フォントサイズ:

仏電力(EDF)が「原子力緊急時支援隊」の詳細を日本で初めて公開

2015年4月1日

 58基のPWRが稼働する仏国では、福島第一原子力発電所事故発生直後の2011年3月23日、首相がこれらすべてに関する安全評価の実施を安全規制当局に指示した。約1か月後の4月22日には、全基の運転を担うEDFの会長(当時)が、同様の状況下で当該原発への介入が可能な特別なタスクフォース「原子力緊急時支援隊(FARN)」を設立すると発表。原子力大国ならではの重要判断を迅速に下すに至っている。同国の原子力安全に尽くすプロ集団となるFARNは仏国が1億5,000万ユーロを投じて設置するもので、今年中に完全に稼働可能となる見通し。EDF日本駐在事務所は今年3月31日、その後の関連活動について同社の原子力本部安全担当最高責任者や専門家を招いた講演会を都内で開催した。日本では初めて、FARNを中心とする同社の緊急時対応の詳細を明らかにしており、今後の安全対策や再稼働に腐心する日本の原子力関係者にも有益な情報をもたらす貴重な機会となった。

 

EDFベルナール氏 講演会ではまず、EDFの女性として初めて原子力発電所の所長を務めた経歴を持つC.ベルナール原子力安全部門総括総本部長が、EDFにおける福島第一事故後の危機管理の進展について紹介した。それによると、2011年に実施したストレステストの結果、原子力安全規制当局(ASN)は「仏国の原発は非常に健全な状態にあるため直ちに停止する必要はない」との公式結論を公表した。しかし、EDFは安全裕度のさらなる拡大のため、発電所の物理的な改修補強工事と、極限状態を想定した緊急時体制準備の強化を行っている。

改修補強は3段階に分けて進めており、2015年までの第1段階で可動式資機材の配備やFARNの設置を完了予定。2019年までの第2段階と2030年までとそれ以降の第3段階では設計変更も行い、水と電力の追加供給システムなど設計ベースを超える外部災害対策を含め福島第一事故後の包括的な対策を実行に移す計画だ。緊急時体制については、既存の組織が30年以上にわたって存在することから小幅の変更を実施。ただし、福島のような極限状態を追加想定して補強を考慮した内容になっている。

 

過酷事故時の支援組織体制

EDFピィユー氏C.ピィユー緊急時対応課長は原子力部の緊急対策組織等について具体的に説明した。

同氏によると、EDFがオンサイトで行う事故管理に加えて、仏政府がオフサイトで行う住民関連の緊急時対応を新たに設定。それぞれがそれぞれの責任と職務を遂行することになっており、政府が技術的な事故管理を行うことはない。オンサイトではまず事故発生後、

(1)制御室の当直スタッフが可動式機材で緊急時対応を始める。

(2)40分以内に原子力安全エンジニアが到着して技術的な助言を行う。

(3)警報により平均70名の緊急時待機チームが発電所の半径15~20km圏内から1時間以内に駆けつけ、社内の対応計画を始動する。このチームには10名のマネージメント要員、6名の技術評価要員、10名の環境評価要員が含まれており、発電所毎に5チームが存在。ローテーションで待機体制に入ることになっている。

(4)2時間以内にEDFの全国レベルのエンジニアリング支援チームが呼び出しを受けて参加。炉心設計の専門家やベンダーのアレバ社社員を含む40名程度の小さなチームで、6チームを組織。パリやリヨンなど国内4つの緊急時センターから現場の支援に向かう。

これに加えて福島第一事故後の新たな対応として、

(5)12時間以内にFARNの第1陣60名、24時間以内に第2陣60名が到着。FARNの地域拠点も全国に4か所あり、現地で水や電力の追加供給、運転員の交代等を実施する。

(6)必要に応じて従来どおり、子会社INTRAが開発した原発事故対応ロボットの介入も可能。

これらのチームは、すべてのサイトにおける緊急時計画である3,000ページもの指示書に従って行動することになっている。また、事故時の対応に特化した緊急時管理センターをサイト毎に建設中。3階建ての建物で、1階はディーゼル発電機や水、バッテリーなどの技術エリア、2階は放射線防護と機器格納のためのスペース、3階は危機管理とデータ収集フロアになる。コミュニケーション手段としては、有線ネットワークや無線通信による自動呼び出し、衛星電話を使ったコミュニケーション、専用IT機器によるデータ通信などを活用。どのような状況でもメンバー間の通信や発電所状況に関する情報入手が可能となるよう配慮した。緊急時待機チームの訓練も1か所に付き年12回と定期的に実施しており、これには政府やベンダーのアレバ社、原子力・代替エネルギー庁(CEA)、軍の関係者も参加する。

 

FARNの使命と構成、活動方法

EDFルヌー氏とレニョー氏FARNの詳細については、P.ルヌー緊急時対応担当部長とC.レニョーFARN技術課長が説明した。

FARNの使命は、1基以上の原子炉が関係する発電所事故に対して、地元の体制では不十分な場合に12時間以内に現地に到着し、24時間で本格的な支援活動の提供を開始すること。最悪の事態を72時間以内に自力で持ちこたえられる状態に変えるため、どのような状況にも対処可能な様々な後方支援ソリューションを準備しており、水や電力をFARN所有の可動式機器で供給するだけでなく、当該発電所に熟練した交代用運転員を送り込める点が大きな特徴となっている。

FARNの要員はEDF職員であるため、現地への派遣はパリにあるEDF本部が判断。パリから3時間以内にヘリを飛ばして被災原発の状況偵察、アクセス・ルートの確認、後方支援場所の状態とアクセス確保などを行いつつ、8時間以内に後方支援基地への輸送を実施する。現地では当該発電所が危機管理の一義的責任を負っているため、FARNは発電所所長の指揮の下で活動。現場作業の第1段階として12時間以内に可動式機器の組立を完了し、24時間以内にすべての機器の接続を終えて稼働可能な状態とする取り組みとなっている。水と電力、弁の開閉等に使う圧縮空気、バックアップ燃料を供給するこれらの機器は、容易に交換できるよう一般的に入手可能なものを採用。接続プラグも全原発で同一に規格化されている。

FARNは1チームにつき要員14名で構成され、リーダー1名のほかに中央制御室での作業を引き継げる要員6名、機器のセットアップと後方支援の要員6名、および放射線防護管理の専門家1名が含まれる。4つの地域拠点毎に4チームを配備し、いつでも当該原発に介入できるようスキルを磨く研修も実施。要員は5週間の訓練に加えて、トラックやフォークリフト車、クレーン等の操縦研修4週間を終えた後に技能検定を受ける。その後さらに1.5週間の追加訓練を経て、実地演習も行うというプログラムになる。

後方支援には幅広いソリューションを駆使しており、陸路は駆動力の高いトラック、空路は3.5tの吊り下げ能力のあるヘリコプター、海路は6t積載可能な平底バージを採用した。支援基地として当該原発の半径20~30km圏内、競技場のように資機材を置ける平らな場所を自治体の許可を得て予め決めておくことが重要で、トラックやヘリの駐車・駐機スペースもここに配置する。

このほか、EDFはFARN要員そのものの安全確保にも配慮。被ばく管理を行う専門家1名を必ずチームに含める以外に、極限状態下におけるストレス対応でEDFの医師を後方支援基地に派遣する。また、大気の自動サンプリング装置等で環境中の放射能漏れにも警戒するなど、FARN活動を支える万全の体制を整える方針である。