[諸外国における原子力発電開発の動向]
最近の動き (2003年10月中旬〜2003年11月中旬)

[米 国]

エンタジー・ニュークリア社、グランドガルフ・サイトの事前サイト許可を申請

 エンタジー・ニュークリア社は10月21日、グランドガルフ・サイト(ミシシッピ州)の事前サイト許可(ESP)を米原子力規制委員会(NRC)に申請した。

 米国では2003年9月、エクセロン・ジェネレーション社とドミニオン・エナジー社が、クリントン・サイト(イリノイ州)とノースアナ・サイト(バージニア州)の事前サイト許可を初めてNRCに提出しており、エンタジー社は3番目。事前サイト許可の発給手続きには、公聴会の開催なども含め2年程度を要する見通しである。

 事前サイト許可は、電力会社が将来の原子力発電所の建設用地を事前にバンキング(確保)でき、ESPが発給されたサイトは環境影響評価と緊急時計画がクリアーされているとみなされる(有効期間は20年間だが、さらに20年間の延長が可能)。

 さらに、事前サイト許可が発給されたサイトに、改良型沸騰水型炉(ABWR)やAP-600、システム80+など、NRCの設計認証を受けた標準型炉を建設すれば、建設前に建設認可と運転認可を同時取得でき、完成後は一種の供用前検査を受けるだけで運転開始することができる(一体型認可制度)。

 これら「事前サイト許可」、「標準型炉の設計認証」および「一体認可制度」は、米国での原子力発電所の新規建設のネックとなっていた許認可手続きにともなう不透明性を払拭するため、1992年のエネルギー政策法改正で導入された新しい許認可制度である。これにより、従来、8年程度を要していた建設決定から運開に至るリードタイムが、5年程度に短縮されると期待されている。

 エンタジー・ニュークリア社は、今回のESP申請について、9月にESPを申請したエクセロン、ドミニオン社と同様、「現時点では、原子力発電所を建設する具体的な計画はない。今後、3年〜5年後の電力需給や利用可能な(NRCから設計認証が得られた)新型炉のそろい具合、他電源との競争力などを見極めて判断する」(G.テイラー最高経営責任者:CEO)としている。

 ただ、将来、グランドガルフ・サイトに建設される可能性のある次世代型炉として、同社が米エネルギー省やゼネラル・アトミックス社と共同開発中のフリーダム炉1) (GT-MHR: ガスタービン・モジュラー型ヘリウム冷却炉、出力:28万8000kW)をあげ、「核熱を利用した低コストの水素製造により、水素社会の実現も期待できる」(同)としている点が注目される。

 エンタジー社はルイジアナ州を供給基盤とし、合計3000万kWあまりの発電設備容量と260万の顧客を擁するする米国第3位の電力会社(総売上:90億ドル)。同社の原子力発電部門であるエンタジー・ニュークリア社は、アーカンソー・ニュークリア・ワン1、2号機(PWR、1号機:83万6000kW、2号機:85万8000kW)、グランドガルフ(BWR、121万kW)、リバーベンド(BWR、96万6000kW)、ウォーターフォード3号機(PWR、107万5000kW)、インディアンポイント2、3号機(PWR、2号機:97万kW、3号機:98万kW)、J.A.フィッツパトリック(BWR、82万5000kW)、ピルグリム(BWR、67万kW)、バーモントヤンキー(BWR、53万5000kW)の10基を運転する米国第二位の原子力発電事業者である。(10月21日)


1)フリーダム炉(GT-MHR)は、今後、5年〜10年後の実用化をめざして、エンタジー社と米エネルギー省(DOE)、ゼネラル・アトミックス社(GA)が共同開発中の高温ガス炉。

同炉の設計諸元は次の通りである:

  • 出 力: 28万8000kW(1ユニット、1サイトは4ユニットから構成)
  • 冷却材: ヘリウム
  • 減速材: 黒鉛
  • 燃 料: セラミック粒子燃料
  • 運転温度: 850℃ (耐熱温度:>1600℃)
  • 熱効率: 50%

