[諸外国における原子力発電開発の動向]
最近の動き (2002年7月中旬〜8月中旬)

[中  国]

秦山V-1号機と嶺澳2号機が燃料初装荷

 カナダ原子力公社(AECL)は8月13日、中国で進めている秦山V期プロジェクトの1号機(CANDU、72万8,000kW)が燃料の初装荷を完了したと発表した。

 秦山V期プロジェクトは、カナダ政府の支援のもと、同国政府系金融機関からの借款を利用して、フルターン・キー方式でCANDU炉2基(各72万8,000kW)を建設するもの。このプロジェクトは第9次5ヵ年計画に組み込まれ、1号機は1998年6月、2号機は同9月にそれぞれ着工した。計画通りに進めば、1号機は2003年2月、2号機は2003年11月にそれぞれ営業運転を開始する予定。

 一方、仏フラマトムANP社はこのほど、中国広東省で建設を進めている嶺澳2号機(PWR、98万5,000kW)が7月18日に燃料の初装荷を完了したことを明らかにした。それによると、同機は8月末までに初臨界に達し、来年初めには営業運転を開始する見込み。

 嶺澳プロジェクトも第9次5ヵ年計画に組み込まれ、1号機は1997年5月、2号機(PWR、98万5,000kW)は同12月にそれぞれ着工した。2基合わせた建設費は40億ドル。なお、嶺澳サイトの近くで運転中の大亜湾1、2号機(PWR、各98万4,000kW)もフラマトムANP社製。

[韓国 − 米国]

WH社、韓国に計装制御機器など供給へ

 米ウェスチングハウス(WH)社と韓国水力・原子力発電会社(KHNP社)は8月9日、韓国で建設が計画されている新古里1、2号機と新月城1、2号機の合計4基について、WH社が計装制御(I&C)系や技術エンジニア支援サービスなどの機器を供給することで合意に達し、契約に署名した。契約額は3億5,000万jを超える模様。

 この4基は、いずれも韓国標準型炉(KSNP)を採用しており、WH社がライセンスを所有するシステム80がベースになっている。また、同社は、韓国で現在建設中でKSNPを採用している霊光6号機(100万kW)と蔚珍5、6号機(各100万kW)の合計3基に対しても引き続き支援を行っていく方針。

 このほか、WH社は、新古里3、4号機を含めた合計4基で採用が予定されている改良型加圧水型炉(APR-1400)でも、韓国側に協力する見通し。

[南アフリカ]

PBMR計画、フィージビリティ調査の概要公表

 南アフリカのPBMR社は7月30日、同社が進めているペブルベッド・モジュール高温ガス炉(PBMR)開発計画の詳細フィージビリティスタディ報告(DFR)の概要を公表した。それによると、国際市場でのPBMRの商業化は、残された設計・計画・資金問題を解決し、原型炉の許認可と建設が予定通りに進められるかどうかにかかっているとしている。

 DFRは、PBMR技術の商業化は可能で、国際市場で南アフリカに経済的、社会的、政治的な恩恵をもたらすだけでなく、地球温暖化対策にも貢献すると結論付けている。

 また、国内的に水力資源や化石燃料資源の制約がある一方で、原子力発電所が高い稼働実績を残している点に言及。既存の水力や火力の発電プラントに対して競争力をもったコストでプラントの建設・運転が可能ならば、PBMRはとくにベースロードとして、新規電源の有力な候補になるとしている。

 PBMR社はDFRの中で、PBMRは2020年までに世界で200基を超える確実な受注が期待できるとしている。特に、同社に出資している南アフリカ国営電力会社Eskomから原型炉1基の建設に続いてさらに10基を購入する打診を受けていることに加え、米国最大の原子力発電事業者であるエクセロン社が、原型炉で所期の性能の達成が確認された場合、今後10年で最大40基を購入すると表明していることを指摘している。なお、このDFRは2001年末現在の開発状況を反映したもので、今年4月に公表されたPBMR開発からのエクセロン社の撤退については考慮されていない。

 DFRでは、PBMRの商業プランとして1サイトに5基(モジュール)を設置(5パックプラント)する場合、プラント設計・機器製造・建設に関して習熟効果が活かされて建設コスト低減が達成されることを前提に、発電単価が1kWh当たり2.6〜3.4米セントになるとしている。また、市場分析の結果として、PBMRの世界市場における潜在需要を、今後25年間で最大5パックプラントで235サイト、基数にして1,175基程度と試算している。これは同期間の新規電力供給量の3.3%に相当する。ただ、PBMR社のビジネスプランでは、基準ケースのシナリオとして、同期間の販売予測を258基程度としている。

