[諸外国における原子力発電開発の動向]
話題を追って

フランス原子力庁(CEA)、再処理・リサイクルに否定的なMIT報告書に反論

 フランス原子力(CEA)は9月17日、7月の米マサチューセッツ工科大学(MIT)とハーバード大学の報告書「原子力発電の将来」(The Future of Nuclear Power)に対する反論をとりまとめた。

 同報告書は、「今後50年間で世界の原子力発電設備容量を現在の3倍の10億kWに拡大する」との想定(「地球規模での原子力発電利用拡大シナリオ」)に基づき、ワンススルー(直接処分)と再処理・リサイクルの経済性、核拡散抵抗性の比較を含め、原子力発電利用の拡大に必要な方策について検討・評価したもの。

 具体的には、@ワンススルーでこの「シナリオ」を実現するのに十分な安価なウラン資源は十分ある、Aバックエンドも含めた再処理・リサイクルのコストはワンススルーの約4.5倍にも達する、B米エネルギー省(DOE)やフランスが研究開発を進めている核種分離・消滅処理(P&T)などの先進的燃料サイクル計画は原子力発電の競争力低下をもたらす、C深地層処分場の建設のみに重点を置くだけではなく、高深度ボーリング孔処分など新たな処分オプションの研究開発も実施すべき――などとし、「経済性、エネルギー供給安全保障や核拡散抵抗性の観点から再処理・リサイクルは正当化され得ない」との結論を導いている。

 今回、CEAがとりまとめた反論では、これまでに1万8000トンHMあまりの使用済み燃料を再処理し、60トンあまりのプルトニウムをリサイクルするという産業規模の再処理・リサイクルで実際の経験を有するフランスの立場から、MIT報告書の内容を批判している。MIT報告書の内容とCEAの反論の骨子は次の通りである:

*                *

1. ウラン資源

MIT報告書

「・・・世界には、ワンススルーで「地球規模での原子力発電利用拡大シナリオ」(以下、「シナリオ」)を現実のものとできる安価なウラン資源が十分あり、経済性、核拡散抵抗性でワンススルーに劣る再処理・リサイクル路線をあえて選択する必要はない」

CEAの反論

 「シナリオ」通り、合計出力10億kWの原子力発電所を40年間運転するには約800万トンUのウラン資源が必要である(運転期間を60年間とした場合だと約1200万トンU)。しかし、経済協力開発機構(OECD)と国際原子力機関(IAEA)のレッドブック(RED BOOK)によれば、130ドル/kgU以下の確認資源量(Known Conventional: KC)と推定追加資源量(UEAC)は、それぞれ390万トンU、230万トンUしかない。「シナリオ」のウラン需要を満たすには、高コストの確認資源量とより高コストの推定追加資源量が必要となり、ウラン価格の大幅な上昇は避けられない。ウラン価格が上昇すれば、相対的に再処理・リサイクルの競争力が高まる。「ウラン資源は十分にある」という同報告書の主張は、ワンススルーを実現可能とするために逆に導き出された期待に過ぎない。

2. 原子力発電の経済性

MIT報告書

「・・・推定では、原子力発電コストは新型炉による経済性の改善を考慮しても6.7〜4.2セント/kWhであり、石炭火力(4.2セント/kWh)と同等、あるいは複合サイクル・ガス火力(5.6〜3.8セント/kWh)と比べて競争力に劣る」

CEAの反論

 欧州で実施された発電コストの競争力に関する複数の調査では、いずれも欧州に新規建設される原子力発電所の発電コストは22〜32ユーロ/MWhと複合サイクル・ガス火力よりも20%低いとの結果が得られている。さらに、温室効果ガス排出に伴う外部コストの内部化により、欧州の原子力発電所の複合サイクル・ガス火力発電所に対する競争力はさらに高まると見込まれている。

