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超越ガラス化研 独自の技術で遮蔽効果高く軽量の放射線防護服など開発

2016年12月2日

特集のロゴ(仮) 超越ガラス化研(株)では、独自に開発した「超越技術」を活かし、放射線遮蔽や放射性物質除染に関する研究開発、超越液剤技術のコンサルタント業務などを行っている。かつて、水引イメージアーティスト(近代美術館や米国ニューヨークでも展示)であり、旧家に嫁ぎ子育ておよび高齢の家族を介護する中での超越液剤の発見が特許を取得して起業に至り、さらにその技術を応用して東日本大震災以降「志」を抱き、放射線防護に役立てているユニークな経歴の持ち主である岩宮陽子同社代表取締役にお話を伺った。(中村真紀子記者)

<正月飾りから超越技術の発見>

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岩宮陽子超越ガラス化研代表取締役

 40年以上前に自宅を新築した時、子ども部屋のドアに合うように水引を使った正月飾りを自作したところ、特許を得ることを勧められて現代風の正月飾りとして実用新案を取得し、1971年より事業化して製造販売を行っていた。
 その後1997年、水引イメージアートの作成を機に、水に強く色落ちしない水引作りを研究していく中で、入手した溶液を主原料とした実験用コート剤に落とした紙が、ガラスのように透明となり硬くなる現象を発見した。しかし、入手した液剤はハロゲンなどの有害性・危険性のある成分を触媒として使用していた。そこで、安全・安心なガラスの基本骨格であるシロキサン結合の薄膜を紙や布や木材などの基材に塗布し、撥水性、撥油性、光透過性、耐候性、耐摩耗性、硬度、抗菌性など様々な機能を付与できることを発見し、この液剤を超越液剤と命名し、その利用技術を超越技術と呼称する。シロキサン結合は、酸素と珪素を骨格とする―Si-O-Si-の結合である。加水分解可能な置換基のみでなく、置換基の構造体を変化させ、物質中の元素などが分子レベルで化学反応を起こし結合することで有機と無機の中間である中性のガラスとなり、硬くも柔らかくも自由にできる。一般的にガラスは800~1,400度くらいで焼成するが、超越技術は常温で加水分解可能な安心・安全な触媒を用いることで、反応促進を起こすことができ、ダイオキシンを発生させない環境にも負荷を与えない特殊手法である。
 溶液からガラスなどを作る材料合成法であるゾル-ゲル法を応用したこの「超越技術」で、文部科学大臣賞、名古屋工業大学・簡明技術推進機構のPORT賞、日本環境経営大賞・環境フロンティア部門独創的環境プロジェクト賞など、いろいろな賞をいただくことができた。文部科学大臣賞の授賞式では、ノーベル化学賞受賞者の白川英樹博士とお話できる機会があり、ゾル-ゲル法を使った超越技術は、「有機と無機の高分子の要素技術である」と励ましの言葉もいただいた。
 2008年のリーマンショックで当時経営していた会社は倒産してしまったが、それでも様々な技術者などと研究や交流を続けていく環境に恵まれた。自身は元々化学者ではなかったが、こうした出会いの中で、目、耳、学問などで情報が蓄積され、独自に学び続けた時間があった。

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水引イメージアート「赤富士」

<震災を機に放射線防護へ応用>
 東日本大震災が起こった2011年3月11日の凄まじい状況から、この現況に対して「日本の一国民として、自分には何ができるのか」と考え続け、超越技術が「放射性汚染物質の飛散防止に役立つかもしれない」と仮説を立てた。
 そこで、地表や家屋などに残るベータ線およびセシウム137、原子力発電所事故現場での作業時のガンマ線などの飛散防御などに利用できる技術の開発を目指すことにした。震災から4日後の3月15日から、放射性物質の飛散防止剤としてシロキサン結合を利用したコート液による実験を開始し、2か月後、同年5月には、福島市立渡利小学校の校庭で述べ15時間のテストを行った。その結果、地表面の汚染土壌の粒子体を反応結合・被覆させて簡単に適宜な厚さで表面土壌を剥すことに成功した。放射性物質は、「シルト」と呼ばれる砂と粘土との中間ほどの粒径の砕屑物に付着しており、その汚染物質は、コート液散布後土中浸透して土中や空気中のOH基に反応して形成されたガラス薄膜の中に含有されていた。反応固化したガラス薄膜付加土壌片が水に濡れてもセシウムが殆ど流れ出てこないことも明らかになり、仮説を証明できた。JCII高分子試験・評価センターに全てのデータを取っていただき、校庭の表面の土を取り除く除染作業に超越液剤を噴霧利用することで、放射性物質の拡散を防げることがわかった。
 ゾル-ゲル法の世界的権威である作花済夫京都大学工学部名誉教授や、菊池三郎原子力バックエンド推進センター(RANDEC)理事長などが、この安心・安全な飛散防止剤を福島第一原子力発電所から20キロ圏内にすぐ撒くことを推薦してくれたが、残念ながら結局叶わなかった。
 この時に開発した超越液剤を放射能遮蔽紙・繊維・遮蔽材(剤)・塗料と、様々な場面で活用してもらいたいと考え、2011年11月に「(株)超越化研」を立ち上げ、原子力学会にも入会した。この後2014年超越ガラス化研株式会社を商品開発のために設立した。

