「エネルギー基本計画」見直しにあたっての意見
平成18年7月25日 (社)日本原子力産業協会
石油価格の高騰やインド・中国をはじめとするアジア地域におけるエネルギー需要の急増などを背景に、海外の主要国では、国のトップ自らが先頭に立ち、極めて重要な国家戦略として国内のエネルギー需給構造の体質強化やエネルギー資源権益確保の強化等をはかっている。今般、わが国においても、「新・国家エネルギー戦略」として日本のエネルギー安全保障の観点に立った戦略構築が明確に打ち出されたことを評価する。
資源小国である日本にとって、社会経済の成長の原動力となる産業や質の高い国民生活を維持するうえで、エネルギーの安定供給は極めて重要な政策課題である。わが国を、今後予想される世界的なエネルギー資源獲得競争の激化等のリスクに対応できる体質に強化するためには、地球温暖化対策としても最も有効な原子力をエネルギー安全保障の柱として、最大限効果的に活用していかなくてはならない。原子力エネルギー利用の重要性は、先般のサンクトペテルブルク・サミットでのエネルギー安全保障に関する行動計画に明確に盛り込まれたところである。わが国としても首相自らが主導し、長期的視点に立った強い意志のもと「原子力立国計画」を前面に打ち出し、いわゆる中長期的に軸のぶれない政策を遂行することが枢要である。
以上を踏まえ、「エネルギー基本計画」見直しにあたり、以下の諸項目が明確に盛り込まれることが重要であるとの認識に基づき、意見を提出する。
記
1.原子力発電比率目標30〜40%達成にむけた環境整備
エネルギー供給の約50%を占める石油依存度を2030年までに40%以下とする「新・国家エネルギー戦略」の目標を達成するためには、資源供給途絶のリスクが小さく安定供給可能な原子力を最大限活用することが不可欠である。「原子力政策大綱」が示した発電電力量に占める原子力発電の導入目標値である「2030年以降も30〜40%かそれ以上」を達成できるよう、国は、民間活力を最大限活用できる環境整備を行うことが不可欠である。
2.安全規制制度の高度化の促進
客観的データを踏まえた科学的合理性に基づいた透明性のある効果的な規制が行われることや、リスク情報の活用、維持基準の整備等により、事業者における予見性をもった発電所の運転とともに一層の安全性向上が図られることが重要である。
また、検査の実効性を増すためには、国と事業者の明確な役割分担が必要である。自治体からの理解獲得のための積極的な取り組みに加え、事業者の運転パフォーマンスの改善意欲や創意工夫が十分に反映されるよう、特に安全上重要な事項について国が責任ある保安監督を行うとともに、その他の運転に関する事項についてはインセンティブ規制の導入等事業者の対応に委ねるなど、メリハリのついた安全規制への見直しが必要である。
3.既設原子炉の有効活用を可能とする施策
将来の原子力発電比率向上のためには、計画的な新・増設に加え、米国をはじめ海外において高水準の安全性と稼働率向上を両立していることに鑑み、わが国においても安全確保を大前提としつつ、既設炉の稼働率向上に向けた取り組みを推進すべきである。原子力発電所の稼働率を向上させることは、温暖化対策としても最も経済的かつ即効性のある方法であり、温暖化ガス排出削減目標の達成のためにも極めて有望な施策として位置づけることができる。国は、原子力政策大綱に示されている出力増強、定期検査の柔軟化や長期運転サイクルの導入など、稼働率向上を含む発電量増大を可能とする具体的施策の実現に向けた検討を進めることが必要である。
4.高経年化対策への取り組み
高経年化対策の安全性・信頼性をより向上させる観点から、国をはじめとする関係機関が適切に役割を分担しつつ、技術基盤情報の整備、技術開発の推進、規格基準類の整備、保全高度化の推進ならびに自治体を含め地域住民への理解促進をはかることが必要である。
5.高速増殖炉(FBR)サイクルの確立に向けた予算確保などの環境整備
資源の乏しいわが国において、資源の輸入依存度を大きく低減させる燃料サイクルの確立は急務である。そのために、官民協力したプルサーマル計画の着実な具体化が必須であることは言うまでもないが、第3期科学技術基本計画において「国家基幹技術」に位置づけられたFBRサイクル技術の開発は、ナショナルプロジェクトとして、国の強いリーダーシップのもと官民一体となって取り組むべき課題である。「もんじゅ」や六ヶ所再処理工場等、各プロジェクトの着実な進展およびそれらを踏まえた将来計画の策定など、直面する課題解決にむけた研究開発を全力で行えるよう、適切な規模の予算を確保し、経済産業省と文部科学省の協力による力強い牽引が必要である。
