[諸外国における原子力発電開発の動向]
話題を追って

原子力に対する東欧の若年世代の意識
― チェコの中等学校の学生を対象とした世論調査結果から ―

 チェコ電力は2003年12月と2004年1月、チェコの中等学校の学生の電気事業、とくに原子力エネルギーに対する意識を調べる世論調査を実施した。この世論調査は、「みんなのエネルギー」(Energy for Everybody)と名付けられた教育プログラムの一環で、チェコ電力が中等学校で一連の討論会・講演会を実施した後、アンケート調査が行われたものである。

 学生による原子力エネルギー討論会は、すでに過去3年にわたりチェコ全土で実施されている。この間、チェコ電力は1300校(中等学校および初等学校の高学年を対象)を訪問した。2004年2月時点で、討論会に参加した学生の数は合計5万人に達している。また、オーストリアおよびドイツ・バイエルン州との国境地域で7回の討論会が行われた。

 討論会は2時間で、講演、映画上映、発表および討論会の中心である学生の質問に答える形での討論で構成されている。討論会では、チェコ電力の原子力発電所の職員とプラハのチェコ工科大学原子力工学科の教師と学生が司会を務めた。学校はこうした討論会に大いに関心を示し、チェコ電力としては学校からの討論会開催のリクエストに応えきれないほどだった。また、学生たちも討論テーマに大いに関心を示した。

 この世論調査のアンケートは、13歳から18歳までの中等学校の学生2314名を対象としており、男女構成は半々である。

今回の調査のハイライト
  •  まず、「生活水準とエネルギー消費の関係についてどう考えるか」との設問に対しては、53.5%の学生が「生活水準の向上のためには、エネルギー消費の増加は不可避である」と回答し、41%が「エネルギー消費を増加させることなしに生活水準を向上させることは可能である」と回答した。
     ただ、「エネルギー消費を減らすのであれば、生活水準を大幅に低下しなくてはならない」という項目を選んだ学生はわずか5.4%で、このシナリオが支持されていないことは明らかである。

  •  「人類のエネルギー需要に対処するための最終的なエネルギー源は何が一番だと考えるか」との設問に対しては、57.1%の学生が、「太陽エネルギー」、「風力エネルギー」、「潮力エネルギー」を選択した一方、「原子力(核分裂)エネルギー」と「核融合エネルギー」を選択した学生の割合は38.8%だった。また、「化石燃料」を選んだ学生の割合は無視できるほど少なかった(4.1%)。

  •  「チェコの電力供給に占める原子力発電の割合はどうあるべきか」との設問については、「原子力発電の割合を低下させるべき」とする学生が14%、「現状を維持すべき」が58%、「原子力発電の割合を高めるべき」が28%だった。ただ、この回答結果は男女の格差が大きく、「原子力発電の割合を高めるべき」という回答は、男子学生が38%であるのに対して、女子学生はわずか17%だった。一方、「原子力発電の割合を低下させるべき」とする回答は、女子学生が18%と男子学生の10%を上回っている。

  •  「原子力発電のメリット」を問う設問では、「地球温暖化をもたらす温室効果ガスを排出しない」という回答が63%、「石油や石炭は不必要に燃焼させてしまうにはあまりに貴重な資源」が20%、「核燃料は資源が豊富」が17%だった。

  •  「原子力発電のデメリット」を問う設問に対しては、「放射性廃棄物」(65%)、「事故のリスク」(28%)、「巨額な投資コスト」(7%)の3つの回答が上位を占めた。

  •  「原子力反対派の主張」に対する考えを問う設問に対しては、66%の学生が「無視することはできない」、21.5%が「原子力反対派の主張は正しい」(女子学生だけだと25%)で、「原子力反対派の主張は間違っている」と答えたのはわずか12.5%だった(男子学生が20%、女子学生はわずか5%)。この設問から明らかなのは、女子学生の方が原子力反対派の主張を信じる傾向があるという点である。
     また、年齢――学年が高くなるので、認識や教育レベルも高くなる――など、意思決定に影響する要因についてクロス集計を行った。この結果、15歳未満の学生の30%が「原子力反対派の主張は正しい」と回答しているのに対して、15歳以上だとこの割合はわずか15%になる。一方、「原子力反対派の主張は間違っている」と回答した学生の割合は、15歳未満が12%であるのに対して、15歳以上は15.5%となっている。

