[諸外国における原子力発電開発の動向]
主なできごと (2002年2月中旬〜3月中旬)

ベルギー:政府、"脱原子力法案" を閣議了解

−産業界や学界から批判続出

ベルギー政府は3月1日、国内にある7基の原子力発電所に運転期間を定めるとともに、原子力発電所の新規建設を禁止することなどを盛り込んだ "脱原子力法案" を閣議了解した。法案によると、無制限だった原子力発電所の運転期間を一律40年とし、40年に達した発電所から順次閉鎖する。ベルギーの原子力発電所は現在、10年毎に安全検査を行い、運転認可を更新している。法案が成立すると、2015年に40年目を迎えるドール1号機 (1975年に運転開始) を皮切りに、2025年には最後のチアンジュ3号機が閉鎖される。法案では、原子力発電所の新規建設も禁止されるため、2025年にはすべての原子力発電所が姿を消すことになる。

しかし、法案はまた、電力供給確保に支障が生じるような事態が生じた場合には脱原子力は行わないとの例外規定を設けている。ただ、例外規定が実施に移される可能性はかなり低いとみられている。一方で、ベルギーは電力の約6割を原子力に依存している体質をどう変えるかが最大の課題となっており、フェルホフスタット首相 (自由党) も、代替エネルギーの開発を急ぐ方針を示している。

脱原子力政策は、99年に発足した現在の3党連立政権 (自由、社会、緑) の公約だった。原子力を所管するエネルギー大臣には、緑の党のデルーズ氏が就任し、フェルホフスタット首相 (自由党) も昨秋、同法案を国会に上程する考えを明らかにしていた。これを受けて、デルーズ大臣は今年2月に入り、政府内のエネルギー部会が法案を策定しだい、早急に閣議にかける意向を固めていた。農業技術者だった同相は、1980年にフランス語系の緑の党 (Ecolo) を創設し、95年から99年にはオランダ語系の同党 (Agalev) と組んだ党の代表を務めた。

法案成立には今後、ベルギー行政裁判所 (参事院) の審査を受け、議会 (下院) の採決にかけられる。参事院は、同国の行政裁判所であると同時に、政府の法律諮問機関の役割を担っている。与党3党は前回選挙で、議会の150議席のうち94議席を獲得している。政府は6月中にも法案を議会にはかる意向。

今回の閣議了解に対して、7基の原子力発電所を所有・運転するエレクトラベル社スポークスマンは、法案の内容を厳しく批判した上で、仮に成立した場合、ベルギーが京都議定書の目標を達成することはきわめて難しくなるとの見方を示した。ベルギー経済連合 (FEB) も、代替エネルギーの確保ができないまま、電力の約6割を供給している原子力を廃止することは現実問題として不可能だと強く反対している。

ベルギーに本部を置く FORATOM (欧州原子力産業連合) のハウク事務局長は、原子力発電所の運転期間に制限を設けることは経済、環境、技術、安全性の面からみても全く根拠がなく、単にイデオロギーによる発案であり、非現実的で愚かな決定だとベルギー政府の対応を非難した。同氏は、同国が将来、原子力なしで電力の安定供給や地球温暖化防止対策を達成できるとは思えないとした上で、将来のエネルギー政策の策定にあたっては長期的な視点に立ち経済性や環境問題を考慮に入れて電源の多様化をはかるべきだとの考えを示した。

ベルギー放射性廃棄物・核物質管理庁 (ONDRAF/NIRAS) の理事長であるストレイド氏は、政府のアンペール委員会で共同委員長を務めた経験から、今回の決定に改めて異論を唱えている。同委員会は2000年末、2010年のエネルギー需給を予測し、電源別コストを試算し、政府に報告した。その中で委員会は、再生可能エネルギーは代替エネルギーの戦力になりえないと厳しい評価を下した。電力供給に占める再生可能エネルギーの割合は、どんなに楽観的にみても風力が6%、バイオマスが4%と全体の10%程度に限られ、太陽光発電は技術・経済的理由から2020年までは実用化は期待できないと予測されている。さらに kWh あたりのコストでは、廃棄物処分コストを含めても原子力 (130万kW級) が最も安く1.28ベルギーフランであるのに対して、ガス火力は1.74、コジェネ (電熱併給) は1.86、バイオマスは2.38、風力 (内陸) は3.26 (1ベルギーフラン=約3円) と計算されている。また、原子力の代わりに天然ガスで発電した場合には、年間の炭酸ガス排出量が現在のほぼ2倍にあたる1800万トンに達するとの予測が示された。

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