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米国の研究機関、福島第一事故の教訓から使用済み燃料の監視強化 勧告

2016年5月23日

 米国科学工学医学アカデミーは5月20日、福島第一原子力発電所事故の教訓についてとりまとめた報告書の中で、米国内の原子力発電所から出る使用済み燃料の貯蔵プールについて状況を的確に把握するなど、物理的な監視体制のさらなる強化を原子力産業界と米原子力規制委員会(NRC)に勧告した。同事故時、3号機の原子炉ウェルと隣接する使用済み燃料貯蔵プールを仕切っていた壁の1つが損傷したが、4号機では原子炉ウェル内に偶然残っていた冷却水が仕切り壁のズレにより隣の使用済み燃料貯蔵プールに流れ込み、電源喪失により蒸発しつつあった冷却水を期せずして補填。同燃料の冷却機能が維持されたという事実から、過酷事故のみならずテロ攻撃に際しても使用済み燃料貯蔵プールの冷却機能を維持・回復する重要性を改めて強調しており、同事故を国内事業者とNRCに対する警鐘と捉えるべきだとの見解を明らかにしている。

 同アカデミーは1863年の議会憲章に基づいて運営される民間の非営利組織で、複雑な課題に関して独自の分析調査を実施し、その結果と助言を提示している。福島第一事故から得られる教訓の調査は議会が命じていたもので、NRCがスポンサーとなった。2014年7月にまず第1フェーズの報告書として、使用済み燃料貯蔵の安全・セキュリティに関するアカデミーの結論を公開。今回の第2フェーズではその結論の再検証を行っており、米国における原子力発電所のセキュリティと使用済み燃料の貯蔵を改善するためにとりまとめた最終報告という位置付けになる。

 第2フェーズでアカデミーの担当委員会は、使用済み燃料の貯蔵プールと乾式貯蔵キャスクの両方について調査を実施した。過酷事故時やテロ攻撃を受けた時、貯蔵プールの冷却機能を適切に維持し、プールの状況をリアルタイムで計測する運転員の能力改善を、国内原子力産業界とNRCに対して勧告。福島第一事故後の現行の対応以上のことを行うべきだとしており、具体的には、監視カメラや放射線モニター、プールの温度と水位のモニターといった物理的監視システムの強化・拡充に加えて、設備損傷や高放射線により物理的なアクセスが制限された場合でもプールへの補給水供給と噴霧を可能にする手段の適用を提案した。

 同委員会はまた、極端な外部事象や過酷事故が原子力発電所でセキュリティ・インフラとシステム、対応スタッフの途絶を広範かつ長期にわたり引き起こすと指摘した。こうした途絶が発電所において悪意ある行動の機会を生み出すことから、極端な外部事象等に対処する人員の訓練や、原子力発電所のセキュリティ・インフラとシステムの改良・防護を勧告。改良項目としては、安全システムが損傷を受けても独自に機能するセキュリティ・システムの専用電源を十二分に配備・防護しておくこと、発電所のセキュリティ・インフラとシステムを再構築し、スタッフを配備するための多様かつ柔軟なアプローチを含めるべきだとした。

 同委員会によると、第1フェーズ報告書に盛りこんだ勧告事項のうち、2件を除く大半についてはNRCがすでに実行済み。これら2件のうち1つは、2004年のアカデミー報告書に記載した特定のテロ攻撃シナリオに対する使用済み燃料貯蔵プールの脆弱性分析であり、もう1つは貯蔵されている使用済み燃料の監視・防護対策に関する独自調査の実施だとした。この調査では、内部関係者からの脅威に関するNRCの監視・セキュリティ対策の効果を扱うべきだと同委員会は指摘。NRCと原子力産業界に対してテロ攻撃のリスクを特定・評価・管理する能力の強化も進言したほか、NRCには、米国の原子力発電所におけるセキュリティ強化策の恩恵を探求するため、使用済み燃料貯蔵について十分な範囲と奥行きのあるリスク評価を行うスポンサーとなることを提案している。

 同委員会は今回、貯蔵リスクの軽減を目的とした乾式貯蔵キャスクへの移送促進に関して、NRCが規制上の判断を通達するために行った技術分析についても審査を行った。貯蔵プールで発生する事故の影響を理解する上でこのような分析は技術的に有益だとしたものの、貯蔵リスクを評価する際の活用は限られていると言明。理由として、これらの分析が破壊工作によるリスクや乾式貯蔵でのリスク、および過酷事故で生じる可能性のある特定の健康影響を扱っていない点を挙げた。また、プールでの湿式貯蔵と乾式貯蔵キャスクの間で有効な比較を行うことは難しいとしており、NRCに事故と破壊工作による貯蔵リスク評価を湿式と乾式の両方で実施することを勧告。これについてNRCスタッフからは、破壊工作リスクも含めて、貯蔵リスク評価手段の拡大方法をすでに検討中との連絡があったことを明らかにしている。