 PBMRの欧州地域における市場性については、一般的にみれば原子力発電の将来は期待できるとし、PBMRのような革新的技術が重要な役割を演じる余地があるとしている。こうした分析は、鉱物・エネルギー省が各国政府や産業界とPBMRを中心とした原子力発電について意見交換をするために、2001年5月末に派遣した政府調査団の報告がベースとなっている。

 PBMR社は、多様な市場ニーズに応えるために、PBMRのオプションに幅を持たせる方針で、今後はアフリカ諸国のような発展途上国の市場向けにより小型な炉や、内陸部の乾燥地域向けに乾式冷却方式の炉なども開発するとしている。

 今回公表されたDFR概要では、他のHTGR技術開発を進めている企業にPBMRのコストなどの情報が漏れるのを防ぐために、商業面の機微な情報は非公開とされた。完全版のDFRは、南アフリカ政府によってPBMR計画を詳細に検討するために設置された国際諮問委員会に極秘扱いで提出。同委員会はすでに検討作業を完了し、結論を鉱物・エネルギー省に答申している。しかし、委員会の結論は公表されておらず、政府も原型炉建設の可否についての結論をまだ出していない。

 PBMRは電気出力11〜14万kWの小型高温ガス炉で、輸出も視野に入れた次世代発電炉として、Eskomによって93年から検討が進められてきた。98年には正式に建設計画がスタートし、現在はフェーズTとして、原型炉建設のための環境影響評価作業(EIA)や詳細フィージビリティ調査が実施されており、出資者と政府の承認が得られ次第、原型炉建設にあたるフェーズUに移る予定。

 PBMR社は、PBMR計画の実施のためにEskomが中心となって設立された事業主体で、フェーズTへの出資企業と比率は、Eskomエンタープライゼス社(Eskomの非公共事業部門)30%、南アフリカ国営開発金融機関のインダストリアル・ディベロップメント社(IDC)25%、英国原子燃料会社(BNFL)22.5%、米国のエクセロン社12.5%で、残りの10%は南アフリカの黒人権利推進プログラムにより義務付けられている黒人所有企業への割り当て分としてEskomが保留している。

なお、エクセロンは今年4月15日に開催されたPBMR社の役員会で、事業戦略変更に伴いフェーズUには参加しないことを通知したが、引き続きPBMRの導入には積極的に取り組むとしている。

[カナダ]

ブルースA発電所の運転再開が早まる見込み

 ブルース・パワー(BP)社は7月29日、休止中のブルースA発電所(1〜4号機:CANDU、各90.4万kW:96〜98年から運転休止)の3、4号機の運転再開が当初予定されていた2003年夏から早まる見込みであると発表した。同社のホーソーン最高経営責任者(CEO)によれば、ブルースA4号機の営業運転再開は2003年4月に、3号機も夏季の電力需要のピーク前になる見込み。一方、運転再開に要する経費は、当初見積の3億4,000万カナダドルから、4億カナダドル台に増加することになった。

 運転再開には、カナダ原子力安全委員会(CNSC)による運転認可の発給が必要であるが、CNSCはブルースA3、4号機の運転再開の問題を検討するための2次ヒアリングを2003年2月に開催する方向で調整を進めている。BP社は、ヒアリングに向けて、運転再開を正当化するために必要な材料をすべてCNSCに提出しており、時期の繰り上げを含めて運転再開への支持は得られるとしている。

 ホーソーン氏は、オンタリオ州では今年の夏に2,500万kW超という過去最大の電力需要のピークを記録するなど、電力不足が深刻になっていると指摘。ブルースA3、4号機の運転再開で、150万kWの信頼性の高い電源が新たに送電網に加わることは、電力不足の解消に大きく貢献することになるとして、夏の電力消費のピーク前に運転再開する意義を強調した。

 一方、2基の運転再開に要する経費については、2001年9月に起きた米国の同時多発テロを受けて、信頼性向上のための作業が追加されたことなどにより、4億カナダドル台となる見込であり、BP社が当初試算していた3億4,000万カナダドルを上回ることになった。BP社によると、同社はすでにこのうち1億9,500万カナダドルを支出している。

