[諸外国における原子力発電開発の動向]
主なできごと (2003年9月中旬〜10月中旬)

エクセロン社とドミニオン社、初の事前サイト許可(ESP)をNRCに申請

クリントン、ノースアナの2地点に新規原子力発電所の建設用地を確保

 エクセロン・ジェネレーション社とドミニオン・エナジー社は9月25日、クリントン・サイト(イリノイ州)とノースアナ・サイト(バージニア州)に将来、新規原子力発電所を建設するための事前サイト許可(ESP)を米原子力規制委員会(NRC)に申請した。

 米国で実際に事前サイト許可が申請されたのは、1992年の同制度の導入以来、今回が初めて。NRCの審査は33ヵ月程度かかるとみられており、2005年にも完了する見通しである。

 現在、両サイトでは、クリントン原子力発電所(BWR、97万5000kW)とノースアナ1、2号機(PWR、1号機:97万1000kW、2号機:96万3000kW)が運転中で、いずれも1980年代に建設がキャンセルされたクリントン2号機(BWR、93万3000kW、1983年にキャンセル)とノースアナ3、4号機(PWR、90万7000kW×2基、3号機が1982年、4号機が1980年にキャンセル)が計画されていたサイト。近年、米国では、地球環境に対する懸念の高まりや設備利用率の著しい向上から原子力発電が再評価されてきているが、今回の両サイトの事前サイト許可の申請は、こうした「原子力発電ルネサンス」(原子力発電の再活性化)を象徴する動きとみることができる。

 事前サイト許可は、米国で原子力発電所の新規建設のネックとなっていたNRCの認可手続きの是正を目的としたエネルギー政策法の改正で導入された3つの新制度(「標準型炉の設計認証」1)、「一体許認可方式」2)、「事前サイト認可」)の1つ。電力会社は将来の原子力発電所の建設を見越して用地を事前に確保(バンキング)でき、ESPが発給されたサイトの環境影響評価と緊急時計画がクリアーされているとみなされ、建設決定から運開に至るリードタイムを大幅に短縮できる。

 エクセロン・ジェネレーション社とドミニオン・エナジー社は、2002年に事前サイト許可の申請を決定し、これまで地元での説明会などの準備作業を進めていた。このほか、エンタジー・ニュークリア社も、現在、グランドガルフ原子力発電所(BWR、130万6000kW)が運転中のグランドガルフ・サイト(ミシシッピ州)の事前サイト許可の申請を準備中である。

 エクセロン・ジェネレーション社は、クリントン原子力発電所のほか、ブレードウッド1、2号機(PWR、1号機:125万8000kW、2号機:119万5000kW)、バイロン1、2号機(PWR、1号機:125万7000kW、2号機:123万4000kW)、ドレスデン2、3号機(BWR、2号機:91万2000kW、3号機:82万4000kW)、ラサール1、2号機(BWR、1号機:119万kW、2号機:119万1000kW)、クアドシティーズ1、2号機(BWR、1号機:81万5000kW、2号機:82万kW)、リメリック1、2号機(BWR、119万kW×2基)、オイスタークリーク原子力発電所(BWR、65万4000kW)、ピーチボトム2、3号機(BWR、2号機:114万kW、3号機:114万4000kW)、スリーマイルアイランド1号機(PWR、88万kW)の17基(合計出力:1786万9000kW)を運転する米国最大の原子力発電会社。

 一方、ドミニオン・リソーシーズ社も、ノースアナ1、2号機のほか、サリー1、2号機(PWR、1号機:84万2000kW、2号機:84万7000kW)、ミルストン2、3号機(PWR、2号機:90万8000kW、3号機:120万9000kW)の6基(同:574万kW)を要する米国屈指の電力会社である。

 米国では、1990年代の電力市場の自由化・規制緩和に伴う事業再編の一環として、ワンサイト・シングルユニットのような競争力に劣る原子力発電所を売却、原子力発電事業から撤退し、送配電事業等に特化する電力会社が相次いだ。一方、複数の原子力発電所を所有・運転し、優れた運転管理能力とスケールメリットを持つ電力会社によるこうした原子力発電所の買収・統合も進展している。今回、事前サイト許可を申請したエクセロン・ジェネレーション社とドミニオン・エナジー社、申請準備中のエンタジー社もこうした原子力発電ビジネスの「勝ち組」企業の1つである。

 米国では、スリーマイルアイランド事故による安全規制の強化とそれに伴う設計変更、非効率的な許認可手続きや相次ぐ訴訟によるリードタイムの長期化の結果、原子力発電の競争力が急速に低下。第二次石油ショックによる電力需要の低下もあり、1970年代後半から1990年にかけて合計97基(合計出力:1億699万7000kW)の原子力発電所の建設がキャンセルされた(参考資料1)。

 両社とも、「今のところ、事前サイト許可を申請したサイトへの原子力発電所の建設計画はない」としているが、事前サイト許可は20年間有効(さらに20年間の更新も可能)。また、これまでキャンセルされたサイトの中には、クリントンやノースアナと同様、現在、原子力発電所が運転中または建設工事が中断されたサイトが18あり、将来的にこれらのサイトの復活も十分に考えられる。

 なお、サザン・ニュークリア・オペレーティング社(SNC)は9月15日、米原子力規制委員会(NRC)に対して同社が運転するJ.M.ファーリー1、2号機(PWR、1号機:87万7000kW、2号機:88万4000kW)の運転認可の20年間延長を申請した。現行の同発電所の運転認可はそれぞれ、1号機が2017年6月25日、2号機が2021年3月31日まで有効で、NRCはSNC社が提出した更新申請書に審査上必要な項目が含まれているかどうかをチェックした後、公聴会を開催する。(9月25日)


1) NRCにより標準型炉としての設計認証(15年間有効)が発給されれば、その炉型は安全問題が全てクリアーされているとみなされる(サイト固有の問題を除く)。2003年9月現在、ゼネラル・エレクトリック社のABWR、ウエスチングハウス社のシステム80+とAP-600の3設計が標準型炉としての設計認証を受けており、AP-1000が審査中である。

2) 一体許認可方式は、事前サイト許可を得ているサイトに設計認証を受けた標準型炉を建設する場合、建設前に建設・運転の一体認可が発給される。サイトと設計に関する事項はすでにクリアーされているとみなされ、原子力発電所は、完成後、ITAACプロセスと呼ばれる一種の供用前検査だけで運開できる。


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