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【第49回原産年次大会】セッション1前半:世界が期待するエネルギーとは

2016年4月12日

yamashita 世界的にエネルギー安全保障や地球温暖化が課題としてクローズアップされるなか、世界ではどのようなエネルギーが必要で、何を期待して原子力を選択しているのか?また原子力の代わりになるエネルギーは何なのか?本セッションのモデレーターとして、日本エネルギー経済研究所の山下ゆかり理事はまず、一次エネルギー供給の長期見通しに関するレファレンス・シナリオでは、2040年時点でも化石燃料が77%を占めるという予測を提示。2050年までに温室効果ガスを半減させるという目標達成においては原子力が重要オプションになる一方、最近は原子力発電所の再稼働に対して世論のサポートが得られていないという現実を指摘した。その上で、エネルギー・ミックスに関する議論の中で、誰がどのように何を伝えれば原子力の必要性を理解してもらえるのか?海外の事例から何か学べるものがないか?といった点をポイントに、「未来へつなぐ原子力」というテーマの下、海外の専門家4人の講演から日本のエネルギー戦略への示唆を探った。

 まず、英国における原子力推進派のNGO団体「Energy for Humanity」の共同創設者であるカースティ・ゴーガン事務局長が、人々の生活に質を落とさずにCO2を劇的にカットし、貧困から多くの人を脱却させるために必要となる「世界を動かし続けるエネルギー」について講演を行った。

Gogan 2050年までに世界人口は現在の70億人が100億人に、経済規模は3倍に、電力需要も2倍に増加するが、CO2の排出目標を達成するには少なくとも排出量の90%を減じる必要がある。片や、今現在で全人口の18%にあたる13億人が電力のない生活を送っている。30億人が焚き火で調理しているため、年間200万人が空気汚染で死亡している。このような物理的目標を満たしながら、人々の生活水準を維持し電力へのアクセスを可能にするには、100%再生可能エネルギーでは難しい。再生エネによる発電シェアはこの25年で著しく伸びたものの、2014年に世界の総エネルギー需要量に占めた割合は13.7%と僅か。大切なのは再生エネと原子力を合わせて使うことである。
 原子力のエネルギー密度は高く、わずかな土地占有面積で莫大な出力を出せる。同じ100万kWの設備でも、風力では原子力の3~4倍の広さが必要になる。英国では現在、ヒンクリーポイントC原子力発電所の建設計画が進められており、発電量やCO2の排出削減で大きな貢献が期待されている。資金手当てが大変なことから時間がかかっているが、ライフサイクル期間中のCO2排出量は陸上風力を除けば最も排出量が低く、結果的に割安といえる。
 昨年末のCOP21に先立ち、米国のホワイトハウスはCO2の排出削減に原子力が果たす役割について、政府当局者と原子力産業界が検証するイベントを開催。目的は原子力をクリーン・エネルギー源として推進するというメッセージを出すことで、従来型の原子炉よりシンプルでオフサイトで使える小型炉や、石炭火力と競合できるもの、軽水炉以外の技術も検討されていることが明らかになった。昔は東西冷戦時に原子力が開発されたが、現在は地球温暖化に対処できるCO2フリーの優れた技術という点が原子力推進の原動力。「原子力は温暖化に素早く対応できない」との主張が多くの議論の場に蔓延しているものの、実際はその逆である。すでに脱炭素発電の目標を達成した6か国のうち、スイス、フランス、ブラジル、スウェーデンでは原子力と再生可能エネルギーを組み合わせた。特にスウェーデンでは、1人あたりのCO2排出量が最も低く、最良ケースのシナリオを示している。
 30年以内に化石燃料発電をすべて原子力に置き換えることは科学的に可能だが、政治的意図や国民受容など課題もまた多い。自分もかつては原子力を怖いと思っていたが、世界中の気候科学者やリーダー達と同様、原子力について理解するにつれて考えは変わっていった。原子力なしでは温暖化に対応できないと多くの人が気付いているにも関わらず、なぜ今まで原子力は温暖化対策の中から閉め出されてきたのか?なぜ環境保護論者は原子力に反対するのか?ここで、イエール大が2013年に行った「人間の健康、安全、繁栄におけるリスク」に関する文化認知調査の結果を見てもらいたい。興味深いことに、温暖化に懸念を抱いている人は原子力にも懸念を抱いていたが、温暖化を怖れていない人は原子力も怖れていなかった。我々のように温暖化を気にしている一方、原子力については恐れを抱いていないという人はたった3%。我々の課題は原子力に対する人々の不安に取り組み、大多数の人々をこの3%に加えていくことだ。
 英国では現在、約32%が原子力支持派だが、質問の仕方を「エネルギー・ミックス多様化の一環として原子力を支持するか?」に変えると、支持派は75%に跳ね上がる。このような条件付きの支持に関する洞察から、自分は1,000以上の産業を代表する3つの組合による「低炭素連合」を創設し、同連合初の共同声明をフィナンシャル・タイムスの1面に掲載した。この共同アプローチにより、長い間原子力に反対していたグリーンピースも、2030年までにCO2をエネルギー・システムから除去するという目標に賛同。原子力に対する支持が得られている。また、男性の原子力支持率が女性の2倍にのぼることから、自分は女性の参加を促すために「Women in Nuclear」の英国支部を起ち上げた。これまで原子力の推進は政府と産業界に頼ってきたが、国民の原子力に対する受け止め方を変えたいのなら、原子力支持のムーブメントは市民社会から生じさせる必要があるだろう。

