■シリーズ「あなたに知ってもらいたい原賠制度」【22】


ポーランドの原子力開発事情と原賠制度
 今回は、豊富な石炭資源を持つポーランドの原子力開発事情と原賠制度についてQ&A方式でお話します。

Q1.(ポーランドの原子力開発事情)
石炭火力発電が9割超を占めるポーランドにおいては、原子力開発はどのような状況ですか?

A1.
・ ポーランドでは1950年代から原子力に関する研究が行われてきましたが、国内に豊富に石炭があるため、原子力発電所の建設は先送りにされてきました。
・ 発電を石炭に依存したために大気汚染がひどくなり、1980年代には原子力発電所の建設に着工しましたが、チェルノブイリ事故を受けて計画は白紙撤回されました。
・ 近年、温暖化防止やエネルギーセキュリティの観点からポーランドでは電源の多様化が喫緊の課題となっており、2009年には首相から具体的な原子力発電導入計画が発表されました。
・ ポーランドの原子力発電導入に当たっては、外国企業の全面的な支援・協力が期待されています。


【A1.の解説】
 ポーランドには1958年に初めて建設されたEWA、1974年に運転開始されたマリア炉などの研究炉があり、原子力に関する研究は古くから行われてきました。一方で、国内に石炭、褐炭等のエネルギー資源が豊富にあったことなどから、1960年代に旧ソ連による強い勧めがあったにも関わらず、ポーランドの原子力発電所の建設計画は先送りにされてきました。

 しかし、発電を石炭や褐炭に依存したために大気汚染がひどくなり、1972年にポーランド政府は、バルト海沿岸のジャルノヴィエツに旧ソ連型の加圧水型炉VVER-440(出力44万kW)を4基建設することを決定しました。このうち2基は1986年に着工されましたが、同じ年に隣接する旧ソ連(現ウクライナ)で発生したチェルノブイリ事故(ポーランドの一部には大量の放射性降下物があった)をきっかけに反原子力の世論が高まったため、政府は1991年に建設計画を中断し、原子力発電導入計画は白紙撤回されました。

 現在、ポーランドの電力供給の9割以上は石炭火力によって賄われており、また一次エネルギーの6割が石炭、3割が石油、1割が天然ガスによっています。さらに石油のほとんどと天然ガスの7割を輸入に頼っているため、環境や気候変動問題への配慮だけでなく、エネルギーセキュリティの面(とりわけロシアへのエネルギー依存を減少させるという)からも、エネルギー源の多様化が喫緊の課題となっています。

 こうしたなか、近年は世界的な原子力ルネッサンスの流れの中で、再び原子力発電の導入が議論されています。2005年には原子力発電所の建設計画が盛り込まれたエネルギー政策案が政府により発表され、2009年には首相から「2020年までに初号機を、2030年までに合計出力600万kW(2サイトで各300万kW)を運転開始する」との原子力発電導入計画が発表されました。
 今後の開発スケジュールでは、2010年秋に原子力発電開発計画の立案、2011〜2013年発電所のサイト選定・サイト準備作業・機器供給契約等の締結、2014〜2015年詳細設計・許認可の取得、2016年初号機の着工、2020年運転開始とされていますが、若干の遅延も予想されています。
 
 原子力発電の導入にあたって、ポーランドは米国、フランス、日本、韓国などの各国と原子力協力協定を結ぶとともに、原子力発電事業の出資者であるポーランド・エネルギー・グループ(PGE)は、海外のエネルギー企業の資本参加を求めて、フランス電力、GE日立ニュークリア・エナジー社、ウェスチングハウス・エレクトリック社との間においてそれぞれ、原子力発電分野での協力に関する覚書を締結しています。
 さらに、2010年にはポーランドはOECDの原子力機関であるNEAの29番目の加盟国となり、IAEA基準とEU規則を満たす第3世代原子炉を目指している模様です。
 

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Q2.(ポーランドの原賠制度)
ウィーン条約の加盟国であるポーランドの原賠制度はどのようになっていますか?


A2.
・ ポーランドの原賠制度は、2000年11月に制定の原子力法の一部として規定されており、同法は直近では2008年に改正されています。
・ ポーランドの現行原賠法では、用語の定義、運転者への責任集中、損害賠償措置の強制、責任限度額、国の補償など、原賠制度の基本的原則が網羅されています。
・ ポーランドは1990年にウィーン条約に、2010年に改正ウィーン条約に加盟しました。


【A2.の解説】
 ポーランドにおける原子力法は、もともと旧ソ連型の原子力発電所(VVER)の建設計画が着工した1986年に制定されました。しかし、この計画が頓挫した後、2000年11月29日に現行の原子力法が改めて制定され、直近では2008年4月11日に改正されています。現行の原賠制度はこの2000年原子力法の第12章「原子力損害に関わる民事責任」(100条〜108条)に規定されており、用語の定義、運転者への責任集中、免責事項、責任限度額(1.5億SDR)、損害賠償措置、国による補償、除斥期間、裁判管轄権など、原賠制度の基本的な原則がほぼ網羅されています。制度の主な内容は以下の通りです。

