[諸外国における原子力発電開発の動向]
主なできごと (2003年10月中旬〜11月中旬)

2009年の運開めざして第5原子力発電所をオルキルオト・サイトに決定

フラマトムANP社・シーメンス社の欧州加圧水型炉(EPR)が最有力候補

 フィンランドの第5原子力発電所に対する入札評価作業を行っていたテオリスーデン・ボイマ・オイ社(TVO)は10月16日、同発電所の建設予定地をオルキルオト・サイト(ヘルシンキから230km)と決定するとともに、フランスのフラマトムANP社とドイツのシーメンス社のコンソーシアムが入札した欧州加圧水型炉(EPR、160万kW)を第一候補炉型とすると発表した。

 第5原子力発電所(オルキルオト3号機)の運転開始は2009年になる予定で、これによりフィンランドの総発電電力量に占める原子力発電シェアは35%にアップする。

 オルキルオト3号機をEPRにした場合、総工費は約160億ユーロ程度になるとみられている。TVO社は、「EPR以外の候補炉型についても、完全に候補から外れたわけではない」(M.パーボラ最高経営責任者:CEO)としているが、2003年末をメドにフラマトムANP社・シーメンス社と契約を締結する予定である。

 TVO社は2000年11月、「現在、ロビーサ原子力発電所が運転中のヘストホメルン島、またはオルキルオト原子力発電所が立地するユーラホキに出力100万kW〜160万kWの軽水炉を建設する(総工費: 170億ユーロ〜25億ユーロ)」とした第5原子力発電所の建設計画を政府(国策会議:Council of State)に提出。2001年1月の政府の原則決定を受け、2002年5月にはフィンランド議会も政府決定を承認し、2003年3月には入札が出揃ったことから、TVO社は、@米ゼネラル・エレクトリック社(GE)の改良型沸騰水型炉(ABWR、100万kW)、A米ウェスチングハウス社(WE)のAP1000/EP1000 1)(100万kW)、Bスウェーデン・ウェスチングハウス社のBWR90+(BWR、150万kW)、C欧州加圧水型炉(EPR)、Dシーメンス社のSWR1000(BWR、100万kW)、Eロシアのアトムストロイエクスポルト社のVVER91/99(VVER-1000、100万kW)――の6つの設計について評価を行っていた。

 第5原子力発電所の入札状況については、詳細は明らかにされていないが、フラマトムANP社/シーメンス社のコンソーシアムのほか、ウェスチングハウス社、ゼネラル・エレクトリック社、アトムストリエクスポルト社などが応札した模様である。とくに、海外での原子力事業の展開に力を入れているロシア(アトムストロイエクスポルト社)は、ヘルシンキに子会社(オイバボイマ・オイ社)を設置するなど攻勢をかけていたが、「VVER91/99の出力がTVO社の要求に合致しなかったため、また、GE社のABWRは価格面で折合いがつかなかった今回の入札では見送られた」と現地の報道(ヘルシンキ・サノマート紙)は伝えている。

 フィンランドは、主力産業である林業・製材業からの木材廃材、泥炭および水力資源を除いて国産エネルギー資源に乏しい。同国の総エネルギー需要3080万TOE(石油換算トン)に占める輸入エネルギーの割合は71%で、その内訳はロシアが52%、ノルウェーが18%、デンマークが12%、スウェーデンが3%、その他15%となっている(2000年実績)。

 とくに、石炭の50%、原油の44%、天然ガスの100%がロシアからの輸入で、ロシアに対する過度の依存度の低下がエネルギー供給安全保障上の大きな課題となっている。

 フィンランドでは現在、ロビーサ1、2号機(VVER-440/213、51万kW×2基)、オルキルオト1、2号機(BWR、87万kW×2基)の4基が運転中で、2002年には総発電電力量の25.6%に相当する214億kWhを発電。平均設備利用率もロビーサ1号機が89.3%、同2号機が82.2%、オルキルオト1号機が95.3%、同2号機が96.6%と世界でもトップレベルにある。

 同国の電力消費量816億kWh(2001年)を電源別にみると、原子力発電が26.8%と最も多く、以下、水力(16.3%)、石炭火力(14.1%)、輸入電力(12.2%)、木材廃材(11.4%)、天然ガス火力(10.3%)、泥炭火力(6.9%)、石油火力(1.9%)、風力(0.1%)と続いており、輸入電力の占めるシェアが大きい。フィンランド以外の北欧諸国でも電力消費量は増加し続けており、現在の輸入電力への依存度は危険水域を越えている。とくに、2003年1月には寒波のため過去最高の1392万8000kWを記録。2002年には50年来の渇水に見舞われことから水力発電量が大幅に落ち込み、電力需給が逼迫した。また、電力需要自体、産業部門と家庭部門を中心に過去10年間で25%近く増大しており、今後、2010年にかけて年率1.5%での増加が見込まれている。一方、旧型の化石燃料火力発電所の閉鎖に伴い、電力供給の安定性確保のためには、2015年までに合計380万kWの新規電源が必要になるとみられている。

 とくに、フィンランドの主力産業である林業・製材、化学、金属などは、いずれも電力多消費型産業であることから、国際競争力の確保には安定かつ低コストの電力供給が不可欠で、低コストの電力の安定供給が期待できる第5原子力発電所に対する産業界の期待はきわめて大きい。

 また、フィンランドでは、二酸化炭素排出全体の20%〜30%が電力部門からのもので、現在、運転中の4基の原子力発電所がなかった場合、二酸化炭素排出量は年間1000万トン増大する計算になり、地球環境の面からも原子力発電や水力などのカーボンフリー電源は新規電源としての魅力が大きい。

(10月16日)


1) EP1000は、AP1000をベースとして欧州の電力会社が開発に参画した欧州バージョン。


Copyright (C) JAPAN ATOMIC INDUSTRIAL FORUM, INC. (JAIF) All rights Reserved.