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米エネ省の前長官が勧告:「国家安全保障上、堅固な原子力産業が必要」

2017年8月22日

 米オバマ政権下でエネルギー省(DOE)長官を務めていたE.モニッツ氏の非営利団体「将来エネルギー・イニシアチブ(EFI)」は8月15日、発足後初の報告書として「米国の原子力企業は国家セキュリティ実現のカギ」を公表した。米国内の原子力企業が国家安全保障上の責務を満たす上で果たしている主要な役割、および電力システムの供給と盤石な原子力サプライ・チェーンの維持で原子力産業界が果たしている重要な役割を検証する内容で、米国が世界規模の核不拡散政策でリーダーシップを発揮するには、これらが堅固なものでなければならないと強調。国内で原子力企業が存続していけるよう保証するため、連邦政府に速やかなアクションを勧告しており、具体的には、連邦エネルギー規制委員会(FERC)が原子力発電とそのサプライ・チェーンにより一層の重点を置くよう指示すること、また、進展中の原子力発電所建設計画を支援し、後続の新設計画を促進する対策として、信用サポートや税制上の優遇措置、連邦政府による電力購入契約の設定など、既存のリソースや能力を出来るだけ柔軟性をもって活用するよう訴えている。

 EFIはエネルギー関係の技術や政策、および事業モデルの改革促進に特化したイニシアチブ推進組織で、6月1日付けで発足したばかり。創設者のモニッツ前DOE長官は、よりクリーンで安全かつ適正価格のエネルギー技術を進展させるオプションについて、政策立案者や産業界幹部、非政府組織などを啓蒙することが目的である。今回の報告書ではまず、米軍が防衛上の優先事項を満たし、米政府が核不拡散政策を実行するには原子力産業界の支援が必要である点に言及。具体例として、米海軍では空母や潜水艦に搭載されている原子炉約100基の設計・製造、運転・管理プログラムが民間と軍関係の両者で構成されているほか、これらの原子炉用に国産の高濃縮ウランが追加で必要になる見通しだとした。また、米国の原子力産業界が主要な原子力資機材を輸出するには、原子力法第123条に基づき相手国と原子力協力協定を締結する必要があるが、その他の輸出国による規制がそれより緩いため、中東の原子力発電市場がロシアに独占されていると指摘。米国が核不拡散目的に合致した核燃料サイクルの世界基準を設定するリーダー的役割を維持するには、長期的にも好ましくない兆候だと分析している。

 報告書は次に、このような重要な役割を担う原子力サプライ・チェーンが損なわれつつあるという現状を説明した。現在、44州にある約700社が原子力製品やサービスを提供しており、これら企業が集中するトップ5州は既存商業炉の立地点に近い地域。これだけでも、強力な原子力発電部門が必要であることが裏付けられるとした。しかし、いくつかの原子力企業と議論した結果、サプライ・チェーン崩壊の可能性が暗示されており、原子炉圧力容器や蒸気発生器、加圧器、タービン発電機、復水器、特殊バルブ、静的残留熱除去系といった多くの主要機器がもはや国内では調達不能、あるいは製造能力に限界が来ていることを理由に挙げた。また、人的資源の面でも米国の原子力部門は労働力減少の脅威にさらされているとEFIは強調。2005年エネルギー政策法にともなう「原子力ルネッサンス」により、大学等の原子力工学課程では過去10年間に学生数が徐々に増加していたが、国内原子力産業の弱体化が将来的に進めば、大学の原子力教育プログラムでは国家セキュリティ上の役割を担える米国人学生の数が減り、原子力開発が拡大している国の学生が増えていく。熟練作業員の引退も大きな懸念事項であり、原子力発電部門では近い将来、25,000人の熟練作業員が引退すると予想されている。

 このような背景からEFIは、政策立案者が認識すべき事項として以下の点が重要だと勧告した。すなわち、原子力発電所の建設促進で既存のリソースや能力を最大限に活用することに加え、電源多様化などの面で原子力発電の価値が適切に評価されるような電力市場を設計するため、州政府と連邦政府が調和の取れた政策を取るべきだとした。また、サプライ・チェーン企業や電力事業者、金融機関などの包括的な連合組織を育てることを提案。これにより、国内で新しい原子力発電所を追加建設したり、海外の新設計画で競争力のある提案を行えば、リスクの分散とメリットの共有が可能になる。先進的な新世代原子炉技術の研究開発と実証に支援を行うことも重要で、2016年に報告書が公表されたDOE長官顧問会(SEAB)タスクフォースの例に倣い、技術開発やエンジニアリング、システム分析、概念設計などの初期段階においては、5年間で20億ドル程度の援助をすべきだとした。さらに、奨学金の交付や人材を必要とする職種への訓練補助金など、原子力工学教育に対する既存の支援プログラムを維持・拡大すべきだと強調している。