[諸外国における原子力発電開発の動向]
話題を追って (2001年6月中旬〜7月中旬)
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チェコ、独政府のテメリン閉鎖要求を拒否

7月18日に緊急閣僚会議を開催したチェコのM.ゼマン首相は同日、「独自のエネルギー政策を決定する権利を有する主権国家である以上、ドイツによるテメリン発電所の閉鎖要求には応じられない」とする見解を発表した。独環境省が作成した「技術文書」に対して、チェコ政府として正式に回答したもの。

「技術文書」はプラハにある独大使館で7月16日、独政府の見解としてチェコ側に手渡されたもので、テメリン発電所の技術的安全基準に関してドイツ側が抱いている懸念を伝えるとともに、同発電所を閉鎖する可能性についてチェコ側に検討を要請していた。

ゼマン首相は18日の記者会見で、「独環境省による『技術文書』は、独政府内で議論されたわけでも票決されたわけでもない」とした上で、テメリン発電所は EU の原子力発電所安全基準に従っていることが確認されていると指摘、「チェコ政府としてもテメリン発電所の安全性および環境影響になんの疑問も抱いていない」と述べた。また首相は、原子力発電開発の決定も含め、エネルギー政策は主権国家の問題だと強調。独環境省の発電所閉鎖要求に応じる考えのないことを表明した。

今回の独環境省の「技術文書」に対しテメリン発電所のF.ヘゾウツキー所長は、技術的に甚だしい誤りが随所に見受けられ、国際原子力機関 (IAEA) や西欧原子力規制当局連合 (WENRA)、欧州委員会 (EC) の原子力問題グループ (AQG) が何度も検討した問題を歪めた形で蒸し返していると指摘。「IAEA、WENRA、AQG のいずれも、テメリン発電所の設計上の問題点や、(独環境省が指摘するような) 試運転時の機能不全を指摘したことはない。一専門技術者として、独環境省の文書は『イデオロギー文書』と言わざるをえない」と批判した。

世界原子力協会 (WNA:ウラン協会が名称変更) もチェコ政府の見解を強く支持している。WNA のJ.リッチ事務局長は「この2年間、ドイツはイデオロギーに従ってエネルギー政策を決定しており、合理性を失ってきた。緑の党に所属するJ.トリッティン環境相が葬り去ろうとしている原子力を抜きにして、ドイツが CO2 削減目標を達成できるわけがない」と強く批判。またチェコに対しては IAEA、WENRA、AQG による調査を再度実施することを提案し、「先例のないほどの精密な調査を実施することで、テメリン発電所に対する懸念を払拭できる」と語った。

オーストリアやドイツの国境近くに立地するテメリン発電所は、ロシア型 PWR である VVER-1000 型炉 (出力97万2000kW) 2基で構成されている。1号機は2000年12月21日に送電を開始したが、試運転中の2001年5月3日、非原子力部でトラブルがあったため運転を停止した。チェコ電力 (CEZ) は、「タービンなど2次系で複数の技術的問題が発見され、燃料節約のために運転停止を決定した」と説明している。

最新の SKODA 社製 VVER-1000 型炉を採用した同炉の安全性は、西側原子炉と同等レベルとの調査結果が出ているが、反原子力政策を掲げる隣国オーストリアがテメリン発電所に一貫して反対している。チェコ国内でも、建設費の高騰から同発電所に反対する意見もあったが、チェコ政府は1999年5月に建設継続を僅差で閣議決定した。

1号機は2000年7月14日に燃料を装荷し、起動に向け着々と準備が進行する中、オーストリアのW.シュッセル首相は8月29日、テメリン発電所が国際的安全基準を満たさない限り、チェコの EU 加盟を認めない意向を明らかにした。これに対しチェコ側は強硬に反発。これまでテメリン発電所の建設計画に否定的であったチェコのV.ハベル大統領も、オーストリアの姿勢を痛烈に非難したほか、J.カバン外相も強い抗議発言を行った。

両国間の関係悪化を懸念した欧州議会は9月7日に緊急討議を行い、(1) チェコは送電開始前に十分な環境影響評価 (EIA) 手順を踏むこと、(2) チェコは国際的な原子力安全基準を満たしていることを示す十分な情報を公開すること、を議会決定した。チェコ政府は決定を不服としながらも、これに従う意向を示した。その一方でテメリン発電所は10月6日、国家原子力安全局 (SUJB) に対して1号機の起動許可を申請。SUJB もこれを許可し、10月11日に初臨界を達成した。

2000年12月12日には、EC のG.フェアホイゲン EU 拡大担当委員が立会い、チェコ・オーストリア両国首脳がウィーン近郊のメルクで会談。その結果、(1) チェコ政府は EU の監督の下、補足的な環境影響評価 (EIA) を2001年5月までに完了させる、(2) チェコ・オーストリア・EU の3極からなる専門家委員会を設立し、テメリン発電所の安全性を判断する -- 等のメルク議定書に調印した。

その後、チェコ環境省は補足的な EIA を2001年3月26日に承認し、4月以降公開ヒアリングにかけている。また EC のワーキング・グループである AQG による EU 加盟申請国の全原子力施設の点検結果から、テメリン発電所が欧州の安全基準を満たしていることが確認された。しかしメルク議定書に従い、安全問題について相互理解を深めるため、(1) 3極からなる専門家委員会がオーストリア側の懸念する主要な分野を特定するとともに、チェコ側からそれに対する回答を聞き出す、(2) さらに EU 加盟諸国における関連の最新技術に基づいて、特定された問題に対する解決策を見出す -- といったプロセスを踏まねばならない。

EC は今年7月31日、3極からなる専門家委員会のワーキング・ペーパーを両国政府に送付した。同ペーパーは前述のプロセス(1)の段階を要約したもので、今後さらにプロセス(2)のピア・レビューを経て最終的な決着をつけることになる。

なお WENRA は2000年11月9日、EU 加盟候補国の原子力安全についてとりまとめた報告書の中で、「テメリン発電所は一部の安全上の問題が解決すれば、西側の基準に見劣りしないレベルに到達できる」との評価を下した。WENRA は EU 加盟国のうち、原子力発電所を運転している9カ国にスイスを加えた10カ国の原子力規制当局の責任者からなる国際組織で、EU が加盟国拡大を検討する上で参考となる技術的な情報を任意に提供している。

[終わり]

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