
日本人の3人にひとりが がんでなくなっていると言われるなかで、最新の治療技術として、重粒子線という放射線を使ったがん治療が、全国的に普及展開されようとしています。
今回のJAIF Tvは、重粒子線を使ったがん治療技術の最新動向を、現地リポートを交えてお届けしています。動画で取り上げられなかった内容を含めて、特集ページをもうけましたので、あわせてご覧ください。
(JaifTv取材班)
(上のイメージ、左は放射線医学総合研究所のHIMAC装置。右は、群馬大学の重粒子線医学研究センター俯瞰図)

切らずに治療し、痛みもない、副作用も少ない治療法―がん治療に限らず、誰もがそのような治療法があればよいと思うでしょう。医療技術は日々進歩し、がん治療にもさまざまな技術進歩がみられていますが、放射線を使った治療技術の進展は最近めざましいものがあります。
特に粒子線(陽子線と炭素(イオン)線)を使ったがん治療が最近注目を集め、すでに国内各地に治療施設が普及しつつあります。
もちろん、こうした治療技術は単独で万能ということではありません。手術などの外科治療や薬を使った化学療法など、さまざまな治療法と組み合わせ、正しい治療を行うことが、がんを克服する最も大切なことだといえるでしょう。
今回は、骨肉腫など手術等の治療が困難ながんに効果を期待される重粒子線(ここでは炭素(イオン)線を指します)を使った治療技術の最新動向を取り上げました。

まず、重粒子線のがん治療のパイオニアとして中核的な役割を果たしている(独)放射線医学総合研究所(放医研)に、理事の辻井博彦先生をお訪ねしてお話を伺いました。
辻井先生は、重粒子線は、荷電を有する粒子で、がん病巣にピタリと照準をあわせることができる特徴(生物学的な特徴)と、がん細胞を殺傷する能力が高い(物理学的な特徴)特徴があるため、「非常に魅力的な放射線(粒子)である」とお話してくれました。
重粒子線の特徴に着目して同研究所が研究を始めたのが30年前。「研究者は、いかに放射線をがん病巣だけに照射するかを考えて研究を進めてきた」(辻井先生)そうです。そうした基礎的な研究を地道に積み重ねて、国のがん対策(第一次対がん10か年総合戦略)のなかで、世界に先駆けてHIMAC(Heavy Ion Medical Accelerator in Chiba)という本格的な重粒子線がん治療施設を建設して、1994年から臨床試験を開始しています。
登録患者数は現在までに4500人を超え、症例数は5000を超えています。
15年にわたる実績のなかで、具体的な事例について辻井先生に伺ったところ、その代表例として「骨盤のなかにできる腫瘍など手術や、一般の放射線がん治療で難しかった疾患に対して効果がある」のだそうです。優れた治療効果がこれまでの臨床試験でわかってきたといいます。
骨や筋肉などから発生する悪性腫瘍(がん)は、骨・軟部腫瘍とよばれ、発生そのものが非常に少なく、また、全身のどこにでもできるという特徴を持っています。そのため、発見が遅れたり、正確な診断が難しく、良性のはれものとして不完全な治療を受けていることも少なくありません。1996年に臨床試験を開始しましたが、これまでの試験を通じて一部みられた副作用等も改善して、2000年4月から開始された第II相試験では3年および5年局所制御率(治療終了後に治療した部位に癌の再増殖認めない患者さんの割合)はいずれも84% で、3年および5生存率はそれぞれ68%と49%。治療法を改善することで、副作用も極力おさえることができるようになっています。
このほか脳腫瘍や頭頸部(口・のど・鼻・副鼻腔)にできるがん、肺がん、肝臓がん、子宮がん、前立腺がん、頭蓋骨のなかの頭蓋底のがん、すい臓がん、
直腸がん、食道がんなど、他の治療法では治療の難しいがん疾患に対する画期的な治療法として注目があつまっています。(下記リンクの、放射線医学研究所重粒子医科学センター病院HPに適応疾患の詳しい説明がありますので、ご覧ください)

こうした重粒子線がん治療を国内に普及するためには、治療装置を小型化して建設コストも下げることが課題でした。HIMACは、中核的な治療装置として建設されたもので、施設の大きさがタテヨコ120m×65mの大型の施設です。
そこで、放医研では、小型化の検討を進めてきました。2005年度までに終了した重粒子線がん治療装置の小型化のための研究開発の結果、放医研ががん治療に利用しているのと同等のビーム性能を、HIMACの3分の1程度の大きさで実現できる見通しが得られています。放医研はこの小型装置を用いた重粒子線がん治療を全国に普及させるために、2006年度から重粒子線がん治療装置の建設を開始する群馬大学に技術的な支援を行う一方で、重粒子線治療医や診療放射線技師、医学物理士等の人材育成の中心的な役割も担っています。(HIMAC装置の詳細は、下記リンクの、放射線医学研究所重粒子医科学センター病院HPから「HIMAC重粒子線がん治療装置」でご覧いただけます)
なお、現在、重粒子線を使ったがん治療ができる施設は国内には放医研のほか、兵庫県神戸市にある兵庫県立がんセンター(陽子線と重粒子線)があり、2010年3月に治療を開始する群馬県前橋市にある群馬大学重粒子線医学研究センターがあります。また粒子線として広くがん治療に実用化、実績をあげている陽子線をつかった治療施設が国内に稼働中・建設中あわせて8つの施設があります。このほか、重粒子線、陽子線ともに建設構想をもっている団体や自治体が多数あり、重粒子線と陽子線を使う粒子線がん治療は、今後国内に急速に普及展開することが見込まれています。

