最後の設問では、「どの電源が最も好ましいか」が問われたが、「最も安価な電源」(46%)と「停電がない電源」(47%)の上位2つの回答の割合はほぼ同じだった。なお、「原子力発電を利用すべきではない」とした回答はわずか7%だった。
1992/93年の調査との比較
過去11年間の世論調査結果の推移をみることは意味がある。チェコでは、中等学校の学生の知識と見解を調査する国際プロジェクトに参加した。この調査は、日本原子力文化振興財団(JAERO)の企画で、1992年6月、日本、フランス、ドイツ、スウェーデン、スイス、英国およびチェコスロバキア(当時)で実施された。同調査は、15歳から18歳までの学生1030名が対象となった。1992/93年の調査結果と最近の調査結果を比較した図を以下に示す。
1992/93年の調査では、「生活水準とエネルギー消費の関係についてどう考えるか」という設問に対しては、74%が「エネルギー消費を増加させることなしに生活水準を向上させることは可能である」、24%が「生活水準の向上のためには、エネルギー消費の増加は不可避である」と回答した。また、「エネルギー消費量を減らすためには、生活水準の低下もやむを得ない」、「現在の生活水準、エネルギー消費量ともに満足すべき状態にある」とする回答はともに1%だった。
この調査の10年後に実施された今回の調査をみると、「生活水準の向上のためには、エネルギー消費の増加は不可避である」と回答した学生の割合が10年前の調査の2倍近くに達するなど、最近の若年層の見解が現実的になってきていることがうかがえる。
将来開発すべきエネルギーに関する設問(「人類のエネルギー需要に対処するための最終的なエネルギー源は何が一番だと考えるか」)については、1992/93年調査では、学生の55%が「太陽エネルギー」と回答したほか、「潮力」、「波力」、「温度差発電」が29%で、「原子力」と「地熱」はともに7%だった。また、石油、石炭、天然ガスなどの「化石燃料」という回答はわずかで2%を下回った。一方、今回の調査では、「原子力」と回答した学生の割合は7%と大幅にアップしている。
チェコの原子力発電開発利用に関する設問(「チェコの電力供給に占める原子力発電の割合はどうあるべきか」)については、1992/93年調査では、「原子力発電の割合を低下させるべき」とする学生が41.2%、「現状を維持すべき」が35%だった。また、「分からない」という回答も12.4%あり、この設問に対する回答には男女差がみられなかった。一方、今回の調査では、原子力発電に反対する学生の割合は半減し(賛成する学生の割合は倍増)、男子学生と女子学生の回答に顕著な違いがあらわれている。
将来、原子力発電開発を進める理由を問う設問(「原子力発電のメリット」)については、1992/93年調査では、原子力発電を支持する学生の43%が、その理由として「酸性雨や地球温暖化の原因となるガスを排出しない」、23.5%が「将来の石炭や石油などの化石燃料の枯渇」をあげ、12.5%が「わが国(チェコ)の技術が優れている」ことを理由にあげた。また、学生の8.5%が「わが国では十分な(原子力)安全対策がなされている」と考え、同じ割合(8.5%)の学生が「原子力エネルギーは安全」との見解を示した。さらに、「わが国では深刻な原子力事故は起こらない」としている学生も4%いた。一方、今回の調査では、原子力発電のメリットとして、「温室効果ガスを排出しない」ことを指摘する学生の割合が増加している。
最も深刻な環境変化を問う設問(「現在、最も深刻な環境変化」)については、1992/93年調査では、「オゾン層の破壊」(回答者のほぼ全員)、「原子力発電所の事故による放射能汚染」(回答者の半分以上)、「酸性雨による森林破壊と湖沼の酸性化」(回答者の3分の1)−−の3つが最も多かった。また、「熱帯雨林の伐採による自然破壊」、「石炭、石油の燃焼による地球温暖化」、「海洋汚染」をあげた学生も約4分の1に達した。「原生状態にある自然の減少」と「砂漠化」に対する懸念は、比較的、低かった。一方、今回の調査結果では、学生の最も深刻な環境変化に対する認識は、マスコミでよくとりあげられる問題に影響されていると思われる。1992/93年調査では「酸性雨」が最も多かったが、今回の調査では「地球温暖化」となっている。しかしながら、原子力発電所による放射能汚染に対する懸念も依然として高い。
選択肢の中から放射線を発しているものを2つ選ぶ設問については、1992/93年調査では、「人体」(回答者のほぼ全員)、回答者の3分の2が「鉄」、「水」、「プラスチック」を選び、驚くべきことに「花崗岩」を選んだのは半数しかいなかった。一方、今回の調査では、設問が一部異なっているが、人々の放射性核種の存在に関する知識が、依然、不確実だったり、無知であることは明らかである。
日常生活で最も放射線の被曝が大きい事例を問う設問(「最も電離放射線の被曝量が多いもの」)については、「通常運転中の原子力発電所」を選んだ学生が27%、「コンクリートその他の建築資材」が23%、「病院での医療用線源」が20%、選択された割合が少なかったのは「食品」(8%)、「航空機での旅行」(2%)だった。また、「分からない」が20%だった。一方、今回の調査では、「エックス線診断」と「航空機での旅行」の割合が増加している。
今回の世論調査は、討論の前にアンケートに記入する「ユーザーフレンドリー」な方式がとられた。チェコ電力は、今後も毎年、講演・討論会と世論調査を多数、実施し、討論の前後での学生の反応の違いを比較するとともに、一連の世論調査結果を今後の若年層と国民への情報提供や議論に活用していく方針である。
[終わり]
*チェコの学制は日本とは異なり、義務教育が6歳から15歳までの9年間(初等・中等教育)で、義務教育終了後、3つのコース、すなわち、職業訓練校(2〜4年制、15歳〜18歳)、技術系高等学校(3〜4年制、15歳〜18歳)、ギムナジウム(4〜8年制、11歳〜18歳)の3つがある。本調査の対象となっているのは、これら3つの学校に在籍する13歳〜18歳までの学生である。