[JAIF] MIT報告書に対するコメント - 2003年12月8日

日本原子力産業会議は、米国マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究グループが発表した「原子力発電の将来」に対するコメントを最終的に取りまとめました。

MIT報告書に対するコメント

2003年12月8日

(社)日本原子力産業会議


 本年7月29日、米マサチューセッツ工科大学(MIT)が、「原子力発電の将来」と題する学際的研究報告書を発表した。

 MIT報告書は、「地球温暖化ガス排出を削減し、増大する米国および世界のエネルギー需要を満たす上で、原子力発電が重要なオプションである」との認識の下、原子力発電所の建設促進方策を提言しており、これらの点で、MIT報告書を高く評価したい。

 MIT研究は、2050年には世界の原子力発電規模が、現在の3倍の10億kW(米国の原子力発電規模も3倍の3億kW)に増大するとの「地球規模の原子力発電の成長シナリオ」を描いている。再生可能エネルギー、省エネルギー、炭素の固定化・隔離を推進するとともに、原子力発電の拡大利用をしなければ、世界を二酸化炭素の汚染から救う道はないというMIT報告書の研究者達の考えに、我々も同意見である。

 しかし、MIT報告書には、「少なくとも今後50年間はワンススルー燃料サイクルが最良の選択肢」との結論が出されるなど、日本の原子力政策とは異なる部分も散見される。以下に、MIT報告書に対する概略的なコメントを、日本の原子力開発の考え方も説明しながら、述べる。

 2050年までに世界の原子力発電が10億kWに拡大することについて、これらの原子炉の40年間の寿命期間にわたって必要とするウラン(U)の供給量が十分にあるとのMITの見解については、OECD・NEA/IAEAの報告書「ウラン2001:資源、生産、需要」(通称レッドブック)からしても、成立性に疑問がある。

 ウランも限りある天然資源と考えるべきであり、10億kWの原子炉は1年間で16万tUを消費し、現在のウラン確認可採埋蔵量400万トンでは20数年しか持たない。ウラン価格の上昇や探鉱開発によりウラン確認可採埋蔵量が増大する可能性があるにしても、ウラン資源の有効利用を図るのは当然のことである。現世代で地球のウラン資源を使い尽くしてはならない。

 また、このような資源量の議論の前に、そもそも地球の天然資源を今以上に大量に継続して発掘しつづけることの環境倫理面からの問題がある。

 MIT報告書は、原子力発電利用を拡大するために解決すべき主要課題として、コスト、安全性、廃棄物、核不拡散の4つをあげている。しかし、技術力の維持・向上、社会的受容等も同様に重要な課題であり、その克服には各国、各地域によって対応が異なることに留意すべきである。

 先進工業国として国内エネルギー資源に乏しいという厳しい国情から、我が国では、原子力開発の当初より平和利用に限定しつつ、一貫して核燃料サイクル政策を堅持してきている。

 我が国の原子力委員会は本年8月、我が国の核燃料サイクルについての考え方を再確認した。すなわち、我が国は、核燃料サイクルの将来展望にあたって、原子力利用を3段階に分けて考えている。第1段階として軽水炉による原子力発電の実用化、第2段階として民間事業としての商業再処理とプルサーマルの実施による軽水炉サイクルの確立、第3段階として高速増殖炉の導入による高速増殖炉サイクルの確立である。

 現在、我が国は第2段階に入っている。ここでは、再処理で得られたプルトニウム(Pu)は、できるだけ速やかに軽水炉で燃焼することを考えている。また、この段階は、軽水炉による天然ウラン消費をできるだけ抑制するとともに、将来のPu利用についての技術基盤や制度基盤の確立を図る上でもきわめて重要である。

 そして、将来の目標(第3段階)として、高速増殖炉の開発を行い、ウラン資源の利用効率を飛躍的に高め、人口100億の人間社会とそれを支えるエネルギーとしての原子力の持続的発展を可能にしようと考えている。さらに、高速増殖炉は、マイナーアクチニドを燃焼して環境負荷をさらに低減させる可能性を有している。

