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福井工業大学 原子炉建設から廃炉まで俯瞰する目を持つ人材育成

2015年4月21日

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~原子力技術応用工学科 中安 文男 教授に聞く~
<福島第一事故の教訓からSA対応や廃炉への視点も学ぶ>

中安文男教授

中安文男教授

 福井工業大学原子力技術応用工学科は、日本から原子力の名前がつく学科がどんどん消えて原子力研究の将来を懸念する声を受け、2005年に設立された。震災前までは、現場で働く実務技術者に必要な要素として(1)放射線や原子力の知識およびそれを証明する資格(2)一方向でなく双方向コミュニケーション能力(3)高い倫理観――を三つの柱としてきた。原則として原子炉は事故が起こらないよう設計されており、過去のチェルノブイリやスリーマイルアイランドの事故も常にヒューマンエラーが原因だったとして、事故を起こさない技術者を養成するカリキュラムを組んできた。
 しかし福島第一原子力発電所事故後には考え方を少し変え、原子力発電所も事故は起こるものとして捉えている。その結果、事故が起こってしまった時のレジリエンス(耐性)があり事故の後始末もできる人材育成を行っていくことを目標に加え、シビアアクシデント(SA)対応や遠隔操作ロボットなどを使った事故処理などについても学ぶようになっている。
 今後はこれをもう一歩進めていこうとしている。原子力技術を日本に導入した頃には、例えば将来的に解体しやすく廃棄物もなるべく少なくなるような設計を取り入れていくことなどを、当初の原子力技術者は考えていた。しかし原子力技術が細分化・専門化していき、現場から離れていく中で、だんだんとこうした考え方が薄れていってしまったように思う。改めて今、いわゆる「揺りかごから墓場まで」、つまり原子炉の建設から廃炉までを見据えた技術者を育てていきたいと考えている。廃炉の際には、原子力技術に加えて機械工学や建築土木も必要となる。こうしたことを全て俯瞰できる幅広い視野を持ち、その上で一つの専門については深い知識を持った技術者が必要だと考えている。

真:福井工業大学5342

福井工業大学

<「原子力工学」「放射線応用」の2つのコースを設置>
 原子力技術応用工学科では2011年度は、定員に対し170%が入学しており、その半数近くが福井県、一割くらいが北陸三県(新潟、富山、石川)からの学生だった。事故後には立地県以外の志望者数はさほど変わっていないが、福井県や北陸三県の出身者が激減し、定員割れを続けている。原子力発電所が長期間停止すると、立地県にとっては親や近所の人など身近な人の仕事がなくなるのを目の当たりにすることとなり、原子力の将来への不安も肌で実感している。志望者数は徐々に回復してきてはいるが、原子力発電所が再稼働しない状況に影響を受けているのが残念だ。
 原子力技術応用工学科では、これまでも1年生から2年生前半まで放射線についてじっくり勉強し、2年生後半から原子力発電などについての専門分野の知識を深めていくカリキュラムを組んでいたが、今年度から研究内容をより前面に打ち出すため、原子力発電技術を中心に学ぶ「原子力工学」と食品照射やタイヤ加工などへの放射線利用を学ぶ「放射線応用」の2つのコースを設置した。
学内には、放射線照射装置、放射線透過試験装置、小型電子線加速器、原子炉シミュレーター、材料試験装置などを備えており、専用パソコンの前に学生が1人ずつ座ってSA対応などのシミュレーションなどを行うことができる。

真:小型電子線加速器5329

小型電子線加速器

<学内外の連携を通じ原子力業界で働くイメージつかむ>
 学科では、社会工学のようなコミュニケーション能力などを養成するカリキュラムも組まれており、原子力法規や原子力倫理を学ぶほか、人間はなぜ失敗するのかを考える人間安全学などの講義もある。また、研究室の学生が県内の高校に出向いて講義する出前授業を行っているほか、原子力学会シニアネットワーク、福井県原子力平和利用協議会、敦賀女性エネの会、福井県高浜町民などとの対話を行うなど、幅広い年代と接する機会がある。また大学では、在学生対象のサイエンスカフェや、高校生対象のオープンキャンパスなども行い、科学技術の可能性やエンジニアとしての仕事について広く知ってもらうような活動もしている。
 学年の枠をとりはらった寺子屋形式で学んでいく機会があるのも本学の特長となっている。研究室内は勿論学科内も仲が良く、卒業生も転職時などは必ず挨拶に立ち寄ってくれる。卒業生と在学生の懇談会も行っており、エンジニアとして働くとはどういうことか話し合うなど、現場で働くイメージをもってもらう機会を作っている。
 福井大学とは研究・教育連携を行なっているほか、大阪大学、京都大学、近畿大学などへも学生が出向いて学んでいる。福井県内企業とも連携し、関西電力、日本原子力研究開発機構、日本原子力発電など、福井県内の企業や研究機関とインターンシップや共同研究などを通じた交流がある。海外の大学では、カナダのオンタリオ工科大学など8校と提携し、2校とは原子力教育の協定を結んでいる。また、ベトナム教育訓練省(MOET)と提携し、政府派遣留学生を2017年4月よりベトナムから受け入れることとなっており、今年の4月からベトナム側で学生の選考を進めている。
 本学にはいろいろなことに興味を持ち、真面目ないい顔つきをした意識の高い学生が多い。就職率も創設以来ほぼ100%を保ち続けており、原子力に対して高い志を持った学生たちが積極的に学んでいる大学である。
(中村真紀子記者取材)