  •  「優先的に利用すべきエネルギー」を問う設問に対しては、82%の学生が「環境影響が最も少ないエネルギー源を利用すべきである」と回答しており、13.8%が「最も長期間にわたり利用できるエネルギー源を使用すべき」としている。
     驚くべきことに、「最も安価なエネルギー源を利用すべき」という回答はわずか4.6%に過ぎない。なお、回答者の年齢による違いはみられなかった。

  •  「人類の将来にとって最大の脅威は何か」との設問に対しては、回答者の半分以上(59%)が「地球温暖化」、23%が「人口増加」と回答した一方、「エネルギー資源の枯渇」という選択肢を選んだのはわずか18%だった。

  •  また、「現在、最も深刻な環境変化」を問う設問では、「オゾン層の破壊」が最も多く、以下、「海洋汚染」、「気候変動」と続き、これら3つで回答全体の半分以上を占めた。興味深いのは、4番目に多かった回答が「原子力発電所の事故による放射能汚染」だったことである。このほか、22%が「酸性雨」、15%が「原生状態にある自然の減少」、14%が「砂漠化」と回答している。

  •  「1980年代(1986年4月)のチェルノブイリ原子力発電所事故の原因」に関する設問では、57.4%の回答者が「複数の人的ミス(ヒューマン・エラー)」という正しい回答をしたが、20.4%の回答者が「(原子力発電所の)技術的な欠陥により引き起こされた大惨事」という誤った考えを持っていた。また、22%が「分からない」と回答した。

  •  また、「わが国(チェコ)でも原子力発電所の事故が起きると思うか」との設問に対しては、28.6%が不安を持っているとの結果が出ている(13.8%が「起きると思う」、14.8%が「起きるかもしれない」と回答)。一方、不安を持っていない学生の割合は71%だった(27%が「起きると思わない」、44%が「多分、起きない」と回答)。原子力発電所の事故に対する不安を持つ学生の割合は、女子学生の方が男子学生の2倍近い(女子学生が40%、男子学生が18%)。

  •  学生の原子力・放射線についての知識を調べるため、2つの設問が設けられた。1つは、ひっかけ問題で、「次の物質の中で放射性物質を全く含んでいないのはどれか」(全ての物質には放射性物質が含まれている)というもので、正しい回答はわずか16%しかなく、「飲料水」(回答者の45%は飲料水には全く放射性物質が含まれていないと考えている)や「石炭」(12%)、「食肉」(9.5%)などが選択され、「ラドン」という選択肢を選んだ学生でさえ9%近くいた。
     この設問に対する正答率は学年が低くなるほど低下し、最も正答率が高かった(27%)のは最高学年の学生で、教育レベルと相関関係があることは明らかである。

  •  もう1つの設問は、学生の電離放射線被曝についての知識を調べるもので、選択肢の中から「最も電離放射線の被曝量が多いもの」を選ぶ設問では、「エックス線診断」を58%、「通常運転中の原子力発電所の周辺に1年間居住」を18%、「高度1万メートルを5時間飛行」を18%、「コンクリートのビルの中に1年間居住」を6%が選んだ。

  •  最後の設問では、「どの電源が最も好ましいか」が問われたが、「最も安価な電源」(46%)と「停電がない電源」(47%)の上位2つの回答の割合はほぼ同じだった。なお、「原子力発電を利用すべきではない」とした回答はわずか7%だった。

    1992/93年の調査との比較

     過去11年間の世論調査結果の推移をみることは意味がある。チェコでは、中等学校の学生の知識と見解を調査する国際プロジェクトに参加した。この調査は、日本原子力文化振興財団(JAERO)の企画で、1992年6月、日本、フランス、ドイツ、スウェーデン、スイス、英国およびチェコスロバキア(当時)で実施された。同調査は、15歳から18歳までの学生1030名が対象となった。1992/93年の調査結果と最近の調査結果を比較した図を以下に示す。

    1992/93年の調査では、「生活水準とエネルギー消費の関係についてどう考えるか」という設問に対しては、74%が「エネルギー消費を増加させることなしに生活水準を向上させることは可能である」、24%が「生活水準の向上のためには、エネルギー消費の増加は不可避である」と回答した。また、「エネルギー消費量を減らすためには、生活水準の低下もやむを得ない」、「現在の生活水準、エネルギー消費量ともに満足すべき状態にある」とする回答はともに1%だった。

     この調査の10年後に実施された今回の調査をみると、「生活水準の向上のためには、エネルギー消費の増加は不可避である」と回答した学生の割合が10年前の調査の2倍近くに達するなど、最近の若年層の見解が現実的になってきていることがうかがえる。

