同日付のプレスリリースで、「新規原子力発電所は、追加電源としての役目に加え、高経年化により閉鎖する火力発電所の代替としての役目を持つだけでなく、長期的には安定した電力価格の維持に貢献する」と新規立地の意義を説明。また、原子力発電は発電コストが低く、自由化された北欧電力市場に最適な電源であるとの見解を示した。

T.ラヤラ TVO 理事会議長は「遅くとも2010年代までに競争力のある追加電源が必要」と述べ、新規の原子力発電所を建設することにより将来にわたって多用な電源オプションを確保することが可能となり、電力価格の安定化に寄与するとの見方を示した。

なお TVO で技術部長を務めるA.ラスタス氏は「新規原子力発電所の設計には、最新の技術を応用した複数の選択肢がある」とした上で、「安全性はもちろん、約4年で完成できるような経済的な単純化設計を採用する」としている。

社会民主党を中心とした5党連立の現政権のエネルギー政策では、環境面でクリーンな電源を特に重視するとともに、技術面・経済面・環境面で実行可能なあらゆる電源が選択肢として盛り込まれている。連立政権を構成しているのは社会民主党、国民連合、左翼連合、スウェーデン人民党、緑の党の5党。うち国民連合が原子力推進の姿勢を、左翼連合と緑の党が反原子力の姿勢を明確に打ち出している。しかし野党第1党の中央党 (原則は反原子力) も含め他の政党は、原子力について党内の意見が分裂し、姿勢を明確にしていない。

緑の党党首のS.ハッシ環境相は「政府・議会で新規立地が承認された場合、緑の党は連立政権から離脱する」との姿勢を明らかにしている。社会民主党のA.カリオメキ院内総務は新規立地問題で党内が分裂することを恐れ、党内議員らに慎重に対応するよう呼びかけている。しかし保守系議員は新規立地を支持しており、同じく新規立地を強く支持する産業界は、「議員の大多数は原子力に好意的」との楽観的な見方を示している。

フィンランドでは電力の55%を産業部門が消費しているが、今年5月にフィンランドエネルギー産業連盟 (Finergy) が発表したレポートは「今後10〜15年で産業部門の電力消費は60%に上昇する」と指摘。産業部門のエネルギー効率はこれ以上の向上が見込めないことから、2015年までに同国の電力消費量は970億kWh/年 (現在は800億kWh/年) に達し、380万kW の追加設備が必要になると結論している。また北欧全体の電力消費量は、99年の3800億kWh から2015年には4200億kWh に増大。700〜800万kW の追加設備容量が必要になると見込んでいる。こうした状況を踏まえ、Finergy は今回の TVO の申し入れに関し声明を発表。「環境保全や経済的な観点からも新規立地の推進は妥当であり、京都議定書の目標達成には、将来さらに6基目の原子力発電所が必要となる可能性も否定できない」との見解を明らかにした。

フィンランドは実質的な電力輸入国 (昨年は北欧諸国やロシアから111億2400万kWh の電力を輸入) である。北欧は水力発電が電力供給の主力で、電力量や電力価格が降雨量に左右されやすい構造になっている。北欧全体でみると、降雨量の多い年と少ない年では740億kWh の差が出るケースさえある。現在は北欧の電力市場は供給過剰だが、Finergy は通常の降雨量を想定すると、2005年前後に供給不足に転ずると予測している。またフィンランドの天然ガス依存は今後も増大するとみられているが、パイプラインはロシアからしかなく、安定供給を不安視する向きも多い。

今年6月に、フィンランドのエネルギー経済に関する専門家の論文が発表され、年間平均設備利用率が64%以上の全電源の経済性 (投資コスト、燃料コスト、運転コスト、廃棄物管理コスト等) が比較された。その結果、原子力は石炭、泥炭、天然ガスの3電源に比べ最も低コストの電源であるとの結論が出された。また、フィンランドの既存の4基の原子力発電所は過去10年間の平均設備利用率が 91.2%と、世界最高を記録している。4基の総出力は 276万kW、総発電電力量に占める原子力シェアは 30% (99年実績) に達している。今回、新規の電源として原子力が選定された背景にはこうした状況がある。

一方、POSIVA 社が申請した使用済み燃料の最終処分場の建設については、貿易産業省 (KTM) が審査を続けており、年内にも原則決定が出される見通し。POSIVA 社は 99年5月26日、オルキルオト原子力発電所近郊のユーラヨキ地点を建設候補地として選定、政府に申請していた。最終処分場 (総工費:約10億フィンランド・マルカ) は 2010年に着工、2020年に操業開始の予定で、年間 100〜250トンU の使用済み燃料が処分される。原則決定が下されれば、POSIVA 社は地下研究施設や調査用シャフト (立坑) を建設して詳細調査 (2000〜2010年) を行う予定。なお地元住民の 60%が最終処分場の誘致に賛成している。

またロビーサ中・低レベル放射性廃棄物最終処分場は、98年6月に操業を開始。オルキルオト中・低レベル放射性廃棄物処分場は、92年5月から操業を開始している。

[終わり]

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