 MIT報告書が、前記4つの課題に対処するために、2050年までワンススルー燃料サイクルにプライオリティをおくべきであると勧告しているが、これは国内資源の豊富な米国における議論にすぎない。技術で創造されるが故に準国産エネルギーと見なせる原子力に頼らざるを得ない国が存在することを認識すべきであるし、そのために米国エネルギー省(DOE)が進めている第4世代原子力システム(G-W)、先進燃料サイクル(AFCI)などのR&Dを不断に進めることは不可欠である。

 コストが一つの重要ポイントであることは間違いない。このため、MIT報告書でも、原子力発電所の経済性向上方策として、建設コストの削減や建設期間の短縮、運転・保守コストの圧縮に触れ、さらに、新規建設への許認可に対する政府による資金補助、DOEによる原子力2010イニシアチブの支持、”炭素を排出しない”エネルギーポートフォリオへの原子力の組み入れ、先発の原子力発電所に対する発電税減税の導入などは有効な方向と考えられるが、各国の制度等国情によって選択されるものであることはいうまでもない。

 MIT報告書は、ワンススルーサイクルを主張する理由の一つとしてコストを挙げている。我が国のkW時当たりの発電コスト比較は、核燃料サイクルを含めても原子力は5.9円、水力13.6円、石油火力10.2円、LNG火力6.4円、石炭火力6.5円と試算されている。今後適宜見直しがなされるが、資源小国として核燃料サイクルを含めた原子力発電のコストの適正化について、市場原理を基本とした政策が取られていくこととなる。

 核不拡散については、原子力の平和利用を厳格に遵守するため、我が国は、再処理で抽出されるPuは、可及的速やかに炉内で燃やしてしまうことにより、計画的に消費することとし、「利用目的のない余剰Puを持たない」原則に立っている。このため、使用済み燃料の再処理と中間貯蔵の併用を進めている。

 将来的には、核拡散抵抗性の高い革新的燃料サイクルの導入により、マイナーアクチニドを含めウラン資源を真の人類の平和的な共生に向けた有効活用が期待できるため、そのR&Dの国際協力に参加している。

 MIT報告書にいう、2050年までのワンススルー方式の選択や米国DOEのR&Dの方向をワンススルーサイクルに焦点を当て、革新燃料サイクルなどの研究は、コスト、安全、廃棄物、核不拡散の4点についての大々的なシステムアナリシス(原子力システムモデリングプロジェクト)を完了した後まで延期すべきとの説は、実質的に現世代による課題を後世代に先送りし、かつ後世代に選択肢を与えるための現世代によるR&Dの継承もしない、ということになる。それは現世代の責任の放棄であると考えられる。

 革新燃料サイクルの開発等は、できるだけ早期に、かつ不断に国際協力により、R&Dを行うべきであると考える。

 MIT報告書でも指摘しているように、今後、アジア地域は、世界の他の地域に比べて、原子力発電の顕著な拡大が予想される。日本のみならず、アジア全体の将来を見ると、MIT報告書で、国際使用済み燃料管理を提唱し、その実現に向け早期の協議開始を提言していることは有意義である。

 原子力発電の一層の拡大にあたっては、地球温暖化に対する懸念と二酸化炭素を排出しない原子力発電の開発促進との相関について、公衆の原子力に対する理解促進および支持増大が不可欠であることは間違いない。

 MIT報告書の著者達は、同報告書が政府、産業界、学界の指導層を対象にまとめられ、その分析・提言が原子力発電利用の拡大に向けた建設的な議論のきっかけとなると考える、と述べている。

 かつて国際核燃料サイクル評価(INFCE)で世界各国は非常に包括的かつ詳細な検討を行い、平和利用と核不拡散は両立し得ると結論され、我が国は核燃料サイクル路線を鋭意進めてきている。今回は当時に比べて地球環境問題が加わった。さらに、原子力技術や知見について、その当時に比べて格段の進歩があった。各国には資源的・地政学的等の事情があるので、原子力という技術について人類的、世界的かつ地球的視点で議論しあうことは有益であると我々も考える。

以 上

Copyright (C) 2003 JAPAN ATOMIC INDUSTRIAL FORUM, INC. All rights Reserved.