[諸外国における原子力発電開発の動向]
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MITとハーバード大、原子力発電の将来展開で報告書
経済性、核拡散抵抗性からワンススルー・サイクルの優位を強調

 米国のマサチューセッツ工科大学(MIT)とハーバード大は7月29日、今後50年間、世界の電力需要をカーボン・フリーの原子力発電で対処するための具体的な方策を提案した「原子力発電の将来」(The Future of Nuclear Power)と題する報告書を発表した。

 同報告書は、今後50年間を対象に地球温暖化防止とエネルギー供給確保を両立できる電源オプションの1つとして原子力発電を維持していくための具体的な行動を検討・評価したもの。元エネルギー省(DOE)次官のJ.ドイチ氏を共同座長とする研究チームが2年間をかけてとりまとめた。

 同報告書では、この目標を達成できる世界の原子力発電利用の規模を2050年時点で合計10億kW(現在は合計約3億7000万kW)とした「地球規模の原子力発電の成長シナリオ」を想定(これにより天然ガス火力の代替で年間約8億トンC、石炭火力で約18億トンCの二酸化炭素排出量を削減できる計算になる)。このシナリオの実現に向け、現在、原子力発電が抱えている問題を洗い出すとともに、その解決策を提言している。

 同報告書では、まず、燃料サイクル路線について、@ワンススルー、Aプルサーマル、B高速増殖炉によるリサイクルの3つを比較。現在、世界のウラン資源は、合計出力10億kWの原子力発電所をワンススルーで半世紀以上にわたり運転するのに十分な資源が存在し、バックエンドも含めたリサイクル路線のコストはワン ススルーの約4.5倍にも達すると指摘。米エネルギー省(DOE)が2003/04年度からスタートする先進的燃料サイクル・イニシアティブは原子力発電の競争力を低下させるとし、「研究開発の重点をワンススルー・燃料サイクルに置くべき」と勧告している。

 また、経済性についても、工期短縮や建設費および運転・保守費の削減などを考慮しても、石炭火力や複合サイクル天然ガス火力よりも割高になると試算。炭素税の導入や排出権取引、カーボンフリー・ポートフォリオ(一定割合の二酸化炭素を排出しない電源構成の義務付け)などによる原子力発電の相対的な競争力を確保するとともに、「原子力発電所の新規建設のインセンティブとするため、最初の10基に補助金(発電税の控除)を交付すべき」としている。

 安全性については、再処理施設に対する確率論的安全評価(PSA)などの安全解析が不十分とし、「燃料サイクル施設の耐用年数全体を通した安全・健康影響分析・安全基準の強化」を勧告するとともに、発電炉については、「今後20年以内に展開可能な固有安全性を有する新型軽水炉や高温ガス炉の開発に注力すべき」としている。

 廃棄物問題については、「これまでの政府(DOE)のバックエンド研究開発がヤッカマウンテンに集中し過ぎている」と批判。また、DOEの先進的燃料サイクル・イニシアティブについても、「群分離・消滅処理のメリットばかり強調し、それに伴う安全性や核拡散上のリスク、コストなどを軽視した廃棄物管理についての検討は説得力に欠ける」とし、ワンススルー・燃料サイクルの研究開発の必要性をくり返すとともに、高深度ボーリング孔処分など新たな地層処分技術の開発を提言している。さらに、核拡散抵抗性の面も含め、「使用済み燃料のサイト内貯蔵を数十年間、使用済み燃料を(集中中間保管施設で)保管する明確な戦略に置き換えるべき」としている。

 また、核拡散問題については、「国際原子力機関(IAEA)は保障措置業務に専念すべきであり、申告された施設だけではなく、疑いのある施設も査察の対象とすることができるように権限を与えられるべき」とIAEA保障措置の機能強化を訴えるとともに、バックエンド問題と合わせて、「国際的な使用済み燃料貯蔵ネットワークの確立に向けた国際協議をスタートし、今後10年以内に実現すべき」と提案している。

 同報告書は、将来、原子力発電が地球温暖化防止とエネルギー安定供給に貢献できるようにするためのスタディ・ケースであり、原子力発電の開発予測や各発電オプションの比較ではない。ただ、その前提となっている「2050年時点の原子力発電設備容量が10億kW」というのはあまり現実的とは言い難い想定であり、2002年12月にDOEが発表した「2003年版世界エネルギー見通し」(IEO2003)の予測(2025年で3億6600万kW)からも大幅にかけ離れている。また、燃料サイクルに対するスタンスも、現政権の原子力政策とずれがあり、カーター政権以来の米国の原子力政策を墨守しているという印象は否めず、一種の「思考実験」とみることもできる。(7月29日)


*同報告書は、下記のマサチューセッツ工科大学のホームページから全文を入手することができる(http://web.mit.edu/nuclearpower)。また、今月号では、データファイルとして同報告書の第1章「―原子力発電の将来―概要と結論」の翻訳を掲載している。

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