 次に、米カリフォルニア大バークレー校のレイチェル・スレイバウ原子力工学准教授が登壇。エネルギーの供給保証と経済的繁栄、環境責任を地球規模で実現するために必要な「原子力イノベーション」に関する取り組みを披露した。

Slaybaugh 世界には様々な懸念事項が存在しており、2012年には大気汚染により700万人が死亡した。また、27億人以上が今も、清潔な調理設備を持たない。電力へのアクセスは貧困から抜け出すカギであり、電力によって水くみが可能になったアフリカの地域では、この作業から開放された女の子達が学校に行けるようになった。また、COP21でも述べられたことだが、地球温暖化は農業生産にも不可逆的な影響を及ぼすことになる。原子力エネルギーは環境と繁栄と健康を維持しつつ、人々が持続的に発展するための施策の重要な一部分になり得るが、現在の制度やシステムは思うように機能せず、原子力はその影響力を発揮できない状態。今こそ、キチンとした制度や仕組みを作って原子力を活かし、世界をより良くするための行動を起こすべきである。
 原子力はCO2をほとんど出さない上、現時点で大規模に展開されている。常時稼働できるなど信頼性が高く、経済的利益ももたらすことから、我々の低炭素戦略において不可欠の構成要素である。しかし、原子力も今のままでは完璧ではない。技術的課題と非技術的課題があり、非技術的な課題を解決すれば技術的課題の多くが解決可能。非技術的課題の例として、米国では規制プロセスが遅く先行きが不透明という問題があるほか、国民との意思疎通や交流も長年にわたり不足してきた。また、技術的課題としては、巨額の資金と長期の工期が必要になるのに加えて、核燃料の確保や使用済み燃料の処分など長期的な懸案事項が存在。原子炉の安全性と信頼性を継続的に改善していきたいという思いもある。
 これらをすべて解決するためには、我々は原子力と原子力イノベーションに対する考え方を転換する必要がある。イノベーションが行き詰まっている理由として、まず財政リスクが挙げられるが、具体的には、規制上の不確定要素が価格を不透明にし、市場の不確定要素により利益も不透明となり、その結果、先行投資が進まなくなる。また、国民とのコミュニケーションが進まない理由としては、原子力が軍事的な秘密裏な活動から始まったという事実がある。原子力発電所事故も、放射線に対するストレスや不安といった形で国民の健康に大きく影響した。
 しかし、新たなモチベーションによって、この流れを変えることも可能である。原子力産業では以前は、利益というモチベーションによってイノベーションが進んでいたが、新たなイノベーションの原動力としては、非営利機関などによる起業を促すためのさまざまな活動が見受けられる。例としては、ビル・ゲイツ財団による世界的な健康問題解決に向けた科学支援や、科学者が自らの研究で起業するのを支援する「Breakout Labs」、一層安全かつ低コストな原子力発電技術の開発を促進する「Nuclear Innovation Alliance」などだ。また、有望なアイデアが技術的および経済的な実行可能性という2つのリスクを乗り越えて実現に至るようなシステムを、政府や非政府組織、企業、大学や個人が力を合わせて構築する動きも浮上している。それらは、(1)大学生や企業人にイノベーションの集中訓練を提供する「ブートキャンプ」、(2)新しいアイデアを開発する企業や新興企業を支援する「イノベーション・センター」、(3)国立研究所の開発技術やデータ、試験施設などの公的資源に民間企業がアクセスすることを可能にする「GAIN」--などで、(1)については、UCバークレーが今年の8月に2週間のコースで実施予定。来年は6~8週間に拡大することになっている。(3)のGAINの正式名称は「イノベーション促進のためのゲートウェイ」で、米エネルギー省(DOE)が昨年、原子力局を通じて実施すると発表したもの。先進的な原子力技術の開発・実証を行ったり、その技術の許認可と商業化が加速されることになる。