3. 再処理・リサイクルの経済性

MIT報告書

「・・・中間貯蔵・最終処分も含めた燃料コストは、再処理・リサイクルがワンススルーの約4.5倍になる。ワンススルー・サイクルの廃棄物管理技術の進歩により、より小さいリスクで、核種分離・消滅処理を柱とした先進的燃料サイクルと同等以上のベネフィットを享受することができる」

CEAの反論

 MIT報告書の燃料サイクル・コストの計算方式に問題がある。MIT報告書では、使用済みウラン酸化物(UOX)燃料の再処理に関わる全てのコストをMOX燃料のコストとしてプルトニウム・リサイクルのkWhあたりのコストを評価している。言い換えれば、MIT報告書が実際に比較しているのは、燃料サイクルのバックエンド・コスト(再処理・リサイクルのコストと直接処分のコスト)ではなく、燃料サイクルのフロントエンド(使用済み燃料から得られたプルトニウムのコストとウラン鉱のコスト)である。この計算方式だと、実際の再処理・リサイクルのコストよりも大幅に高くなってしまう。

 また、4.5倍という数値は、MOX燃料(「シナリオ」では、原子力発電量全体に占めるMOX燃料の割合を16%と想定)に限ったものである。何より、MIT報告書自体、「再処理・リサイクルにより、原子力発電コスト全体としては5.15ミル/kWhから7.91ミル/kWhに上昇する」と計算しているが、この増加は4.5倍ではなく50%(1.5倍)である。

 原子力発電コスト全体に占める燃料コストの割合は小さく、たとえ再処理・リサイクルでコストが増加するとしても、発電コスト全体からみればきわめてわずかに過ぎない。

 また、MIT報告書は、先進的燃料サイクルの廃棄物管理のベネフィットを過少評価している。具体的には、長寿命高レベル廃棄物のガラス固化により1万年以上の長期にわたる安全な管理が可能となるほか、廃棄物量を削減することで必要となる処分場の容量を低下できる。

4. バックエンド・オプションとパブリック・アクセプタンス

MIT報告書

「・・・核種分離・消滅処理技術により、放射性廃棄物が放射毒性を持つ期間が数千年から数百年に短縮されたとしても、処分場の建設や廃棄物輸送に対する地元の反対にはあまり影響しない」

CEAの反論

 フランスのこれまでの経験、また、世界的にみても短寿命廃棄物の処分場の立地は、最終地層処分場と比べて、一般的に大幅に容易である。核種分離・消滅処理により高レベル廃棄物が放射毒性を持つ期間を数万年単位から数百年単位に短縮化できれば、フランス国民のパブリック・アクセプタンスが大幅に改善されるだけでなく、フランスのバックエンド政策も大転換し得る。

5. バックエンド・オプションの安全性

MIT報告書

「・・・長寿命核分裂生成物は、長期的な被曝リスク要因として大半のアクチノイドよりも重要である。また、核種分離・消滅処理では、高レベル廃棄物以外にも大量の廃棄物が発生し、その大半が半減期が長いため、結局、高レベル廃棄物の最終処分場に処分されることになる」

CEAの反論

 MIT報告書は、将来における人間の地層処分場への侵入という長期的なリスクを無視している。放射性廃棄物の長期的な放射毒性は重要な基準であり、使用済み燃料の長期的な放射毒性の面で長寿命核分裂生成物よりも重要度の高いアクチノイドを無視することはできない。高レベル廃棄物からのプルトニウムの除去―可能であれば全てのアクチノイドの除去―は、地層処分場の長期リスクのコントロールの面から最大の要素といえる。

 また、「大量の廃棄物が…」という定量的な主張は完全に間違っている。現在、再処理に伴い発生する最終的にコンディショニングされた長寿命廃棄物(長寿命の高レベル廃棄物を含む)は1トンHMあたり0.5m3以下で、ワンススルー・オプションの4分の1以下である。このうち、ガラス固化された長寿命高レベル廃棄物そのものは0.15 m3/トンUで、ワンススルーでの使用済み燃料の15分の1に過ぎない。また、残りの高レベル廃棄物以外の廃棄物は、高レベル廃棄物と比べれば発熱量が小さくであり、処分場の容量を大幅に節約できる。