 BP社は英国のブリティッシュ・エナジー(BE)社のカナダ法人であるBEカナダ社(79.8%)、カナダのカメコ社(15%)、ブルース発電所の2労組(合わせて5.2%)がブルース発電所(A:1〜4号機 前出/B:5〜8号機 各84.0万kW、CANDU=運転中)の運転のために設立した会社。2001年5月にCNSCから同発電所の運転認可の発給を受け、同発電所を所有するオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社との間でリース契約締結を完了し、運転者となった。BP社は当初から、ブルースA発電所のうち2基を運転再開する意向を明らかにしていたが、調査の結果、技術的な実行可能性と経済性の面から3、4号機の運転再開を決定していた。(原産マンスリー2001年8月号参照)

[英  国]

BE、原子力発電見通しを下方修正

 ブリティッシュ・エナジー社(BE)は8月13日、2002/2003会計年度の原子力発電見通しを下方修正した。同12日にトーネス1号機(AGR、出力68万2000kW)が、冷却材ポンプの不具合で運転を停止したことが原因。

 2基で構成されるトーネス原子力発電所では、2号機(AGR、出力68万2000kW)も今年5月に同じトラブルで運転を停止したばかり。ダンジネスB1号機(AGR、出力57万5000kW)も8月から保守作業のため運転を停止している。このためBE社は、2002/2003会計年度の原子力発電見通しを、当初予定の675億kWhから630億kWhに大幅に下方修正することを余儀なくされた。なおBE社はトーネス発電所と同じ設計を採用しているヘイシャムB発電所(AGR×2基、出力各67万kW)についても、運転は継続したまま冷却材ポンプの調査を開始した。

 出力50万kWの原子力発電所の運転を1日止めただけで、25万ポンドの損失になるとみられており、トーネス2号機だけでこれまでに2000万ポンドを超える損失が出た計算になる。さらに、冷却材ポンプ関連の修理作業に2500万ポンドがかかるとの見通しを示しており、低迷する電力価格もあいまって、BE社は厳しい状況に立たされた。

 こうした中でBE社は、原子力発電が他電源に較べ高率の事業税を課されていることから、欧州委員会(EC)に対し申し入れを行った。設備容量1000kWあたりの課税額は、ガス・石炭火力9500ポンド、風力5000ポンドに対し原子力は14000ポンド。BE社は、現行の税率は原子力以外の発電事業者に対して政府が助成していることと変わりないと批判。高率な事業税により年間2500万ポンドの余計な支出を強いられていると主張した。BE社の訴えを受けたECの競争当局は、税率が異なる理由を説明するよう英国政府に要請。競争当局は、「欧州連合法に基づき、すべての納税者は公平に扱われるべき」との見解を示している。

 厳しい国内状況に対しBE社の北米事業は好調な業績を維持している。米国ではエクセロン社と合弁事業を、カナダではBE社が79.8%の株式を所有するブルース・パワー社を通じて、ブルースA、B発電所をリース契約で運転している。北米での事業が利益を生んでいるため、BE社は倒産を免れているとの指摘もある。

[フランス]

経済相、EPR建設に言及

 メール経済・財政・産業大臣は7月末に開催された政府の常設委員会の席で、欧州加圧水型炉(EPR)の建設について前向きな決定が近く下されるとの見通しを明らかにした。ラファラン首相が7月はじめに行った施政方針演説では、フランス電力公社(EDF)の部分民営化やエネルギー法策定にむけた公開討論の実施などの施政が示されただけで、新閣僚メンバーが原子力発電所の新規建設について言及したのは初めて。

 総発電電力量の約75%を原子力に依存しているフランスには現在、59基の原子力発電所(PWR58基とFBR1基)が運転(一部試運転中も含む)しているが、建設中・計画中はない。EPRは、フランスのN4シリーズとドイツのコンボイ型を基本に、仏独が共同開発した新型炉。すでに基本設計を終え、サイトを特定し詳細設計に着手する段階にあったが、緑の党が加わった前政権下では建設のための同意が得られなかった。

 メール経済相は、原子力は温室効果ガス削減に最も効果的であり、高レベル放射性廃棄物や長寿命核種の処分・管理も解決できない問題ではないとして、今後とも原子力発電をベースに天然ガスと再生可能エネルギーを組み合わせたエネルギー構成になるとの見通しを示した。再生可能エネルギーについては、水力が現在、最大限に利用されているものの、将来性があるのは太陽光発電と指摘した。また、風力は沿岸に設置する可能性はあるものの、将来の環境影響などに未知数の部分があるとの見方を示した。同相はコジェネレーション(熱電併給)に技術的な関心を寄せながらも、コジェネ電力の買取りをフランス電力公社(EDF)に義務付けることは経済的な負担が大きいとして批判的な見解を述べた。

