[諸外国における原子力発電開発の動向]
主なできごと (2003年3月中旬〜5月中旬)

スイス:2つの反原子力イニシアチブ、国民投票により否決

―欧州の脱原子力の流れに歯止め

 5月18日に実施された国民投票の結果、新規原子力発電所の建設凍結(モラトリアム)や段階的な原子力発電所の閉鎖を求める2つの反原子力国民請願(イニシアチブ)はいずれも約6割の反対によって否決された。2つのイニシアチブは、市民団体である「モラトリアム・プラス(MP)」と「パワー・ウィズアウト・ニュークリア(PWN)」が99年末、それぞれ10万人を超える署名を集めて国に提出した。MPは原子力発電所の新規建設をさらにあと10年間、凍結した上で、運転中の5基の原子力発電所の出力増強を禁止し、運転期間を40年間に制限することを提案した。PWNは運転中の原子力発電所のうち、比較的古いベツナウ1、2号機(PWR、各38万kW)とミューレベルク(BWR、37万2,000kW)の3基はイニシアチブ可決後2年以内に、残りの2基は30年間の運転後に閉鎖するほか、再処理も禁止することを提案した。

 MPの提案に対しては反対が134万1,512(58.4%) 、賛成が95万5,593(41.6%)で、バーゼル・シュタット、バーゼル・ラント両準州が賛成票が反対票を上回った。PWNの提案に対しては反対が154万164(66.3%)、賛成が78万3,718( 33.7%)で、バーゼル・シュタット準州だけで賛成票が反対票を上回った。イニシアチブは、「賛成」が投票総数の過半数を占めると同時に、23州(20州と6準州)のうち過半数以上の州が「賛成」した場合に成立する。今回の国民投票は、2つの原子力案件を含めて130年ぶりとなった過去最多の9件について是非が問われた。投票率は48.3%だった。

 スイスでは、チェルノブイリ事故後の1990年に実施された国民投票により、2000年までの10年間は原子力発電所を新規に建設しないことが決まった。このため90年代後半に入り、モラトリアムの効力が切れる2000年以降の原子力政策を見据えた動きが政府、市民団体から起こった。政府は原子力法改正に着手、議会では今年3月に新原子力法を承認している。改正法は、既存の原子力発電所に運転期限を設けないことや、新規建設については国民投票を実施することなど、将来の原子力開発を推進する施策が盛り込まれている。今回、2つの反原子力イニシアチブが否決されたことにより、同法の発効手続きが引き続き行われることになった。

 この結果について、エネルギー担当のロイエンベルガー大臣は原子力に対する国民の信頼が増したことを評価しながらも、原子力発電所が今後10年間に新設される可能性はないとの見方を示した。これに対し、スイス原子力協会(SVA)は、有権者が現在のエネルギー構成(水力6:原子力4)を環境や経済、電力の安定供給の観点から優れていると判断したためと分析する一方、原子力発電所が安全性とは無関係な一部の強硬派の妨害から解放されたとして歓迎した。

 スイスの原子力発電所が閉鎖された場合の経済的影響については、ドイツのブレーメン・エネルギー研究所が2001年に試算結果を公表している。それによると、既存炉を50〜60年間、運転するケースに比べて、原子力発電所を即時閉鎖した場合は約621億スイスフラン(約4兆4,000億円)、運転期間を40年に制限した場合は約462億フラン(約3兆円)の追加費用がかかる。これらは、主に再生可能エネルギーの導入や大がかりな効率化を実施するためのコスト。

 SVAによると、2002年の原子力発電電力量は、過去最高となった2001年を1.5%上回る257億kWhを記録した。平均稼働率も約92%以上の好成績をおさめた。アルプス山系を抱えるスイスでは、水力が主要な電源として総発電電力量の約6割を占めるが、冬期はダムが凍結するため、10月〜3月は原子力シェアが約45%と増える一方、消費電力の約15%を輸入に依存しなければならない。

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