・ 用語の定義(100条、100a条)
原子力施設とは船舶、航空機の動力源として以外の原子炉、核物質製造施設・使用済燃料再処理施設、核物質保管施設(輸送時保管を除く)をいう。
原子力損害とは身体障害、財産損傷、公共財としての環境損害をいう。これらの損害には、原子力事故の発生後に行う適切な防止措置の費用が含まれる。
運転者は原子力施設を運営するものをいう。
本法律で規定していない場合の原子力損害は民法により賠償される。
公共財とされる環境への原子力損害は当局により執行される回復措置費用を弁済するものとする。
・ 運転者の責任(101条)
原子力損害の唯一の責任は運転者が負う。ただし戦争や武力紛争の行為によって直接生じる損害は除く。
核物質の輸送中の責任は、荷受人との契約に別途規定がない限り、発送側の原子力施設の運転者にある。
当人の意図的行為により被害を被った損害については、裁判所が運転者の賠償支払いを免除することがある。
・ 責任限度額(102条)
運転者の責任限度額は1.5億SDR(約193億円)とする。賠償請求が1.5億SDRを超過場合には、運転者は有限責任基金を設置し、この基金の設置・配分の手順は本法律および海事法における海事訴訟の有限責任に関する法規により規制され、その裁判管轄権はワルシャワ地方裁判所にある。
・ 損害賠償措置(103条)
運転者は原子力損害賠償責任保険の契約が義務付けられる。人身損害が生じた場合には、保険による保証総額のうち10%は財産や環境に与えた損害ではなく生命・身体の損害に充てることとする。
原子力事故の日から5年以内に人身損害に関する賠償請求が、それに充てる金額(保証総額の10%)を超過しなかった場合、残りは財産や環境に与えた損害の賠償請求や、原子力事故の日から10年以内に請求された人身の損害賠償請求に使われる。
運転者ではない個人によって引き起こされた原子力損害で、原子力損害賠償責任保険によって解決されないものは国が保証する。
財務大臣は、関係省庁と図った後に、運転者の賠償措置額を別途定める規定を設ける。(注)
運転者は規定された賠償措置額を保険契約しなければならない。
・ 賠償の請求(104条)
原子力損害の賠償請求は直接保険者(保険会社)に対して行うこと。その際、保険者は運転者の有する支払制限等の権利を継承する。
・ 除斥期間(105条)
人身障害の原子力損害賠償請求は出訴期限の法令により制限されない。
財産や環境の原子力損害賠償請求は、被害者が損害と責任者を知った日から3年以内に提出しなければ無効となる。また、それらの賠償請求権は原子力事故の日から10年後に消滅する。
環境損害の損害賠償請求権は環境問題を所管する大臣に付与される。
・ 裁判管轄権(106条)
ポーランドの国内で発生した原子力事故に起因する原子力損害の場合、賠償請求の裁判管轄権は地方司法裁判所に存する。
ポーランドの国外で発生した原子力事故に起因する原子力損害の場合、裁判管轄権はウィーン条約により定められる裁判所に存する。
・ 関係法(107条)
本章に記載のない事項については、原子力施設に関わる該当規則により規定される。
本章に記載のない範囲の損害請求は民事法令によって規定される。
・ 社会保障法(108条)
本章の規定は労働者災害補償や職業病補償の給付金支払の規定を侵害するものではない。

(注)別途規定・2004年4月の財務大臣「原子力施設の運転者に対する賠償責任保険の強制付保に関わる規則」によれば、賠償措置額は凡そ以下の通り。
> 原子炉:〜30MW 40万SDR(約5,134万円)
    30MW〜 1.5億SDR(約193億円)
> 核燃料製造施設&核燃料使用施設:1.5億SDR(約193億円)
> 使用済燃料貯蔵所(輸送時を除く):4.5万SDR(約578万円)
> 放射性廃棄物貯蔵所:2万SDR(約257万円)

 ポーランドは1990年にウィーン条約に加盟、2010年には改正ウィーン条約に加盟(2010年9月21日批准、同年12月21日発効)しています。その他の国際枠組みとしては、原子力安全条約、使用済み燃料安全管理・放射性廃棄物安全管理合同条約、原子力事故早期通報条約、原子力事故または放射線緊急事態における援助条約、核不拡散条約(NPT)、包括的核実験禁止条約(CTBT)、核物質防護条約改定条約に加盟しており、IAEA保障措置協定(自発的協定)、追加議定書も締結しています。

※円換算は平成22年12月21日の為替レートによる。


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○ 原産協会メールマガジン2009年3月号〜2010年9月号に掲載されたQ&A方式による原子力損害賠償制度の解説、「シリーズ『あなたに知ってもらいたい原賠制度』」の19回分を取りまとめ、小冊子を作成いたしました。

 小冊子の入手をご希望の方は(1)送付先住所 (2)所属・役職(3)氏名(4)電話番号(5)必要部数をEメールで genbai@jaif.or.jp へ、もしくはFAXで03-6812-7110へお送りください。


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