  • 建設期間: >3年

  • 建設費: 1000ドル/kW(2号機以降)
  • 運転・保守費+燃料費: 15ドル/MWh

ドミニオン社、キウォーニ原子力発電所を買収へ

 ドミニオン社は11月7日、キウォーニ原子力発電所(PWR、54万5000kW)の買収について、同発電所を所有するウィスコンシン・パブリック・サービス社(WPS)およびウィスコンシン・パワー&ライト社(WP&L)と合意したと発表した。

 契約額は2億2000万ドルで、このうち3650万ドルが燃料費。また、WPS、WP&Lの両社が積立てていた廃炉引当金(約3億9200万ドル)もドミニオン社に移管される。また契約では、キウォーニ原子力発電所の電力は、同発電所が運転認可期限に達する2013年まで、現時点における所有割合(WPS社が59%、WP&L社が41%)に応じて両社が購入する。

 キウォーニ原子力発電所の売却には、米原子力規制委員会(NRC)、米連邦エネルギー規制委員会(FERC)、同発電所から電力供給を受けるウィスコンシン州、イリノイ州、アイオワ州、ミシガン州およびミネソタ州の公益事業委員会の承認とハート・スコット・ロディノ法(反トラスト法)をクリアーする必要があるが、ドミニオン社は2004年秋にも買収を完了する見通しである。

 米国では、電力市場自由化・規制緩和に伴い、キウォーニ原子力発電所のようなワンサイト・シングルユニットの経済性に劣る原子力発電所を売却し、送配電事業などに特化する電力会社が相次いでいる。一方、ドミニオン社をはじめ、エンタジー社、エクセロン社など複数の原子力発電所を所有・運転し、優れた運転管理ノウハウとスケールメリットを持つ電力会社による原子力発電所の買収が進展している。

  今回の合意について、ドミニオン社は、「(キウォーニ原子力発電所の供給区域である)中西部、中部大西洋、北東地域全体だと世界第3位の経済規模であり、電力需要も増加している。キウォーニ原子力発電所の買収により、ドミニオン社は同地域におけるベースロード電源を確保できるばかりではなく、電源構成の多様化も強化できる」(T.E.キャップス会長・社長・最高経営責任者:CEO)としている。

 ドミニオン社(本社:バージニア州リッチモンド)は、合計2400万kWあまりの設備容量を擁する米国屈指の電力・天然ガス会社で、ノースアナ1、2号機(PWR、1号機:92万5000kW、2号機:91万7000kW)、サリー1、2号機(PWR、1号機:81万kW、2号機:81万5000kW)、ミルストン2、3号機(PWR、2号機:87万kW、3号機:115万kW)の6基を運転中である。(11月7日)


アーカンソー・ニュークリア・ワン2号機とクック1、2号機が運転認可更新を申請

 エンタジー社は10月15日、アーカンソー・ニュークリア・ワン2号機(PWR、85万8000Kw)の20年間の運転認可更新を米原子力規制委員会(NRC)に申請。また、11月3日には、アメリカン・エレクトリック・パワー社(AEP)もD.C.クック1、2号機(PWR、1号機:102万kW、2号機:109万kW)の運転認可更新を申請した。

 アーカンソー・ニュークリア・ワン2号機の現行の運転認可は2018年7月に失効するが、新しい運転認可が発給されれば2038年7月までの運転が可能となる。また、クック1、2号機も、それぞれ2034年、2037年までの運転継続が可能となる。NRCの運転認可更新手続きには、22ヵ月〜30ヵ月を要する見通しである。

 一方、11月4日には、オハマ・パブリック・パワーディストリクト社(OPPD)のフォートカルホーン原子力発電所(PWR、47万8000kW)に対して20年間の運転認可更新が認められた。

 OPPD社は、2002年1月に同発電所の運転認可更新をNRCに申請。NRCは2002年6月と2003年2月の2回の公聴会開催も含め、運転認可更新の審査を行い、2003年9月には「運転認可更新の妨げとなる安全上の問題はない」とする安全評価報告書を発表。10月には、NRCの原子炉安全諮問委員会が運転認可更新を勧告していた。