6.燃料サイクル技術に関する技術開発の推進
現行の「エネルギー基本計画」のもと、ウラン濃縮技術の高度化、MOX燃料加工技術の確立等の研究開発に対する国の補助事業が実施され成果を挙げてきている。今後予想される世界的なエネルギー需給の逼迫を踏まえると、これらの燃料サイクルに関する研究開発はますます重要となる。ウラン濃縮、MOX燃料加工および再処理のサイクル技術開発に対する国による推進支援の必要性を明確に位置づけるとともに、研究開発に対する補助事業の継続が必要である。
7.放射性廃棄物対策の着実な推進
放射性廃棄物に関しては、発電所操業・解体廃棄物余裕深度処分施設およびTRU廃棄物の余裕深度または地層処分の実施にむけて、安全審査指針の改定、原子炉等規制法、特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律の改正など、法令等の整備を早急に進めるよう所要の措置を講じることが必要である。また、今日、原子力ルネッサンスの成否を左右するアキレス腱は高レベル放射性廃棄物処分場であるという認識を広く共有し、早急にサイト確保に目途をつけオンサイト環境における安全技術開発を行えるよう、国としての施策の充実をはかることが必要である。
8.中長期的な民間投資を促進するための環境整備
民間投資を促進するためには将来的な不確定要因を減じていく必要がある。原子力発電は、他の電源に比べ設備が大規模で多額の初期投資が必要となることに加え、バックエンドを含めると事業期間が長期に及ぶ。事業者による自助努力は不可欠ではあるが、それのみで営利企業が事業を長期間遂行することは困難を伴う。事業継続の後ろ盾となる政策の継続に加え、廃棄物処分の基準整備や費用を積み立てる仕組みなどのバックエンドに対する国の環境整備が必要である。
9.国際協力の戦略的推進
非核保有国の燃料サイクル国のフロントランナーとしてのわが国の国際的な影響力の維持・向上および国内産業の国際競争力強化のためには、平和利用目的を高く掲げた、国による戦略的な国際協力の推進が不可欠である。国際原子力エネルギーパートナーシップ(GNEP)等の国際的な枠組みの場でのわが国の貢献、次世代炉および燃料サイクル技術の国際標準化へのわが国の技術・経験の反映、原子力産業の国際的展開に際しての明確な支援表明や制度整備支援とともに公的金融活用等の協力──などの推進が必要である。
10.国がイニシアチブを発揮しての推進活動
国は、電気事業者が2010年度までに16〜18基の原子力発電所での実施を予定しているプルサーマル計画を着実に推進できるよう、今後も継続して地元地域への理解活動を展開すべきである。現在、候補地選定に進展がみられない高レベル放射性廃棄物処分場については、特に前面に立った広聴・広報を粘り強く行うことが必要である。燃料サイクル関連事業の実現に向けて、国がイニシアチブを発揮し、積極的な推進活動を行うことが不可欠である。
11.原子力・エネルギーに関する正しい知識の普及への取り組み
一部のマスコミ報道等による偏りや誤解を含む情報の発信は、世論へ大きな影響を与え、正しい知識取得への弊害を生む恐れがある。それら情報の内容を正す具体的方策、および正しい知識を得るための小学校から高校、大学における原子力・エネルギー教育の充実について、国としての更なる取り組みが重要である。
12.クリーン開発メカニズム(CDM)への組み込みにむけた取り組み
安定的で安全なエネルギー供給に支えられて社会が持続的発展を果たすことと、地球環境の保全を同時に満たすには、原子力発電を利用することが最も現実的な方策である。わが国のみならず、国際社会において原子力発電開発を促進していくためには、CDMに原子力発電が組み込まれることが重要である。国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)の場等において、環境省との連携をはかり政府が一体となって原子力発電の有用性を強く訴えるとともに、京都議定書第二約束期間(2013年〜2017年)をめぐる国際的な議論においては、原子力発電の有用性に対する認識が深まるよう、民間とも連携し積極的に締約国に働きかけることが重要である。
以 上
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