[諸外国における原子力発電開発の動向]
最近の動き (2004年1月中旬〜2004年2月中旬)

[米 国] FPL、今春にもシーブルック原子力発電所の熱出力増強をNRCに申請へ

 FPLエナジー社は2月11日、シーブルック原子力発電所(PWR、115万8000kW)の熱出力増強を2004年3月末か4月にも米原子力規制委員会(NRC)に申請する方針を明らかにした。

 NRCの出力増強審査には約1年間を要する見通しで、今回の出力増強が認可されれば、同社はタービン発電機などに総額4700万ドルを投じてシーブルック原子力発電所の熱出力を約7%(10万kW)増強する方針である。また、FPLエナジー社はシーブルック原子力発電所の出力を2段階で増強する計画で、次回は2006年秋の計画停止・燃料交換時を予定している。

 米国では、1970年代に入ってから原子力発電所の出力増強が相次いでおり、増強出力は2003年12月末時点で99件、合計熱出力で1241万4000kWth(電気出力だと413万2800万kWe)に達し、100万kW級の原子力発電所4基に相当する原子力発電設備容量が得られた計算になる。また、2003年だけでも、リバーベント原子力発電所の5万2000kWth(1.7%、電気出力:1万7300kWe)、D.C.クック原子力発電所の5万7000kWth(1.66%、1万8000kWe)、ピルグリム原子力発電所の3万kWth(1.5%、1万kWe)、インディアンポイント原子力発電所の4万3000kWth(1.4%、1万4100kWe)、キウォーニ原子力発電所の2万3000kWth(1万3700kWe)、E.I.ハッチ1号機の4万1000kWth(1.5%、1万3700万kWe)、E.I.ハッチ2号機の4万1000kWth(1.5%、1万3700kWe)、パロベルデ2号機の11万4000kWth(2.9%、3万8000kWe)――の合計8基(合計熱出力:40万1000kWth、合計電気出力:13万2500kWe)が出力増強されている。

 さらに、米国では、これらも含めて2007年までに合計35件の熱出力増強(合計熱出力:680万9000kWth、電気出力:227万kWe)の出力増強を見込んでいる。(2月11日)


NRC、サバンナリバーへのMOX燃料加工工場建設を認める環境影響評価報告書

米原子力規制委員会(NRC)は2月23日、余剰プルトニウムを混合酸化物(MOX)燃料に加工するMOX燃料加工工場(総工費:約40億ドル)のサバンナリバー・サイトへの建設をみとめる「環境影響評価報告書」(EIS)のドラフトを発表した。

 米国とロシアは2000年9月、両国で余剰となった軍事用プルトニウムの処分(米ロともに34トンの合計68トンで、米国のストックパイル全体の約3分の1、ロシアの4分の1に相当)についてクリントン大統領(当時)とプーチン大統領が合意した(この計画は、核兵器級高濃縮ウランを希釈・燃料加工する「メガトンからメガワット計画」に対して、「剣から鋤へ計画」と呼ばれる)。

米国では、2001年1月に米エネルギー省(DOE)が全量をMOX燃料に加工、商業炉に装荷・燃焼すると決定し、デュークパワー社、フランス核燃料公社(COGEMA)、ストーン&ウェブスター社から構成されるコンソーシアム(DCS)との契約で、サバンナリバー・サイトにMOX燃料加工工場を建設し、2005年からカトーバ原子力発電所(PWR、112万9000kW×2基)への試験装荷を開始する計画である。

 一方、ロシアもセベルスクのシベリア化学コンビナート(トムスク7)にMOX燃料加工工場(総工費:約10億ドル)を建設、バラコボ原子力発電所(VVER-1000×4基)に装荷・燃焼する計画で、米国が2億ドルを援助することになっている。(2月23日)


[リトアニア] 固体廃棄物中間貯蔵施設建設へ

 リトアニア政府は2004年2月、固体廃棄物中間貯蔵施設の設計作業の開始を正式に承認した。イグナリナ発電所(RBMK-1500、150万kW×2基)のサイト内に建設される。施設建設計画の国際入札は2003年7月に公示され、現在も入札を受け付けている。建設はイグナリナ1号機の閉鎖作業と並行し、2007年までに操業を開始する予定。

 約8,000万ユーロと試算されている建設費は、欧州復興開発銀行(EBRD)が運営するイグナリナ国際廃炉支援基金(IIDFS)から支出される。IIDFSは2000年にイグナリナ発電所の閉鎖の支援を目的に設立され、欧州委員会(EC)、EU加盟8カ国、ノルウェー、ポーランドからの拠出金で構成されている。