 今回の運転認可更新により、フォートカルホーン原子力発電所の運転認可期間は2013年8月から20年間延長され、2033年8月となった。

 米国の原子力発電所は、原子力法で定められた40年間の運転期間(20年間の延長が可能)を前提として建設されており、40年間を経過した時点で減価償却が完了するため、運転認可更新によって経済性(競争力)が大幅に向上する。

 このため、米国では2000年3月のカルバートクリフス1、2号機(PWR、88万kW×2基)を皮切りに運転認可更新が相次いでおり、2003年11月15日現在、全部で19基(合計出力: 1673万9000kW)に運転認可更新が認められており、16基(同: 1518万5000kW )の運転認可更新申請が審査中。さらに、16基(同:1592万2000kW)が運転認可更新を申請すると見込まれている(参考資料1)。(11月4日)


NEI、ミルストン原子力発電所の経済効果は1278億円と試算

米原子力エネルギー協会(NEI)は10月はじめ、ミルストン原子力発電所が米国経済に11億ドルを超える経済効果をもたらしているとする調査結果を公表した。同発電所は、2号機(PWR、87万kW)と3号機(同、115万kW)で構成され、コネチカット州の電力のほぼ半分、またニューイングランドの電力需要の12%をまかなっている。

今回の調査は、ミルストン発電所を所有するドミニオン・エナジー社の委託を受けてNEIが実施したもので、同発電所が地域社会にもたらしている直接、間接的な影響についてはRTIインターナショナル社が調査を担当した。調査対象期間は、2001年4月1日〜2002年3月31日までの1年間。

それによると、同発電所が立地しているニューロンドン郡には、直接、間接を含めて5億1522万ドル(567億円)、コネチカット州には5億8475万ドル(643億円)、米国全体では11億6175万ドル(1278億円)の経済効果がもたらされていることが明らかになった。また、雇用面でも、直接、間接を含めて、米国全体で9239人、コネチカット州で3247人、ニューロンドン郡で2338人分が創出されている。

ミルストン原子力発電所による経済活動によってもたらされている地域ごとの労働所得の実態も明らかにされている。コネチカット州に限ってみると、地元ニューロンドン郡の労働所得が直接、間接を含めて1億1824万ドル(130億円)だったのに対し、同郡以外の合計は5659万ドル(62億円)でほぼ半分だった。

同発電所は1464人を雇用しており、このうち192人が立地町のウォーターフォードに住んでいる。192人の平均年間所得が7万8560ドル(864万円)だったのに対し、同町の労働者の平均年間所得は5万7460ドル(632万円)。また、隣接する4つの町と同町を合わせた従業員の合計人数は677人で、平均所得は7万9152ドル(871万円)。これに対して、5つの町の平均所得は52278ドル(575万円)だった。(10月)


米国の大学、原子力発電に高い期待

ウィスコンシン大学マディソン校工学部は10月22、23の両日、「ウィスコンシン州における原子力の将来」と題する会議を開催した。州や国のエネルギー政策に対して同大学としても積極的に発言していこうとの趣旨から開かれたもの。主催者側は、原子力発電所は窒素酸化物をはじめとした有害な物質を排出しない、経済的にも競争力を持った電源であると位置付け、州としても原子力発電利用を本気で考える必要があるとの見解を示している。

同大学のジョン・ワイリー総長は開会の挨拶の中で、石炭や天然ガスといった化石燃料エネルギーは二酸化炭素をはじめとした大量の温室効果ガスを排出するとした上で、これからの最大の課題は温室効果ガスの排出量を如何に抑制するかにあると指摘、原子力(発電)は「最も安全でクリーン、しかも費用効果が最も高い電源である」と述べた。

