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「EU離脱後も、日英両国の原子力協力継続と強化に強く期待 注目のSMR開発は政府の具体的な方針の明確化求め、次のステップへ」 英国原子力産業協会グレイトレックス理事長

2018年1月30日

 このほど第2回日英原子力産業フォーラム参加のため来日した英国原子力産業協会(NIA)のグレイトレックス理事長に英国の原子力開発や、EU離脱問題に関連し日本との協力関係の先行きなどについて幅広くお話しをうかがった。理事長は、日英の原子力協力を「重要なシグナル」と評価して重要性を強調、今後も協力の継続・強化を強く期待するとした。また第4世代原子炉として注目を集めるSMR(小型モジュール炉)開発では、今後一層の推進にあたって重要となる政府の具体的な方針の明確化を求め、働きかけを行っていく考えを示した。

- 昨年12月にNIAは英国経済に対する原子力の貢献に関する報告を公表されましたが、その主なポイントはどのようなものでしょうか。

 2点申し上げる。1点目は、英国における民生用(商用)の原子力の経済的規模だが、報告ではGDPの0.6%を原子力産業が担っており、航空宇宙産業に比肩するという現状を明確に示した。これまで原子力の経済的な貢献は、一般の英国民にほとんど知られていなかったが、今回の報告により理解を進めることができたと思う。
 2点目は、雇用の創出効果だ。直接、間接の両方で15万5千人の雇用が原子力とその関連産業から生み出されている。また給与水準は一般平均を上回っており、それが大都市圏から離れた地域の経済に寄与しているという事実も重要だ。英国はEU脱退後を見据え、大都市集中でなく地域の多様性を確保し経済成長と雇用に結びつけるという将来的課題に直面している。今回の報告でも明確にしたところだが、原子力は地域経済への貢献という面で、将来的にとても価値のある産業分野であることに国民は気づき始めている。

- NIAの最新の年次報告をみると、2016年の英国における総発電量のうち原子力発電が21%超を占めています。電源としての原子力の役割に関してCO2の排出削減効果の面でどうお考えでしょうか。

 例年6月に発表しており、今年6月にまとめる予定の2017年実績はもっと高い数字なると見込んでいる。ちなみに21%の発電量を原子力がまかなうことでCO2削減効果は2,270万トン、それは英国の道路を走るすべての自動車から排出される量の3分の1に匹敵する。原子力発電は年々、低炭素化にかなりの寄与をしていることは明らかだ。

- 低炭素電源の活用については、再生可能エネルギーを含めて英国ではどのような状況でしょうか。

 英国では低炭素電源が総じて全発電量の約半分を担っている。原子力、風力、太陽光、水力、バイオマスが含まれるが、天候の影響を受ける電源を含むので低炭素電源が7割をまかなう日もあれば、3割未満という日もある。太陽光や風力など再生可能エネルギーには供給が不安定という課題があり、それを補うため一つの電源に依存せず、様々な低炭素電源を組み合わせることが重要となる。英国では政権交替を経ても、電源を最適に組み合わせるという方針が維持されている。なお原子力発電については現在稼働中の発電所のリプレイスをどうするかが今後の課題といえる。

- 英国のロールスロイス社が企業連合を主導して進めるSMR開発に注目が集まっていますが、こうした技術開発など原子力の維持成長に必要なサプライチェーンを持続する産業基盤の強化が重要だと思います。NIAはこの問題にどのように取り組んでおられるでしょうか。

 NIAは英国の原子力業界を代表する位置づけで活動している。SMRの開発は企業連合ができ、国内外で関心が高まっており、我々はこれまでにこのSMR開発に対して英国政府がその立場を明確に示すよう働きかけをしてきている。産業界が次のステップに進むには国内での実用化の具体的な方向性と、海外展開の具体的な進め方を政府の方針として明確化する必要があり、産業界の動きがあるものの政府の方針が決まらないまま時間が経過している。我々は引き続き政府に対して働きかけを行うなど、原子力開発の推進に必要な産業基盤の強化にむけた課題に取り組んでいく。

- 産業基盤の強化には、次世代に技術をつなぐ人材の育成・確保が重要ですが、NIAではどのような取り組みをされていますか。

 若手の人材を育成する拠点として、産業界は規制関係機関、訓練技術育成機関他とのパートナーシップの元に原子力専門の大学(National College for Nuclear)を運営している。現在2校あるうちの英国南西部サマーセットにあるヒンクリーに近い学校では新たな建物が2月7日に利用開始する。もう1校はセラフィールドに近い北西地方にあり、これらは2015年の政府による「我々の原子力技術を支えるために」というスローガンに対応するものとして設立された。
 政府も産業界も、今後原子力を推進する以上、新規建設、運転、廃止措置にきちんとしたスキルをもった人材が必要だと認識している。NIAは多くの企業と連携して若者に科学技術分野への関心を高めてもらう活動を続け、特に原子力分野を仕事として考えてもらう活動を進めている。ここ10年ほどの良いニュースとして新規の建設が政府の議題に上るようになり、若者が就職に関連して原子力に関心を持ってくれる動きが見られる。必ずしも就職に結びくとは限らない難しい面もあるが、今後も原子力分野への関心を高める活動を通して若手の人材を確保したいと考えている。

- 欧州原子力共同体(EURATOM)との関係を含めてEU離脱問題で先行きが見えにくい状況ですが、日本との原子力協力の今後をどうお考えでしょうか。

 日英協力が英国のEU離脱後も続くことを期待している。両国の原子力協定は、重要なシグナルだったと思っている。新規建設や廃止措置、廃棄物管理計画も協力して進めるためのシグナルとして協定の継続、両国の協力関係維持・強化に強く期待する。公式には両国の協力関係は欧州原子力共同体の枠内にあるが、段取りよく準備し個別に協力関係を締結するなどして、混乱なく継続されるよう政府に要望している。

- 福島第一原子力発電所を訪問されるそうですが。

 訪日にあわせて今回初めて訪問する。英国内でも福島第一で何が起こったのか、現状はどうかといった質問を受ける。関心ある人たちに、原産協会など日本からの情報をもとに説明しているが、実際に訪問し自分の足で現場をまわり自分の目で見ることによって一層理解が深まると思う。その意味で、今回の訪問は非常に貴重な機会だと考えている。

- 福島第一原子力発電所の事故処理が進展していますが、作業に伴い発生した汚染水から放射性物質を除去した後のトリチウム水をどう処分するかが大きな関心事になっています。英国では、トリチウム水の海洋放出を長年実施されていますが、どのようにお考えでしょうか。

 英国では、人の健康に影響を及ぼす高いレベルの放射性物質など要所をおさえた合理的な規制を行っている。そのような規制の実施が可能なのは、リスクを説明し、地域住民らの理解と信用を得てきたからだ。海に放出する物質は有害でないと説明し、理解を得てきた。一番大事なことは、リスクを説明し信用を得ることで、コミュニケーションを十分に行うことだ。日本では福島第一の事故の後で理解を得ることが難しい状況もあると思うが、極力オープンに透明性を確保すること以外に方法はない。身近な例や数字を示すなどわかりやすい説明の仕方を工夫する必要もある。例えば、私はこの訪日前、友人に福島第一発電所に行くと話すと「心配ではないのか」と聞かれた。そこで「福島第一発電所の現場で受ける放射線の量は、航空機で日本と英国を往復する際に受ける放射線の量より低いよ」などと相手が理解しやすい例示で心配ないことを伝えてきた。こうしたコミュニケーションは、日ごろから心がけていることだ。