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欧州原産連合事務局長:「調和の取れた安全基準策定に産業界の対応 重要」

2017年7月31日

 欧州原子力産業会議連合(フォーラトム)の事務局長を6年務めたJ.-P.ポンセレ氏(=写真)が8月1日付けで退任することとなり、このほど日本と協力覚書を結ぶ関係にある原産協会を退任挨拶のために訪れた。同事務局長は欧州で複数の大手原子力企業幹部を務めただけでなく、母国ベルギーでは副首相やエネルギー大臣を歴任するなど政治的にも輝かしい経歴の持ち主。今後は少し違う方向の仕事もする時期に来ていると述べた。
 原産協会幹部との会談では、欧州連合(EU)域内における最近の原子力動向を伝えるとともに、良い時期でも悪い時期でも欧州と日本が良好な関係を継続的に維持していくことが重要との認識を強調。また、欧州の原子力産業界取りまとめ団体として、フォーラトムが果たしてきた様々な役割についても説明した。中でも、規制対応の一環でフォーラトムが2005年に創設した欧州原子力施設安全基準(ENISS)イニシアチブでは、10か国の産業界グループが原子炉と廃棄物および廃止措置の安全基準など、原子力規制をEU域内でハーモナイズ(調和)させるために西欧原子力規制者協会(WENRA)が実施中の作業を支援している。産業界の事業者が政策決定者や規制当局と協力することで、調和の取れた安全基準の範囲と内容を特定・合意することを目指しており、この関係で欧州委員会(EC)の独立の専門家機関である欧州原子力規制者グループ(ENSREG)がフォーラトムのENISS事務局を訪れ、協議していることは驚異的な進歩だと述べた。ENISSはまた、国際原子力機関(IAEA)の安全基準改訂作業に対して、産業界の影響力を強めるタスクを担っており、IAEA総会にも出席していることを明らかにしている。ポンセレ事務局長の主な発言は以下のとおりである。

イランとの「包括的共同行動計画」でEUから協力要請
 2015年に国連安保理5か国とドイツが調整役のEUとともにイランと最終合意した「包括的共同行動計画(JCPOA)」について、米国新政権の姿勢が後退気味であることもあり、産業界としてイランとの協力について提案を出して欲しいとEUから依頼された。在任期間中にEU側から要請を受けたのは初めてのことだが、このために2月にイランとEUの2者会合に参加したほか、11月にもイランに行くことになっている。イランには原子力損害賠償法に類する法的取り決めがないので、EU産業界のパートナーが今後、どのように協力していくか問題となっている。EUが資金を出してテヘランに原子力安全センターを設立する予定だが、原賠法がない中でEUのパートナーは入札に参加することもできないので、放射性同位体の分野での協力を積極的に考えていきたい。

欧州原子力産業界における近年の動き
 まず、良いニュースとしては2つの原子力投資案件について、ECがゴーサインを出した。1つは英国のヒンクリーポイントC原子力発電所建設計画で、完成した発電所の電力を政府が差金決済取引(CfD)による固定価格で買い取るという仕組みについて、EUの執行機関であるECの競争総局長がEU競争法の国家補助規則に照らして承認した。国家補助は通常禁止されているが、英国における電力市場改革後の市場規則を考慮すると、国家補助がなければ計画は実現しないという判断によるものだ。もう1つは、ハンガリー国営企業によるパクシュ原子力発電所5、6号機増設計画だが、ハンガリーの首相がロシアと親密なため、総工費の約8割をロシアからの低金利融資で賄うという条件で、競争入札せずにロシア企業への発注を決めてしまった。これが公的調達に関するEU指令に準拠しているかという点と、政府が拠出する2割の総工費が国家補助に当たるかという点について、ECが審査した。私はフォーラトム加盟国であるハンガリーに頼まれてこの件を支援したが、パクシュ発電所で稼働中の4基がすでにロシア製の原子炉であり、類似の技術が必要といった観点から許可が下りた。国家補助についても、ハンガリーが市場で競争原理の歪みを抑えると約束したため、条件付きで承認されている。

ポンセレ事務局長と会談する高橋原産理事長(右から2人目)と服部特任フェロー(右端)

 一方、懸念されるニュースとしては、フランスで大統領が交代し、議会も3分の2が入れ替わったということがある。原子力を管轄する環境連帯移行省のN.ユロ大臣は環境派として有名な人物で、総発電量における原子力シェアを50%まで下げるという前政権の公約を達成するには17基閉鎖する必要があると発言した。いつになるとは明言していないが、電力需要が下がれば実行すると言っており、不安が広がっている。また、2022年までにすべての原子力発電所の閉鎖を決めたドイツでは、放射性廃棄物管理に関して他国と異なる取り決めが政府と事業者の間で結ばれた。原子炉の廃止措置経費や放射性廃棄物最終処分場の建設・操業経費として事業者が一定額の準備金を公的基金に払い込んだ後は、政府がそれらの実施責任すべてを担うというもので、それ以上の財政リスクを含む全責任が事業者の手から離れる。最終的に予算が足りなくなれば、ドイツ政府が資金を出さなくてはならないし、最終処分場のサイト選定も政府の役割だ。これまでに10億ユーロを費やしてゴアレーベン処分場建設計画が進められていたが、緑の党が反対したため中止された。廃棄物処分システムが他の国と異なる仕組みとなったので、EU域内でも影響が広がると思う。

英国によるEUとユーラトムからの離脱問題は深刻
 もう1つ心配な出来事は、英国がEUから離脱する(Brexit)にともない、欧州原子力共同体(ユーラトム)からも脱退しなければならないということだ。ユーラトム協定はEU域内の民生用原子力発電や放射性廃棄物管理の法的枠組すべてを規定していることを、英国民が認識していなかったため、今になって問題になっている。例えば、ウラン取引はユーラトムの管理下にあるため、英国のEDFエナジー社がウランを購入する際、ユーラトム供給局の許可が必要。原子力安全や保障措置についても、ユーラトムが作った独自のシステムを国際原子力機関(IAEA)が承認し、IAEAに代わって保障措置を行っているので、離脱するなら英国はそれに代わる検査官体制やシステムをゼロから作る必要がある。また、EU域内であれば労働者やサービス、資機材の移動は原則自由だが、ヒンクリーポイントで原子炉を2基建設する際、英国はフランスや欧州各国の技術者や労働者を国境で管理したり、設備の1つ1つを輸入するにもEU当局の許可を得なくてはならない。さらに、英国はユーラトムの共同研究開発プログラムに12%の予算を拠出している。英国内に設置されている核融合実験装置「JET」もEUの資産であるため、今後どうするかということが問題になっている。
 フォーラトムとしては、原子力産業界がBrexitに対応するのを支援するため、タスクフォースを起ち上げており、EU当局からも英国に対してどう行動すべきか助言を求められている。また、フォーラトムに加盟する英国原子力産業協会(NIA)からも、EUに対する英国側への協力を頼まれている。このような難しい問題については、私の後任としてフランス電力(EDF)から抜擢されたY.デバゼイユ氏が担当することになる。