[原子力産業新聞] 2001年4月19日 第2084号 <5面>

[NEI-insight] RIの医学利用、血栓再発防止に威力

DOEオークリッジ研で開発

心臓病は世界共通だ。世界全体で年間150万人あまりの人々が冠動脈血栓の治療を受けているが、その3分の1が米国民だ。しかし、この治療を受けた人の30%〜50%が動脈血栓の再発や再狭窄に悩まされている。再治療には費用がかかり、米国だけでも年間で10億ドルから20億ドルに達すると推定されている。

このような世界的な問題に対しては、世界的な取り組みがなされている。こうした数多くの取り組みの中でも、放射線を使った療法は特に有望と見られている。このため世界各国で様々な種類の放射性同位体 (RI) を使った臨床試行が進められている。RI は血管形成 (血栓を予防するため動脈内でバルーン・カテーテルを膨らませる療法) の後に再発するケースが多い制御不能の細胞の成長を抑制する。これらの RI のうち、レニウム 188 は米国も含めた6か国で試験が行われている。ニューヨーク市のコロンビア大学では、ジューダ・ワインバーガー氏がこの RI の安全性試験を行っている最中である。同様の研究は、ロサンゼルス医学センターのニール・アイグラー氏とその仲間により行われている。

「我々は安全性を優先している」とワインバーガー医学部准教授・心臓学研究部長は述べた。「我々はすでに45名の患者の治療を行ったが、安全性には何の問題もない」。

この治療では、血管形成用のバルーン・カテーテルに液体のレニウム 188 が満たされ、冠状動脈の狭窄部で膨らまされる。「我々が見たところ、再発率は15%だ」と彼は述べている。この再発率は他の RI を用いた臨床試行のケースとほぼ同程度だ。

この療法が患者にとって安全だと判明すれば、ワインバーガー氏と彼のチームは治癒効果に関するあらゆる情報をとりまとめる。その後、この療法の効果を特定するため、二重盲検 (患者も医師も誰が実験対象となっているか知らされない無作為試験) が行われることになっている。

コロンビア大学のチームは米国エネルギー省 (DOE) のオークリッジ国立研究所から購入した RI 生産装置を使って自分達の手でレニウム 188 を生産している。オークリッジ国立研究所は RI 生産装置とレニウム 188 溶液を濃縮するのに必要な手法を開発したと同研究所生化学部のラス・カナップ核医学計画部長は語る。また、ワインバーガー氏も、「オークリッジ国立研究所の開発作業なしには病院での臨床試験はできなかっただろう」と付け加えている。

カナップ部長によれば、オークリッジ国立研究所はドイツ、オーストラリア、中国、台湾および韓国にもレニウム 188 生産装置を供給している。カナップ部長のパートナーの1人であり、ドイツのドレスデン大学病院で核医学の医師を務めるヨアヒム・クロップ氏は、同病院では2000年初めから300人の患者を対象に二重盲検の無作為試験をスタートしたと述べた。初期のパイロット・スタディ結果では、6か月後、15人の愚者のうち11人には再発が見られなかったとクロップ氏は語った。

オーストラリアのパース病院での臨床試験でも極めて高い安全性と良好な治癒結果が報告されているとワインバーガー氏は述べている。また、同氏によれば、韓国の亜州大学のチェ・ビュンギル博士のチームでも、無作為試験の6か月後の再発率は低くなることが判明したという。

DOE による支援がなければ、オークリッジ国立研究所がレニウム 188 生産装置を世界各国の病院や大学に提供することはできなかっただろうとカナップ氏は語っている。RI による医学利用の研究を支援する DOE の「先端核医学イニシアチブ」の下、DOE は研究資金と低価格の RI を提供した。「核医学における RI の新たな生産・利用方式の開発を目的とした研究に対する DOE の支援は、同省の RI 生産・普及プログラムの一環である」とカナップ氏は述べている。


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