ウィスコンシン州の現在の法律では、原子力発電所の建設にあたって2つの条件をクリアーすることが求められている。まず、州内の原子力発電所から発生するすべての高レベル放射性廃棄物(使用済み燃料)を処分する施設が利用できること。もう1つは、提案された原子力発電所が他の電源と比べて経済的に有利であること。この2つの条件を満たしているかを判断するのは公益事業委員会だが、実質的には原子力発電所の建設は禁止されていた。

そうした中で10月はじめ、同州議会下院のエネルギー・公益事業委員会に、この州法の改正を求める法案が提出された。ウィスコンシン州では、2016年までに630万kWの発電設備が必要になると予測されていることに加えて、最近、国内の原子力発電所が高い運転実績を達成していることから、同州でも原子力発電所への期待が高まってきている。(10月)


ウィスコンシン州、原子力発電所の建設制約する州法改正へ

米国ウィスコンシン州議会下院のマイケル・ヒューブスク議員は10月2日、原子力発電所の建設を実質的に禁止している州法の改正を求める法案を下院エネルギー・公益事業委員会に提出した。この法案は、同議員を含めた18名が発議者となっており、4名の上院議員も共同発議者に名前を連ねている。

ウィスコンシン州の現在の法律では、2つの条件をクリアーしていると公益事業委員会(PSC)が判断した場合に限って原子力発電所の建設を認めても良いことになっている。その1つは、州内の原子力発電所から発生するすべての高レベル放射性廃棄物(使用済み燃料)を処分する施設が国内か国外のどちらかで利用できること。もう1つは、提案された原子力発電所が他の電源と比べて経済的に有利であるということ。

2つ目の条件は、@核燃料の供給確保A原子力発電所の建設・運転・廃止コストと廃棄物処分コストBPSCが経済性に影響を及ぼすと判断したその他の要因――に基づいてPSCが判断することになっている。

今回、提出された法案は、こうした2つの条件を削除するというもので、成立すれば、原子力発電が他の電源オプションと同じ扱いを受けることができるようになる。

ウィスコンシン州では、現在の法律が制定(1983年)される前に運転を開始したキウォーニ1号機とポイントビーチ1・2号機の3基の原子力発電所によって州内の電力の20%が供給されている。州のエネルギー局は、増加する電力需要をまかなうためには2016年までに630万kWの発電設備を新設する必要があると予測。このままの状態が続けば2007年には停電が発生する可能性があるとみている。

米国では、使用済み燃料と高レベル放射性廃棄物向けの処分場の建設計画がネバダ州のヤッカマウンテンで順調に進んでいる。また、国内の原子力発電所の運転実績がここ数年、過去最高を更新するなど、高い競争力に注目が集まっている。今回の法案は、そうした状況を反映したもので、成立の可能性はかなり高いとの見方がでている。(10月2日)


[フランス]
政府、欧州加圧水型炉の建設を盛り込んだエネルギー白書を発表

 フランスのN.フォンティン経済産業相は11月7日、欧州加圧水型炉(EPR)の建設を盛り込んだ政府のエネルギー政策案(エネルギー白書)を発表した。

 フランスは、今後30年間を対象としたエネルギー政策の方針を定める新しいエネルギー法の策定を進めており、2003年3月から将来電源も含めたエネルギー全般にわたる討議をスタート。2004年早々に、@良質かつ妥当な価格のエネルギーの確保、A環境保護(2050年までに温室効果ガス排出量を25%削減)、Bエネルギー面からの国際競争力の向上、Cエネルギー供給安全保障の確保――の4つを骨子とした新エネルギー法案が議会に提出されることになっている。

 今回、発表されたエネルギー白書では、原子力発電オプションの維持があらためて確認されるとともに、EPR建設の可能性も示唆されている。白書では、将来、建設する炉型については白紙としているが、実質的にはEPRが最有力候補。とくに、フォンティン経済産業相は、「EPRの初号機は2012年にも運転開始が可能」とみており、「安全性、経済性などからみてEPRの優位はゆるぎない。フランス政府として、早急にEPR建設について見解を統一すべき」とするなどEPR建設の旗振り役となっている。

