[諸外国における原子力発電開発の動向] 主なできごと (2002年8月中旬〜9月中旬) |
英国:BE社が経営危機に直面−苦境に立たされた英国の原子力発電英国電力市場で20%のシェアを占める民営の原子力発電事業者ブリティッシュ・エナジー社(BE)は9月5日、危機的な財政状況にあることを認め政府に緊急の財政支援を要請した。政府は同9日、4億1000万ポンドの緊急融資を発表した。ただ、融資は9月27日までという短期の緊急措置に過ぎず、それ以降の支援について政府は方針を明らかにしていない。 BE社の経営危機は同社が8月13日、2002/2003会計年度(2002年4月〜2003年3月)の原子力発電見通しを大幅に下方修正したあたりから浮上してきた。これは同12日にトーネス1号機(AGR、出力68万2000kW)が、冷却材ポンプの不具合で運転を停止したことが原因。2基で構成されるトーネス原子力発電所では、2号機(AGR、出力68万2000kW)も今年5月に同じトラブルで運転を停止したばかり。ダンジネスB1号機(AGR、出力57万5000kW)も8月から保守作業のため運転を停止している。このためBE社は、2002/2003会計年度の原子力発電見通しを、当初予定の675億kWhから630億kWhに大幅に下方修正することを余儀なくされ、大幅な減益となることが確実となった。 9月5日にBE株の取引を一時停止したロンドン証券取引所は、政府の発表を受け同9日朝よりBE株取引を再開したものの、株価は取引停止前の80.75ペンスから28ペンスに急落。S&PやMoody'sといった格付機関はBE株をそれぞれBB、Ba3の「ジャンク債」に格下げした。なおBE株は、同社が民営化された96年には203ペンスを記録、99年には750ペンスの最高値をつけた。 政府のBE社に対する支援措置を「不公平」とする向きもある。イングランド北部に石炭火力発電所を所有する米AEP社(American Electric Power社、英電力市場で8%のシェアを持つ)は、ウィルソン・エネルギー担当相に宛てた書簡の中で、政府のBE社に対する救済措置を厳しく批判した。AEP社は、英国内の卸電力価格の下落は供給過多が原因であり、破綻に直面したBE社はコスト高な自社の発電設備を閉鎖すべきであるとした上で、自由化された電力市場において、政府が1私企業を支援することは市場に悪影響を与え、将来的には英国市場への外資の導入にも影響する、と主張した。 90年代に英国市場に進出したAEP社は、98年以降の電力価格の大幅な下落を受け苦境に立たされている。2001年には、所有する2発電所に6億5000万ポンドの資金投入を余儀なくされており、発電所の売却先を模索しているのが実状。金融アナリストらは、現在のレベルで電力価格が推移すれば1年以内にほとんどの独立系発電事業者(IPP)が赤字に転落すると分析している。 自由化当初の強制プール市場では、ベースロードの原子力は必ず引き取られるように価格を定めずにプールに入札、全体の需給バランスで決定される価格(ピーク用ガス火力に引っ張られて高値になる)で決済されていた。その後、プール制は売り惜しみなどが問題となり、2001年3月に新電力取引制度(NETA)に移行した。NETAは相対取引と1日前市場、リアルタイム市場のスポット取引を組み合わせたもので、原子力はスポット取引には不適なため、BE社はほとんどを相対契約に切り替えて販売している。しかし供給過剰によるスポット取引価格の低下に引きずられ相対契約価格も下落し、BE社は発電コストと販売価格の逆鞘を抱えることになった。原子力発電所は一定した稼働率で運転しなければならないため、卸電力価格の低迷による影響は、他の発電事業者に比べてBE社の方がはるかに大きい。傘下に小売企業を持たないため、卸価格の損失を補う有利な小売契約を結べないこともマイナス要因になっている。 このほかにもBE社の経営を圧迫している要因がある。
こうした事実は、BE社の経営危機が起こるべくして起こったということを浮き彫りにしている。これはすでに1企業の問題ではなく、将来の電力供給と原子力の位置付けをどうするかというエネルギー政策の問題になっている。ウィルソン・エネルギー担当相は、年内に発表される予定のエネルギー政策にNETAや気候変動税の問題を取り上げる意向を示している。また野党保守党も声明の中で、再処理契約の見直しや、原子力を気候変動税の控除対象に加えることを提言している。 [終わり]
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