[諸外国における原子力発電開発の動向]
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米原子力規制委員会、ウエスチングハウス社の新型炉AP-1000で予備的安全評価報告書

 米原子力規制委員会(NRC)は6月17日、ウエスチングハウス社(WE)の新型炉AP-1000(PWR、出力:110万kW級)の予備的安全評価報告書(DSER)をとりまとめた。WE社は2002年3月にAP-1000の設計認証をNRCに申請していたもので、AP-1000は設計認証(Design Certification)の発給に向けて大きく前進した。

 NRCは今後2004年9月をメドに安全評価作業を終え、同10月までに設計承認(Design Approval)を行う計画で、設計認証は2005年12月までに発給される見通しである。

 AP-1000は、1999年12月に設計認証が発給されたAP-600(60万kW級)をスケールアップした新型炉。AP-600は、格納容器内部(原子炉圧力容器上部)に設置された非常用冷却水タンクからの重力による冷却水注入や自然対流による崩壊熱除去といった受動的安全性を導入しており、ポンプやバルブ、非常用ディーゼル発電機などへの依存度を大幅に低下(バルブ数が80%減、大型ポンプ数が35%減、ケーブル長が70%減)。AP-1000も同様の特長を備えている。

 また、主要機器の工場生産(モジュール工法)の導入により、工期も36ヶ月と短縮化され、資本コスト(建設コスト)では1000ドル/kWh、発電コストも3.5セント/kWhと大幅な低下が見込まれており、複合サイクル・ガス火力に対しても十分な競争力を持つ。

さらに、安全性も炉心損傷の発生確率(年間)が4×10-7と、現行炉の1×10-5から大幅に向上している(NRC基準は1×10-4)。

 AP-1000の開発には、WE社のほか日本の三菱重工(炉心開発設計、系統開発設計、機器開発設計)、フランス電力公社(補機設計)、英国原子燃料会社(燃料設計)も参画している。

 米国の原子力産業界は、2010年から2020年にかけて、既存の原子力発電所の新型炉によるリプレイス(合計で5000万kW程度)が本格化すると見込んでおり、WE社も今回のDSERについて、「米国での原子力発電所の新規建設に向けた大きな一歩。2004年後半〜2005年内に設計認証発給が期待でき、電力会社の新規発注に間に合わせることができる」(S.トリチ会長・最高経営責任者:CEO)と歓迎している。

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 米国では、1970年代から80年代にかけて合計97基(合計出力:1億699万7000kW)の原子力発電所の発注がキャンセルされているが、その最大の理由の1つは、リードタイム長期化による投資リスクの増大に電力会社が躊躇したためである。

 原子力発電所は、他の電源に比べて発電コスト全体に占める資本コストの比率が高い。とくに、キャンセルが相次いだ70年代後半から80年代前半にかけては第二次石油ショックの余波による物価上昇のため金利が高騰。リードタイムの長期化による金利負担の増大は原子力発電所の経済性(競争力)を大きく低下させた。さらに、1979年3月のスリーマイルアイランド原子力発電所の事故もあり、完成後、運転認可申請中の原子力発電所に対する訴訟(設計の安全性などを理由とした運転差止訴訟)が相次ぎ、リードタイムはさらに長期化した。

 リードタイム長期化の原因の1つは、当時の米国の許認可制度にあった。当時は原子力発電所の建設許可と運転認可が別々だったため、訴訟やNRCによる設計変更の要求などで、巨額の投資をして完成させた原子力発電所の運転認可発給が大幅に遅延するケースが多かった。

 こうした許認可制度上の欠陥を是正するため、NRCは1989年に許認可制度の見直しを行い、@標準型炉の設計認証(Advanced Design Certification)、A事前サイト許可(Early Site Permit)、B一体許認可方式(Combined License:?COL)――を骨子とした新たな制度が1992年エネルギー政策法(1992 Energy Policy Act)の中に盛り込まれた。

 標準型炉の設計認証は、NRCにより標準型炉として認定された炉型をサイト特有のものを除いて設計上の安全問題が全てクリアーされているとみなすというもの(完成後の訴訟やNRCによる設計変更要求から解放)。2003年7月現在、ゼネラル・エレクトリック社のABWR、ウエスチングハウス社のシステム80+とAP-600が設計認証を受けている(設計認証は15年間有効)。

 事前サイト許可は、電力会社が事前に将来の原子力発電所の建設予定地を確保(banking)できる制度で、同許可の発給にあたってはサイトの適性、緊急時計画、環境影響等が事前に評価(公聴会も含む)されたとみなされる(サイト関連の訴訟等から解放)。

 一体許認可は、事前サイト許可を得ているサイトに設計認証を受けた標準型炉を建設する場合、建設前に建設・運転の一体認可が発給される方式。サイトと設計に関する事項はすでにクリアーされているとみなされ、COLにおけるNRCのレビューと公聴会は、原子力発電所の所有権や組織、運転計画等に限られる。原子力発電所は、完成後、ITAACプロセスと呼ばれる安全基準(Acceptance Criteria)の適合に関するNRCによる検査(Inspection)、試験(test)、分析(Analysis)を受けるだけで運転開始することができる。

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