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【第50回原産年次大会】セッション2:「福島の現状と復興に向けて」

2017年4月12日

 大会初日のセッション2「福島の現状と復興に向けて」では、さらに長期的な取り組みが必要とされる福島第一原子力発電所の廃止措置状況を、東京電力ホールディングス常務執行役で福島第一廃炉推進カンパニー・プレジデントの増田尚宏氏より報告を受けた上で、現地で復興に携わる方々の声を聞き、事故から約6年が経過した福島の現状を国内外に正しく情報発信していく必要性について考えた。

 増田氏は、福島第一原子力発電所事故による影響を改めて陳謝した上で、汚染水対策、今後の燃料デブリ取り出しに向けた原子炉格納容器の内部調査、労働環境の改善など、廃止措置の現状について動画で説明し、こうした取組に関する住民の方々との双方向コミュニケーションや、廃炉を担う人材育成にも努めていることを訴えかけた。

◎星北斗氏(星総合病院理事長/福島県県民健康管理調査検討委員会座長)
 「県民健康調査6年間の経験を通じて」

 福島県医師会の役員として多くの会議などに出席するが、我々が震災当時に何を考えどんな辛い思いをしたかというのは書面でも電話でも伝えることができない。
 県民健康調査では、自身は放射線による住民の健康への影響はなかったと評価しているが、では、「『影響がない』と証明できるのか」という批判のターゲットとして常に矢面に立っている。多大な時間もお金もかけて38万人を30年間診ていくという甲状腺の調査をどうしていくかは今後の大きな課題だ。調査開始以降に生まれた子どもも含め18歳以下を対象としてこれまで継続してきているが、その結果として過剰診断とも言われる検査により、本来なら見つけなくてもよい腫瘍を見つけてしまったが故に、100人以上が手術で甲状腺の一部または全部を摘出している。がんの恐怖と闘う子どもたち、その子どもたちを抱きしめる両親や、その子どもたちの将来を案じながら検診する医療従事者を想像し、日々この現実に向き合う我々のことを忘れないでほしい。
 福島県はそもそも震災前から医師不足であり、心臓病、脳卒中、高血圧などのデータを見ても他県に比べて健康指標はかなり低かった。内堀雅雄福島県知事の出身地である長野県は、約20年かけて「健康県」へと躍進した。知事には、何とか福島で健康を増進させて今までの汚名を晴らし、放射線の問題から解き放たれて健康づくりを目指した活動をしていこうという思いがある。自身もこれに完全に賛同しており、医師会でも県民の健康を促進していきたいと思うが、この件に関しまだ県民やメディアの関心が低いのが残念だ。
 また、今も子どもを案じて避難を続ける家庭も多いものの、福島県内の出産は少しずつ増えており、先日は当院で1日に7人が誕生して、福島県が子どもを育む県に戻ることを期待させてくれる。福島県で子どもを産み育てると決めた両親が抱えている「全てが晴れることのない気持ち」に寄り添っていくのが我々医師の使命だ。
 福島第一原子力発電所事故を受け、「安全管理には心血を注ぎ、継続して取り組んでほしい」と思う。このことは原子力産業に関わる全ての人に心に留めてほしい。

◎ウィリアム・マクマイケル氏(福島大学経済経営学類助教/国際交流センター副センター長
 「世界におけるFUKUSHIMA」

 自身はカナダ出身で2007年に福島に移住した。当初は1年間程度のショートステイの予定だったが、気づけば筋金入りの「福島大好き人間」となっており、2010年から福島大学に勤めている。震災当時は学生課に勤務していたが、中傷記事や無責任な発言、加工されたような煽り映像など、世界中からのセンセーショナルな福島の報道の影響などで、99%の留学生たちが10日以内に国内外に避難した。実際とは違う世界の終焉のような福島の描かれ方は困惑や不安を覚えさせるもので、6年たった現在も、「Fukushima」という言葉そのものが、負のイメージを呼び起こすものとなっている。
 震災以後は、世界に向けて福島に対する先入観をなくすため、情報発信に自身のキャリアをささげることが使命だと感じており、福島における情報発信者の育成を目指して2012年に「Fukushima Ambassadors Program」という短期プログラムを立ち上げた。ここでは、世界中の協定大学から福島に関心のある学生を招き、福島大学の学生と共に福島が現在直面している難問について、過去、現在、未来という時間枠で整理し、フィールドワークと講義を合わせ約2週間かけて学ぶ。これまで10回実施しており、130名以上の留学生、400名以上の日本人学生が参加した。このような活動に加えて単発の学生団体や研究者の受け入れを含めると、延べ300名以上の外国出身者の福島での調査を支援してきた。
 しかし、こうした活動を継続的に続けながらも、未だに一般的な福島の現状認知度は、震災直後と6年後の今で大差はないと感じる。ネットの画像検索で「Fukushima」という単語を検索すると、福島のものではない震災時の千葉県の石油コンビナート火災の大災害などの写真が出て、「奇形」、「放射能」などの言葉が並ぶ。しかもバイアスのかかった情報は、福島に関する報道があるたびに海外で検索される回数が増えて再拡散していく悪循環が続いている。
 このスパイラル化を止めるには、その源となっているスティグマ(負の烙印)がどこから来て、どのように断つかをきちんと考えることが重要だと考える。私は福島のスティグマの裏には、原子力への不安と恐怖、無頓着・無知、そして言語の問題があると思う。これらのスティグマを乗り越える情報発信の方法の一つとして、データや専門的な話ばかりでなく、住んでいる人の姿が想像できるような情報を発信する「福島の人間化」が有効だと考える。
 例えば、福島第一原子力発電所の構内のタンクに処理水を保管し続ける理由についても、これまで決死の思いで少しずつ福島の漁業のイメージを作り直して再開への道をつかんできた漁師や研究者の状況をきちんと紹介すると、深く理解してもらえる。また、中間貯蔵施設の土地問題も、根底にあるのは売値買値だけでなく、先祖代々受け継いできた土地を手放す無念さや、行方不明となった親族を避難指示のため捜索できないといった現状を知ってもらう必要があると思う。
 震災から6年が経ち、今後は、福島を訪れた人がしっかりと現状を伝えていけるよう、視察受け入れ体制を集約し、強化していくことが鍵となってくるだろう。

 各氏の発表を受け、モデレーターを務めた浜中順子氏(福島テレビ報道部アナウンス担当部長)は、「この時代を生きたものとして、歴史を学び歴史を作っていく大局観を持って、一歩ずつ復興していきたい」と総括し、ふるさとを思う気持ちを詠んだ和合亮一氏の詩「春を歩こう」を朗読してセッションを締めくくった。