 このほか、同委員会に出席したフォンテーヌ産業担当大臣は、エネルギー法策定にあたり国民との討論を来年はじめまでにスタートさせ、そこでの意見をふまえて来年末には議会での審議を進めたいとの意向を明らかにした。同相によると、法案の骨子は電力の安定供給と再生可能エネルギーの利用推進の2本柱になるという。さらに、同相は懸案となっている原子力の透明性と安全性に関する草案が産業省と環境省によって現在、作成中であることを明らかにした。

[ドイツ]

商工会議所、原子力発電所の新規建設を要請

 連邦議会(下院)選挙を1カ月後に控え、ドイツ商工会議所(DIHT)は8月中旬、原子力発電所の新規建設の容認などを盛り込んだ、「より持続可能な環境とエネルギー政策のために」と題したエネルギー政策に関する提言をとりまとめた。選挙戦中の各政党に対して原子力や再生可能エネルギーの開発について提言するのがねらい。

 提言では、原子力発電所の新規建設を禁止している現行の原子力法を改め、新規建設を認めるよう強く求めている。原子力法は今春、社会民主党(SPD)と緑の党の連立政権の手によって改正され、運転中の原子力発電所に発電量の上限が設けられたほか、新規建設も禁止となった。DIHTは、より安全な原子炉を開発し運転するというニーズを満たすために、新規建設の禁止は撤回すべきと主張している。また、原子力発電所を段階的に廃止した場合、長期にわたって環境や経済に影響を及ぼすことになると警告している。

 9月22日の総選挙で再選をめざすシュレーダー首相(SPD)と政権奪還をめざす最大野党キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)のシュトイバー首相候補(CSU、バイエルン州首相)は8月25日、ドイツの選挙史上、初めてテレビ討論を行った。討論では、シュトイバー氏が現連立政権が成立させた脱原子力法を批判し、政権を獲得した場合、法改正を行う方針を改めて強調し、首相との対決姿勢を鮮明にした。

[スイス]

通商産業協会、原子力を支持

 スイス通商産業協会(SGV)のTriponez理事長は8月27日、スイス原子力協会(SVA)の年次総会で講演し、原子力は自由化後の電力市場でも引き続き中心的な役割を担うとの見方を示した。同氏の発言は、9月22日に予定されている電力市場自由法案の賛否を問う国民投票をふまえたもの。同氏は、産業界や国民の生活にとっては市場自由化の推進より電力の安定供給や経済性のほうが重要な問題であると指摘。とくに、中小企業には電力自由化が死活問題になりかねないと強調した。

 同氏によると、過去12年間、電力消費が鈍化しているため供給過剰の状態にあるが、このまま設備の拡充がなければ、2010年ごろ電力不足に転じる可能性もある。国民議会(下院)議員でもある同氏は、原子力は40%近い電力を供給しているだけでなく、温室効果ガスの排出削減に貢献するなど、将来にわたり重要な役割を担うとの見解を表明した。さらに、2003年末に実施が予定されている2つの反原子力国民請願(イニシアチブ)が可決され5基の原子力発電所が閉鎖されるようなことがあれば、経済成長が損なわれるとして脱原子力政策に強く反対する姿勢を示した。2つのイニシアチブは、原子力モラトリアムの延長や運転中の発電所に対する運転期間の制限を求めている。

 スイスは欧州連合(EU)に加盟していないため、電力市場を自由化する義務はないが、政府は世界的な自由化の流れに呼応し、段階的な市場開放をめざしている。1999年12月には電力市場法案(EMG法案)が成立し、施行後7年目に電力市場が完全自由化される予定だった。しかし、労働組合や左翼、環境保護団体は失業増や国外企業の参入などを理由にEMG法に反対。電力業界も移行に伴うコスト抑制のため、期間を延長すべきと主張してきた。そうした中で、2001年4月までに国民投票の実施に必要な有効署名数5万を大きく上回る6万6000人の署名が集まり、今年9月22日に投票が実施されることになった。

[ロシア]

