■シリーズ「あなたに知ってもらいたい原賠制度」【14】


新規導入国の原子力損害賠償措置
 今回は、新規導入国の原子力損害賠償措置についてQ&A方式でお話します。

Q1.(新規導入国の原子力損害賠償措置)
新規原子力導入国の原子力事業者が原子力損害賠償措置をするとき、どのような課題がありますか?

A1.
・ 損害賠償措置は原子力事業者(事業者)の賠償責任に関わる資金的保証を必要とするものですが、特に途上国などの場合、原子力損害を賠償するための巨額の資金をどのように準備するか、また、どれだけの金額を準備できるかは大きな課題です。

・ 賠償措置のための資金的保証には、現金的手法、信用状によるもの、保証人によるもの、保険によるもの、事業者共済などの方法が考えられますが、現実的には原子力既設国の殆どにおいて民間保険制度による方法が普及しています。

【A1.の解説】
  原子力損害賠償制度の基本的な仕組みは、賠償責任の厳格化と原子力事業者への責任集中とともに、損害賠償の履行が確実に行われるように事業者に資金的な担保を予め講じさせること、すなわち事業者に損害賠償措置を強制することで、原子力損害発生時の被害者への迅速、円滑かつ確実な損害賠償を図るものです。

 事業者はこの制度により、万一の時に原子力損害を賠償するための一定の資金を準備しておくこと(賠償措置)が必要となりますが、途上国に限らず、原子力事業者が単独で巨額の資金を準備することは容易ではないため、制度として十分な賠償措置額をどのように設定するかが大きな課題となります。

 賠償措置のための資金的保証には、大きく分けて民間によるものと国によるものの2通りがありますが、一般に、先ずは民間による手立てを取り、如何しても困難な事柄については国による対応となります。保証の方法には種々ありますが、例えば、以下のようなものが考えられます。

・ 現金的手法
 通貨、株式、債券、投資信託等を供託・預託することにより措置する方法。事業者は巨額の資金が必要となり、その資金は他に流用できないため、実用的ではない。
・ 信用状による担保
 銀行等の金融機関から発行される信用状(支払い確約書)により担保する方法。事業者は信用状獲得のために、状況によっては多額の費用負担となることが想定される。
・ 保証人による担保
 事業者が損害賠償の支払い義務を履行できない場合に、保証人がその支払いを担保する方法。保証人と契約するための費用は、一般的に保険による費用(保険料)と比べて高くなることが想定される。
・ 民間保険による担保
 原子力事業者が民間の保険会社に掛け金(保険料)を払い、原子力賠償責任保険により担保する方法。実際には原子力保険プール(次のQ2参照)が保険の引受を行うことになる。
・ 原子力事業者共済制度
 米国やドイツで実施されているような、第一次を民間保険制度とし、その上に第二次の原子力事業者同士が資金を出し合って巨額な損害賠償措置に備える相互扶助制度。原子力損害発生時には各事業者が資金を拠出して対応する。資金を負担する事業者が相当数あれば実際的な手段となり得るが、新規導入国には難しい。

 原子力事業者は原子力損害賠償措置のための資金的保証として上記のような方法が選択可能ですが、現実的には、原子力損害賠償のリスクに対して原子力賠償責任保険の費用(保険料)と競合できる費用で保証を得ることは難しいため、原子力発電の既設国の殆どにおいて民間保険制度による損害賠償措置が行われています。


より詳細な解説はこちら
http://www.jaif.or.jp/ja/seisaku/genbai/mag/shosai14.pdf

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Q2.(原子力保険の仕組み)
民間保険会社が提供する原子力賠償責任保険は、どのような仕組みで巨額の賠償措置額を担保しているのですか?


A2.
・ 原子力賠償責任保険(原子力保険)のような巨額の支払を担保する保険は1民間保険会社もしくは1国の保険業界では引受けられないため、各国は国内の保険会社を結集して「原子力保険プール(保険プール)」を組織し、各国の保険プールは相互に再保険契約を結ぶことで、当該原子力施設の巨額な原子力リスクを世界中の保険プールに分散させて、引受けの安定を図っています。

・ したがって、新規原子力導入国においては原賠制度の損害賠償措置に必要とされる原子力保険導入のため、当該国の保険会社の結集による保険プールの創設とともに、各国保険プールとの再保険ネットワークの構築が極めて重要となります。

【A2.の解説】
 1950年代から始まった原子力平和利用における原子力発電所等については、幾層もの安全確保が図られていますが、原子力リスクの性質上、膨大な規模の損害が発生する可能性は否定できません。

 現在商用発電炉は世界中で四百数十基と保険の母集団としては数少なく、また損害発生頻度は少ないが損害規模は大きいという原子力特有のリスクを填補する保険においては、世界中の保険会社の引受け能力を結集する仕組み、すなわち各国の保険プール設立および保険プール相互間の再保険契約取引は不可欠とされています。

 各国の保険プールは再保険契約を結び、原子力リスクを世界中に分散させるとともに損害発生時の保険金を世界中の保険会社から回収できるようにすることで巨額の保険金額を担保しています。

 我が国の場合には、1950年代後半において国による原子力災害補償制度の検討が行われ、これと相俟って保険業界は原子力賠償責任保険(原子力保険)および原子力保険プールの検討・準備を進めて、1960年に国内保険会社20社は原子力保険の事業免許を得て、日本原子力保険プールを設立しました。

 その後、1961年に原賠法、補償契約法の原賠2法が成立し、1966年には我が国初の商用原子炉が連続運転開始するに至りました。

 現在(2010年3月末)原子力保険プールに参加している保険会社は、日本において営業免許を取得する外国保険会社を含めた24社によって、1事故当たり最大1200億円の原子力賠償責任保険の引受を行うとともに世界の20プール程度と再保険取引をしています。

 原子力保険はこのような特殊な引受け方をするため、新規原子力導入国において原子力損害賠償制度を構築する際には、賠償法―原子力賠償責任保険―保険プールはセットと考えて、法制度の整備段階から当該国の保険業界においても保険プール設立と各国保険プールとの提携を検討・準備していくことが必要となります。


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