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IEA報告書:「脱原子力でスイスは電力供給保証上の課題に直面」

2018年10月11日

 国際エネルギー機関(IEA)は10月8日、スイスのエネルギー政策に関する6年ぶりのカントリー・レポートを公表し、段階的な脱原子力政策によって同国は電力供給保証上の課題に直面することになるとの懸念を明らかにした。
 2011年の福島第一原子力発電所事故を契機に、スイスの連邦参事会(内閣)は2034年までに国内の商業炉全5基を段階的に閉鎖する方針を確定。これを実行に移すために「2050年までのエネルギー戦略(ES2050)」を策定した。同戦略では再生可能エネルギーで原子力を代替しつつ、エネルギーの一層効率的な活用や低炭素経済に移行することを謳っているが、脱原子力で不足する電力の十分な供給という課題に取り組むには、エネルギー部門で一層意欲的な改革が必要だとIEAは指摘。欧州連合(EU)との関係性を巡って実施中の条約交渉においても、スイスは国内エネルギー市場をEUの電力市場に統合する方向で進めるべきだと勧告している。

 報告書によると、スイスのエネルギー部門は炭素を排出しない水力と原子力が中心であるため、IEAの全加盟国の中で最も低炭素なエネルギー供給を実現している。しかし、昨年の国民投票により、同国では段階的な脱原子力政策を含む改正エネルギー法が承認され、国内エネルギー部門は今後数十年にわたって、大きく変革していくこととなった。
 エネルギーの効率的活用という点で、スイスは大きな進展を遂げている。2016年の国内エネルギー消費量は、人口が15%増加し経済も30%拡大したにも拘わらず、2000年と同レベルに留まった。2020年時点のCO2排出量抑制目標に対しては十分意欲的に見えるものの、IEAは同国が2020年以降の目標を達成するには、温暖化防止の追加政策が緊急に必要だと指摘している。
 ES2050は、スイスが低炭素経済に向けてエネルギーの移行を進めるための法的な政策パッケージで、最初の政策は今年1月に発効した。脱原子力にともなう影響の緩和を目的としており、既存の原子力発電所が技術的に安全とされる運転期間の最後に閉鎖された後、新たな原子炉でリプレースされることはなくなった。全5基のうち、ミューレベルク原子力発電所が2019年に初めて、商業的理由により閉鎖される一方、最後の1基は2030年代の半ばよりも後に閉鎖の予定。スイスの原子力発電所は総発電量の約35%を賄っているため、電力の不足分は低炭素電源による発電量や高いレベルの供給保証を維持しつつ、他の電源オプションで埋め合わせなくてはならないとした。

 スイスでは、多くの揚水式水力発電所が同国のエネルギー移行政策を促す重要電源になっているため、IEAとしては市場の電力価格とリンクした水力発電の改革に向け、さらなる投資を行うべきだという考え。ただし、水力発電所で水位が下がる冬季は特に、電力需要を満たすために近隣欧州諸国からの電力輸入にますます依存していくとIEAは予測した。そのため、スイス電力市場の完全な開放と欧州電力市場との完璧な統合こそが、同国の将来的なエネルギー需要を満たす上で重要になると指摘。スイス政府が電力協定に関するEUとの交渉を成功裏に進め、双方にとって柔軟なエネルギー供給を確立すべきだとIEAは強調している。
 
 (参照資料:IEA発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月9日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)