ブシェール以外にもイランで原発建設を計画

 ロシア政府は7月26日に公表した「ロシアとイランの2012年までの貿易、経済、産業、科学技術分野における開発協力長期計画の総括」と題されたイランとの経済協力合意文書案の中で、イランに対して、現在建設中のものを含め合計6基の原子力発電所の建設協力を2010年までに行う意向を明らかにした。

 それによると、ロシアがブシェールで現在建設を進めている1号機(VVER-1000 = ロシア型軽水炉、100万kW)と計画中の同2号機(VVER-1000、129万3,000kW)、3・4号機(各VVER-440、44万kW)に加え、同国第2の原子力発電サイトとして検討されているアフワズ(Akhvaz)についても2基(炉型未定、100万kW)を建設するとしている。また、イランでの複数の火力発電所建設、ガス田の開発、ガスパイプライン建設、石油精製施設建設などのエネルギー関連のインフラ整備へのロシアの参加についても明記されている。なお、この合意文書案は、まだ両国によって署名されておらず、現段階では建設中のブシェール1号機以外の原子力発電所建設についての正式な契約は結ばれていない。

 ロシア原子力省(MINATOM)のルミャンツェフ大臣によれば、ロシアはイランに対し、ブシェール1号機に供給する燃料は全てロシアに返還するという条件を提示。今年6月1日にMINATOMとイラン原子力委員会双方の代表がテヘランで覚書に署名した。ロシア側は、覚書を2国間合意に変更した上で、新規の発電所建設契約と合わせてイランと締結したいとしており、8月21日にはロシア側が必要な全ての文書への署名を完了していることを明らかにしている。

 イランでの原子力発電所建設については、同国を「悪の枢軸」の1国と名指ししている米国が、核兵器開発につながるとして懸念を表明しており、ロシアに対してイランでの原子力開発から撤退するように圧力をかけてきた。このため、ロシアは当初、米国の強い反発を考慮して、使用済み燃料の引き取りに加え、ブシェール発電所4基の建設計画が完成した段階で、イランでの原子力発電開発から手を引く考えを示していた。

 しかし、今回明らかにされた経済協力合意文書案で、ロシアがイランでの原子力開発協力をさらに拡大する可能性を示唆したため、米国は7月30日、ロシアとこの問題について話し合うために、エイブラハム・エネルギー長官とボルトン軍備担当次官の2名をモスクワに派遣。ロシアのクレバノフ産業大臣、ルミャンツェフ原子力大臣との協議が行われた。エイブラハム長官は協議後の8月1日、記者会見で、ロシアはブシェール発電所建設を含めイランに対するすべての原子力協力から手を引くべきであると改めて主張し、引き続き米国はこの問題に最大の関心を持っており、憂慮も最高レベルに達していると語った。

 これに対してルミャンツェフ大臣は8月2日、ロシアが示した草案は単に存在する技術的可能性について言及したに過ぎず、実現には政治的なものを含む様々な要素の考慮が必要になるとする声明を発表し、米国への配慮を示した。

 ブシェール発電所はパーレビ国王体制下で当時の西ドイツのKWU社が受注し、74年に129万3,000kWのPWR 2基が着工された。しかし、その後のイスラム革命により西ドイツ政府が建設中止命令を出し撤退。さらにイラン・イラク戦争の勃発により建設が中断した。イラン政府は95年1月、ロシア政府との間で総額8億米ドルのブシェール原子力発電所建設協力契約を締結し、96年1月に1号機としてVVER-1000の建設工事がスタートした。また、2号機についても1号機が完成し次第、正式に契約を結び、建設作業を開始する予定。2号機は、VVER-1000をベースとしながらもKWU社の残した設備を利用したPWRとなる。(原産マンスリー2001年8月号参照)

ブシェール1号機の運転開始がさらに遅れる見通し

 MINATOMのマリシェフ副大臣は8月6日、建設中のブシェール1号機の試運転開始が当初予定よりさらに遅れて2004年6月頃になるとの見通しを示した。同副大臣によれば、燃料装荷はロシアの技術者によって2003年12月に行われる予定。

ロシア側は今年2月、1号機の試運転開始を2003年9月と発表した。しかし、その後、MINATOMのルミャンツェフ大臣は、1号機の完成時期を2003年末または2004年初頭に修正、2005年中には営業運転に入るとしていた。同機は、運転開始後の数年間はロシア側のスタッフにより運転され、その間にイラン側の人材の養成が行われる。

