■シリーズ「あなたに知ってもらいたい原賠制度」【17】


インドの原子力開発事情と原賠制度について
 今回は、大規模な原子力開発計画を持つインドの原子力事情と原賠制度についてQ&A方式でお話します。

Q1.(インドの原子力事業)
インドの原子力開発はどのように進んできましたか?

A1.
・ インドは1947年の建国時より英国、米国、カナダなどの協力を得ながら原子力開発を進めていましたが、1974年に核実験を行ったことにより国際協力を得られにくくなり、以降自主開発や国産化の道を歩んできました。
・ しかしながら、近年の原子力ルネサンスへの変化を背景に、2005年に米印間で原子力協力の合意が成立したことから、2008年にはIAEAが保障措置協定を承認したうえで、原子力供給国グループ(NSG)からの例外措置を受けることとなり、同10月に米国と正式に原子力協力協定を締結しました。
・ インドでは現在、19基4,560MWの原子力発電プラントが運転中であり、原子力発電の全発電量に対する割合は3%程度ですが、4基2,720MWが建設中、さらに2032年までに原子力発電設備容量を63,000MWに拡大する計画を持っています。


【A1.の解説】
 インドは1947年の建国時から原子力を国家戦略と位置づけてその研究・開発を行っており、インド憲法発布前の1948年には原子力法が制定され、原子力政策の要ともいえる原子力委員会(AEC)が発足しています。以来、1956年には英国の協力によりアジア初の研究炉APSARAが臨界、1969年には米国の協力のもと2基のBWRが運転開始、1973年にはカナダの協力で1基のCANDU炉が運転開始しました。

 ところが、中国の核保有に影響を受け、1974年にインドも核実験を実施したことから、カナダや米国などが協力を停止し、さらに国際的な輸出規制のためのNSGを設置したため、インドは原子力関係の資機材や技術の輸入ができなくなり、ウラン燃料、重水、原子炉関係機器などの調達から、建設・運転・保守の技術に至るまで国産で賄わざるを得なくなりました。

 1998年にインドが実施した2回目の核実験は多くの国の反発を招きましたが、その後、インドが核不拡散に協力する姿勢を見せたこともあり、2005年には米国の対印原子力政策が転換され、2008年8月のIAEA理事会による対印保障措置協定案の承認、同9月のNSGによるインドへの原発輸出の承認を経て、同10月に米印原子力協力協定が署名されて、発効しました。

 インドでは現在、インド国営原子力発電会社がカナダCANDUの設計をもとに独自開発した加圧水型重水炉(PHWR)を主体に、米国から導入されたBWR 2基とカナダから導入されたCANDU 2基を含む19基4,560MWが運転中であり、またロシア製のVVER2基や高速増殖原型炉1基を含む4基2,720MWが建設中、さらに2032年までに40数基を建設・稼動することによって原子力発電設備容量を63,000MWに拡大する計画を持っています。

 この巨大な原子力市場を狙って現在、フランス、米国、カザフスタン、モンゴル、ナミビア、アルゼンチン、ロシア、カナダの8カ国がそれぞれインドと二国間協定を結んでいます。また、英国、韓国もインドとの協定締結に向けて交渉を行っています。我が国も2010年6月に日印原子力協定締結に向けた交渉を始めました。

 原子力関係の国際条約への加盟状況については、
・ 「原子力安全条約」、「原子力事故早期通報条約」、「IAEA保障措置協定」、「核物質防護条約」に加盟
・ 「核不拡散条約(NPT)」、「使用済燃料安全管理・放射性廃棄物安全管理合同条約」、「包括的核実験禁止条約(CTBT)」、その他原子力損害賠償に関わる諸条約には非加盟
という状況にあります。


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Q2.(インドの原賠制度)
インドの原賠制度はどのようになっていますか?


A2.
・ インドは1948年に原子力法を制定しているものの、原賠制度に関する法律はまだ成立していません。
・ 2009年11月に、インドの内閣は原賠に関わる国際条約の締結を視野に入れた原子力損害賠償責任法案を承認しましたが、左派政党の反対などにより、現在、議会への提出が見送られています。
・ この法案は7章49条からなり、原賠制度の基本的原則事項(責任集中、厳格責任、賠償責任限度額、賠償措置、国の責任など)に加え、賠償請求に関わる裁定の体制や手続き等も定めてあります。


【A2.の解説】
 インド建国の翌年1948年には最初の原子力法が制定され、現在では1962年原子力法が原子力に関連した諸活動に関する基本法となっています。原子力関係組織では、その頂点に原子力委員会(AEC)があり、その下にある原子力規制委員会(AERB)と原子力省(DAE)によって、「放射線防護規則(1971年)」および原子力に関わる「仲裁手続き(1983年)」、「鉱山作業、鉱物、所定物資の取扱(1984年)」、「放射性廃棄物の安全処分(1987年)」、「工場(1996年)」、「食品照射管理(1996年)」の各規則が制定されています。

 原賠制度に関する法律については、2009年11月にインドの内閣は原子力事故による人身・財物・環境に対する甚大な損害を懸念し、また越境損害による国際的な賠償責任も勘案して、原子力損害賠償責任法案を承認しましたが、左派政党が反対したことなどにより、一旦、議会への提出が見送られました。当該法案は2010年5月に議会に提出され、議会の中で原子力事業者の責任限度額の引上げ等や反対者への対応等による修正が検討されています。インドにおける米国等原子力先進国の企業による原子力発電施設等の建設にあたって、原賠法の制定は不可欠なものとなっています。

 法案は、T 序章、U 原子力損害の賠償責任、V 賠償請求に関わる裁定者、W 賠償請求と裁定、X 原子力損害賠償裁定委員会、Y 違反と罰則、Z 雑則 の7章49条から成っており、事業者への責任集中や責任限度額の設定、国の役割など原賠制度の基本的内容を備えているほか、賠償請求に関する裁定者の任命や権限、裁定委員会の設置、請求の手続きや裁定方法等まで規定されています。

 原子力事業者は原子力事故により生じた原子力損害の賠償責任を負いますが、異常に巨大な自然災害や武力闘争、戦争行為、内乱、反乱、テロ行為が直接起因する原子力事故の場合には免責となります。事業者の賠償責任額は50億ルピー(約93億円*)であり、その責任額を事業者は保険などにより財務的保証を措置することとなっています。一事故あたりの賠償責任限度額は3億SDR(約396億円*)であり、事業者の責任額50億ルピーを超える部分および事業者の免責事項については、国が賠償責任限度額(3億SDR)まで責任を負います。

 なお、インドは現在、原賠に関するいずれの条約(パリ/改正パリ条約、ウィーン/改正ウィーン条約、補完基金条約(CSC))にも加盟していません。

*平成22年7月23日現在のレートによる。


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