 現在、フランスでは59基(合計出力:6307万3000kW)の原子力発電所が運転中で総発電電力量の78%を供給しているが、このうちビュジェイ2〜5号機、シノンB1〜B4号機、クリュアス・メイシー1〜5号機、ダンピエール1〜4号機、フェッセンハイム1、2号機、グラブリーヌB1〜4、C5、C6号機、ルブレイエ1〜4号機、サンローラン・デゾーB1、2号機、トリカスタン1〜4号機―の34基(合計出力:3077万kW)は、第一次石油ショック後の1974年の原子力発電利用拡大の政府決定に基づき着工され、1977年から1988年にかけて運開した90万kW級のユニットで、原子力発電設備容量全体の約49%を占める。同国では2002年、全ての90万kW級ユニットの運転期間が10年間延長されたが、2020年以降、どうするかについては不透明なままであり、エネルギー討議でもこの問題が議論の的となった。

 2003年5月には、フランス議会・科学技術評価局(OPECST)は、政府に対して早急に欧州加圧水型炉(EPR)の実証炉を建設するよう求めた報告書を発表し、「(現在、主力となっている90万kW級)原子力発電所がいつまで運転継続するかが不透明である以上、2010年〜2015年までにEPRを投入できるようにしておくことが(フランスの電力安定供給にとって)絶対不可欠。EPR建設に対する政府のコミットメントの時機を逸してはならない」とし、2007年までに着工すれば、2012年には初号機が運転開始できるとの見通しを示している。

 また、原子力産業界も、「EPR技術の信頼性を示すという観点から、EPR開発国であるフランスやドイツの建設決定が中国やフィンランドより遅れてはならない」(A.ローベルジョンAREVA社会長)とするなど、官民上げてEPR早期建設に向けた機運が高まっている。(11月7日)


[ドイツ]
シュターデ原子力発電所が経済上の理由から早期閉鎖

 最終的な原子力発電所の閉鎖を定めたドイツの新原子力法の施行後、初めてのケースとなるシュターデ原子力発電所(PWR、67万2000kW)が11月14日に閉鎖された。

 シュターデ原子力発電所は1972年5月に運開した現在、運転中の原子力発電所としてはドイツで最も古い発電所。同発電所の使用済み燃料は再処理工場に送られ、2005年〜2015年にかけてデコミッショニング作業(総額:5億3000万ユーロ)が行われる見通しである。

 J.トリティン連邦環境自然保護・原子炉安全相(緑の党)は、同日、ベルリンのレストランに報道関係者を招いてパーティーを開くなど、今回のシュターデ原子力発電所の閉鎖を社会民主党(SPD)/緑の党連立政権の脱原子力政策の大きなアドバンテージとしているが、実際には新原子力法の施行前に電力会社が自主的に決めていたもの。

 シュターデ原子力発電所を所有するE.On社(66.7%を所有)とハンブルク電力(33.3%を所有)は2000年10月、欧州電力市場の自由化による電力価格の値下がりを背景に、同社の発電設備容量3000万kWのうち過剰電源となった480万kWを閉鎖する方針を発表。シュターデ原子力発電所の閉鎖も、当初予定よりも約1年前倒しされたが、これは「ワンサイト・シングルユニットで経済性に劣る」(E.On社)のが理由である。

 ドイツでは2000年6月、連邦政府(シュレーダー首相、ミュラー連邦経済相、トリッティン連邦環境自然保護・原子炉安全相)および電力会社代表との間で原子力発電所の運転期間を基本的に32年にすることなどを骨子とした合意がなされ、2002年4月にはドイツ原子力法の改正により法制化された。

 合意では、運転中の原子力発電所は、今後、合計2兆6230億kWh(各ユニットの運転期間を運開後32年として算出)を発電でき、この発電量に達した時点で閉鎖されることになっている。ただ、旧型の原子力発電所を早期に閉鎖し、その分の発電量を新型の原子力発電所に移すことが可能であり、シュターデ原子力発電所の早期閉鎖もこのプロセスの一環である。