     将来開発すべきエネルギーに関する設問(「人類のエネルギー需要に対処するための最終的なエネルギー源は何が一番だと考えるか」)については、1992/93年調査では、学生の55%が「太陽エネルギー」と回答したほか、「潮力」、「波力」、「温度差発電」が29%で、「原子力」と「地熱」はともに7%だった。また、石油、石炭、天然ガスなどの「化石燃料」という回答はわずかで2%を下回った。一方、今回の調査では、「原子力」と回答した学生の割合は7%と大幅にアップしている。

     チェコの原子力発電開発利用に関する設問(「チェコの電力供給に占める原子力発電の割合はどうあるべきか」)については、1992/93年調査では、「原子力発電の割合を低下させるべき」とする学生が41.2%、「現状を維持すべき」が35%だった。また、「分からない」という回答も12.4%あり、この設問に対する回答には男女差がみられなかった。一方、今回の調査では、原子力発電に反対する学生の割合は半減し(賛成する学生の割合は倍増)、男子学生と女子学生の回答に顕著な違いがあらわれている。

     将来、原子力発電開発を進める理由を問う設問(「原子力発電のメリット」)については、1992/93年調査では、原子力発電を支持する学生の43%が、その理由として「酸性雨や地球温暖化の原因となるガスを排出しない」、23.5%が「将来の石炭や石油などの化石燃料の枯渇」をあげ、12.5%が「わが国(チェコ)の技術が優れている」ことを理由にあげた。また、学生の8.5%が「わが国では十分な(原子力)安全対策がなされている」と考え、同じ割合(8.5%)の学生が「原子力エネルギーは安全」との見解を示した。さらに、「わが国では深刻な原子力事故は起こらない」としている学生も4%いた。一方、今回の調査では、原子力発電のメリットとして、「温室効果ガスを排出しない」ことを指摘する学生の割合が増加している。

     最も深刻な環境変化を問う設問(「現在、最も深刻な環境変化」)については、1992/93年調査では、「オゾン層の破壊」(回答者のほぼ全員)、「原子力発電所の事故による放射能汚染」(回答者の半分以上)、「酸性雨による森林破壊と湖沼の酸性化」(回答者の3分の1)−−の3つが最も多かった。また、「熱帯雨林の伐採による自然破壊」、「石炭、石油の燃焼による地球温暖化」、「海洋汚染」をあげた学生も約4分の1に達した。「原生状態にある自然の減少」と「砂漠化」に対する懸念は、比較的、低かった。一方、今回の調査結果では、学生の最も深刻な環境変化に対する認識は、マスコミでよくとりあげられる問題に影響されていると思われる。1992/93年調査では「酸性雨」が最も多かったが、今回の調査では「地球温暖化」となっている。しかしながら、原子力発電所による放射能汚染に対する懸念も依然として高い。

     選択肢の中から放射線を発しているものを2つ選ぶ設問については、1992/93年調査では、「人体」(回答者のほぼ全員)、回答者の3分の2が「鉄」、「水」、「プラスチック」を選び、驚くべきことに「花崗岩」を選んだのは半数しかいなかった。一方、今回の調査では、設問が一部異なっているが、人々の放射性核種の存在に関する知識が、依然、不確実だったり、無知であることは明らかである。

     日常生活で最も放射線の被曝が大きい事例を問う設問(「最も電離放射線の被曝量が多いもの」)については、「通常運転中の原子力発電所」を選んだ学生が27%、「コンクリートその他の建築資材」が23%、「病院での医療用線源」が20%、選択された割合が少なかったのは「食品」(8%)、「航空機での旅行」(2%)だった。また、「分からない」が20%だった。一方、今回の調査では、「エックス線診断」と「航空機での旅行」の割合が増加している。

     今回の世論調査は、討論の前にアンケートに記入する「ユーザーフレンドリー」な方式がとられた。チェコ電力は、今後も毎年、講演・討論会と世論調査を多数、実施し、討論の前後での学生の反応の違いを比較するとともに、一連の世論調査結果を今後の若年層と国民への情報提供や議論に活用していく方針である。

    [終わり]

    *チェコの学制は日本とは異なり、義務教育が6歳から15歳までの9年間(初等・中等教育)で、義務教育終了後、3つのコース、すなわち、職業訓練校(2〜4年制、15歳〜18歳)、技術系高等学校(3〜4年制、15歳〜18歳)、ギムナジウム(4〜8年制、11歳〜18歳)の3つがある。本調査の対象となっているのは、これら3つの学校に在籍する13歳〜18歳までの学生である。


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