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超越技術による放射線遮蔽効果を持つ布

<超越技術を使った放射線遮蔽素材の開発>
 放射線遮蔽についても、超越技術を活かすことができないかと考えていた。これまで放射線遮蔽には安価かつ加工が比較的容易で遮蔽力も大きい鉛が一般的に使われていたが、近年は人体や環境への配慮から、使い勝手のよい放射線遮蔽素材が求められている。
 2011年11月、放射線遮蔽材として、人体に安全なタングステンの粉体を、ミクロンオーダーで、液剤中に完全分散できる液剤を開発し、紙、布への塗工を開始した。
 2013年、佳インターナショナル(株)社長唐澤佳長氏、(独)物質・材料研究機構特命研究員・原田幸明氏、また、帝人フロンティア株式会社(デザイン縫製協力)と平岡織染株式会社(基布への塗工協力)と、放射線遮蔽効果の高いタングステンの機能と柔軟なシロキサン結合による繊維にコーティングを施し、安全かつ鉛とおおよそ同等の放射線遮蔽効果を持つ加工シートを開発した。また、原田幸明氏の考案・協力により、340マイクロメートル厚、930g/平方メートルの柔らかで薄く軽いシートは、表面形状を変えることで、放射線遮蔽力の効果を大きく飛躍させる事ができた。
 放射線遮蔽超越コート剤を塗布したシートを東京都立産業技術研究センターで実験した結果、ストロンチウム90を線源としたベータ線、カリフォルニウム-252による中性子線、X線の3点についても遮蔽効果が認められ、同じコーティング紙・布で異なる放射線に対応できると同センターから成績証明が発行された。その遮蔽性能を評価した結果、セシウム137のガンマ線に対して等重量当たりの鉛板と同等かそれ以上であること、縮緬構造が平板シートに対して等重量当たりの遮蔽効果が数十%高く、遮蔽を軽量化できることが分かった。さらに、放射線遮蔽超越コート剤は、紙や繊維素材その他を基材として用いることができるので、裁断や接着・縫製も簡単にでき、人にも環境にも優しい使い勝手のよい放射線遮蔽材として様々な用途が考えられる。
 原子力関連作業員が通常身に着ける放射線防護服は25~50kgの重さだが、この素材を使った防護服は、LLサイズで10.5kgと軽量で、効率的な現場作業が可能となる。宇宙服などを扱っている米国メーカーの製品よりも高い遮蔽結果が出ており、東芝への納入実績がある。放射線量の正しい測定と判断のために、2015年より、高エネルギー加速器研究機構名誉教授川合将義氏にも協力をお願いした。

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環境放射能対策・廃棄物処理国際展(Radiex)2016にも出展

<発明を通して社会へ貢献したいとの思い>
 2011年5月16日、福島駅でタクシーを待っている時、突然足元から巻き上げるように吹いてきた風に対し、5歳くらいの女の子を連れた若い女性が自分のコートの中にしっかり女の子を抱え込んだ。内部被爆・外部被爆などの風とともに飛散する放射性物質を懸念して子どもを守ろうとするその光景がずっと心に強く残っていた。安全で安心な生活を取り戻せるよう、放射性物質の完全な遮蔽技術や保管技術を確立したいと考えて開発を進めてきた。
 これまでの人生で大変な状況にあった時、幸せになるためには自分の視点を変えるしかないと悟った。そう決めた時から、人に会った時、モノを見る時、遭遇した事象にも「良いところ」を探そうとする習慣が身に付いていった。こうした感性が、強い紙でべたつきもなく水をはじき透明感があるという普通の紙の概念とは違う現象を面白いと感じ、超越技術の発見へと繋がっていった。
 ロバート・ブラウニングの詩に「大きな輪の弧の一部になる」という一節があるが、自身も微力ではあるが原子力発電所周辺や医療機関内での放射線防護技術を通じて、多くの方々に頂いた御支援に感謝し、原子力技術の安全と安心をこれからの世界の子供達に繋げるためにも、ほんの一部分ではあるが、日本人としての誇りを持ち、社会のために貢献して生きたいという大志を抱いている。