海上浮揚式原子力発電所の建設に向けた作業を継続

 原子力発電運転会社ロスエネルゴアトムは8月13日、海上浮揚式原子力発電所建設にかかわる技術開発作業と建設や輸出に必要な許可の取得をすべて終え、具体的な建設手法についての検討を進めていることを明らかにした。

 共産党機関紙プラウダは5月20日、海上浮揚式原子力発電所の建設作業が開始されたと報じたが、今回のロスエネルゴアトムの発表によると、具体的な着工はまだ先になる見通し。なお、MINATOMは海上浮揚式発電所を白海沿岸のアルハンゲリ州セベロドビンスク市に立地する計画を明らかにしているが、ロスエネルゴアトム側は、具体的な立地点について語るのは現段階では時期尚早であるとしている。

 また、ロスエネルゴアトムによると、ロシアの政府と産業界の関係者からなる代表団が8月中旬に中国を訪問し、海上浮揚式原子力発電所の共同建設と技術移転について中国側関係者と協議を実施。主に、中国の金融、エネルギー、造船分野の企業との協力について、意見が交わされている。

 MINATOMが計画している海上浮揚式発電所は、電気出力6万kW級の熱電併給炉で、かつてソ連海軍向け動力用原子炉として設計された出力3.5万kWのKLT-40型原子炉(PWR)2基を1隻に搭載するというもの。原子力潜水艦を建造している「北部機械製造企業」のドックで建造し、完成後は北部機械製造企業のほか、セベロドビンスク市に電力と熱を供給する構想が当初明らかにされていた。

 MINATOMのアダモフ大臣(当時)は2001年3月13日、アルハンゲリ州政府代表との会合の場で、海上浮揚式原子力発電所を建造する計画を発表。同年12月18日には発電所建設関連予算として、2002年に同州へ1億3,000万ルーブルを割り当てることを決定している。(原産マンスリー2002年6月号参照)

ロシア、ブルガリア、ウクライナの3国が使用済み燃料輸送で協定締結

 ロシア、ブルガリア、ウクライナの3国は8月9日、ブルガリアのコズロドイ発電所(1〜4号機:各VVER-440、44万kW 5・6号機:各VVER-1000、100万kW)の使用済み燃料(SF)を、ウクライナ経由でロシアに輸送する協定に調印した。有効期間は10年間。協定の調印を受けて、ブルガリア政府は8月12日、今年末までには約40tUのVVER-440のSFをロシアのオゼルスク(旧名:チェリャビンスク-65)にある生産合同マヤクの第1再処理工場(RT-1、VVER-440・舶用炉等用。年間処理能力400tU)に輸送するとの見通しを示した。

 ロシアは旧ソ連型の原子炉が稼働しているブルガリアとウクライナから使用済み燃料を受け入れており、2001年の実績は、ブルガリアから64tU、ウクライナから100tU。しかし、2001年末にコズロドイ発電所からVVER-1000のSFをロシアに移送する際に不正が発覚した。解散して存在しない会社が輸送請負代金の受取人になっていたことに加え、SFの中に制御棒が混入していたことが判明したもので、MINATOMのイワノフ副大臣が責任を負い解任される事態となった。以後、ブルガリアからロシアへのSF輸送は中断された。

 EU域内並びに対域外間での放射性廃棄物輸送についての監督と管理を定めた92年2月3日付けユーラトム通達は、技術的、法的、行政的に安全に管理できない国に対して、加盟国が放射性廃棄物を輸出することを禁止しており、SFに関しても、廃棄物と同等の規制を行うことが検討されている。EU加盟後もブルガリアが引き続きロシアへSFを輸送するには、ロシアが輸出先としての条件を満たしていることを欧州委員会(EC)に認定してもらう必要があり、場合によっては輸送が不可能になる恐れもあるため、加盟前にSFをできるだけ多くロシアに輸送したいという思惑が働いた。

 ロシアでは現在、国内で唯一稼働中のマヤクの第1再処理工場でVVER-440のSFの再処理を行っている。年間処理容量400tUに対して、実際の処理量は130〜150tU。また、VVER-1000のSFは、2020年の運転開始を目指してジェレズノゴルスク(旧名:クラスノヤルスク-26)の鉱山化学コンビナートに建設中の第2再処理工場(RT-2、VVER-1000用。年間処理能力1,000〜1,500tU)で再処理する計画で、現在は同コンビナートの貯蔵施設に保管されている。(原産マンスリー2002年8月号参照)


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