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「バイスタンダー効果」特徴見出す 放射線治療の副作用低減に道筋

2015年5月8日

 

亜硝酸イオン濃度と増殖能力の関係

増殖能力の低下と亜硝酸イオン濃度の上昇の関係

バイスタンダード効果検出方法 日本原子力研究開発機構は5月7日、放射線が当たった細胞の周囲の細胞で、あたかも放射線に当たったかのような反応を示す「バイスタンダー効果」について、細胞内で合成された活性な窒素化合物である一酸化窒素の合成量に応じて起こることを世界で初めて明らかにしたと発表した。放射線がん治療の副作用となる正常組織への被ばく影響のメカニズム解明につながることが期待される。
実験は、原子力機構の高崎量子応用研究所で、コバルト60ガンマ線照射施設とイオン照射施設を用い、ヒト細胞集団の一部にガンマ線または重粒子線の一種である炭素イオンビームをそれぞれ当てて、照射した細胞としていない細胞を多孔膜の上下で隔てて培養した。細胞は多孔膜を通過しないが、培養液や一酸化窒素など細胞間情報伝達物質は通過する。培養液が上下で共有されてから、放射線を照射していない方の細胞の増殖能力を詳細に調べたところ、線量に応じて細胞の増殖能力は低下したものの、同じ線量では、ガンマ線でも炭素イオンビームでも効果に大きな違いはなかった。因みに、放射線を照射した細胞では、炭素イオンビームの方がガンマ線の5倍増殖能力に与える影響が大きい。
また、一酸化窒素と反応して安定な物質に変化させることができる特異的消去剤をあらかじめ培養液に加えた実験では、照射した細胞の増殖能力は低下したが、照射していない細胞の増殖能力には低下が見られず、バイスタンダー効果が伝わるためには一酸化窒素の生物的な合成が必要となることが明らかになった。
さらに、一酸化窒素が培養液中で酸化されて生じる亜硝酸イオンの濃度を測定したところ、炭素イオンビームまたはガンマ線どちらの場合でも、照射した細胞に与えられた線量が増加するにつれて培養液中の亜硝酸イオンの濃度が上昇し、亜硝酸イオンの濃度が上昇するにつれて放射線が当たっていない細胞の増殖能力が低下する傾向にあることが判明した。これらのことから、重粒子線やガンマ線を照射した細胞の周辺の細胞では、一酸化窒素の生成量が増加するほど増殖能力が低下すること、つまりバイスタンダー効果が強く表れることが明らかになった。
本研究で、バイスタンダー効果のメカニズムの一端が明らかになったことにより、ヒトの正常組織で一酸化窒素を消去あるいは生成を抑制することで放射線治療副作用低減につながると期待され、同日、文部科学省内で発表会見を行った原子力機構量子ビーム応用研究センターの小林泰彦リーダーは、近く続く研究成果を報告できそうだと話している。