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(独)放射線医学総合研究所HPより引用し改変
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では、海外では重粒子線がん治療施設はどのような現状になっているのか、辻井先生にお聞きしました。欧州ではドイツ、イタリア、オーストリア、スイス、フランスに重粒子線を使ったがん治療の施設があります。米国でも重粒子線施設の計画がそれぞれ進められています。アジアでは中国、韓国など、海外でも普及しています。
こうした海外の施設の計画や建設には、放医研の研究データが大変貴重なデータとして活用されたそうです。放医研の先駆的な取組みは、その貴重なデータ等海外から評価されている、ということです。
なお放医研では、海外との技術的な協力をはじめ国際ワークショップの開催など、さまざまな国際協力事業を展開しています。
(下記リンクの、放射線医学総合研究所重粒子医科学センターHPトップぺージに「世界各地の粒子線研究・開発の状況」の詳しい説明がありますので、あわせてご覧ください)

群馬県前橋市は、戦前から製紙業で栄えた地で「糸のまち」として有名ですが、医療の中核的な拠点としての側面もあります。
群馬大学の医学部附属病院は県内の拠点病院として最新の治療を県民に供する重要な役割を果たしています。とりわけがん治療については、日本の放射線腫瘍学・核医学領域で先導的な役割を果たしてきました。さらに高度ながん治療技術として放医研が開発した小型重粒子線治療装置の技術実証の役割を担い、群馬県と共同して、群馬大学医学部構内に、最新の重粒子線照射施設の建設を進めてきました。
そこで、今回、群馬大学の重粒子線医学研究センター(写真左)に、所長の中野隆史先生をおたずねして、お話をお聞きしました。
中野先生は、重粒子線がん治療の開始によって「総合病院として群馬大学附属病院を基盤に重粒子線治療を中心とした充実した総合的がん医療を提供したいと考えています」とされ、他の治療法との併用療法なども研究しつつ、総合的ながん治療を提供していく考えをお話ししてくれました。 
群馬大学に建設された施設は、大きさが縦横約45mx65m、高さ約20mです。放医研のHIMACにくらべて半分以下の大きさで、同等の重粒子線(ビーム)が得られる最新技術が盛り込まれました。HIMACと同様に、イオン源から重粒子線を得て、線形加速器で予備的に加速しシンクロトロン加速器で光の約70%まで加速したビームは、3つの治療室で患者さんに照射、治療が行われます。
「設置後の運営においては、県内医療機関と連携して、施設を効果的に活用し、群馬医療圏に高度な統合的がん医療体制を構築し、重粒子線照射施設を全国の諸地域に配置する場合の施設活用のモデルとなることを目指しています」とのこと。地域の中核的な医療機関としての役割とともに、重粒子線がん治療の全国的な普及の先駆としての重要な役割を果たしていくことが期待されるところです。
また先進の治療技術の研究も進めているそうです。具体的には、小型の重粒子線治療装置を活用した高精度の炭素イオンマイクロサージェリイ技術というもので、重粒子線治療法の適応を、微小癌、脳下垂体腫瘍などの良性腫瘍、脳血管疾患へ拡大するための独創的な研究です。
マイクロサージェリーというのは、本来は実体顕微鏡(マイクロスコープ)で確認しながら、持針器、ピンセット、メスを操って行う、非常に微細な部分の外科的手術の意味で、重粒子ビームをメスのように使って、小さな疾患の治療をするための繊細で精密な技術のことです。群馬大学では日本原子力研究開発機構と連携して、この研究・開発を行っています。この治療が実現すると、重粒子線の治療対象が大幅に拡大。対象疾患としては小児腫瘍、頭蓋底腫瘍、傍脊髄腫瘍、頭蓋内良性腫瘍、下垂体腫瘍、脳動静脈奇形、神経疾患及び眼科疾患(悪性黒色腫、老人性網膜症)などに適応が広がり、重粒子線がん治療技術に新たな可能性が切り開かれることになります。

患者の立場で考えると、どのような診察、治療が行われるのか関心のあるところです。
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群馬大学重粒子線医学研究センターHPより
引用し改変
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この点について中野先生にお聞きしました。
まず、診察・検査を実施し治療が適切か検討し、重粒子線がん治療に適応するとの判断が下されると、患者さんに十分説明(インフォームド・コンセント)が行われます。
その後、治療準備として、がんの正確な位置を測定し、専門のスタッフが治療計画を立て、適切に照射治療を行うための準備をします。
照射治療は準備に15分程度かかりますが、実際1回の照射は1〜2分で、痛みや熱は感じないとのことです。一般的な放射線治療に比べ、平均すると約半分の照射回数で終了します。治療終了後の翌日、あるいは数週間後に退院になるということで、患者さんの負担の少ない治療法であることがわかります。(なお、実際の治療では病状によって異なる場合があるので、この説明はあくまで治療の流れのひとつの例です)
(群馬大学の重粒子線照射施設や治療に関する詳しい説明は、群馬大学の重粒子線医学研究センターHPからご覧いただけます)
このような優れた治療技術が内外に広く普及され、1人でも多くの患者さんが救われればと率直に感じた今回のリポートでした。
(本ページは、JaifTv第27回配信分の連動企画ページになっています)
◎ 重粒子線がん治療について、詳しく知りたい方は、次のリンク先をご覧下さい。
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