[諸外国における原子力発電開発の動向]
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英政府、エネルギー政策を発表

 政府は2月24日、懸案となっていたエネルギー政策(白書)を発表した。2002年2月に公表された長期エネルギー政策に関する内閣府パフォーマンス&イノベーション部(PIU)による報告書をもとに、各界からの意見をとりまとめたもので、@2050年までにCO2排出量を60%削減、A再生可能エネルギーのシェアを2010年までに10%、2020年までに20%にする――ことなどを盛り込んでいるが、王立協会など専門家組織が強く主張していた原子力発電の推進の意見は取り入れられず、「原子力発電オプションは堅持する」との表現にとどまった。

 今回発表されたエネルギー白書は、2050年までをにらんだ英国のエネルギー戦略を明確にしており、再生可能エネルギーと省エネの拡大の重要性を強調。CO2排出権取引システムの導入や政府による資金援助を通じて省エネの拡大と、環境負荷の少ない技術開発へのインセンティブを与えるとしている。

 一方で、原子力に対する扱いは予想以上に小さく、再生可能エネルギーと同じくCO2を排出しないにも関わらず、インセンティブは与えられていない。また、原子力発電事業者であるブリティッシュ・エナジー(BE)社の経営悪化の一因として指摘されている気候変動税の変更も全く盛り込まれていない。気候変動税は、CO2を排出する電源に課される税だが、原子力発電に対しては発電電力量1kWhあたり0.43ペンスの気候変動税が課されている。この問題に関し野党保守党は2002年10月、原子力発電を気候変動税の対象から除外すべきと勧告。またOECD/IEA(国際エネルギー機関)も同10月、原子力に気候変動税を課す英国政府の姿勢を強く批判していた。

 白書のシナリオによると、2020年時点でほぼ全ての原子力発電所が運転寿命を迎えるが、CO2排出量削減目標達成のために原子力発電所の新設が必要とされるケースがあればいずれ再検討する、との表現にとどまった。これについて貿易産業省のスポークスマンは、「あくまでも事業者が新規建設を申し入れることが条件であり、再検討する時期も原子力産業界次第」としているが、英国の主要な原子力事業者である英原子燃料会社(BNFL)は政府所有の国営企業であり、民間のBE社も現状では政府の支援下に置かれていることを考えると、ブレア政権による原子力政策におけるリーダーシップの放棄と受け取る向きもある。

 王立協会は声明を発表し、温暖化防止に取り組む政府の姿勢を評価しながらも、政府の唱える2020年までに再生可能エネルギーのシェアを20%に上げるとした楽観的なシナリオを仮に受け入れたとしても、現在の原子力発電設備容量の3分の2を賄うことができないと指摘。原子力発電所の新設計画がない現状では、2020年までに既存の原子力発電所のほとんどが運転を停止してしまうため、電力不足を化石燃料で補わざるを得ないとの見解を示した。

 王立工学アカデミーも、政府の温暖化防止対策は非現実的と非難。出力が不安定な再生可能エネルギーのシェアが15%前後に達すると、系統安定性が大きく損なわれ、系統安定性を維持するためのバックアップ用として1600〜1900万kWの在来発電設備が必要となり、そのためには10億ポンドのコストがかかると指摘した。

 英原子力産業会議(BNIF)も、「英国のエネルギー政策を方向転換する機会を逸した」とし、再生可能エネルギーや省エネに過度に依存する政府の姿勢を非現実的であると非難した。

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