6. 高深度ボーリング孔処分による処分

MIT報告書

「・・・高深度ボーリング孔処分は地層処分方式として有望であり、DOEはヤッカマウンテンだけではなく、こうした新しい処分オプションの研究開発にも予算を配分すべきである」

CEAの反論

 高深度ボーイング孔処分方式は、少なくてもフランス、おそらくは欧州諸国の大半で、パブリック・アクセプタンスの観点から考慮に値しない。その理由としては、まず、処分前のサイト特性調査と処分後のモニタリングが不可能であるとともに、処分した廃棄物の回収もできない点があげられる。何より、深地層処分方式が効果的なモニタリングと回収可能性を持つ安全かつ現実的な処分方式であることは国際的にも合意されている。MIT報告書の主張は、「放射性廃棄物処分のための適切な解決策がまだ研究されていない」という誤解をもたらしかねない。

7. 使用済み燃料の長期貯蔵

MIT報告書

「・・・処分場の容量を増加させるには、単純に発熱性の放射性核種が崩壊するまで使用済み燃料の定置(地層処分)を先延ばしする方が、核種分離・消滅処理よりも低コストである」

CEAの反論

 実際問題として、「シナリオ」でワンススルー・オプションをとるとすれば、使用済み燃料の長期貯蔵は避けられない(米国だけでもヤッカマウンテン級の施設を12年ごとに建設しなくてはならない)。使用済み燃料の長期貯蔵には、将来、新たに開発される技術を利用できるなどプラスの側面もあるものの、本質的には問題の先送りに過ぎず、何よりも問題なのは、原子力発電開発の最大の課題であるバックエンドに対する国民の懸念に全く応えていないことだ。さらに、使用済み燃料の崩壊熱の低下に伴い処分容量も増加するが、核物質防護のバリアとなっている放射毒性も低下してくるため、使用済み燃料からのプルトニウムの回収が容易になり核拡散リスクも高まる。

8. 核拡散抵抗性

MIT報告書

「・・・現在、西欧や日本で採用されているプルトニウム還元抽出法(PUREX)は、核拡散抵抗性上、問題がある」

CEAの反論

 核拡散抵抗性に関するMIT報告書の主張は、根拠に乏しく、単なる一般論以上の何者でもない。また、同報告も指摘しているフロントエンドの核拡散リスクに関する主張(核物質転用に最も魅力的な核物質は、プルトニウムではなく高濃縮ウランである)とも矛盾がみられる。MIT報告書は、使用済み燃料処分場が将来ずっと「プルトニウム鉱山」であり続け、そこから核兵器に転用するためプルトニウムが取出されるかもしれないというワンススルーの使用済み燃料に関連した長期的リスクについての議論に欠けている。(9月17日)


原産マンスリー11月号では、フランス原子力庁の了承を得て、データファイルとして反論の全文を翻訳・掲載している。


NRC、パロベルデ2号機の11万4000kWth(2.9%)の熱出力増強を承認
米国では2007年までに35基(680万9000kWth)が出力増強を計画

 米原子力規制委員会(NRC)は10月2日、アリゾナ・ニュークリアパワー・プロジェクト社(APS)のパロベルデ2号機(PWR、127万kW)の11万4000kWthの熱出力増強(2.9%)を承認した。

 今回、熱出力増強が認められたことで、パロベルデ2号機の電気出力は、現在の127万kWから132万5000kWとなる。同2号機は現在、燃料交換・定期検査のため停止中だが、今後、蒸気発生器(SG)交換を行い、2003年12月初旬に運転再開する見通しである。