 また、社会民主党・緑の党の連立政権内でも脱原子力政策については慎重な意見もあり、新原子力法の起草者の1人であるW.ミュラー連邦経済相(経済界出身)でさえ、2000年に提出したエネルギー政策綱領の中で、「過大な温室効果ガス排出量削減目標はドイツのエネルギー供給安全保障を危うくしかねない。地球温暖化防止と脱原発という(SPD・緑の党連立政権の)2つの環境政策は、最終的に見直さざるを得ないだろう」としている(このエネルギー政策綱領は緑の党から大きな批判を浴びた)。

 なお、次のドイツで閉鎖されるのはオブリッヒハイム原子力発電所(PWR、34万kW)で、2005年11月になるとみられている。(11月14日)

IAEA追加議定書への調印に同意

 イランのハタミ大統領は10月21日、核開発疑惑をめぐり同国を訪問した英仏独の外相とテヘランで会談し、@核査察強化のための国際原子力機関(IAEA)追加議定書の調印と履行、AIAEAへの完全な協力、Bウラン濃縮と再処理活動の停止――などで合意し、共同声明を発表した。核開発疑惑解明にイランが全面協力するよう求めたIAEA決議の履行期限が10月末に迫っているなか、イランが全面譲歩したことで、核開発疑惑の国連安全保障理事会への付託が回避され、国際社会との対立の危機は当面避けられる見通しとなった。

 また、イランのA.サレヒIAEA駐在代表は同日、記者団に対し、ロシアとの間で使用済み燃料の返還協定を近く締結すると述べた。ロシアはイラン南部のペルシャ湾北岸にブシェール1号機(PWR、100万kW)を建設中で、2002年12月には両国間で燃料供給契約を締結。これに対して米国は、イランの核開発疑惑を理由に一貫して反対する姿勢を崩していない。ロシアは原子力平和利用に限った協力として米国に反発しながらも、透明性を向上させる観点からイランに使用済み燃料返還の確約を求めたため、今年5月に予定されていたロシアからイランへの燃料輸出は大幅に遅れていた。こうしたなか、ロシア原子力省(MINATOM)は10月13日、同1号機の起動時期をこれまで予定していた2004年から2005年に延期することを発表。これにより営業運転開始は2006年以降にズレ込むこととなった。

 当初からイランのIAEA追加議定書調印と発電所建設契約は別問題と主張しているMINATOMは、起動時期の延期理由をあくまでも技術的問題と説明しているが、イランに対して強まる国際情勢が背景にあるとの見方が強い。しかし今回イランがIAEA追加議定書に調印し、使用済み燃料をロシアへ返還することを明言したことで、ブシェール1号機建設計画は大きく前進するものと見られている。

 なおイランは11月10日、IAEAに合意事項などを正式に通知。翌11日よりウラン濃縮停止の作業を開始している。(10月21日)


[ロシア-イラン]
ロシア、ブシェール2号機の新規建設を提案

 ロシア原子力省は(MINATOM)このほど、ブシェール2号機の建設計画に関し、既存の設備を利用せずに新規で建設することをイラン側に提案したことを明らかにした。イランのH.ロハニ国家安全保障最高会議書記も11月11日、近く同2号機の建設についてロシア側と協議を開始することを確認している。

 ペルシャ湾北岸のブシェールでは1974年、西ドイツのKWU社(当時)が130万kW級のPWR2基の建設工事に着手した。しかし、イラン革命に伴うドイツ政府の建設中止命令とイラクとの戦争により、建設工事が中断。その後、95年にロシアとの間で、VVER-1000型炉技術を採用して1号機を完成させる契約が約8億5000万米ドルで結ばれた。

 MINATOMは1号機の建設に関し、イラン側の財政負担を考慮し、KWU社が79年に同機建設作業から撤退した際に残した機器を最大限に流用している。しかし、ロシア側技術者が独製機器の特性を検討するのに、多くの時間が割かれた。そのためMINATOMは、2号機は既存の設備を利用することなく新規にVVER-1000型炉を建設することで1号機よりも低コストで建設できるとの結論に達した。(11月11日)

【終わり】


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