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vol04.制御できない発電出力が社会全体のコストを増加させる

2016年2月8日

脱原子力 ドイツの実像
古澤 健 Ken Furusawa
一般財団法人電力中央研究所
社会経済研究所 エネルギーシステム分析領域 主任研究員
大阪府立高津高等学校卒
大阪大学工学部電子情報エネルギー工学科卒
大阪大学大学院工学研究科電気工学専攻博士課程修了 博士(工学)

 

今、再生可能エネルギー電源が注目されはじめてから、「ループフロー」という単語が使われている記事や論評などを見る機会が増加している。

 ループフローはループ潮流や迂回潮流と呼ばれることもある。この言葉は耳慣れないものであるため、ループフローとは何か?再生可能エネルギー電源の増加とループフローの関係はあるのか?といった疑問が浮かぶかもしれない。
 本稿では、ループフローについて発生する仕組みとその問題点を挙げる。さらに、ドイツの事例を用いて、具体的な対応策について解説する。

生可能エネルギー電源の大量導入前から
存在していたループフロー

 まず、電力系統の構成は、くし型とメッシュ型に大別できる。くし型の系統は発電所と変電所や変電所間の送電線が単一のルートでのみ結ばれている。日本ではくし型の系統を採用しており、1 ルートに2 本の送電線を敷設することで、送電線故障時にも変電所間のルートが維持されるようにしている。これに対して、メッシュ型の系統は送電線が格子状あるいは網目状と呼ばれる構造になっている。メッシュ型の系統では、ループフローが発生してしまう。

潮流
電力系統内での電力の流れを電力潮流、あるいは単に潮流と呼ぶ。潮流の大きさと方向は、送られる電力、すなわち、エネルギーの大きさと送られる方向を意味する。図2では、潮流の大きさを矢印の太さ、潮流の方向を矢印の方向で示す。送電線を流れる電力は、同じ品質のため、複数の電力潮流は、合成して1つの潮流と見なすことができる。例えば、図2エリアAの左から右方向の電力潮流とその逆方向の電力潮流があると、お互いを相殺して、その電力の大きさの差が電力潮流として発生していると考える。
図2左下の計画外潮流は、実潮流マイナス計画潮流を表す。例えば、この図2では、計画潮流が、発電から需要に100MW( 左から右を正の値とする) とし、このときに実潮流が、エリアAのみを通る潮流は50MWと、エリアBとエリアCを通過する潮流は50MWとなったとする。実潮流マイナス計画潮流なので、エリアAを通過する潮流は、50MW-100MW=マイナス50MW⇒右から左に50MWとなる。

 送電系統を運用している事業者は送電系統運用者(TSO: Transmission System Operator) と呼ばれている。TSO-A はエリアA を、TSO-B はエリアB を、TSO-C はエリアC を管理していると仮定する。このとき、エリアA は他の地域から切り離されているわけではなく、エリアB、エリアC と交流の送電線で密につながっていると仮定する。すなわち、これらの電力系統は、交流連系している状態である。
 この交流連系系統において、エリアA の左側にある電源で発電した電力をエリアA の右側にある需要家に送る契約の場合、契約上はエリアA 内のみを電力が通過する。これは計画潮流と呼ばれる。しかしながら、実際には、エリアA の左側から右側への潮流のみならず、交流連系しているエリアB やエリアC との連系線にも、エリアA からの電力が流れることになる。これは実際に流れる電力潮流であり、実潮流と呼ばれる。交流送電線は連系しているそれぞれの送電線のインピーダンスによって、それぞれの送電線に流れる潮流の大きさが決まる。インピーダンスの大きさは送電線ごとに異なるが、交流で連系している限り、電力は流れる。このときに、計画潮流と実潮流の差を計画外潮流と呼び、計画外潮流のうち計画潮流での想定とは異なる送電線の電力潮流をループフローと呼ぶ。
 計画外潮流とループフローは、実潮流と計画潮流の差であること、メッシュ型の系統では、計画外潮流とループフローを明確に区別することが難しいことから、本稿では、以降、計画外潮流とループフローを合わせて、ループフローと呼ぶ。
 ループフローが増えると、想定していなかったルートに電力が流れるため、送電が可能な容量を超えた電力潮流が発生する可能性が生じる。容量を超えて送電すると、その送電線は壊れてしまい、送電できなくなる。その分の電力潮流は他の送電線に上乗せされ、上乗せされた電力潮流のためにその送電線が壊れるということを繰り返し、結果として、2003年の米国北東部停電や2006年の欧州大陸広域停電のような事態に陥る可能性がある。
 図2 のように、発電箇所と需要箇所が1 つのセットしか存在せずに、その上、発電して送られる電力もわかっているのであれば、ループフローは大きな問題とならない。欧州の場合、交流送電線が複雑に連系している系統、すなわちメッシュ型の系統において、複数存在する発電箇所と需要箇所によるループフローが重ね合わさるため、問題への対応が難しくなる。
また、ループフローが発生するタイミングが数日前からわかっているのならば、対応策を講ずる時間はあるが、いつ生じるかもわからないことも、より対応を難しくしている。
 つまり、欧州で問題視されているループフローは、再生可能エネルギー電源が唯一の起因として生じているわけではなく、交流送電線が複雑に連系しているメッシュ型の系統であり、複数の発電設備と需要の存在により、送られる電力の把握が難しいことに起因している。
 それでは、なぜ再生可能エネルギー電源の増加とともに、ループフローが注目を集めているのだろうか?
 以降の節では、まず、再生可能エネルギーの優遇策による再生可能エネルギー電源大量導入の状況について述べる。その後、先述のループフロー問題の原因であり、対応を難しくさせている2 つの特徴と再生可能エネルギー電源大量導入の関係を述べる。2 つの特徴とは、(1) 発電箇所と需要箇所の数が多く、発電電力や需要が把握できるタイミングが実際の電力の使用時点か事後であること、(2) 計画潮流、実潮流、ループフローを含めた電力潮流の予測が難しいこと―――である。

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