[原子力産業新聞] 2001年7月26日 第2097号 <3面>

[チェコ] ドイツの原発閉鎖要請を拒否

主権国家としての独自性主張

チェコのM.ゼマン首相は18日、緊急に開催した閣僚会議の結果、「独自のエネルギー政策を決定する権利を有する主権国家である以上、ドイツによるテメリン原子力発電所の閉鎖要請には応じられない」との見解を発表した。

これはドイツ連邦政府内で緑の党に所属するJ.トリッティン大臣が率いる環境原子炉安全省 (BMU) が作成した「技術文書」に対してチェコ側から出された回答。同文書はテメリン発電所の技術的な安全基準に関してドイツ側が抱いている危惧を伝えるとともに、同発電所を閉鎖する可能性についても検討を要請していたという。テメリン発電所の所長は同文書について、「技術的に甚だしい間違いが随所に見受けられ、国際原子力機関 (IAEA) や西欧原子力規制者協会 (WENRA)、欧州委員会 (EC) の原子力問題グループ (AQG) が何度となく審査した事実に関する議論を歪めた形で繰り返している」と分析。これらの国際機関や作業グループのいずれも、同発電所の設計上の不備や、ドイツ環境相が誤って述べているような試運転時の機能不全を指摘したことはないと言明していた。

文書はプラハにあるドイツ大使館でドイツ政府の見解としてチェコ側に手渡されたと伝えられているが、ゼマン首相は記者会見の席で、「ドイツ環境省によるこの要請についてはドイツ政府内で議論されたわけでもなければ、票決が行われたわけでもない」と指摘。その上で、テメリン発電所の原子力発電所としての安全性や生態学上の安全性についてチェコ政府としては何の疑念も抱いていないという事実がある以上、このような要請に応じる理由はないと明言したほか、原子力の利用に関する決定も含めてエネルギー政策における選択はそれぞれの主権国家の問題だと強調している。

このようなチェコの見解には世界原子力協会 (WNA) のJ.リッチ事務局長も同調しており、次のようにコメントした。すなわち、「この2年間というもの、ドイツがイデオロギーに支配されたエネルギー政策によって自転車や太陽光パネル、風車タービンなどを動力とした環境保護的な空想世界を求めて合理性から乖離した国に向かっていくのを世界は注視してきた。しかしながら、トリッティン環境相が葬り去ろうとしている原子力を抜きにして、ドイツが今世紀の二酸化炭素削減目標を達成できるなどと信じる分析家はどこにもいない」

同事務局長はまた、「独連立政権による突飛な政治が環境相らの少数意見をドイツで押し通させてしまったことは誠に悲しむべきこと」とコメント。同相がさらに独立の主権国家である隣国にも同様の損害をもたらそうとしているのを世界は黙って見過ごすわけにはいかないと訴えた。チェコに対しては、IAEA や WENRA などを再び招き、改めて同発電所の審査を実施するよう勧告している。


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