[諸外国における原子力発電開発の動向]
主なできごと (2001年11月中旬〜12月中旬)

フランス:脱原子力は8兆円の損失

−原子力発電所の運転延長が最善策

フランス経済財務産業省 (MEFI) は11月はじめ、国内の原子力発電所を閉鎖した場合の経済的な影響を試算した調査結果を発表した。それによると、最も経済的かつ柔軟で賢明なオプションとなったのは、すべての原子力発電所の運転期間を延長した上で、いかなる電源の新設も行わないケース。一方、原子力発電所を2020年までにすべて閉鎖した場合は、フランス電力公社 (EDF) が5000億フラン (約8兆3000億円) を越える損失をこうむるだけでなく、増税や経済成長率の低下、失業の増加など、国民生活に甚大な影響が出ることが明らかになった。

この試算は、同省の予測局に所属するカルノー (Carnot)、ギャロン (Gallon) 両氏が行った。両氏は、(1) すべての原子力発電所を2020年に閉鎖し、新規ガス火力を建設するケース (脱原子力シナリオ)、(2) 原子力発電所の運転期間を延長し、運転を継続するケース (原子力維持シナリオ1)、(3) 原子力発電所を2020年に全廃し、新規原子力発電所に建て替えるケース (同シナリオ2)−を想定し、電気料金や経済に与える影響を試算した。

発電コストを比較すると、運転中の原子力発電所は2020年までに減価償却が完了するため、(2) のシナリオが最も低く約8サンチーム/kWh (約1.3円)、次に新規原子力を建設する (3) のケースが約18サンチーム/kWh (約3円)、(1) のケースは新規ガス火力による温室効果ガスの排出を考慮するとさらに5サンチームが加算され、23サンチーム/kWh (約3.8円)となった。2020年における EDF の年間支出は、(2) がメンテナンス費用を含めて約320億フラン (約5300億円)、(3) が720億フラン (約1兆1900億円)、(1) が炭素税を含めて920億フラン (約1兆5200億円) となり、いずれの場合も脱原子力シナリオが原子力維持シナリオを上回った。


発電コスト (サンチーム/kWh)年間支出 (フラン)
(1) 脱原子力ケース23920億
(2) 原子力発電所の運転延長320億
(3) 新規原子力発電所建設18720億
(注) 1サンチーム=100分の1フラン=約0.165円

脱原子力シナリオでは、フランス電力公社 (EDF) が2020年までにこうむる損失は2380億フラン〜5130億フラン (3兆9700億円〜8兆4500億円) に達すると試算された。これだけの損失額が出ると、仮に EDF を民営化するような場合、政府が売却する EDF の株価にも大きく影響すると見られている。脱原子力に伴うこうした損失は、 EDF や政府が一時的に肩代わりするものの、最終的には増税という形で国民が負担することになる。試算によると、年間平均約400億フラン (約6600億円) の損失を相殺するためには、所得税を0.5ポイント、付加価値税を0.6ポイント、雇用税を1.2ポイント引き上げる必要がでてくる。増税によって国内総生産 (GDP) を0.5〜1ポイント低下させるほか、失業率の上昇も招くなど国民生活に悪影響を及ぼすことが調査結果から示された。

今回の試算では、原子力については発電所の事故リスクや核燃料サイクル・バックエンド政策の変更などに伴う燃料価格の変動は考慮されていない。また、天然ガス価格は比較的低く見積もられており、原子力と同様に事故のリスクや価格変動は含まれていない。さらに、ガス火力発電所が新規サイトに建設される場合、必要となる送電網の整備などの莫大な基盤整備費も含まれていない。

EDF によると、運転中の58基の原子力発電所は、総発電電力量の約75%を供給し、年間約4000万トンの炭素排出抑制に貢献している。これは99年のエネルギー部門の総排出量の3分の1を超える。

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