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【第52回原産年次大会】セッション3「原子力技術の多様性と可能性」

2019年4月11日

(左より、鷲尾氏、モクタール氏、小林氏、西尾氏)

 「第52回原産年次大会」(4月9、10日)の2日目、セッション3「原子力技術の多様性と可能性」では、放射線利用に焦点を当てその将来展望について各分野の専門家を交え議論した。冒頭、IAEA事務次長(原子力科学・応用局担当)のナジャト・モクタール氏が「人類の幸福と世界の発展」に貢献する原子力技術の意義を訴えかけた上で、医療、工業、農業における放射線利用の最新の技術開発動向が紹介された。モデレーターは早稲田大学理工学術院教授の鷲尾方一氏。
 開会セッションにも登壇したモクタール氏は、食糧安全保障、地球環境保全、考古学研究など、これまでに幅広い分野で成果をあげてきた放射線の応用技術を披露し、IAEAとして研究開発支援や加盟国への技術移転にとどまらず、「国連食糧農業機関(FAO)など、他の国際組織との連携を通じたより優れたインパクト」を引き起こす必要性を強調した。
 続いて、鷲尾氏は、主に電子線加速器の技術開発に長く係ってきた経験から、日本における放射線の産業利用の経緯と展望について発表。電線被覆の耐熱化・不燃化、電池用隔膜の製造、排煙の脱硫・脱硝他、エネルギー・環境保全の分野にも応用される電子線利用のメリットとして、「エネルギー消費が少ない」、「公害対策がほとんどいらない」ことなどをあげたほか、ペットボトル用の電子線滅菌システムの製品化に際し、容器の形状に対応し効率的な処理を可能とした技術開発の経緯を披露。また、有望な巨大科学技術として、「J-PARC」、「RIビームファクトリー」、「X線自由電子レーザー」、「国際リニアコライダー」などをあげ、「次の時代の放射線プロセスのキーとなるもの」と期待を寄せた。
 農業分野については、量子科学技術研究開発機構放射線応用研究部長の小林泰彦氏が花・果物の品種改良やジャガイモの発芽防止などへの応用事例を紹介。医療分野については、東京女子医科大学大学院医学研究科教授の西尾禎治氏が、がん放射線治療の最前線として「強度変調放射線治療」(IMRT)と「陽子線治療」をあげ、これらの新技術を支える「医学物理学」の将来性を強調した。
 鷲尾氏が今後の人材育成について考えを問うと、小林氏は最近の学習指導要領改定により放射線の様々な応用事例を紹介した教科書が出ていることに触れ、「なぜ放射線が使われるのか」を考えさせる必要性を訴えた。また、西尾氏は、最近放映が開始した放射線科医が登場するドラマ「ラジエーションハウス」をあげ、医療現場での放射線利用について「皆子供時分からテレビで見て知っているのでは」と述べた。西尾氏の発表によると、がん放射線治療の実施率は欧米で60~80%、日本では30%と世間で思われているほどの水準にはないが、治療法の一つとして確立していることが示唆された一方で、これを支える人材に関し、モクタール氏は「医学物理士の存在があまり知られていないのでは」と指摘している。
 会場参加者より世界の放射線利用の展望や経済効果について質問があったのに対し、モクタール氏は、アフリカ・サハラ地区や中国での大規模な水管理施設の他、農業利用で10~30%の収穫増をあげた事例などから、「所得・雇用増につながることが途上国にとっては非常に重要」と強調した。
 鷲尾氏は、「原産年次大会で放射線利用が取り上げられたのはもう20年ほど前にさかのぼる」と、本セッションが設けられた意義を述べた上で、原子力の発電利用とともに「大きな可能性のある極めて重要なツール」である放射線利用への支援を訴えかけ締めくくった。