 APSは2001年12月にパロベルデ2号機の出力増強を申請。NRCは、同2号機について、原子力蒸気供給系(NSSS)、計装・制御(I&C)システム、事故評価、放射線影響および技術仕様の変更などについてレビューを行い、「出力増強は安全上、問題がない」との結論に達していた。なお、パロベルデ2号機は、1996年にも7万6000kW(2%)の熱出力増強が認められており、今回が2度目となる。

 パロベルデ原子力発電所は、米国最大の原子力発電所。同発電所を運転するAPS社は、ピナクルウェスト・キャピタル・コーポレーション社(資本比率:29.1%)、ソルトリバー・プロジェクト社(17.5%)、サザンカリフォルニア・エジソン社(15.8%)、エルパソ・エレクトリック社(15.8%)、パブリックサービス・カンパニー・オブ・ニューメキシコ社(10.2%)、サザンカリフォルニア・パブリック・パワー・オーソリティ社(5.9%)、ロスアンゼルス水道・電力局(5.7%)が出資している。

 米国では、1970年代に入ってから、原子力発電所の出力増強が相次いでおり、2003年3月現在、92の出力増強が認可されている。これによる出力増加は、熱出力で1206万7000kWth、電気出力で402万2000kWに達し、100万kW級の原子力発電所4基に相当する原子力発電設備容量が得られた計算になる(参考資料3)。

 現在、デービスベッセ1号機(増強熱出力:4万5000kWth、増加率:1.63%)、ピルグリム原子力発電所(同:3万kWth、1.5%)、D.C.クック2号機(同:5万4000kWth、1.66%)、インディアンポイント2号機(4万2400kWth、1.4%)、ハッチ1、2号機(同:ともに4万1000kWth、1.5%)、キウォーニ原子力発電所(同:2万3000kWth、1.4%)の7基がNRCによる審査が行われている。

 NRCによれば、米国では、これらを含めて今後5年間(2003年〜2007年)に35件、合計熱出力680万9000kWth(電気出力で227万kW)の出力増強が計画されている。

 通常、出力(熱出力)の増加は、燃料の濃縮度を上昇させることでなされるが、そのためには配管やバルブ、ポンプ、熱交換器、タービン発電機の改造・交換が必要となり、NRCの出力増強審査でも、これらの設置変更(機器の改造・交換)に伴う安全性がチェックされる。

 NRCは、出力増強を熱出力の増加率に応じて、@2%未満の「MU」 (measurement uncertainty recapture power uprates)、A2%〜7%の「S」 (stretch power uprates)、B7%〜20%の「E」 (extended power uprates)の3つのカテゴリーに分類しており、今回のパロベルデ2号機はカテゴリー「S」にあたる。「MU」は、給水流量の測定による原子炉出力を再計算するもの(原子炉の出力レベルを正確に把握することで、事故時の原子炉停止の安全性を向上できる)。「S」は通常、大規模な改造工事を伴わないもので、「E」は高圧タービン、復水器ポンプ、タービン発電機などの大規模な改造を伴う。

 NRCは、電機機器や大型プラント・システム、緊急時対応など、出力増強に伴う影響を分析した規制要綱(Regulatory Issue Summary: RIS)に基づいて出力増強申請に対する審査を効率的かつ効果的に行っており、電力会社の出力増強申請の標準化と合わせて審査期間の短縮化をはかっている。

 NRCによれば、今後5年間に見込まれている出力増強申請35件の内訳は、「MU」が13件、「S」が4件、「E」が18件。当初、大規模な改造を伴う「E」の審査期間は18ヵ月を要するとみられていたが、規制手続きの効率化や申請の標準化などにより大幅に短縮化されており、デュアンアーノルド、ドレスデン2、3号機、クアドシティーズ1、2号機などのケースでは、わずか12ヶ月で審査を完了している。(10月2日)

[終わり]

Copyright (C) JAPAN ATOMIC INDUSTRIAL FORUM, INC. (JAIF) All rights Reserved.