 旧ソ連型炉の軽水冷却黒鉛減速炉(RBMK)であるイグナリナ発電所は、1号機を2005年、2号機を2009年までに閉鎖することが決まっている。

 今回の固体廃棄物中間貯蔵施設建設計画は、イグナリナ発電所の廃炉計画の一環。政府が2003年3月に承認した使用済み燃料中間貯蔵施設の建設については、現在も入札を受付中。液体廃棄物中間貯蔵施設は、現在建設中である。

 なおリトアニアの2003年の原子力発電電力量は155億kWh(2002年:141億kWh)で、総発電電力量に占める原子力シェアは80.6%(同:80.1%)。平均設備利用率は73%で前年の62.1%を大幅に上回った。(2月)


[世 界] 原子力第三者責任条約(パリ条約)の原子力損害賠償額を4倍に増額

 国境を越えた原子力事故(越境損害)に対する損害賠償を定めた「原子力分野における第三者責任保障条約」(パリ条約)とこれを補足する「ブラッセル補足条約」を改定する議定書が、2月11日にパリの経済協力開発機構・国際原子力機関(OECD/NEA)で調印された。

 パリ条約(1968年4月発効)は、国境を越えた影響を及ぼす原子力事故時(原子力施設および輸送)の原子力施設の運営者に対する無過失責任と責任集中を定めた条約で、ベルギー、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシア、イタリア、オランダ、ノルウェー、ポルトガル、スロベニア、スペイン、スウェーデン、トルコ、英国の15ヶ国が加盟。また、ブラッセル補足条約(1974年12月発効)は、パリ条約の責任制限限度額を定めたもので、@運営者補償、A国家補償、B国際補償−−の3層構造からなる原子力損害賠償体制が構築されている。ブラッセル補足議定書の加盟国は、ベルギー、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、ノルウェー、スロベニア、スペイン、スウェーデンおよび英国の12ヶ国である。

 今回、調印されたパリ条約改定のための議定書は、現行の損害賠償額(最低責任限度額)を引上げたもので、原子力施設運営者の最低責任限度額が7億ユーロ、リスクの低い施設と輸送時の事故の最低責任補償額がそれぞれ7000万ユーロ、8000万ユーロに引き上げられた。さらに、今回の議定書では、賠償の対象となる「原子力損害」について、現行の「人身障害」、「資産の損害」に加え、「経済的な損失」、「汚染された環境の復旧費用」、「環境汚染により喪失された利益」および「予防のための費用」−−など詳細に定義されている。

 一方、ブラッセル補足条約の改定議定書では、@運営者補償、A国家補償、B国際補償の3層からなる補償体制の最低責任限度額について、原子力施設運営者の原子力損害賠償保険から支払われる「運営者補償」が7億ユーロ(保険金がこれに満たない場合は当該国が補償)、原子力施設が立地する国(または輸送者が帰属する国)の公的資金から支払われる「国家補償」が5億ユーロ、パリ条約締約国による損害賠償共同基金から支払われる「国際補償」が3億ユーロにそれぞれ引き上げられた。

 今回の議定書の調印により、パリ・ブラッセル条約体制の原子力損害賠償額は、これまでの3億SDR(国際通貨基金:IMFの特別引出権:?約3億5000万ユーロ)から15億ユーロへと約4倍に増額される。

 原子力事故の越境損害をカバーする第三者責任制度としては、OECD/NEAが中心となったパリ条約のほか、国際原子力機関(IAEA)が中心となり1977年11月に発効した「原子力損害の民事責任に関する条約」(ウィーン条約)があり、同条約にはアルゼンチン、アルメニア、ベラルーシ、ボリビア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、ブラジル、ブルガリア、カメルーン、チリ、クロアチア、キューバ、チェコ、エジプト、エストニア、ハンガリー、ラトビア、レバノン、リトアニア、メキシコ、ナイジェリア、ペルー、フィリピン、ポーランド、モルドバ、ルーマニア、スロバキア、スロベニア、マケドニア、トリニダード・トバゴ、ウクライナ、ウルグアイ、ユーゴスラビアの15ヶ国が加盟している。

 また、1986年4月のチェルノブイリ事故時には、両条約が十分に機能しなかった反省から、IAEAを中心として損害賠償措置額の増額、条約締結国の拡大の必要性等について検討が開始され、パリ条約とウィーン条約との連携で被害者救済措置の地理的範囲の拡大をはかる「ウィーン条約およびパリ条約の適用に関する共同議定書」(共同議定書)が1992年4月に発効している。

 なお、日本をはじめ、米国、カナダ、ロシアおよびアジア地域の中国、韓国、台湾などは、いずれの条約も締結していない。(2月11日)

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