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多次元固体NMR解析でプランクトン細胞を丸ごと計測

2015年5月20日

真:多次元固体NMR法によるユーグレナ解析ⓒ理研

多次元固体NMR法によるユーグレナ解析ⓒ理研

 理化学研究所(理研)環境資源科学研究センター環境代謝分析研究チームは5月15日、プランクトンの細胞を丸ごと計測できる多次元固体NMR(核磁気共鳴)法を使い、藻類を構成するバイオマス分子種の個々のシグナルを同じ試料と同じ装置で解析できる手法を開発した。NMR法は、静磁場に置かれた原子核の共鳴を観測して分子の構造や運動状態などの性質を調べる分光方法だが、固体NMR法では、結晶・非晶を問わず高分子成分の計測が可能だがシグナルが重複してしまうため、バイオマスなど混合物の解析ではシグナル分離能の高度化が求められる。

 同研究チームは、機能性食品や化粧品として商品化されているユーグレナ(ミドリムシ)を有用プランクトンのモデル試料とし、細胞を丸ごと固体NMRで計測してバイオマス組成を解析した。チームはパルス系列を工夫することで、分子運動性の違いで特定の分子構造情報を含むシグナルの分離に成功した。

 解析にあたりシグナル分離を行うため、空間的に近い炭素間の相関が得られる2次元SHA+法や、炭素核間の3次元距離相関が得られる3次元DARR法など、スペクトルを多次元化した。さらに分離が困難な構成成分については、比較的分子運動の小さい分子が強調されるdouble-CP法、逆に大きい分子が強調される固体HSQC法、細胞中で運動性の速い低分子やゲル状高分子などの検出ができる高分解能マジック角回転(HR-MAS)HSQC法などさまざまな手法を使い分けた。その結果、分子運動が核スピン間の総局子相互作用を平均化して、分子運動性によるシグナルのフィルターとしての機能を果たし、細胞内の構成成分を高分子から低分子まで網羅的に解析できた。

 炭素のNMRスペクトルは、細胞を構成する主要成分であるパラミロン、不飽和脂肪酸、タンパク質などの化学種の量比を反映し、細胞内の窒素やリンなどのNMRスペクトルは、元素特異的な化学種の量比を反映する。ユーグレナは、高いアンモニア濃度で培養したほうが、タンパク質、オルニチン、アルギニンなどの貯蔵量が多くなる一方で、パラミロンの貯蔵量は減少している。このことから、アンモニアがパラミロン分解産物と結合してアミノ化し、タンパク質合成を促進していることが予測される。また、窒素はアルギニンとして細胞内に貯蔵されて分解代謝によって再利用されていると考えられる。さらに、リンのNMRはユーグレナによるポリリン酸の貯蔵を示している。

 水圏は有用生物の宝庫とされ、ユーグレナやクロレラなどの有用分子資源の活用が期待されており、さらなる水資源化の推進に向けて、水圏生態系からの有用生物種の探索やバイオマスを構成する分子種の解析手法の高度化が望まれている。今後、NMRの高磁場化でより詳細な分子情報の取得が期待されるとしている。