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松江高専「原子力発電所見学などを通じ地域とともに次世代の技術者を育成」

2017年4月18日

特集のロゴ(仮)
~電気情報工学科 箕田 充志 教授に聞く~
<近隣の島根原子力発電所3号機見学など多彩な学びの機会>

 箕田 充志 教授

 松江工業高等専門学校(松江高専)は、島根原子力発電所3号機から5km内に立地しており、2007年に文部科学省および経済産業省による原子力人材育成事業に応募したのを機に、原子力に関連する授業を実施するようになった。ちょうど島根原子力発電所3号機の着工時期で、以来基礎工事から原子炉を納入するところまで、毎年本校の学生たちと建設過程を見学しており、原子力発電所を身近に感じてもらうとともに、現場での耐震補強や放射線遮蔽などについて学べる機会となっている。
 現在松江高専では原子力に特化した授業はないが、エネルギーの授業の一環として原子力について学ぶという位置づけである。原子力は総合工学なので、発電だけでなく熱の流れや建設など、いろいろな知識がなければ動かない。原子力発電所以外にも送電施設や揚水発電所などの近隣の発電関連施設へ見学に行っている。また、大学の先生や原産協会に講演に来てもらうなど、当校だけでは教えられない部分も専門知識を持った方々に協力いただき、幅広く情報を学生に伝えていくようにしている。中国電力へもほぼ毎年卒業生が就職しており、地元にある数少ない高等教育機関として、地域からの期待も大きいと感じている。本校でのエネルギー教育の取り組みは、2007年に電気新聞の第2回エネルギー教育賞(高校・高専の部)で最優秀賞を受賞し、翌年第3回の同賞でも優秀賞をいただいた。

 高電圧実験室で操作を行う学生


 学生に対しては、まず原子力についてきちんと知る機会を作ることが一番大切だと思っている。そして正確な知識を得た上で、それを自分の言葉で話せるようになってもらいたい。また一人の力には限りがあるので、専門知識を持つだけではなく、他の人と話し合って互いに補い合いながら、知見を深めたり自身の考えを述べたりできる能力を身に着けて社会に出ていけると良いと思う。
 自身としては、高専機構の原子力人材育成事業の委員を務めており、全国の高専の先生と一緒に原子力人材育成事業フォーラムの開催や各校での原子力学習の取り組みの紹介などの活動を行っている。現在原子力工学科を設置している高専はないが、高専機構全体の取り組みとして、放射線の計測を行ったり、大学の原子力の教授の講演を全国の高専に配信したりするプログラムがある。世界的に見ると原子力発電所の建設は進んでおり、今後も日本の技術力が必要とされているので、次世代の原子力を担っていく人材を育てていくのは大事なことだ。
 自身としては、その他に中国電力のエネルギーアドバイザーも務めており、工学以外の立場の方からの話も聞きながら、地域全体で原子力への知見を深めていく取り組みを行っている。こうした活動を通じて地域の住民など様々な分野の方と接する機会があるため、地元でエネルギーの理解促進活動をしている団体と連携して、高専生たちが原子力を学んでいく機会を広げていってもらうなどの協力もいただいている。

<電気情報工学科で学ぶ学生たちの声>
 ○ 山根 智哉 氏(取材当時5年生=写真右)
 松江高専での研修や見学を通じて、原子力の技術がさまざまなところに使われていたり、原子力発電所がしっかり管理されていたりするのを知り、メディアが取り上げるような悪い側面ばかりではないということに気づくことができた。卒業後の4月からは長岡技術科学大学へ進学することが決まっており、将来は大学院で原子力安全システムを学んで、原子力に関わる仕事に就きたい。
○ 飯塚 将文 氏(取材当時4年生=写真左)
 中電プラントでインターンシップを経験し、島根原子力発電所内で同社だけでなく協力会社全員が力を合わせて保守点検や監督業務などを行っているところを目の当たりにして、原子力発電は安心できると実感した。卒業後の進路はまだ迷っているところだが、電力やエネルギー関連の仕事に就きたいと思っている。

~ ※ 今回、箕田先生の計らいで、地元でエネルギー理解促進に努めておられる「松江エネルギー研究会」の方にも次世代との連携について話を聞くことができた。
<松江エネルギー研究会>
○ 石原 孝子 代表(=写真右)
○ 福村 敬香 副代表(=写真左)

 松江エネルギー研究会は2004年に設立され、エネルギーや原子力について「正確に知る」ことを目的に、勉強会や講演会を開催している。近年は次世代教育を中心に活動しており、2012年度より経済産業省資源エネルギー庁の「草の根NPO等活動」支援事業の一環として、学生たちと東海村や東京に毎年見学に行っている。2016年は島根大学と松江高専の学生たちと一緒に東海村を見学し、核燃料サイクル工学研究所や日本照射サービス、東海第二原子力発電所や原子力科学館を訪問した。また、松江高専生たちが中心となって、「まつえ環境フェスティバル」で霧箱実験やクイズ形式の放射線に関するパネル発表などを行い、来場した小学生たちから好評を博した。
 松江市は原子力発電所が立地している日本で唯一の県庁所在地で、市内には他の産業もたくさんあるために他の立地地域と比べると原子力発電従事者の割合が少なく、住民でさえ原子力発電に対する意識がそれほど高いとは言えない。しかし実際に学生たちが原子力発電所を見学すると理解が深まり、ある卒業後に小学校の先生になることが決まっている学生は、「原子力について子どもたちにどのように教えていくべきか考えることができて良かった」と言っていた。見学を通じて学生たちが感じたことを、学生たち自身の言葉で仲間に伝えていってくれると波及効果は大きい。
 特に、原子力については様々な立場の人と接する場面が出てくると思うが、相手側の視点に気づかないと物事も見えてこない。私たちは原子力の専門的な内容については教えることはできないが、社会人として身に着けておいたほうが良いことについても教えていきたい。また、県外へ見学に行くことや現場で働いている高専卒業生の話を聞くことなどにより、学生たちが視野を広げた上で「自分は何ができるのか」と人生について考える機会や将来の選択肢をたくさん増やしていけると良いと思う。